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パパの手料理

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3部分:第三章


第三章

「どうだ、それで」
「いいんじゃないの、それで」
「ねえ」
 二人の娘は父の言葉を聞いてそう返した。
「それならお父さんでもね」
「幾ら何でも」
「よし、じゃあやるぞ」
「やるぞってちょっと」
「待ってよ」
 いきなりフライパンの上に肉を置く父にクレームをつける。
「そのまま焼くつもり?」
「違うのか?」
「違うわよ」
 麻奈が驚きを隠せない顔で父に述べる。
「まずは油引かないと」
「それにお肉にお塩と胡椒」
 加奈も言う。
「全体に塗るようにしてね」
「つけてね」
「わかった。そうするのか」
 準は娘達の言葉に頷いてそうする。本当にはじめて知ったのであった。
「成程な」
「成程なじゃなくて」
「常識よ、本当に」
 二人は呆れながら父に言う。
「それでね。それが終わったらまず時間置いていいから」
「そうなのか」
「ええ、それで今度は」
 麻奈はかなりくどい感じで説明する。
「サラダね。これは包丁で切ってね」
「わかった」
「あっ、シーフードサラダなの」
 加奈はここで父が出した食材を見て言った。
「手はよく洗ってね。肉の匂いがついたら駄目だから」
「わかった。じゃあ」
「ええ。とにかくサラダは細かくね」
 加奈はさらに父に教える。
「切って。食べやすいようにね」
「わかった。こんな感じだな」
「包丁切る時は左手を添えて」
 加奈は今度はそこを指摘する。見れば準は右手だけで切っている。かなり乱暴に。
「それで指も折り曲げて。そう、そんな感じ」
「何だ、随分使いにくいもんなんだな」
 準は包丁を切りながら困った顔になった。
「包丁っていうのも。思ったよりもずっと」
「お父さん、ひょっとして包丁持つのもはじめて?」
「馬鹿言え、小学校の家庭科じゃ持ったぞ」
 実質はじめてである。それまで何十年と持っていないということだから。
「はじめてじゃない」
「そうなの」
「そうだ。それにだ」
「包丁振り回さないのっ」
 右手に持った包丁をそのままに身振り手振りで言いはじめた父を叱る。
「わかったからまずは野菜切ってシーフード切って」
「ああ、わかった」
「ドレッシングは冷蔵庫の使っていいから」
「よしっ」
 野菜もシーフードも切り終えて皿に入れる。かなり雑然としていてサラダには見えない。何か煮た後のようであったが麻奈も加奈もそれはあえて言わなかった。
「これでいいな、それで」
 ドレッシングを入れる。しかも大量に。
「そんなに入れたら」
「駄目でしょ」
 二人はそれを見てまた呆れる。しかし準はこれもわからない。
「駄目なのか」
「まあいいわ、入れた後だし」
「後でかき混ぜるから」
 それは目を瞑ることにした。そうして今度はステーキに入るのであった。
「いい?」
 今度は麻奈が言う。
「焼き加減だけれど」
「ああ、レアとかミディアムとかだな」
 流石にそれはわかっているようだった。しかし麻奈はそれを聞いても全く安心してはいなかった。
「そうだけれど。いい?」
「まだ何かあるのか」
「レアでも単なる生焼けとは違うから」
「そうなのか」
「お肉の焼ける匂いがしてこないと最低限駄目よ」
 そう父に対して言う。
「それはいいわよね」
「そうだったのか?」
「そうだったのかってねお父さん」
 また呆れた顔になって言葉を返す。
「そうなのよ。油はひいたわね」
「ああ」
 それはもうやっていた。肉に一緒についていた白い固形の油をひく。塩と胡椒も娘達に言われていたので既にしている。最低限のことは何とかしていた。
 
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