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英雄伝説~光と闇の軌跡~(FC篇)

作者:sorano
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第93話

~グランアリーナ・ホール~



「さて……いっしょについて行けるのはここまでのようだな。」

エステル達とアリーナに入ったリフィアはホールについて、呟いた。

「ママ!それにみんなもがんばってね!ミント、一杯応援するね!!」

「あたしもミントちゃんといっしょに精一杯応援させてもらいます。」

「ありがと、2人とも。」

「2人の期待に答えれるよう、精一杯がんばるね。」

ミントとツーヤの応援の言葉にエステルとヨシュアは笑顔で頷いた。

「フッ………こんな可愛いリトルレディ達に応援してもらえば、否が応でも力が出るものだね。」

「ハハ、せっかく応援してくれるのだから、期待には答えないとな。」

オリビエは酔いしれったかのような表情で答え、ジンはオリビエの言葉に苦笑しながら頷いた。

「最後まで諦めなければ、きっと勝機はどこかにあると思います。だから、頑張って下さい!」

「ん。あいつに勝てたら、エヴリーヌも一杯褒めてあげるね。」

「うむ!お前達の強さにあの戦闘狂が驚く所を楽しみにしているぞ!」

「3人共、ありがと!絶対、勝って見せるわ!」

プリネ達の応援の言葉に頷いたエステルは口元に笑みを浮かべて答えた。

「では余達は観客席に行くか!」

「はーい!」

「ん。」

「「はい。」」

そしてリフィア達は観客席に向かった。リフィア達を見送ったエステル達も控室に向かった。



~グランアリーナ・選手控室~



「は~、あたしたちだけだとメチャメチャ広く感じるわねぇ。」

エステルは自分達しかいない控室を見渡して言った。

「団体競技や、サーカスなんかも出来るよう造られた場所だからね。昔は、大型魔獣との戦いなんていうイベントも行われていたみたいだよ。」

「へ~、だからこんなに大きな控室になってるわけね。」

ヨシュアの説明に頷いたエステルは控室の広さに納得した。

「帝都のオペラ劇場に較べると設備の面では物足りないが……。屋外コンサートなんていうのも悪くないかもしれないねぇ。」

「何の話よ、何の……」

訳のわからない事を言うオリビエをエステルは呆れた表情で見ていた。

「しかし、今日はどうやら早く来すぎちまったようだな。考えてみりゃ一試合だけだから始まる時間は遅いはずだ。」

「え、そうなの。うー、試合があるまでただ待ってるのは退屈かも……」

ジンの説明を聞き、エステルは溜息を吐いた。

「だったら、試合が始まるまで場内を散策して来ようか?」

「ん、そうね。ジンさん、オリビエ。あたしたち散歩に行ってくるわ。」

「おー。時間までには戻ってこいよ。」

ヨシュアの提案に頷いたエステルはジン達に伝えた後、一端控室を出て行った。



「………………………………」

「へえ。どういう風の吹き回しだ?お前さんのことだからてっきりついていくと思ったが。」

控室を出て行くエステル達に着いていかず、黙っているオリビエをジンは珍しく思って、尋ねた。

「いやね、2人の雰囲気が少し変わったような気がしてね。あれは何か進展があったとみたね。」

「ほう、よく見ているじゃないか。確かにあの2人、この大会に妙なプレッシャーを感じていたみたいだが……。今日はどこか吹っ切れたようないい表情をしてやがったな。いやあ、若いモンはうらやましいね。」

オリビエの観察眼にジンは感心した後、笑った。

「でも、まだまだ仕込みは不十分といったところかな。もう少し進展した方が美味しく頂けるにちがいない。フフ……からかい甲斐がありそうだ。」

「やれやれ、悪趣味だねぇ。」

オリビエの趣味の悪さにジンは呆れて、溜息を吐いた。



「ゾクッ……」

その頃、控室を出たエステルが悪寒を感じたのか、突然身を震わせた。

「どうしたの?ひょっとして体調が悪い?」

エステルの様子を見て、ヨシュアは首を傾げて尋ねた。

「ううん……。何だか邪悪な意志を感じて……。人をダシに楽しんでやろうという調子にのったヨコシマな意志を……」

「……なんとなく誰だか見当は付きそうだね。」

エステルの言葉から、ヨシュアの脳裏には控室で自分達の事で何か言っているであろうオリビエの姿が浮かんだ。



~グランアリーナ・ホール~



「おお……。そこにいるのはエステル君とヨシュア君か!」

「ああっ、クラウス市長!?」

「どうしてこんな所に……」

観客席を廻り、観客席にいたアルバやクルツ達に挨拶をしたエステル達がホールまで戻ると、そこにはロレントの市長――クラフスがエステル達を見つけて、エステル達の所に来た。

「いやあ、久しぶりじゃのう。シェラザード君から話を聞いて王国各地を旅しているのは知っておったが……。2人とも、しばらく見ないうちにいい顔つきになったじゃないか。」

「はは……ありがとうございます。」

「うーん、自分じゃあんまり分からないけど……。市長さんの方は相変わらず元気そうね。ちょっと安心しちゃったわ。」

クラウスの賛辞にヨシュアやエステルは苦笑しながら答えた。

「はは、まだまだ若い者には負けてはおれんよ。それより、シェラザード君からリフィア殿下達と旅をしていると聞いて、最初は驚いたぞ。」

「あ、やっぱり市長さんはリフィア達の事を知っているんだ。」

「うむ。……リウイ皇帝陛下も含め、わし達ロレントの住民は10年前からメンフィル帝国の方々に本当にお世話になっている。君達が陛下直々から依頼を受けていると聞いて、驚いたと同時に君達の事を市長……いや、リベールに住む民の一人として誇りに思ったよ。」

「あはは……さすがにそれは言い過ぎよ。」

「僕達は遊撃士として、依頼を受けただけですから。」

クラウスの褒める言葉にエステルは苦笑し、ヨシュアは謙遜して答えた。

「はは、多分そんな所を陛下が気にいられて依頼を君達に出したのかもしれないな。それよりも、武術大会に出場して決勝まで行ったそうじゃないか。年甲斐もなくつい見物に来てしまったよ。」

「え、見物のためにロレントから来てくれたの?」

武術大会を見るためにロレントからわざわざ王都に来たクラウスをエステルは驚き、尋ねた。



「いや、そうじゃないんだ。実は、グランセル城の晩餐会に突然、招待されてしまってな。それで、今朝の定期船で王都に到着したばかりなんじゃ。」

「お城の晩餐会!?」

「なるほど……そうだったんですか。その晩餐会、デュナン公爵に招待されたものじゃありませんか?」

「よく知っておるのう?元々、生誕祭の式典には夫婦で出席するつもりじゃったから近いうちに来ていたはずじゃが……。いきなり軍の女性士官がやって来て晩餐会に出るよう要請してきてなぁ。」

(その女性士官って……」

(カノーネ大尉だね、きっと。)

クラウスを招待した女性士官に思い当たったエステルとヨシュアは目配せをした。

「ただ、ミレーヌのやつは旅行の準備が整わなくてなあ。仕方がないのでわしだけ先に来たというわけじゃ。」

「そっか……ミレーヌおばさんは来てないんだ。」

「あの、市長。実は僕たちも、もしかしたらその晩餐会に出るかもしれません。」

「ほ……?」

ヨシュアの言葉にクラウスは驚いた。そして2人は公爵の提案で、武術大会の優勝者が晩餐会に招待されることを説明した。

「なるほど……。そういう事になっていたのか。陛下がご不調の折の晩餐会などあまり出たくはなかったが……。君たちが一緒なら気が紛れるといったものじゃ。こりゃあ、相手がロレントに恩人の一人のカーリアン様とはいえ、君たちには勝ってもらわなくてはならんのう。」

「あはは……うん、わかったわ!」

「ご期待に添えるよう頑張ります。」

「頑張りたまえ。………おお、そうだ。レナさんからエステル君に伝言を頼まれているんだったな。」

「お母さんから?一体何を伝えるように言われたの?」

母から伝言がある事にエステルは首を傾げた。



「うむ。……では伝えるぞ。………『エステル、何でも娘ができたそうね?帰ったらじっくり!説明してもらうわよ?』だそうじゃ。」

「なんでお母さんがミントの事を知っているの!?」

レナからの伝言を聞き、エステルはレナがミントの事を知っている事に驚いた。

「多分、アイナさんが伝えたんじゃないかな。キリカさんがミント達が僕達のサポータ―になった事を他の受付の人達に伝えたと思うし。」

「あ、そっか。」

ヨシュアの推測にエステルは納得して、頷いた。

「よければ、わしにも事情を説明してくれんかの?」

(……どうしよう、ヨシュア?)

クラウスに尋ねられ、エステルは小声でヨシュアに相談した。

(さすがにミントが”竜”である事は黙っていたほうがいいよ。僕がちょっと脚色を変えた説明をするから、エステルはそれに頷いて。)

(りょーかい。)

ヨシュアの提案にエステルは頷いた。

「実は………」

ヨシュアはクラウスにミントが竜である事を伏せて、ミントの種族が本人が認めた人物を生涯を共にする事と、ミント自身はまだ幼いのでエステルの事を親のように慕っている事を伝えた。

「なるほど、そうじゃったのか。”闇夜の眷属”にも色々あるのじゃな。……とりあえず、ロレントに帰ったらレナさんにちゃんとした説明をしないと駄目じゃぞ?わしに言伝を伝えた時、レナさんは笑顔だったが、なんとなく怒っている風にも感じられたぞ?」

「あちゃ~……多分お母さん、相談もなくミントを引き取った事に怒っているわ……ブルブル……!」

クラウスからレナの様子を伝えられたエステルはその場で身を震わせた。

(母さんには包み隠さず、正直に話さないと駄目だね。)

(わかっているわよ!……うう~……気が重いわ~………)

「まあ、わしにはあまり詳しくはわからんが、とにかく君達ブライト家に家族が増えたという事でいいかの?」

「うん。そんな感じよ。」

クラウスの言葉にエステルは頷いた。

「うむ、そうか。では、帰ったらそのミント君という娘を君達ブライト性にして、ロレント市民として登録しておくよ。」

「え………ミント自身にも会っていないのにいいの!?」

クラウスの提案にエステルは驚いて、尋ねた。

「エステル君を親として慕っている娘だ。きっと、良い子なのだろう。レナさんからも手続きを頼まれている事だし、心配いらんよ。」

「助かります。」

「ありがとう、クラウス市長!」

クラウスの好意にエステル達はお礼を言った。

「それじゃあわしは観客席の方に行っておるよ。頑張ってな。エステル君、ヨシュア君。」

エステル達の様子には気付かず、クラウスは2人に激励の言葉を贈った後、観客席に向かった。



「まさか、クラウス市長も晩餐会に出席するなんて……。って事は、メイベル市長なんかも呼ばれてるのかしら?」

「可能性は高そうだね。たぶん、有力者たちを集めて話があるんじゃないかな。」

「うーん……まあいっか。何とか試合に勝って晩餐会に出れば分かるもんね!」

「うん、そうだね。そろそろ控室に戻ろうか。もうすぐ開場の時間だと思うよ。」

「ん、りょーかい!」

ヨシュアの提案に頷いたエステルは、ヨシュアと共に控室に向かった。

その後、エステル達は控室に戻って来て、静かに待っていた。しばらく待っていると、リシャールやカノーネ、フィリップを伴ったデュナンが観戦席に現れた。



~グランアリーナ・選手控室~



「あ……。今日はリシャール大佐も公爵と一緒に来てるみたい!」

リシャールの姿を確認し、エステルは驚いた。

「そうだね……。公爵のお供のついでに噂に聞くカーリアンさんの実力がどれぐらい凄いのか見に来たかもしれないね。」

ヨシュアはエステルの驚きに頷きながら、リシャールが現れた理由を推測した。

「ほう、あれが(ちまた)で人気の王国軍情報部のリーダーか。男前だが、風格を感じさせる、なかなかの人物みたいだな。」

「まあ……確かにそうなんだけどね。」

リシャールが漂わせている風格や容姿を見て、ジンは感心していたが、リシャール達の真実を知っているエステルは複雑そうな表情で溜息を吐いた。

「ふむ、ボースで見かけた時からさらなる風格を漂わせるようになったみたいだね。フッ、こうなっては仕方ない。このオリビエ・レンハイムのライバルと認定しようじゃないか。」

「あんたにライバル視されてもねぇ。」

オリビエの自意識過剰な発言にエステルは呆れて、ジト目でオリビエを見た。

「……始まるみたいだよ。」

審判がアリーナに現れたのを見て、ヨシュアはもうすぐ試合が始まる事を全員に言った。



「皆様……大変長らくお待たせしました。これより武術大会、本戦最終日を始めます!予選開始から1週間にわたって開催されてきた武術大会ですが……本日をもちましていよいよ最終日となりました。勝利と栄光を掴むのは一体、どちらのチームなのか……。それでは、決勝戦のカードを発表させていただきます。南、蒼の組―――カルバード共和国出身。武術家ジン以下4名のチーム!北、紅の組―――メンフィル帝国出身。メンフィル帝国軍所属。闇剣士カーリアン選手以下1名のチーム!」



「よっしゃあ、出番ね!」

「いよいよだ……」

「フッ、今回ばかりは本気で行かせてもらうよ。」

自分達の出番が来た事にエステル達は覚悟を決めた。

「泣いても笑ってもこれが最後だ……。気合を入れていくぞ!」

「うん!」

「はい!」

「ボク達の勝利と言う名のフィナーレで決めようか!」

ジンの号令に頷いたエステル達はアリーナに向かった。



~グランアリーナ・観客席~



「あ!ママ達が出て来た!」

「いよいよ、始まるみたいだね、ミントちゃん。」

門から出て来たエステル達を見て、ミントは声をあげ、ツーヤは緊張しながら言った。

「ねえ、ツーヤちゃん!ドロシーさんがいる所で一緒に応援しない?そうしたらミント達の応援の声がママ達に届くかもしれないし!」

「え?えっと………」

ミントの提案にツーヤは戸惑い、プリネを見た。

「私達はここで応援しているから、行ってらっしゃい。」

「はーい!行こっ、ツーヤちゃん!」

「うん!」

そしてミントはツーヤと手を繋いで、観客席の一番前で陣取っているドロシーの傍に行った。

「フフ………相変わらずあの子達は元気ですね。………?お姉様方?そんな難しい顔をしてどうしたのですか?」

天真爛漫なミントとそんなミントと仲がいいツーヤに微笑んだプリネは、考え込んでいるリフィアとエヴリーヌに気付き、首を傾げて尋ねた。

「………お前はこの気配に気づかないのか、プリネ?」

「え?…………!?この神聖な気配は………!まさか!?」

リフィアの言葉にプリネは何の事かわからず、首を傾げた後その場で集中し、感じられた気配に驚いた。

「………この気配、昨日の奴と同じだね。………とうっ!!」

エヴリーヌはいきなり武器を構えて、一本の矢を空に向かって放った!空に向かって放たれた矢は何かに当たり、エヴリーヌの傍に落ちて消えた。

「あ、危ないわね~。知らない仲でもないのに、いきなり攻撃するのはやめてよね!」

そして空からニルがリフィア達の所に降り立った。



「やはり天使!!それも上級を冠する能天使がどうしてここに………!」

プリネはニルの姿を見て、文献に伝えられている天使の種族を思い出し、驚いた。

「ぬ?お主はセリカの使い魔だった天使ではないか。」

「……道理でエヴリーヌやリフィア達に襲いかからなかった訳だ。」

リフィアはニルの姿を見て驚き、エヴリーヌは自分達を忌み嫌っている天使が何故、何もして来なかった理由に納得した。

「久しぶり~……あら?貴女は?見ない顔ね。」

「…………メンフィル第二皇女プリネ・マーシルンです。父は誇り高き闇王、リウイ・マーシルン。母は混沌の女神(アーライナ)の神格者、ペテレーネ・セラです。」

プリネはニルを警戒しながら、自己紹介をした。

「フフ……そんなに警戒しなくても、何もしないよ。我が名はニル・デュナミス。これでもセリカの使い魔をしていた身だから貴女達、闇夜の眷属の事を嫌っていないよ。」

自分を警戒するプリネをニルは苦笑しながら答えた。

「セリカ………まさか、”神殺し”セリカ・シルフィル!?」

ニルから出て来たある人物に思い当たったプリネは天使であるニルが現神が忌み嫌っている神殺しに仕えていた事に驚いた。

「久しいな。どうしてお主がここにいる?」

「フフ……あのエステル・ブライトという少女がニルを従える器であるかどうかを見極めに来たの。」

リフィアの疑問にニルは微笑みながら、答えた。

「………こっちの世界に来るには当然、エヴリーヌ達のお家を通って来ないと来れないはずだけど?」

「そんな警戒をしなくても、正規の手続きを取って、リウイ皇帝陛下に会って許可は頂いているよ。だからそんな怖い顔で睨むのをやめてくれない?」

自分を睨んでいるエヴリーヌにニルは異世界に来た方法を説明した。



「今、エステルがお主を従える器であるかと言ったが、まさかお主……」

「ええ。今度の新たな主はあのエステルという娘にしようかと、考えているの。」

リフィアの言葉の続きを答えるかのように、ニルは頷いた。

「………どういう風の吹きまわし?天使が人間に仕えるなんて。それもエヴリーヌ達、”闇夜の眷属”と親しくしている人間に。」

エヴリーヌは人間であり自分達、闇夜の眷属と仲がいいエステルに仕える事を考えているニルを怪しがって、尋ねた。

「どういうも何もニルはただ、強い人間が好きなだけだよ。それに異種族から慕われている人間なんて、面白そうじゃない♪」

「は、はぁ………それでエステルさんは貴女のお眼鏡に適ったのですか?」

ニルの答えにプリネは戸惑いながら、尋ねた。

「それを今日、見極めるつもりよ。……さて、さすがに天使であるニルの姿を他の人達に見られると騒ぎになりそうなので、ニルは空で観戦するので失礼するね。」

そしてニルは空へ飛び上がり、観客達が見えないところまで上がって行った。

「フフ……相変わらずエステルには驚かされるな。まさか天使にまで気にいられるとはな。」

「そうだね。テトリ達の主が強い事に興味を示して、話を聞いている内にテトリやパズモに神殺しの剣技がどんなものかを聞いて、自分の技として使えないか真似しようとしていたのも驚いたけど。」

「それがエステルさんなのでしょうね。……どうやら試合が始まるようですよ、お姉様方。」

リフィアとエヴリーヌの言葉に頷いたプリネは整列している両チームに気付いて、言った。

「おお!ついに始まるのか!」

「カーリアンとどうやって戦うのか、興味あるね。」

プリネに言われた2人は興味津々で試合が始まるのを待った。



~グランアリーナ~



「フフ……まさか、決勝で貴女達と戦う事になるとはね。女神達もたまには気のきく事をしたみたいね♪」

エステル達と顔を合わせたカーリアンは口元に笑みを浮かべて、言った。

「えへへ………あたし達にも優勝しないと駄目な理由があるから、絶対に勝つ!」

「4対1とはいえ、油断はしないつもりです。」

「フフ……あなた達の力……楽しませてもらうわ♪少しはできそうなのもいるみたいだしね♪」

エステルとヨシュアの言葉を聞いて、不敵な笑みを浮かべて答えた後、ジンを見た。

「”大陸最強”と名高いメンフィルの武将とは一度戦ってみたかったんだ。俺の”泰斗流”……どこまで通じるか、試させてもらうぜ。」

カーリアンに見られたジンは好戦的な笑みを浮かべて、答えた。

「おおう……近くで見るとより美しさと色気が感じられるよ。……ゴクリ。」

一方オリビエはカーリアンを見て、だらしない表情になった。

「試合中にもそんな様子だったら、棒ではたいて正気に戻らせるからね!?」

「失敬な。このオリビエ、いつでも正気だよ?」

ジト目で忠告するエステルにオリビエは悪びれもなく答えた。

「あら?どこかで見た事あると思ったら、あなた、ペテレーネやティア、それと家のメイドに声をかけていた漂泊の詩人とやらじゃない。」

カーリアンはオリビエの容姿を見て、オリビエがペテレーネやティア、イリーナに声をかけていた事を思い出した。

「あ、あんですって~!?」

「本当に怖いもの知らずですね………よく、生きて王都に来れましたね………」

エステルは自分が憧れているペテレーネにオリビエが声をかけた事を知ると怒り、ヨシュアはオリビエの度胸に呆れて溜息を吐いた。



「フッ………麗しき女性に声をかけ、ボクの愛を捧げるのがこのオリビエの使命だからね。」

「何の使命よ!何の!?」

髪をかき上げ、訳のわからない事を言うオリビエをエステルは怒鳴った。

「ゼムリア大陸の恥を見せてしまって、すみません。」

ヨシュアはオリビエの事を何気に酷く言って、謝った。

「別にいいわよ。見てて、面白かったし。いや~、いつも嫉妬される側のリウイがあんたを睨んでいたのを見て、笑ったわ~。」

「フッ………さすがの”覇王”もこのボクの美しさに嫉妬したようだね。」

「絶対!違うと思うわ。むしろ、あんたの事をメンフィルにとって害をなす愚か者とでも思っているんじゃないの~?」

「どう考えても妻や娘、使用人に言い寄る軽薄な男を睨んでいただけだと思いますけど。」

酔いしれているオリビエにエステルとヨシュアは即座に否定した。

「まあその後、ペテレーネの教え子が鞭で思いっきり制裁していたけどね。いや~、久しぶりに笑わせてもらったわ~。」

「ブルブル……!それは思い出させないでくれたまえ!…………もうしませんからそれ以上、ぶたないで~!」

「あはは……さすがシェラ姉ね。」

オリビエにトラウマを植え付けさせたシェラザードにエステルは苦笑した。



「これより武術大会、決勝戦を行います。両チーム、開始位置についてください。」

会話をやめて審判の言葉に頷き、エステル達とカーリアン両チームはそれぞれ、開始位置についた。

「双方、構え!」

両チームはそれぞれ武器を構えた。

「女神達もご照覧あれ………勝負始め!」

今ここに、異世界の英雄に挑む少女達の戦いが始まった…………! 
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