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おぢばにおかえり

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第二十七話 デートじゃないのにその十四

「そう言われるのよ」
「気にしないで下さいよ」
「気にしなくても言うわよ」
 言わないではいられませんでした。
「阿波野君にはね」
「それでそのお叱りの言葉を素直に受け取る」
 ここで妙なことを言ってきました。
「それがたんのうなんですね」
「そこから自分を成人していくのよ」
 お婆さんがまた阿波野君にお話します。
「少しずつでもね」
「わかりました」
 どうしてお婆さんの言葉にはこんなに素直なんでしょう。私の時は笑ってまあまあ、って感じで全然気にしていない感じなのに。
 そんなお話をしているとここで。お医者さんが部屋に来ました。看護婦さんも一緒です。
「あの、すいません」
「はい」
「検診の時間です」
「あっ、じゃあ」
「千里ちゃん、またね」
 お婆さんがにこりと笑って私に声をかけてくれました。
「また来てね」
「はい、また」
「阿波野君もね」
「名前覚えてくれました?」
「可愛い子の名前は覚えられるからね」
「そうですか。それはいいですね」
 またまた調子に乗って。どうしてこんなに調子に乗れるんでしょうか。私はそのことが不思議でなりません。阿波野君みたいに調子のいい子もそうはいないと思いますけれど。
「じゃあまた。その時は先輩も御一緒ですよね」
「っていうか私が行かないと」
 何を今更って言葉でした。
「話にならないじゃない」
「あっ、そうですね」
「全く。じゃあそういうことでお婆さん」
「またね。お父さんとお母さんに宜しくね」
「はい」
「阿波野君」
 阿波野君にも声をかけていました。
「頑張りなさいよ。いいわね」
「わかってますよ」
「わかってます?」
 今の阿波野君の言葉は少し引っ掛かるものがありました。
「一体何がわかってるの?」
「あっ、何でもないですよ」
 何でもないって本人から言ってきました。
「気にしなくていいですから」
「そうなの」
「そうですよ。じゃあ帰りましょう」
「ええ」
 今一つ釈然としないものを感じつつ相談所を後にしました。外に出るとまた阿波野君が私に対して言ってきます。
「それでですね」
「今度は何なの?」
「先輩って神戸の人ですよね」
 私の生まれのことを聞いてきました。
「確か。そうですよね」
「そうだけれど」
「確か教会は八条町でしたっけ」
「ええ。八条分教会」
 八条町にあるからこの名前になりました。八条町といえば八条グループの本拠地でもあります。今は企業町の一面もあります。
「そこなのよ」
「あのお婆さんも神戸なんですか。じゃあ」
「長田のね。八条町も長田だけれど」
「長田っていうとカレーの」
 どうやら阿波野君結構食べ物に詳しいみたいです。長田と聞いてカレーを出してくるなんて。
「筋肉のですね」
「よく知ってるわね」
 驚きました。ぼっかけカレー知ってるなんて。
「そこまで」
「親戚そっちにいますんで」
「親戚の人が長田におられるの」
「ええ、そうですよ」
 素っ気無く答えてきました。
「美味しいですよね、あれ」
「まあね。そうなの、親戚の人が長田に」
 凄く意外なことでした。そういえば私阿波野君のことをまだ何も知りません。それでついついこっちから話を切り出してしまいました。
「ちょっと聞きたいけれど」
「何ですか?」
「まずは商店街歩かない?一緒に」
「ええ、いいですよ」
 こうして話に入りました。けれどこれが迂闊で。後で困ったことになってしまうことにこの時は全く気付いていませんでした。不覚でした。


第二十七話   完


              2008・10・22 
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