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英雄伝説~光と闇の軌跡~(FC篇)

作者:sorano
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第82話

その後エステル達は空港に向かったが軍による検問がしかれた影響で定期船が遅れている事を知り、軍に見つからない安全路で行くため、エステル達は街道を使って王都に向かい王都とツァイスの国境――セントハイム門に到着した。



~セントハイム門・入口~



「ようやく到着か。ミント、疲れていない?」

「うん。大丈夫だよ、ママ!」

セントハイム門に到着して一息ついたエステルはミントに疲れていないか尋ねたが、ミントは疲れを知らないかのように元気良く答えた。

「疲れたら必ず言うのよ?その時はおんぶしてあげるわ。」

「えへへ…………ありがとう、ママ!でもミント、こうやってママやツーヤちゃん達といっしょに歩くだけで楽しいよ!」

「あ~ん、もう!本当にミントは可愛くて良い子で癒されるわ~。」

「くすぐったいよ~、ママ。」

可愛らしいミントの笑顔を見て、エステルはミントを抱きしめて頬をスリスリした。ミントはくすぐったそうにしながらも気持ちよさそうな表情をした。

「ハハ、あいかわらずエステルはミントに甘いなぁ。」

「ふふ、そうですね。………ツーヤは大丈夫?」

ミントを抱きしめているエステルを微笑ましそうに見ているヨシュアの言葉に同意したプリネはツーヤに尋ねた。

「はい、お気づかいありがとうございます。でも、大丈夫ですよ。あたしとミントちゃんはルーアンにいた頃はいつも走りまわって遊んでいましたから、これくらいの距離を歩く事は大丈夫ですよ。」

「へ~。そこのところはプリネと似ていないね。プリネが小さい頃はこっちが誘わないと城の外に出なかったもんね。」

「ふむ、そうだな。外に出て民の生活を見るのもまた皇族の務めだぞ?」

「お姉様達がおっしゃっている事は最もだと思いますが、自分の立場を考えたら小さい頃から城の外には一人で出れないですよ。幼かった頃、お母様からも一人で外に出るときは必ず兵士の方達に護衛してもらうよう、言いつけられてますし。」

エヴリーヌとリフィアの言葉を聞いたプリネは苦笑しながら答えた。

「ペテレーネはお兄ちゃんとできた子供であるプリネを凄く甘やかしていたからね~。魔術の勉強や料理の作り方とか自分で教えていたもんね。」

「まあ、あ奴がリウイを慕う気持ちの強さはリウイの愛妻であったイリーナ様やリウイが”テネイラ事件”の犯人ではないと最初から信じていたセルノ王女ラピスと並ぶほどと言われておるからな。念願のリウイとの子供を授かったと知った時、嬉しさのあまり泣いていたからな。」

「………あたしもご主人様のお母様と少し話して思いましたけど、優しい人で凄くご主人様の事を大事にしているっていう思いが伝わってきました。それにあたしみたいな見ず知らずな子供がご主人様に仕えたいって伝えた時も凄く喜んでくれました。」

「あはは………でも、そのお陰で今の私がいます。お父様、お母様にたくさんの尊敬できるお兄様、お姉様達に囲まれて、私は幸せ者です。」

エヴリーヌやリフィア、ツーヤのペテレーネに対する評価や思いを知ったプリネは恥ずかしそうにしながら答えた。

「ハハ、本当にプリネ達は姉妹仲がいいね。…………さて、そろそろ行こうか。」

ヨシュアに促され、エステル達は門の受付に行った。



~セントハイム門・受付~



「やあ。セントハイム門にようこそ。王都に行きたいんだったら通行手続をしてもらえるかな?」

受付の兵士はエステル達を見て、尋ねた。

「うん。通行手続をしてもらえる?」

「よし来た。この用紙にサインしてくれ。」

そしてエステル達は用紙に必要事項を書いた。

「しかしなんだ。最近の女の子は進んでいるっていうか度胸があるっていうか……。わざわざ街道を通ってハイキングかい?特に唯一男の子の君は肩身が狭くないかい?」

「ハハ、大丈夫ですよ。」

「いえ、修行の一環として王都まで歩いているんです。」

兵士の疑問にヨシュアは苦笑し、プリネは答えた。

「へ~。だとすると、武術大会にも出るのかい?」

「え、武術大会……?」

兵士の言葉を聞いて、エステルは首を傾げた。

「なんだ、知らないのかい。武術大会ってのは王都の『王立競技場(グランアリーナ)』で毎年開かれているイベントでね。王国軍の精鋭を始め、腕に覚えのある人間が集まって武術の腕を競い合う大会なんだ。たしか、今日の午後に予選が行われるはずだよ。」

「へえ~、なんだか面白そう!」

「はは、エステルが好きそうなイベントだね。」

「ふむ………………」

(うわぁ~…………あの表情はなんか、嫌な予感…………絶対めんどくさい事を考えているよ………)

兵士の答えを聞いたエステルは意気込み、その様子を見たヨシュアは苦笑し、リフィアは何かを思い付いたような表情で考え込み、リフィアの表情を見たエヴリーヌは溜息を吐いた。

「女王陛下のはからいで入場料は割引されるし……。ああ、僕も勤めがなかったら見物に行ったんだけどねぇ。」

兵士は武術大会が見れない事に溜息を吐いた。

「あはは、ご愁傷様。でも、どうせだったら見物より参加がしたかったな。今までの修行の成果も確かめられそうだし。」

「確かに……。でも、予選をしているなら参加するのは無理そうだな。依頼も受けているし見物だけでガマンしようよ。」

「ちぇ、残念。」

「………………………………」

兵士はエステルとヨシュアのやり取りをジッと見ていた。その様子に気付いたエステルは兵士に尋ねた。



「ん、兵士さん?どうしたの。マジマジと見つめちゃって。」

「その胸のエンブレム……。若いから気付かなかったけど君たち、ひょっとして遊撃士?」

「うん、そうだけど?」

「何か問題でもありますか?」

「いや、その……。問題というか何というか……。参ったな。さすがにありえないと思うけど……」

「……こら。勤務中の無駄口は感心せんな。」

エステル達に尋ねられ、兵士が口を濁していたその時、控室から隊長らしき人物が現れた。

「あ、隊長……」

「なんだ、問題でもあったか?」

「そ、それがですね……。彼らが、その……遊撃士らしいので……」

「なに……」

隊長は兵士からエステル達が遊撃士である事を知ると、目を細めた。

「???」

(どうしたんでしょう?今までの関所の受付の態度を考えるとおかしいですよね?)

(………恐らく博士奪還が関係しているんだろうな。………どうやら余達が口を挟む必要が出て来たようだな。)

隊長の表情を見て、エステルは何の事からわからず首を傾げ、プリネとリフィアは小声で推測をしていた。

「あー、君たち。申しわけないが、少々時間をもらえるかな?」

「え、でもあたしたち、早く王都に行きたいんだけど。」

隊長の言葉にエステルは驚いた後、軽い反論をした。

「ほう、王都に、ねえ。参考までに聞くが、何をしに行くつもりなのかね?」

「え、え?その、頼まれた仕事で……」

「仕事の内容は?」

「えっと、博士の……。……じゃなくて!う~、何て言えばいいのか」

「申しわけありませんが、ギルドの規約があるのです。依頼人のプライベートにも関わるので内容を明かすのは勘弁してもらえませんか?」

仕事内容が軍に知られる訳にはいかない事に気付き、仕事内容が言えないエステルは唸り、ヨシュアが手助けをした。



「ふん……怪しいな。どうやら、色々と話を聞かせてもらう必要がありそうだ。」

「どうしてミント達が調べられなくちゃならないの?ねえ、どうして??」

「お願いします、教えて下さい。」

「うっ……………。その、実は……。軍本部からの通達があってね。あの王室親衛隊が、陛下に反逆して各地でテロ事件を起こしたらしいんだ。しかもどうやら遊撃士を装って活動している連中もいるらしくてね……。念のため、遊撃士を名乗った人間は取り調べの対象にしているのさ。」

子供であるミントやツーヤに嘆願され、兵士は純粋なミント達の眼差しに負けて理由を話した。

「あ、あんですってー!?」

兵士の言葉を聞いたエステルは驚いて、声を上げた。

「こら、余計なことを言うな。申しわけないがこれも上からの命令でね。身元が証明されるまでここに留まってもらおうか。」

「じょ、冗談じゃないわよ。なんであたしたちが……」

隊長の言葉に反論をしようとしたその時、リフィアが口を挟んだ。

「ほう、余達を疑うか。お前達、どうなっても知らないぞ?」

「何?それはどういう意味だ。」

リフィアの言葉に隊長はリフィアを睨んで、尋ねた。

「…………お姉様の言葉通りの意味です。エステルさん達はメンフィル大使の依頼を受けて、私達を王都まで護衛しているんです。」

「メンフィル大使…………メンフィル皇帝の!?バカな、そんな事がある訳が………確かに君達は闇夜の眷属のようだが………」

リフィアに続いたプリネの言葉に驚いた隊長は、信じられない様子でいた。

「事実だ。余やプリネ、エヴリーヌ。後、そこにいる2人の子供はメンフィル貴族の子供でな。リベール全都市の観光と修行をしたい余達の願いを

寛大な陛下が聞いてくれてな。年も近いエステル達なら馴染みやすいと思って、陛下がエステル達に依頼したのだ。そうだな?」

「はい。」

「ん。」

「ほえ?ちが………ムグ。」

(ミントちゃん、今は何も言わないでリフィアさん達の言う通りに頷いておこう。)

(う、うん。)

リフィアの嘘も混じえた説明に話を合わせるようにプリネやエヴリーヌは頷いたが、ミントは首を傾げて声を出そうとしたがツーヤに口を抑えられ、ツーヤに小声で頷いたミントは疑問を口に出すのをやめた。



「確かに話の筋は通っているが…………証拠か何かはないのか?」

「証拠か。証拠なら余の名が証拠だ!」

「おい、この子の名前はどれだ。」

「あ、はい。この名前です。」

隊長に尋ねられ、兵士はリフィアが書いた通行手続き書を見せた。

「リフィア・ルーハンス……………この名前が何か?」

「ルーハンスとはリウイ陛下に嫁いだ側室の名前の一つだ。」

「なっ!?」

「では、王家に連なる貴族の方ですか!?」

リフィアの説明に隊長や兵士は驚いた後、信じられない表情でリフィアを見た。

「まだ疑うのなら大使館に問い合わせてもよいぞ?まあ、その時は覚悟してもらうからな。王家に連なる余達を疑った事、リウイ陛下に手間をかけさせた事。これらを後に大使館を通してリベール王家に抗議させてもらう。その原因となった

のがお前達とわかれば、どうなるかは自分達自身がよくわかっているだろう?」

リフィアは不敵な笑みを浮かべて、隊長や兵士に答えた。

「…………っつ!た、隊長!どうしましょう……!?」

「う、うろたえるな!いいだろう!そこまで言うなら大使館に問い合わせて、確かめてみようじゃないか!」

リフィアの言葉に兵士は顔を青褪めさせ、うろたえて隊長に尋ねたが、隊長は震えそうになる体を必死に抑えて、うろたえている兵士を叱った後、強がりで答えた。

「しかし隊長、もしそちらの方がおっしゃっている事が本当だったら、我々は……!」

「だが、我々誇り高き王国軍が脅しに屈する訳にもいかん……!」

「あの………そんな事をしなくても遊撃士協会に確かめてみたらどうですか?」

言い争っている兵士と隊長を見兼ねたプリネは提案をした。

「え?」

「何?」

プリネの提案に隊長達は言い争うのをやめて、プリネを見た。

「先ほど説明したようにリウイ陛下は遊撃士協会に私達の護衛の件等を依頼として出していますから、ギルドに確かめてもらえばすぐにわかると思います。」

「!おい、すぐにツァイスのギルドに確認しろっ!」

「ハッ!」

プリネの言葉に逸早く反応した隊長は兵士に命令した。そして兵士は受付に備え付けてある通信器を手にとって、ツァイスのギルドと通信をした。



「…………はい、そうです。特徴は………………それで、そのリフィアという方が王家に連なる貴族だと…………え!?そ、それは本当なのですか!?………はい、お手数をお掛けして申し訳ありません………では………」

兵士は通信器でキリカに尋ねた後、絶望したかのように顔を青褪めさせた状態で通信器を切った。

「おい、どうだったんだ?」

「………はい。…………………」

隊長にせかされた兵士は青褪めた表情で隊長にエステル達には聞こえない小声で説明した。

「…………なっ!?げ、現メンフィル皇帝の一人娘にして、リウイ皇帝陛下の孫娘………!?」

兵士の説明を聞いた隊長は思わず声を出し、兵士と同じように顔を青褪めさせてリフィアを見た。

「ほう、ツァイスの受付は相変わらず話が速くて助かるな。説明をする手間が省けた。」

隊長の言動や表情を見て、リフィアはキリカが状況を理解して、あっさり自分の正体を説明した事に感心した。

「さて…………これで余が何者かやエステル達が依頼人の正体や仕事内容を言う事に口を閉ざした理由がわかっただろう?」

「「も、申し訳ございません!!」」

勝ち誇った笑みで尋ねたリフィアに隊長と兵士は揃って、頭を深く下げて謝罪した。

「わかったのなら、さっさと余やエステル達を通すがよい。そうすれば、今回の事は不問としよう。」

「はっ!寛大なお心、ありがとうございます!………君達、本当に申し訳なかった。完全に自分の誤解だったようだ。」

リフィアに感謝した隊長はエステル達に頭を下げて、謝罪した。

「うんうん、分かればいーのよ。」

「そちらも職務でしょうから、どうか気になさらないでください。」

そしてエステル達は無事、セントハイム門を抜けた。



~キルシェ通り~



「………はぁ~。それにしてもさっきはリフィア達のお陰で助かっちゃったわ。」

セントハイム門を出て、兵士達が見えないところまで歩いたエステルは立ち止まって安堵の溜息を吐いてリフィア達を見た。

「けど、リフィアさん達って本当に凄いね、ツーヤちゃん!リフィアさんが皇女様ってわかるとミント達を足止めしようとしていた兵士さん達、みんな態度を変えちゃったね。」

「うん。そんな凄いご主人様達のお傍にいられるよう、がんばらないと。」

ミントはリフィアの凄さを改めて知って、はしゃぎ、ツーヤは同じメンフィル皇女であるプリネの傍にいて当然の存在になるよう、改めて誓った。

「そうだね。キリカさんも状況を理解してリフィアの本当の正体を話してくれたのも助かったけど……本当によかったのかい?」

「む?何の事だ?」

エステルの言葉に頷いたヨシュアに尋ねられたリフィアは何の事か理解できず、尋ねた。

「ヨシュアさんが言いたいのは王国軍にリフィアお姉様が王都に行く事がバレてしまった事です。恐らく情報部の耳にも入るでしょうし……」

「何だ、そんな事か。そんな事、今更であろう?すでにボースで余とリシャールは出会っている上、モルガンとも対峙した。余達が王都に行く事等、とっくに予測済みであろう。」

「確かにそうよね。………でも、大佐達が何かしてこないといいんだけど。」

「それってどういう意味?」

エステルの疑問にエヴリーヌは尋ねた。

「レイストン要塞でシード少佐が言ってたんだけど………大佐達は軍の上層部の人達の弱みを握ったり、家族を人質にとったりして自分に逆らえないようにしたんだ。

だから、特務兵達がリフィア達を襲撃とか誘拐みたいな真似をしなくちゃいいんだけど………」

「確かにそれは考えられるね。リフィア達の存在は大佐達にとってもある意味、最もやっかいで動きを封じ込めたい存在になると思うし。」

「……ご主人様は絶対、あたしが守ります。」

エステルとヨシュアの言葉を聞いたツーヤは両方の拳を握って、決意の瞳で答えた。

「フフ………ありがとう、ツーヤ。でも大丈夫よ。私はこう見えてもお父様達に鍛えられているから、特務兵にも遅れをとらないわ。それにリフィアお姉様やエヴリーヌお姉様もいますから、大丈夫です。」

「うむ!裏でコソコソ動き回るような輩に負ける余ではない!」

「ん。お兄ちゃん達からプリネ達の事を守るよう頼まれているからね。プリネ達を狙ってきたら容赦なくやっつけちゃうつもりだよ。」

プリネの言葉にリフィアは力強く頷き、エヴリーヌは物騒な言葉を言いながらも力強い言葉を言った。

「あはは………よく考えたら特務兵の実力じゃあ、リフィア達には勝てないわね。……さて、急いで王都に行きましょう!」

「了解。」

「はーい!」

「うむ!」

「「はい。」」

そしてエステル達は陰謀という闇が静かに迫っている王都――グランセルに向かった………… 
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