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異世界にて、地球兵器で戦えり

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第十五話 イタリカの戦い

イタリカはフォルマル伯爵家が統治する商業都市である。特にこれといった名物となる特産品はないが、農作物、家畜類、織物を帝都に供給する役割もあり、戦時下では集積基地としての役割もある。現在の当主はミュイという11歳の少女であるが、これは前当主が急死してしまい、長女と次女が既に別の家に嫁いでしまい、フォルマル伯爵家の血を継いでいるのがミュイしかいなかった為である。

だが11歳のミュイに当主として役割を果たすことなど出来ず、そのため後見人を巡って長女と次女が争っていたのだが、アカツキ帝国と日本との戦争で長女と次女が嫁いだ家が領主が戦死してしまい、領地立て直しの為に、ミュイだけに構っていられなくなり、兵を引きあげたのだが、それが原因で現在は、統治システムが機能しなくなり、そして度重なる敗北で盗賊化した連合諸王国軍と帝国軍兵士達が、イタリカの当主が11歳のミュイという事をかぎつけて、現在イタリカを襲撃している。

イタリカの南門では、現在盗賊化した元兵士とイタリカの市民兵と、薔薇の徽章をつけている女性の騎士団が戦っていた。城門の上で戦う市民兵と女性騎士団との戦いは、攻城戦の戦いは防御側に有利であるため、騎士団の団長でもあるピニャ・コ・ラーダの士気のもと戦い、何とかイタリカの侵入を防いでいた。

「くそ、撤退だ!」

盗賊団の司令官と思われる男は、不利と悟り撤退指示を出す。盗賊とはいえ、元が正規軍に所属していた兵士であるため、司令官の撤退指示を受けて盗賊達も迅速に撤退を実行に移した。

何とか撤退に追い込んで市民兵や騎士団たちもホッと一息がつくが、まだ安心も出来ない。盗賊団も不利を悟って撤退しただけで、また攻めてくる事は分かりきっているからだ。そこに金髪の縦巻きロールが特徴の女性であるボーゼスが話をかける。

「姫様、何とか守りぬきました」

「ああ、だが連中が諦めたわけではない。盗賊達は、また攻めにくる」

城門の外にはピニャの薔薇騎士団も攻城戦で疲労がたまり、倒れているものが複数存在するが、そして自分の側近ともいえるハミルトンやグレイも無事であった。自分の信用している人物達が無事であった事にピニャも安心したが、だが現在の戦力では盗賊相手に決定打に欠ける為に、市民兵達の士気の低下もあり、現在の状況はけしてよろしくなかった。

そもそも、ピニャの騎士団である薔薇騎士団は本来なら戦場に狩りださせる事はない。それは団長であるピニャは、皇位継承権こそ低いがれっきとした王族であり、騎士団の構成員の多くは王族に近いものを含めても、貴族の子女であるからだ。実際に貴族の親達も戦場に出る事はないという事を前提で、ピニャが設立した騎士団に所属させているに過ぎないのだ。

貴族や実力があっても身分が低い為に出世できない老兵もいるので、貴族達の間では「騎士団ごっこ」として馬鹿にされていたが、現在は帝国の数少ない戦力しても投入されている。それは、先ほど話したように、アカツキ帝国と日本との戦争で度重なる敗北による帝国貴族の戦死者続出した為である。モルトが健在の時はアカツキ帝国だけを相手にした時ならば、帝国も予備兵力を入れてギリギリではあるが、帝国支配権を維持するだけの影響力はあった。

しかし、ゾルザルが王位についた時に状況は変わった。皇城を爆撃されて和平派が主戦派を押して、直ぐにでもアカツキ帝国と和議を結ぼうとしたのだが、ゾルザルが徹底抗戦を強調して、和議派は帝国を敵国に売り渡す売国奴として罪を着せられて、強制的に左遷されてしまい、逆らった人間は殺されるという結果となり、ゾルザルの側近と旧モルト家臣の主戦派が主体となってしまったのだ。そのため、ゾルザルは初陣として最近になって門が開いた先がアカツキ帝国の首都と思い、首都を制圧して、新皇帝としての威光を知らしめようと考えたが、これが失敗に終わり、そして連合諸王国軍を形成して挑んだが、これも大敗北という形で終わってしまった。

そして、アカツキ帝国と門の先にある異世界との遠征による敗退が重なり、帝国の基盤は崩壊が始まったのだ。度重なる敗北による兵員不足は深刻化しており、本来ならお飾りの騎士団扱いの薔薇騎士団も実戦に投入しなければいけない状況に追い込まれ、そして現在はイタリカが盗賊集団に襲われているという情報が入り、このイタリカ防衛に薔薇騎士団が派遣されたのである。


「ハミルトン、ボーゼス。騎士団と市民兵達に交代で食事と休息を取らせろ。妾は館で食事を取ってくる」

ピニャはそう呟き、館の方へ向かう。館に向かう途中に見る市民兵士達に、ピニャは苛立ちが心の中を埋め尽くす。

(これが妾の初陣だというのか……)

今まで散々正規の騎士団や王族や貴族達に「ごっこ遊び」と馬鹿にされてきた。アカツキ帝国が帝国に対して宣戦布告を宣言した時も、ようやく薔薇騎士団の出番が来たと意気込んだ思いで自分の父であるモルトの討伐命令を期待したが、しかし命令は下されなかった。ピニャは無礼にも帝国以外が帝国を名乗る蛮族に対して、どうして王族である妾を出してくれないのかと迫ったが、モルトからは「ごっこあそびと本気の戦は違う」と言われて、ピニャの言い分を聞きはしなかった。

だが、それが余計にピニャの自尊心を傷つける羽目になったが、討伐軍に編成されないので、無理矢理討伐軍に加わる事は出来ない。いくら王族のピニャでもモルトの威光には逆らえる事は出来ないので、いつかは討伐軍として騎士団を率いる事が出来ると判断して実戦に向けた訓練を続けた。

いつかは戦に出るという強い思いは抱きながら初陣の機会をまったが、ゾルザルが王位について全てがピニャの思惑とは違う方向に進んだ。無意味な戦力投入による度重なる敗北により、帝国の基盤は崩壊が始まり、そしてそんな状況にまで帝国が追い込まれた状況でのピニャの初陣。確かに戦に出たいという思いは強かったが、しかしそれは敵国人ではなく、まさか帝国と連合諸王国軍の盗賊化した敗残兵が相手であると思いもしなかったのだ。騎士団は辛うじて士気を保っているが、いつ終わるかもわからない戦いが続くなかで市民兵達の士気はどん底である。こんな最悪な形で初陣を飾った為に、ピニャは悔しい思い出いっぱいであった。

(もっと早く妾の騎士団を出せば……)

そうすればアカツキ帝国軍とも戦えたはずだと……そんな思いを抱きながらフォルマル伯爵家の館に戻り、軽い食事を取った後に客間で仮眠を取る。いざという時は水でもぶっかけて起こしてくれと言ったが、そうならないようにと思い仮眠を取ったが、実際に彼女を起こしたのは水によるものだった。

「何があった?敵か!」

「はたして敵か味方か、とにかく東門にてご自分の目でご覧ください」

「なに?」

騎士団の教官役でもあるグレイにそう言われて、ピニャは東門の方に向かう。そこには見た事もない荷台が五台ほど東門の近くで止まっていたのだ。中にいる人間も見た事もない斑模様の鎧を着ており、グレイの言う通りに、確かにこれは判断に困るとピニャも思った。

ーーー。

そして場所は変わる。第三偵察隊は、避難民達の生活費を得るためにカトーの知り合いの商人がいるイタリカに向かい、第三偵察隊もイタリカの情報収集の為に出向く事になったが、しかしイタリカの状況は極めて最悪であった。城門に並び立つ市民と兵士達は、切羽詰まった表情でクロスボウや弓を構えており、そして機械式の連弩も、こちらに照準を合わせているのが分かる。指揮官の一人と思われる男も、敵でないなら姿を見せろと叫んでいるのだ。

「明らかに戦闘があった後だな」

「うえ~大歓迎だね」

島田と伊丹は、切羽詰まった町の状況を見て明らかに商談も偵察任務も出来ないよなと思った。そこで伊丹はレレイ達に商談が出来そうにないし、レレイ達の身の安全の保障も出来ないから引き返そうと提案するが、レレイはこれを拒否した。

「ここで引けば、相手は私達が敵対勢力だと誤認される恐れがある。イタミ達はまってほしい。私が話をつける」

「ちょっとまってレレイ。私達の都合で、この人たちを巻き込んでいいの?」

妖精エルフであるテュカは、レレイに対して伊丹達を巻き込こんでいいのかと詰め寄る。

「だからこそ行く。私達が敵ではないと伝える。恩を受けているイタミ達の評判を落とさない為に」

「……わかった。私もいく。ちょっとまって矢避けの加護を……」

ここまでレレイに言われて、テュカも仕方ないと言った表情で同行する事を決意した。外に出る前に矢避けの精霊魔法を唱えた。そこでレレイ、テュカ、ロウリィの三人は外に出る。その様子に島田は「たくましいな」と思い心の中で呟く。

伊丹に視線を合わせると、行かないとまずいよなといった表情をしていたので島田が声をかける。

「俺と桑原さんが責任を持つからついて行け」

「あれ、いいですか?」

「そういう顔をしてただろ」

島田の指摘に伊丹も苦笑いするしかなく、島田に言われてレレイ達に同行した。通行用の門に伊丹が近づくと勢いよく門が開かれて伊丹はその衝撃で地面に叩きつけらて気を失った。その後は、レレイ達は通行口から気絶した伊丹を運んでイタリカに入った。

その後は、イタリカの中に入った伊丹の安否を確認する為に無線で伊丹を呼び掛けた。どうやら無事であったようで、その後はピニャに事情を説明した後に第三偵察隊もイタリカに入る事が許可された。

 
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