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英雄伝説~光と闇の軌跡~(FC篇)

作者:sorano
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第78話

その後、エステル達は工房船に乗り、整備長の協力のお陰で無事、レイストン要塞に潜入し、図面を見て博士がいそうな施設――研究棟に急いで向かった。



~レイストン要塞・研究棟前~



「あ……!」

「あいつらは……」

研究棟の入口で見張っている黒装束の男達を見て、ヨシュアとエステルは小さな声を上げた。また、近くには黒装束の男達が使っていた飛行艇が停まっていた。

「へっ……。やっぱりいやがったか。」

「あら?あの魔獣は(わたくし)を襲った………!どうやらあの人間達には飼い主としてこの私を襲った罪を償わせる必要があるようですわね……!」

黒装束の男達を見て、アガットは口元に笑みを浮かべた。また、フィニリィは黒装束の男達に控える狼系の魔獣を見て、男達を睨んだ。

「塔に現れた飛行艇……」

「やっぱりあいつら軍の関係者だったのね……。普通の兵士とはずいぶん違うみたいだけど……」

一方ヨシュアは飛行艇に気付き、エステルは以前戦った時の事を思い出した。

「たぶん、破壊工作の訓練を受けた特殊部隊だろう。どうりで手強いわけだよ。」

エステルの疑問にヨシュアは推測した答えを言った。

「お、おじいちゃん、あそこに捕まっているの?」

ティータは不安そうな表情で研究棟を見て、言った。

「ああ、いよいよその可能性が高くなってきた。だが……ここでやり合うのはマズイな。」

「そうですね……。下手に騒ぎを起こしたら要塞中の兵士が駆けつけてくると思います。」

「何とか見つからずに建物の中に入れないかな?」

エステル達は研究棟の周囲を探り出した。そして探った結果、鉄格子がはまっている窓をエステルが見つけた。

「ねえねえ。ここから中に入れないかな?」

「いや……窓に鉄格子がはまっている。音を立てずに侵入するのはちょっと難しそうだな……」

「そうですわね……私の魔術や槍技で鉄格子を壊すのは簡単ですが、どうしても音を立ててしまいますわ。」

エステルの提案にヨシュアやフィニリィは難しそうな表情で答えた。

「………………あっ!」

「こいつは大当たりだぜ……」

「え……」

何かに気付いたアガットとティータの言葉にエステルは驚き、窓の傍に行って聞き耳をたてた。



「ラッセル博士。本当にありがとうございました。よくぞ、この『ゴスペル』の制御方法を突き止めてくださった。情報部を代表して感謝しますよ。」

研究棟の中にいたのはエステル達も出会った事のある人物――リシャール大佐だった。また他にはカノーネ大尉やシード少佐がいた。

「ふん……。やはり貴様が黒幕じゃったか。情報部指令、リシャール大佐……。たしか貴様もカシウスの元部下だったか?」

博士は憎々しげな表情でリシャールを見て、言った。

「おお、そういえば博士は彼と交友があったのでしたね。カシウス・ブライトの行方は我々も捜しているのですがいまだ突き止められなくてね。心当たりがあるのなら教えて頂きたいものですが……」

「知らん。知ったところで教えるものか。」

リシャールに尋ねられた博士は鼻をならして、答えた。

「フフ……まあいいでしょう。もし、この『ゴスペル』が彼の元に届けられていれば困ったことになっただろうが……。今さら彼が現れたとしてもこの流れを止めることはできない。」

「『黒の導力器』……いや、『ゴスペル』とか言ったか……。貴様ら、それを使って何をしでかすつもりじゃ?いや、そもそも……そんな得体のしれない代物をいったいどこから手に入れた?」

「ある筋からと申し上げておこう。我々の目的は……まあ、すぐに明らかになりますよ。それが分かった頃には博士を解放して差し上げますからそれまでゆっくりなさってください。」

「貴様らの悪事を知る者を平気で解放しようとするとは……。よっぽど大それたマネをしでかすつもりらしいな?」

「ハハ、想像にお任せしよう。しかし事が成ったあかつきには個人的に、博士の研究を援助させていただくつもりです。新たな発明で、このリベールをより豊かにして頂くために、そしてゆくゆくはあのメンフィルを越えるためにも………」

博士に尋ねられたリシャールは勝ち誇った笑みを浮かべて答えた後、博士に今後の協力を求めた。

「けっ、お断りじゃい。貴様らのような存在なんぞ、メンフィルやあの”覇王”からしてみれば目にもとまらん存在だ。無謀に挑んで、とっとと敗北と後悔を味わうがいい。」

博士はリシャールの要請を鼻を鳴らして否定して、悪態をついた。

「博士。あまり聞き分けのないことをおっしゃらないでくださいな。博士のお孫さんに万が一のことがあった時に助けてあげられませんわよ?」

博士の悪態の言葉を聞き、カノーネは不敵な笑みで答えた後、尋ねた。

「こ、小娘が……。またそれでわしを脅すか……!」

カノーネの脅しの言葉に博士はカノーネを睨んだ。



「やれやれ、カノーネ君。君の交渉のやり方は、いささか優雅さに欠けるのではないかね?」

「うふふ……失礼しました。」

「彼女は、どうも特殊なユーモアセンスの持ち主でね。誤解して欲しくないのですが我々はみな、国を憂える一介の軍人に過ぎないのです。民間人を巻き込むつもりは一切ないと誓っておきましょう。」

「憂国の士気取りか……。そして、あらゆる導力現象を停止させる漆黒のオーブメント……。なるほど、貴様らの目的、何となくじゃが見えてきたわい。」

「ほう……」

博士の言葉にリシャールは驚いて目を見開いた。そこにロランス少尉が部屋に入って来た。

「……失礼する。」

「あら少尉。大佐は博士とご歓談中なの。邪魔するものではなくってよ。」

「いや、構わんよ。ロランス君、報告したまえ。」

王都(グランセル)で動きがありました。大佐の読み通り、白き翼が網にかかった模様です。」

「それはそれは……」

「フフ……。これでチェックメイトだな。それでは博士。我々はこれで失礼します。シード少佐。博士が不自由のないように気を配ってくれたまえ。」

「は……了解しました。」

ロランスの報告にカノーネは不敵な笑みを浮かべた。カノーネと同じように不敵な笑みを浮かべたリシャールはシードに指示した後、カノーネやロランスと共に部屋を出て行った。



「ラッセル博士……何か入用のものはありますか。大抵のものなら揃えさせますが。」

「ふん、結構じゃ。お前さんは、連中と違って骨のある男と思っておったが……。どうやらわしの買いかぶりだったようじゃの。」

シードに尋ねられた博士は鼻をならして、皮肉を言った。

「……恐縮です。博士は、ある反逆者によって誘拐されたことになっています。それを踏まえて頂ければお孫さんへの手紙など届けさせていただきますが……」

「早くわしの前から消えろ!」

皮肉を言われても気にせず、淡々と言うシードの言葉に頭が来た博士は怒鳴った。

「……失礼します。」

そしてシードも研究棟から出て行った。

「リシャール大佐……あの人が黒幕だったんだ。しかも父さんのことを捜しているみたいだけど……」

「ああ……どういうことなんだろう。それに、あの仮面の男……」

全ての黒幕がリシャールだった事にエステルは驚き、ヨシュアはロランス少尉を凝視していた。

「あの野郎……やっぱり出やがったか。むっ、行くみたいだな……」

ロランスが現れた事にアガットは表情を険しくした後、ロランス達が飛行艇に乗る事に気付いた。



「フッ……うまく切り抜けられるかな。」

ロランスは独り言を呟いた後飛行艇に乗り込んだ。そしてリシャール達を乗せた飛行艇は飛び去った。



「よし……一気に人気(ひとけ)がなくなったな。ヤツとは決着を付けたかったが、まあいい、仕事の方が優先だ。」

飛び去った飛行艇を見送ったアガットはエステル達に博士の奪還を開始する事を言った。

「窓から入れない以上、見張りを倒すしかないわね。速攻でケリをつけましょ!」

「う、うんっ!」

「フフ、この私がいるのですから、すぐに終わらせてあげますわ!」

「………………………………」

アガットの言葉にエステルやティータは力強く頷き、フィニリィは勝ち誇った笑みで胸をはっていたがヨシュアは飛行艇が飛び立っていった方向をずっと見つめていた。

「ヨシュア?ちょっと、聞いてるの?」

「あ……エステル?」

ヨシュアの様子に首を傾げたエステルは声をかけ、エステルの声でヨシュアは我に返った。

「だ、大丈夫?ヨシュアお兄ちゃん……」

「おいおい、勘弁しろよ。クールなお前らしくもねえ。」

「ちょっと、何を放心しているんですの?ここは敵地という事がわかっているのですか?」

いつもと違う様子のヨシュアにティータは心配し、アガットは首を傾げ、フィニリィは痛烈な言葉で注意をした。

「す、すみません。少しボーッとしてて……」

「ヨシュア……どこか調子でも悪いの?」

「大丈夫、問題ないよ。入口を守っている見張りを倒すんですよね?」

心配するようなエステルの言葉にヨシュアは首を横に振って答えた後、アガットに確認した。

「ああ……とっとと始めるぞ。」

そしてエステル達は黒装束の男達――リシャールの部下である情報部の兵達や魔獣が守っている入口に向かって行った。


「はあ、せっかく王都で大きな作戦があるのに……。こんなところで爺さんの見張りなんてな。」

「ぼやくな、ぼやくな。王国のため、そして理想のため大佐の手足となって働くこと……。それが情報部の隠密隊員、『特務兵』の使命なんだからな。」

入口を守っている黒装束の男達――特務兵の一人が博士の見張りをしている事に溜息をついている所をもう一人の特務兵が慰めていた。

「フン。てめえらそんな大層な肩書だったのかよ。」

そこに聞き覚えのある声が聞こえたため、特務兵達は声がした方向を振り向いた。

「なに……?」

振り向くとそこには武器を構えたエステル達がいた。

「ば、馬鹿な……!」

「アガット・クロスナー!?」

目の前にいる人物に特務兵達は信じられない表情をした。

「遅ええっ!」

そして驚いている特務兵達の隙を狙って、アガット達は先制攻撃を仕掛けた!



「か、覚悟して下さい!ええいっ!」

「「ぐわっ!?前が……!」」

「「ギャン!?」」

ティータの導力砲で煙幕弾を放つクラフト――スモークカノンによって特務兵や特務兵達が調教した狼の魔獣は視界が真っ暗になり、うろたえた所を

「行きますわよ!雷よ、走れッ!…………ハァッ!」

「「「「ギャァァァッ!?」」」」

フィニリィは槍の切っ先に溜めた雷を震う魔術――大放電を特務兵達に放った!フィニリィの魔術によって特務兵達は叫び声をあげたところを

「はぁぁ、せいっ!」

「くらいやがれっ!」

「「ぐはっ!?………」

エステルとアガットはそれぞれクラフト――金剛撃とスパイラルエッジを放って、特務兵達を気絶させた。

「やあっ!」

「せいっ、はっ!」

「はっ!そこっ!」

「「ギャッ………」」

残りの狼の魔獣にティータが導力砲で攻撃し、そこにヨシュアは一体に近付き、クラフト――双連撃で一体を葬り、フィニリィは槍に雷を宿らせて素早く2回攻撃するクラフト――電磁連槍撃で残りの一体を葬った。

「ケッ……ざまあ見やがれ。散々コケにしてくれた借りは返してやったからな。」

「フフ、力を取り戻しさえすればこのような者共、私の敵にはなりませんわ!」

電光石火で特務兵達を倒したアガットは気絶している特務兵達を見て、弱冠気分が晴れた。また、フィニリィもプリネと契約したお陰で力を取り戻したので気分がよかった。

「個人的な恨みが入りまくってるわね~。」

エステルは苦笑しながらアガットを見た。

「ここからは時間との勝負だ。一刻も早く博士を連れて脱出しよう。」

「はいっ!」

そしてエステル達は研究棟の中に入った。



~研究棟内~



「また来おったか……。いい加減にせい!何もいらんと言うたじゃろ……」

ドアが開き、誰かが入って来た事に気付いた博士はまた軍関係者と思い、振り返りながら怒鳴った時、そこにはエステル達がいた。

「お、おじいちゃん……」

「ティ、ティータ!?はて……わしは夢でも見ておるのか?」

博士は今にも泣きそうな表情をしているティータを見て、驚いた。

「おじいちゃああん!よ、よかったぁ……。無事でいてくれてぇ……。……うううう……。うわぁああああああん!」

博士が無事である事に安心したティータはついに泣きだして、博士に抱きついた。

「こりゃ、どうやら夢じゃないようじゃな。それにお前さんたちは……」

「やっほー、博士。わりと元気そうじゃない?」

「マードック工房長の依頼で博士の救出に来ました。」

「なんと……。ここに潜入したのか。さすがカシウスの子供たち……。常識外れなことをするのう。」

博士はレイストン要塞に潜入したエステル達を見て、感心した。

「よお、爺さん。悪いがとっとと脱出の準備をしてくれや。あんまり時間がないんでね。」

「なんじゃ、お前さんは?ガラの悪そうな若造じゃの。ニワトリみたいな顔をしおって。」

「ニ、ニワ……。あんだと、このジジイ!?」

博士の言葉に一瞬呆けたアガットだったが、我に返った後博士を怒った。

「クスクス、言い得て妙ですわね。」

「あはは、博士ってばうまいことを言うわね~!」

「お、おじいちゃん。失礼なこと言っちゃダメだよ。この人はアガットさん。ギルドの遊撃士さんでお姉ちゃんたちの先輩なの。」

アガットに対する博士の言葉にフィニリィやエステルは笑い、ティータは慌ててアガットの事を説明した。

「ほう、お前さんも遊撃士じゃったか。そういや前に、カシウスから聞いたことがあるのう。いつも()ねてばかりいる不良あがりの若手がおると。」

「あ、あんのヒゲオヤジ……!」

「まあまあ、アガットさん。博士も、詳しい話は後にして急いで脱出の準備をしてください。何か持っていくものはありますか?」

カシウスに対して怒りを抱いているアガットを宥めたヨシュアは博士に尋ねた。



「そうか……。ならば、『カペル』の中枢ユニットを運んで行ってくれんか?下手に置いていったらまた連中に悪用されそうじゃ。」

「わかりました。」

ヨシュアは機械についている装置を外して、博士に渡した。

「わしはそいつを使って『黒の導力器』の制御方法を研究させられていたんじゃ。構造そのものは解析できなかったが、データと制御方法は弾き出してしまった。これで連中は、いつでも好きな時に例の現象を起こすことができるじゃろう。」

「そっか……」

特務兵達が導力停止現象をいつでも起こせる事を知ったエステルは複雑そうな表情をした。

「すまん、エステル、ヨシュア。せっかくお前さんたちが届けてくれた品物じゃったのに……」

「どうか気にしないでください。ティータの身の安全を盾にされたら従うしかないのは当然でしょう。」

「むしろ、あたしたちの方が博士たちを巻き込んじゃったみたい。」

頭を下げて謝る博士にヨシュアとエステルは慰めた。

「だーっ!ウダウダ言ってるヒマはねぇ!準備もできたし脱出するぞ!爺さんは、ギックリ腰にならない程度に急ぎやがれ!」

「フン、言いおったな……。まだまだ若いモンに負けん所を見せてくれるわ!」

「も、もう、2人とも……」

ティータはまた言い合いを始めた博士とアガットを見て、ティータは苦笑した。

「全くもう、揃いもそろって……ここが敵地である事が理解していますの?脱出するなら急いだほうがいいですわよ!」

博士やアガットの言い合いを呆れた表情で見ていたフィニリィは脱出を促した。そしてエステル達は脱出するための小型の船を確保するために波止場へと向かった……… 
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