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英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~(閃Ⅰ篇)

作者:sorano
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第73話

7月25日――――



翌日、エリオットと合流したリィン達は実習課題の消化を始め、課題の一つである手配魔獣の撃破をした後、地下道からオスト地区への抜け道に出るとちょうど正午の鐘がなり、マキアスの提案によってランチをテイクアウトした後マキアスの実家で食べる事になり、マキアスにコーヒーをご馳走してもらい、くつろいでいた。



~オスト地区・レーグニッツ家~



「ふむ、これが帝都名物のフィッシュ&チップスか。聞いていたよりも十分すぎるほど美味に感じるな。」

「ジャンクフードは今まで何度か食べた事がありますけど………こんなにも美味しいジャンクフードは初めてです。」

「うん、確かにあのお店、かなり美味しいみたいだね。」

ラウラとツーヤに地元の料理を褒められている事に嬉しさを感じたエリオットは笑顔になり

「まあ、味がいいのは認めるが所詮はジャンクフードさ。冷めたら驚くほど不味くなるのは変わらないんだがな。」

マキアスは苦笑しながら説明した。

「でも、戦闘レーションよりは遥かにマシだと思う。」

「はは、それを言ったら何でもマシになりそうだけど。……セレーネは大丈夫か?」

フィーの意見に苦笑したリィンは王宮育ちで高級な料理しか口にしていなかったであろうセレーネに心配そうな表情で尋ね

「はい。初めて食べる味ですけど、とっても美味しいです。」

尋ねられたセレーネは微笑みながら答えた。



「しかし、このコーヒーはかなり本格的で香りもいいな。さっき豆を挽いていたけど買い置きでもしているのか?」

「ああ、少し前に父さんが買い置きして行ったみたいだ。たまに公務の合間に戻ってきて休憩して行くみたいで……忙しい毎日での、ちょっとした贅沢のつもりみたいだ。」

「あはは……さすがレーグニッツ知事だね。」

「ふむ……好感の持てる方だな。この家も、帝都知事のような要職にある人物の自宅とは思えぬというか……」

「ぶっちゃけ小さいね。」

「フィー、あのな……」

はっきりと言ってしまったフィーにリィンは冷や汗をかいて呆れ

「?知事という役職はよくわかりませんが、フィーさんの仰る通りなのですか、お姉様?」

「え、えっと…………」

首を傾げているセレーネに尋ねられたツーヤは言い辛そうな表情でマキアスを見つめた。



「はは、言ったように正真正銘の平民出身だからな。帝都庁で出世してからもわざわざ生活スタイルを変えるほど父も僕も器用じゃなかったし。それに……こんな小さな家でも思い出がないわけじゃないからな。」

リィン達の様子を見たマキアスは苦笑しながら説明し、懐かしそうな表情をした。

「そっか……」

「確かに居心地がいいというか落ち着ける雰囲気だよね。」

「やっぱりずっと住んでいる場所には愛着がありますものね。」

「はい……この家にはたくさんの思い出が詰まっているのですね……」

「あ……写真発見。」

マキアスの話を聞いたリィン達がそれぞれ納得している中、フィーは写真を見つけた。

「ああ、それか……」

そしてリィン達はフィーが見つけた写真に近づいて写真を注目した。



「うわあああ……マキアスが可愛いっ!」

「ふむ、昔は何とも言えぬ愛らしさを持っていたのだな。」

「これが、こんなにガンコで口うるさいのになるとは……」

「フィ、フィーさん。」

写真に写っているマキアスの幼い姿を見たフィーは今のマキアスを思い出して呆れた表情をし

「ええい、人の昔の写真で盛り上がるんじゃないっ!」

自分の幼い頃の姿を見て盛り上がっているエリオット達を見たマキアスは呆れた表情で指摘した。

「はは、さすがにお父さんは今と雰囲気は変わらないけど。隣にいるのはお姉さんか何かなのかな?」

「とても綺麗な方ですね……」

「…………?(この人……どこかで見たような……)」

かつてのレーグニッツ知事の隣に写っている女性に気付いたリィンは尋ね、セレーネは女性の整った容姿に見惚れ、ツーヤは眉を顰めて女性の容姿をジッと見つめた。



「父方の従姉でね。近くに住んでいたからよく遊びにきてくれたんだ。男二人の父子家庭……色々と世話になってしまったな。」

「ふむ、過去形という事は……もう結婚されて家庭に入られたのか?」

「………………………亡くなったよ。6年くらい前にね。」

ラウラの質問を聞いたマキアスは押し黙った後静かな口調で答えた。



「え……」

「……………そうか。マキアスが……貴族を嫌っている理由だな?」

「…………!」

「あ……」

「そ、それって……」

リィンの質問を聞いたラウラ達はそれぞれ顔色を変え

(え?貴族を嫌っている……?それって一体……)

(後で説明してあげるわ……)

事情を知らないセレーネが戸惑っている様子を見たツーヤは小声で話しかけた。

「……本当はこんな話、誰にもするつもりは無かったんだ。だが、そろそろ僕も少しは吐き出した方がいいかと思ってね。長くなるけど……みんな付き合ってくれるか?」

「も、もちろんだよっ!」

「…………」

「……是非とも。」

「どうか、聞かせてくれ。」

「お願いします。」

「え、えっと……昨日出会ったばかりのわたくしでもよければお願いします。」

「ありがとう。」

リィン達の返事を聞いたマキアスは過去を話し始めた。



「”姉さん”は……僕より9歳年上で…………美人で、気立てもよくて僕にとっては最高の女性だった。……さっきも言ったようにうちは正真正銘の庶民でね。でも、父さんは役人としてかなり優秀だったみたいで……帝都庁で重要なポストを任せられて、頭角を現していったんだ。清廉潔白を地で行ってたから、煙たがる連中もいたみたいだが……それでも、大きなプロジェクトを幾つも成功させたことで内外でかなりの評価を得ていった。母は僕が小さい頃にはもう亡くなっていて……でも、近くに住んでいた”姉さん”が男所帯を世話してくれた。父さんも、姪にあたる姉さんのことを凄く可愛がっていて…………一緒に住んでたわけじゃないが本当の意味で家族同然だった。僕にとっては自慢の”姉”で……幼いながらも憧れの存在だったんだ。



当然だけど……そんな女性を、周りの男たちが放っておくわけはなくて。随分モテていたけど、しっかりとしていた人だったから僕もちょっと安心だったんだ。―――”彼”が現れるまでは。”彼”は―――帝都庁に勤める父さんの部下にあたる青年だった。といっても、平民ではなくて由緒正しい貴族…………それも伯爵家の跡継ぎという、正真正銘のサラブレッドだった。ただ、貴族にありがちな傲慢さや尊大さは欠片もなくて……僕も会ったことはあるけど……誠実そのものと言った人柄だった。



そんな彼が、父に紹介される形で姉さんと知り合って……二人はお互い惹かれあって身分を超えた恋人同士になった。……正直、子供心に悔しくて仕方なかったよ。でも僕の目から見ても彼と姉さんは本当にお似合いで……姉さんが幸せそうだったから仕方なく諦めるしかなかったな。そして、父さんが仲人に立つ形で二人は婚約して……それが―――終わりの始まりだった。



相手の実家―――伯爵家が露骨に潰しにかかってきたんだ。どうやら”四大名門”の一つ、カイエン公爵家との縁談が急に持ち上がったらしくてね……平民の娘を娶るなどとんでもないと騒ぎ始めたんだ。父さんが帝都庁の要職だったから露骨な手こそ打ってこなかったが……ありとあらゆる嫌がらせや脅しが姉さんに対して密かに加えられた。愛する人を困らせたくなかったのか、父の立場を(おもんばか)ったのか……姉さんは結局、一言も相談せず、ただひたすら耐え続けた挙句――――河に身を投げて自らの命を絶った。



僕達父子が経緯を知ったのは全てが終わり、投身自殺をした姉さんの遺書が見つかった後だった。どうやら”彼”は最後の最後で姉さんを手酷く裏切ったらしい。『わ、私は彼女に言ったんだ!”愛妾”として大切にするからどうか我慢してくれと!なのにどうして命を絶つ!?』



その後……父さんはそれまで以上に実績を上げた。そして、盟友であるオズボーン宰相と協力する形で帝都庁の貴族派を押し退けて…………4年前に帝都庁長官―――つまり帝都知事に任命された。これが、レーグニッツ家の事情さ。」

「ひっく……マキアスさんのお姉さんを裏切ったその人、酷すぎます……!お姉さんはその人の事をずっと信じていたと思うのに……!」

「セレーネ……」

マキアスの過去を聞き終えて泣きじゃくるセレーネの様子を見たツーヤはセレーネの頭を撫で

「……そんな事が……」

「だから”貴族”が嫌いになったの……?」

エリオットは悲痛そうな表情をし、フィーは尋ねた。



「……ああ。僕は……姉さんを死なせた”敵”を求めずにはいられなかった。相手の男に、伯爵家、横槍を入れて来た公爵家……しまいには貴族の全て……貴族の文化や制度すら敵と思った。そして……彼らに勝てるだけの力を必死になって追い求めてきたんだ。」

「「……………………」」

マキアスの話を聞いたリィンとラウラはそれぞれ重々しい様子を纏って黙り込んだが

「――だけど、頭のどこかでとっくにわかってはいたんだ。結局それは、ただの”八つ当たり”だったんじゃないかって。」

「え…………」

「………………」

静かな口調で答えたマキアスの答えを聞き、それぞれ驚きの表情でマキアスを見つめた。



「貴族や平民に関係なく、結局は”その人”なんだろう。相手の男は、誠実ではあったが愛する人を守りきれるほど強くなかっただけだろうし……伯爵家も”自分達の利益”をただ優先しただけなんだと思う。平民だろうと悪人は悪人だし、貴族にも尊敬できる人間はいる。ユーシスのヤツはともかく……リィン、ラウラ、ツーヤ、そしてこの場にはいないプリネ―――君達にはそれを教えられてきたからな。」

「マキアス……」

「…………」

「マキアスさん……」

「父さんがどう思ってるのかは僕にもわからないが……これが現時点での僕自身の偽らざる気持ちだ。」

「そうか……そなたに感謝を。」

「――ありがとう。話してくれて。」

「……ありがとうございます。」

「え、えっと……昨日会ったばかりのわたくしにまで話してくれて本当にありがとうございます……!」

「ハハ……セレーネにはまだ早い話だろうし正直、泣かせてしまった事に申し訳ないくらいだよ。」

お礼を言うセレーネをマキアスは苦笑しながら見つめた。



「そんな事はありません……!マキアスさんのお話はわたくしにとっても色々と勉強になりました………!」

「そうか……なら話した甲斐はあったよ。」

「ふふ……」

「うーん、でもマキアスも素直じゃないよねぇ。ここまで来たらユーシだってちゃんと認めてあげればいいのに。」

「じょ、冗談じゃない!あの尊大で傲慢なヤツを断じて認められるものかっ!いつもいつも人のことをガリ勉だの余裕がないだの……!」

呆れた表情で指摘したエリオットの言葉に大声を上げて反論したマキアスはユーシスの姿を思い浮かべて厳しい表情をした。



「そ、そこまでは言ってないと思うけど……それにほら、ユーシスってある意味天然っていうかそんなに悪気はないと思うし。」

「ええい、それが一番、腹が立つんじゃないかっ!!」

「やれやれ……」

「ふふ……」

そしてエリオットの指摘に再び怒鳴ったマキアスの様子をフィーとラウラは微笑ましく見守り

「……コーヒーと一緒にいい時間が過ごせたな。」

「はい……!」

リィンの言葉にセレーネは頷いた。



「…………あの、マキアスさん。辛い事をお聞きする事になりますが、先程話に出て来た”姉さん”の遺体は見つかっているのですか?」

「ツ、ツーヤ!?い、一体何を……」

その時考え込んでいたツーヤが尋ねた質問を聞いたエリオットは驚き

「………いや……結局見つからなかったよ。姉さんが投身自殺をした日はちょうど大雨の日でね……もしかしたら雨で増水した影響で河の流れが激しくなって、海まで流されたんじゃないかって憲兵達や父さんが姉さんの遺体の捜索を依頼した遊撃士が言っていたらしいけど……それがどうかしたのか?」

マキアスは重々しい様子を纏って答えた後ツーヤを見つめて尋ねた。



「えっと……もしかしたら、その死んだ”姉さん”ですが生きているかもしれません。」

「へ……」

「お、お姉様?一体どういう事なのですか……?」

ツーヤの答えを聞いたマキアスは呆け、セレーネは戸惑った。



「一つ確認しておきたいのですが……その”姉さん”の名前はもしかして”フィオーラ”ですか?」

「!!あ、ああ……で、でもどうしてツーヤが姉さんの名前を…………」

「……………………………あった。」

自分の発言にマキアスが驚き、リィン達が戸惑っている中、ツーヤは制服の内ポケットにある家族写真を取り出して机に置いた。



「この写真は一体……」

「見た所どこかの貴族の家族写真にしか見えないが……」

「バリアハートの時に助けてくれたツーヤの義理の母親もいるね。」

「この方がお姉様の…………」

写真に写っている人物達をエリオットとラウラは戸惑いの表情で見つめ、見覚えのある人物―――サフィナが写っている部分を見て呟いたフィーの言葉を聞いたセレーネは驚き

「サフィナ元帥とツーヤさんも写っているけど……もしかしてミレティア領を収めている分家の?」

ある事に気付いたリィンはツーヤに尋ねた。

「はい。金髪の青年の隣に写っている女性を見て下さい。」

「………………え…………………………」

ツーヤに言われたマキアスは金髪のまさに”貴公子”を現すような貴族の青年と貴族の子女らしき幼い女の子に挟まれてドレスを身に纏い、赤ん坊を抱いて幸せそうな表情を浮かべている自分にとっては見覚えがありすぎる女性を見て呆けた。

「あ、あれっ!?こ、この人……!」

「先程のマキアスの話にあった姉君に非常に似ているが…………」

マキアスと共に写真に写っている女性を見たエリオットは驚いてラウラと共に幼い頃のマキアスやかつてのレーグニッツ知事と共に写っている女性を見比べた。

「――――フィオーラ・マーシルン。サフィナ義母さんの一人息子にして現ミレティア領主であり、あたしの義理の兄であるエリウッド・L・マーシルン公爵に行き倒れの所を助けられ、様々な経緯があって、エリウッド義兄さんに嫁いだ記憶喪失の女性です。」

「なっ!?」

「ど、どどどどど、どういう事だ!?な、なななな、何で死んだはずの姉さんが…………!」

ツーヤの説明を聞いたリィンは驚き、マキアスは混乱した様子でツーヤを見つめた。

「あたしも義母さんから話を聞いた程度しか知りませんが……何でも話によると、6年前エリウッド義兄さんが公務の帰りに行き倒れている彼女を見つけて、そのまま城に連れ帰って目覚めてから事情を聞いた所……”フィオーラ”という自分の名前以外の記憶は全て失っていたんです。」

「!?」

「6年前って…………」

「マキアスさんのお姉様が身を投げた年と一致していますよね……?」

ツーヤの話を聞いたマキアスは血相を変え、エリオットとセレーネは戸惑った。



「そしてその後、記憶喪失で身元も不明で途方にくれていた彼女をほおっておけないエリウッド義兄さんは彼女をメイドとして雇う事にしたんです。記憶喪失で身元がわからない事から、最初はどこかの国の刺客かと怪しまれていたフィオーラ義姉さんでしたが……気立てが良く、誰よりも働き者な性格ですから、周囲の方達も段々と彼女の事を信用し始め……―――2年後、互いに相思相愛の間柄になった二人はめでたく結婚したそうです。」

「……………………」

「ええっ!?こ、公爵と身元不明で記憶喪失の人が結婚!?というかツーヤの義理のお母さんって、確か皇族だよね!?ってことは皇族の妻に……!」

「…………他の皇族の方達や周囲の貴族たちの反対はなかったのか?」

ツーヤの説明を聞いたマキアスは口をパクパクさせ、エリオットは信じられない表情をし、ラウラは心配そうな表情で尋ねた。



「勿論あったそうです。ですがエリウッド義兄さんは勿論彼女を庇いましたし、直に彼女と会って彼女の人柄やエリウッド義兄さんと相思相愛である事を知ったシルヴァン陛下やリウイ陛下、そしてサフィナ義母さんがフィオーラ義姉さんがエリウッド義兄さんの妻になる事を認めましたから、結婚できたと聞いています。勿論、エリウッド義兄さんに妾などはいなく、妻は正妻であるフィオーラ義姉さん唯一人です。」

「まあ……!死んだはずのお姉様がお幸せになれてよかったですね、マキアスさん……!」

「あ、ああ……だけど投身自殺をした姉さんがどうやって異世界に……というか本当に本物の姉さんなのか?」

ツーヤの話を聞いて嬉しそうな表情をしているセレーネに言われたマキアスは戸惑いの表情でツーヤに尋ねた。



「本物かどうかは知りませんが……彼女が持っていた財布にはミラ札や硬貨が入っていたそうですから、少なくてもゼムリア大陸出身の方なのは確かです。」

「それだけでは亡くなったマキアスの姉君とは断定できんな……」

「せめて身分を証明できるものかマキアスのお姉さんしか持っていない物でもあればわかるんだけどな……マキアス、フィオーラさんは何か持っていなかったのか?例えばその婚約している貴族の男性からもらったアクセサリーとか。」

ツーヤの説明を聞いてラウラと共に考え込んでいたリィンはマキアスに尋ねたが

「確かに持っていたが……投身自殺をした事がわかった後に姉さんの机を調べたら”彼”から貰ったアクセサリーの類が全て残っていて、遺書には”彼”に返しておいてくれと書いてあったよ。」

マキアスは首を横に振って疲れた表情で溜息を吐いた。



「バリアハートで助けてくれた竜騎士軍団の団長って、皇族だから、その息子も皇族って事だよね?皇族の力でその人の事を調べなかったの?」

「どうでしょう?今、サフィナ義母さんに聞いてみますね。この通信器ならサフィナ義母さんがゼムリア大陸にいれば、繋がると思いますし。」

フィーに尋ねられたツーヤは首を傾げた後、”古代遺物(アーティファクト)”を元に作られた小型通信器を取り出した。

「それは一体……」

「もしかしてメンフィル帝国にしか存在しない技術とかで作られた通信器?」

見覚えのない通信器を見たリィンは不思議そうな表情をし、エリオットは尋ねた。



「ええ、そんな所です。」

エリオットの問いかけに苦笑しながら答えたツーヤは通信を始めた。

「………………あ、義母さんですか?ツーヤです。すみません、忙しい所を…………実はフィオーラ義姉さんに関して聞きたい事がありまして………………………………………………え?ほ、本当ですか、それはっ!?フィオーラ義姉さんにはその事実、知らせたんですか?…………………………そうですか…………わかりました。はい。―――失礼します。」

「ど、どうだったんだ?」

ツーヤが通信を終えると、ツーヤの様子から只事ではない事実があると察したマキアスは緊張した様子でツーヤに尋ねた。



「……先程義母さんに確認した所…………――――フィオーラ義姉さんは先程のマキアスさんの話に出て来た”姉さん”――――”フィオーラ・レーグニッツ”である事が後の調べでわかったそうです。」

「!!」

「ええっ!?じゃ、じゃあ本当に生きていたんだ……!し、しかもお、皇族の正妻になっているなんて………!」

「良かったな、マキアス……!」

ツーヤの答えを聞いたマキアスは目を見開いて驚き、エリオットは信じられない表情をし、リィンは嬉しそうな表情でマキアスを見つめた。



「けど、何で投身自殺したはずのマキアスのお姉さんが異世界に流れついているの?それが一番の疑問なんだけど。」

「それについては未だわかっていないとの事です。」

フィーの疑問を聞いたツーヤは真剣な表情で答え

「……まあ、何はともあれ姉君が生きて幸せになっていてよかったな、マキアス。」

ラウラは静かな笑みを浮かべてマキアスを見つめた。



「あ、ああ……!そ、それでツーヤ、さっきの話では姉さんは記憶喪失だと言っていたが……姉さんに僕や父さんの事とか、話したのか?」

ラウラの言葉に嬉しそうな表情で頷いたマキアスは期待した様子でツーヤを見つめたが

「ええ。ただ、フィオーラ義姉さんは自分の事を知っても他人のようにしか思えず、未だ記憶は戻っていないそうです。」

「そうか…………」

ツーヤの答えを聞いて疲れた表情で肩を落とした。



「しかし……身元がわかったのなら、何故マキアスやレーグニッツ知事に知らせなかったのだ?」

その時ある事を疑問に思ったラウラはツーヤに尋ね

「それは…………………」

「お姉様?どうされたのですか?」

ラウラの疑問を聞いてマキアスを見つめて複雑そうな表情をしているツーヤを見たセレーネは首を傾げた。



「……恐らく父さんの立場の関係で、知らせる訳にはいかなかったんだろうな。”革新派”の有力人物である父さんの姪がメンフィル帝国の皇族に嫁いでいる事実が知られたら、”革新派”が姉さんの立場を利用して、メンフィル帝国を味方につけようと考えるかもしれないし。」

「それは…………」

「マキアス…………」

複雑そうな表情で推測したマキアスの話を聞いたエリオットやリィンは仲間達と共にマキアスを心配そうな表情で見つめた。

「―――ありがとう、ツーヤ。自殺したはずの姉さんが生きて幸せでいる事を教えてくれて。それを知れただけでも、本当によかったよ…………」

「いえ。それでマキアスさん。申し訳ないのですがこの事実をレーグニッツ知事に話すのは……」

「わかっている。姉さんの事は父さんに黙っておく。」

「え……マキアスはそれでいいの?」

マキアスの言葉を聞いたエリオットは目を丸くして尋ねた。



「ああ。父さんの事を信じていない訳ではないけど、”革新派”が今の話を知ったら姉さんを利用するかもしれないしな。全てを忘れて幸せに生きている姉さんを利用しようとするなんて、間違っている。」

「マキアス…………」

「フム…………ツーヤ、何とかマキアスだけでもフィオーラ殿に会わせる事は無理なのか?そなたにとっては義理の兄夫婦になるのだから、可能だと思うのだが。」

マキアスの決意を知ったリィンは驚き、ラウラは尋ねた。

「そうですね……来月の夏休み期間中にある”特別実習”でミレティア領の中心都市である”ぺステ”も選ばれたそうですから、そちらに向かう班にマキアスさんがいれば会えるかもしれませんね。」

「へ…………」

「ちょ、ちょっと待って!?夏休みにも”特別実習”があるの!?初耳だよ!?」

「しかも今の話を聞く所、マキアスの姉君は異世界に流れ着いたという話……という事は……」

「わたし達、異世界に行けるの?」

ツーヤの答えを聞いたリィンは呆け、エリオットは驚き、考え込みながら呟いたラウラの言葉に続くようにフィーは目を丸くしてツーヤを見つめた。



「ええ。常任理事の一人であるリウイ陛下の提案によって”Ⅶ組”の皆さんに異世界を知ってもらうという名目で夏休み期間中に”特別実習”があり、場所は2箇所とも異世界”ディル・リフィーナ”のメンフィル帝国領内の都市です。ちなみに夏休みにある”特別実習”とは別に学院が始まってからも、通常通りエレボニア帝国領内で活動する”特別実習”がありますから、8月は2回”特別実習”があるんですよ。」

「えええええええええええええええええっ!?じゃ、じゃあ僕達、本当に異世界に行けるんだ……!」

「やったね。異世界がどんなとこか、前々から興味あったし。」

「しかも8月は”特別実習”が2回もあるのか。フフ、今から楽しみだな。」

ツーヤの説明を聞いたエリオットは驚き、フィーとラウラは静かな笑みを浮かべ

「お兄様、異世界ってこの世界よりも凄い所なんですか?」

「ど、どうなんだろうな……?」

セレーネに尋ねられたリィンは戸惑い

「……というか”特別実習”が夏休み期間中にあるって、今初めて知ったぞ。教官達はその事、勿論知っているんだよな?」

ある事に気付いたマキアスは表情を引き攣らせてツーヤに尋ねた。



「ええ、勿論知っていますよ。というか、あたしとプリネさんは何でまだ言わないんだろうって首を傾げていたんですよ。異世界に行く”特別実習”は8月4日からなんですし。」

「ええっ!?」

「8月4日!?今日が7月25日だから…………もう10日を切っているじゃないか!?」

「うわっ……!姉さんに帰省する日が遅れる事を伝えておかないと……!」

苦笑しながら答えたツーヤの話を聞いたリィンとマキアスは驚き、エリオットは慌て

「……サラとレーヴェ。どう考えてもわたし達が慌てふためくと思って、ギリギリまで黙っていたとしか考えられない。」

「フム……サラ教官はともかくレオンハルト教官がそのような事をするとはとても思えないんだがな……まあ、今の話はB班のメンバーに伝えておくべきだな。」

(お兄様達を教えている方って一体どんな方達なんでしょうか……?)

ジト目になって呟いたフィーの言葉を聞いたラウラは考え込み、セレーネは冷や汗をかいてリィン達を見つめていた。



その後後片付けを終えたリィン達はマキアスの実家を出て実習課題の消化を再開した。 
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