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英雄伝説~光と闇の軌跡~(FC篇)

作者:sorano
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第40話

ルーアン市に向かって歩いていたエステル達は山道を越えて、ルーアン市に行く途中にある村、マノリア村に続く街道を進み始めた。



~マノリア間道~



「わあっ……!」

「エステル?」

突然エステルが感動の声を上げたことにヨシュアは首を傾げた。

「見て見て、ヨシュア!海よ、海!」

「はいはい。言われなくても判ってるよ。」

「フフ、高い場所から見る海は眺めがよくていいですね。」

「うん、それに風が気持ちいいね。」

「そうだな。リウイの故郷であるモルテニアからも海が見えるが、ここから見る海の景色はまた格別だな。」

はしゃいでいるエステルを見てヨシュアは呆れ気味の声で答え、プリネ達はエステルの感動に微笑しながら同意した。

「青くてキラキラしてメチャメチャ広いわね~。それに潮騒の音と一面に漂う潮の香り……。うーん、これぞ海って感じよね。」

「エステル、海を見るのは初めて?」

海を見てはしゃいでいるエステルを見て、疑問に思ったことをヨシュアは尋ねた。

「昔、父さん達と定期船に乗った時、ちらっと見た記憶があるんだけど……。こんなに間近で見るのはひょっとしたら初めてかもしれない。」

「そっか……。僕も海は久しぶりだな……。定期船を使わずに歩いてきた甲斐があったね。」

「うんうん。何だか達成感があるよね!」

「フフ、達成感を感じているところ悪いですけど、旅はまだまだ終わっていませんよ?」

「うむ。まずは看板に書いてあったマノリア村とやらを目指すぞ。」

そしてエステル達はマノリア村に向かって海の景色を楽しみながら歩き始めた。



一方エステル達がマノリア間道を進んでいる間、間道の近くにある森で一人の女性が窮地に陥っていた。



~マノリア間道・森~



「「「「「「「「「グルルルルル…………」」」」」」」」

「ハァ…ハァ…ハァ………」

女性は見た目では人間と変わらない姿をしていたが、唯一足の部分は木の根がからみついていた。その女性を囲むようにエステルやリフィア達が関所で戦った狼達が唸りを上げながら女性を攻撃する態勢に入った。女性は最初、狼の群れが自分を標的にした時戦いを避けて逃げていたが、間の悪いことに逃げている最中に他の魔獣まで女性に襲いかかったのだ。魔獣に襲われた女性は自分の武器である弓や習得している魔術で対抗して倒していたが、魔獣との戦闘の最中に狼達が追いつき魔獣との戦いが終わった頃には狼達が女性を囲んでいたのだ。

「ううっ………やっぱり異世界だと力が入らない……森出なんてするんじゃなかったです……」

自分の劣勢に女性は脅えた。本来なら女性は華奢な見た目に反してかなりの実力を持っているのだが、女性はリウイ達の世界――ディル・リフィーナに生息する精霊の一種のため、異世界では魔力が合わない上本来力を貸してくれるはずの大地に住まう精霊達も答えなかったため、自分の力のみで戦っていたのだ。

「「「ガウ!」」」

「くっ………降り注げ、大地の矢よ!………大地の援護射撃!!」

「「「ギャウ!?」」」

襲いかかった狼達を女性はエヴリーヌが得意とする弓技に似ているが唯一違うのは大地の魔力と闘気を合わせた大技を放ち狼達を倒した。

「あっ………力が……」

しかし力を使い尽くしたのか女性は跪いて立てなくなった。

「「「「「グルルルル………」」」」」

残った狼達は獲物が弱っているとわかり、いつでも飛び掛かる態勢になって唸った。

「ひっ……!誰か~!助けて下さい!ご主人様~!山の主様~!」

絶体絶命になった女性は助けを求めるように大声で叫んだ。



~マノリア間道~



「あれ?」

「どうしたんだい、エステル?」

急に足を止めたエステルにヨシュアは不思議に思って尋ねた。

「うん……今、誰かが助けを求めているような気がしたんだけど……(なんだろう……この不思議な感覚、パズモと出会った時に似ている気がする……)」

「?助けを求める声なんて聞こえないけど……」

エステルの言葉を信じてヨシュアは耳を澄ませたが何も聞こえなかったので不思議に思った。

「待って下さい。………………!!どなたか、そこの森の中から助けを求めています!」

同じように耳を澄ませたプリネは近くの森の中から聞こえる助けを求める声を聞き、顔色を変えた。

「余も聞こえたぞ。……かなり窮地に陥っているようだ。すぐに助けに行ったほうがいい。」

「………あっちの方から聞こえたよ。」

プリネの答えにリフィアも頷き、エヴリーヌは声が聞こえた方向を指差した。

「え……」

自分以外は全員聞こえたことにヨシュアは驚いた。



「あっちね!………サエラブ!」

(……何用だ。)

そして驚いているヨシュアを気にせず、エステルは素早く助けを求める声の場所に行くために素早い動きをする幻獣――サエラブを呼んだ。

「お願い!助けを求めている人がいるの!あなたの背中に乗せて!」

(………お前と契約して最初の指示がよりにもよって、我の背に乗せろとはな………)

「あなたの契約主としてまだまだなあたしが誇り高いあなたに背中を乗せてなんてことを頼むなんてどうかしてると思うけど、お願い!助けを求めている人がいるの!」

不愉快そうに聞こえるサエラブの念話にエステルは頭を下げて、一生懸命嘆願した。

(……さっさと乗れ。急を要するのであろう?)

「いいの!?」

誇り高い性格のサエラブの以外な答えにエステルは頭を上げて驚いた。

(……以前の我なら断固断っていたところだが、今の我はある程度の事に関しては寛大になっているつもりだ。ただし、我の背に乗るのはお前かウィルしか許さないし、緊急時でない限りは乗せないからな。)

「うん、ありがとう!」

サエラブの念話に表情を明るくしたエステルは、サエラブの背に恐る恐る跨った。

「エステル!一人では危険だよ!僕達も……!」

「ヨシュア達は後から追いついてきて!あっちの方向よ、お願い!」

(承知!)

ヨシュアの制止の声を聞かず、エステルはサエラブに助けを求める声がした方向を指差した。エステルの指示に頷いたサエラブは背にエステルを乗せているにも関わらず大きく跳躍して、森の中に入って跳躍と走りを繰り返して助けを求める者を
見つけるために進んだ。

「「「「「「「「「グルルルルル…………」」」」」」」」

「ひっ……!」

自分を囲んだ狼達は唸り声を上げながら飛び掛かる態勢になった狼達を見て女性は悲鳴を上げた。

「ガウ!」

「いやぁっ!(死にたくない!誰でもいいから助けて!)」

そしてついに狼達の中の一匹が女性に飛び掛かった。女性はそれを見て悲鳴を上げて自分の人生はこれまでかと思った。

「はっ!」

「ギャン!?」

その時、サエラブに跨ったエステルが棍を震って女性に飛び掛かった狼を攻撃した。棍に当たった狼は頭に当たった棍による痛みに悲鳴を上げて吹っ飛ばされた。

「えっ……」

女性はエステルとサエラブの登場に驚いて声を出した。

「大丈夫!?怪我はない!?」

「は、はい。」

「よかった……ってこの狼達は関所の時の!まだ仲間がいたのね……よ~し、サエラブ!一網打尽にするわよ!」

(ああ。………フン、こやつら狼の癖に人間の匂いが強くするな。さては人間にしつけられたな。……しつけられた狼等もはや犬と同等!この我が本物の”獣”の恐ろしさを見せてやろう!)

「行くわよ!」

エステルの掛け声を合図に戦闘が始まった!



「はぁぁ、せいっ!」

「ガウ!?」

エステルの持つ棍の技の中でも急所を狙い、敵の溜め攻撃を無効化するクラフト――金剛撃に命中した狼は断末魔を上げて倒され

(燃えよ!)

「「ウオオオオオン……!!」」

サエラブが口から連続で吐いた火の玉に当たって体中が燃えた狼は悲鳴を上げながら消滅した。

「せいっ!……ふう、後少しね。」

棍に力を込めて震い、その震いでできた衝撃波ーー捻糸棍でまた一匹仕留めたエステルは残りの敵の数を見て一息ついた。

「オン!」

「やばっ!」

そして油断しているエステルに隠れていた狼が襲いかかった。狼の奇襲に気付いたエステルは防御の態勢に入ろうとしたが

「やぁ!」

「ギャン!?」

(フン!)

「ガッ!…………」

守っていた女性が矢を放って狼を撃ち落とし、撃ち落とされた狼の喉にサエラブは鋭い牙で噛みつき絶命させた。



「ありがとう、サエラブ!それにそこの人も!」

(フン、真の強者は目の前の戦いだけでなく周囲にも気を配るものだ。まだまだ修行が足りん。)

「力がなくなって、山の主様達の加護がなくても矢を放つことぐらいはできます!どなたか知りませんが、援護させていただきます!」

エステル達の登場と活躍に勇気づけられた女性はよろよろと立ちあがり、足元の木の根から弓の形をつくり、魔力でできた矢をつがえてエステル達の援護する態勢に入って言った。

「よ~し、ヨシュア達が来る前に終わらせちゃいましょ!」

そしてエステルとサエラブは助けた女性の弓矢による援護を受けて、お互いの背後を守りながら、エステルは棍で、サエラブは素早い動きで狼達を翻弄しながら牙や爪で倒した。

「はぁぁぁぁぁぁ!」

(滅せよ!)

エステルが放った旋風輪で傷を負った残りの狼達をサエラブは炎を纏って突進して倒した。

「チョロい、チョロい!」

ようやく戦闘が終了して、エステルは棍を自分の目の前で廻して勝利のセリフを言った後、武器をしまって女性の方を見た。

「あはは、助けるつもりが助けられちゃったね。」

「そんな!助けられたのは私のほうです!危ない所を助けていただき本当にありがとうございました!」

「えへへ……あれ?あなたの足、どうなっているの??木の根が絡み付いているようだけど……」

女性にお礼を言われたエステルは照れていたが、女性の足元を見て首を傾げて尋ねた。

「えっ、あ、その……(どうしよう……この子、この世界の人間のようだけど、木精(ユイチリ)を知って怖がらないかな……見たところ、幻獣もつれているから大丈夫かな……?)」

エステルに尋ねられた女性は戦闘が終了し安心したのか、本来の臆病な性格が出てエステルが自分の正体を知って怖がることを恐れておどおどした。



(……そ奴は人間ではない。森に住まう木の妖精――”ユイチリ”だ。)

「へ!?サエラブ、この人の事を知っているの!?」

サエラブの念話に驚いたエステルは聞き返した。

(我はこの者の事は知らぬ。……以前話していた我が友――ウィルに力を貸して共に戦っていた戦友の中で双子のユイチリ達がいたから、そ奴の正体がわかっただけだ。)

「そうなんだ……じゃあ、あなたはパズモと同じ、妖精なんだ!……でも同じ妖精なのにパズモとは全然違うわね……?念話を使わずあたしとこうやって話せるし、見た目もあたし達と変わりないじゃない。」

「私達ユイチリは木々の願いによって生まれ、同じ森に住むなじみ深い種族であるエルフを元に形成していますから……あれ?私の事、怖くないんですか?」

「?どうして、あなたを怖がるの?」

「だって、私の姿はあなた達人間とは姿が違いますし。特にここは異世界ですから、私の姿を見慣れてないあなた達が私を見て魔物といっしょの扱いをすると思ってたんです……」

「あ、あのね~!どこをどう見たらあなたが魔獣に見えるのよ!?それにパズモと契約しているあたしがあなたを怖がるわけないでしょ!?」

女性の答えにエステルは呆れて溜息をついた。

「あの……さっきから気になっていたんですが、そこにいる幻獣の主はあなたなのですか?」

(勘違いするな。我は力を貸してやっているだけだ。人間に従う犬に成り下がった覚えはない!)

「ひっ!す、すみません!」

怒ったように聞こえたサエラブの念話に女性は怖がった後、謝罪した。



「エステル――!どこにいるんだい!?」

そこにエステルを追って来たヨシュア達の声がした。

「あ、ヨシュア達も追いついてきたんだ。……お――い!あたしはここだよ、ヨシュア!」

「……エステルさんの声があちらからしました。急ぎましょう!」

自分を呼ぶ声に答えるかのようにエステルは大きな声で呼び返した。するとエステル達を見つけたヨシュア達も森の中から姿を現した。

「エステル!無事だったんだね!一人で向かったから、心配したよ……」

「もう、ヨシュアったら心配性ね~……サエラブもいるんだからあたしが魔獣ごときにやられる訳ないでしょ?」

エステルの無事な姿を見て安堵の溜息をついたヨシュアにエステルは苦笑しながら答えた。

「あ、あなた達は!」

一方リフィアとエヴリーヌの姿を見て、女性は驚いて声を出した。

「あれ?そいつ、どっかで見たような……?」

「む?確かに余もそこのユイチリに見覚えがあるぞ。……ユイドラの時のユイチリ達は双子だったから違うな。……そこのユイチリ、お前の名は?」

女性を見てエヴリーヌは見覚えのある顔に首を傾げ、リフィアも頷いた後少しの間考えたが思い出せず、女性に尋ねた。

「テトリです!邪龍との戦いにいっしょに戦った仲なのに、忘れるなんて酷いです!……うう、ご主人様が私を忘れた事といい、私って影が薄いんでしょうか……」

女性――テトリはリフィア達が自分の事を忘れていた事に怒った後、以前かつての主に会いに行った時主の従者は自分の事を覚えていたが、肝心の主は忘れていた事を思い出していじけた。



「……そう言えば、そんな奴いたね。」

「おお、セリカの使い魔のユイチリか!久しぶりだな。なぜ、こんな所にいる?」

「…………その………森出です。」

少しの間いじけていたテトリだったが、リフィアの疑問に言いにくそうに答えた。

「森出?何それ??」

テトリの言葉がわからずエステルは首を傾げた。

「あなた達人間にわかりやすくいうなら、家出です。」

「家出~!?なんでそんな事したの??」

テトリが説明した言葉の意味がわかったエステルは声を上げて尋ねた。

「聞いて下さいますか!みんな、酷いんですよ!私の初めてを奪ったご主人様は邪龍との戦いが終わって、力を失くしてしまったので契約を解除しのですが、久しぶりに会いに行ってみたら完全に私の事を忘れているし、山の主様は力が戻ったというのに何度も勝手に許可もなく私に憑依するし、あげくリタさんやナベリウスさんは私の死後、冥き途の門番にするとか私の意思も聞かず面白半分で提案するんですよ!?しかもタルタロス様まで2人の提案に賛成してましたし!いくら温厚な私でも怒るし、傷つきます!……だから傷心を癒す旅代わりに住んでいた森を出て、監視の目を苦労して掻い潜って山の主様の影響もない木々が噂していた異世界に来たんです!」

「あはは……よくわからないけど、色々あったみたいね……」

勢いよく事情を話すテトリを見て、エステルは苦笑いをした。

「……ハァ……ハァ……」

「!?どうしたの!?」

元気に見えたの急に顔色を悪くして崩れ落ちたテトリを見てエステルは駆け寄って声をかけた。

「……やはりこの世界の魔力と合わなかったようですね……特に世界の魔力で存在を保っている精霊がこの世界で生きるのは厳しいのに戦闘をして、さらに力を使ってしまったようですね……エステルさん、まず魔力を供給してあげましょう。」

「う、うん!」

倒れたテトリを見て原因がわかったプリネの答えにエステルは頷いて、プリネと共に自分の魔力を供給した。

「フゥ……助かりました……ありがとうございます。」

魔力が供給され、力が戻って顔色が良くなったテトリは立ち上がってお礼を言った。



「気にしないで。困った人を助けるのがあたし達、遊撃士の仕事なんだから!それよりこれからどうするの?」

「はい。…………あの、もしよろしければ私をエステルさんの使い魔にしてくれませんか?」

「へ!?」

「ほう、何故じゃ?お前はセリカに仕えていたのではないのか?」

テトリの申し出にエステルは驚き、リフィアは不思議に思って尋ねた。

「エステルさんには助けていただいた恩がありますし、しばらく元の世界には帰りたくないんです。……それとさっきも言いましたがご主人様との契約はもう解除されちゃいましたから……ご主人様が私を覚えていたら新たな契約を申し出なかったかもしれませんが、見事に私の事を忘れていましたからね……ですからご主人様の事はもういいんです。」

前の主の事を言われたテトリは寂しそうに笑って答えた。

「テトリ……わかったわ!ぜひ、あなたの力を貸して!弓の腕も凄かったし、ぜひお願いするわ!この世界のよさをあたしがいっしょにいて、教えて上げるわ!」

「急な私の申し出を受けてくれてありがとうございます。……では両手を出してくれませんか?」

「うん。」

テトリの言葉通り、エステルは両手をテトリの目の前に出した。そしてテトリはエステルの両手を握り、両手から伝わるエステルの魔力に溶け込むように消えた。

「……サエラブの時とはやり方が違うね。エステル、また新たな力を感じるのかい?」

「うん。……なんだろう、根強い大地の力を感じるわ。……テトリ!」

少しの間、自分の両手を見た後、エステルは新たな仲間――テトリを召喚した。召喚されたテトリは光の中から地響きのような音と共に光の中から出て来た。

「これからよろしくね!」

「はい!母なる大地の力、エステルさんを助けるために役立てます!」

「ありがとう。そうだ、テトリの前の主の事、教えてくれないかな?」

「え?どうしてですか?」

前の主の事を聞かれたテトリは首を傾げた。

「だって、その人契約を解除したとはいえテトリの主だったんでしょ?同じ契約主として精霊が力を貸してくれる事がどれだけありがたい事とテトリがどれだけ傷ついたかを思い知らせるために、その人に会ったら今のテトリの主としてブッ飛ばしてあげるわ!」

「あわわ……私のためにそんな寿命を縮めるような事をしなくていいです!」

「っぷ。ぷっくくく……神殺しをブッ飛ばすか。お前は余も予測できないことを言うから、本当に面白いな……っぷっくくく!」

エステルの言葉にテトリは慌て、テトリの前の主の事を知っているリフィアは声を押し殺して笑った。そして新たなる仲間と力を手に入れたエステルはヨシュア達と共に次なる目的地、ルーアンに向かって進み始めた…… 
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