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英雄伝説~光と闇の軌跡~(FC篇)

作者:sorano
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第30話

~ヴァレリア湖畔~



「ここがヴァレリア湖の北岸か……。なかなか雰囲気がいい場所ね」

「そうだね。宿も立派そうだし。」

ヴァレリア湖についたエステルは辺りを見て感想を言い、ヨシュアもエステルの言葉に頷いた。

「前に仕事で泊まった事あるわ。酒は美味しいし、部屋も良い、文句のつけられない宿だったわね。」

「食事のほうも美味しかったですよ。」

「ん。アンテローゼ?だっけ。あそことはまた違った美味しさだったよ。」

「うむ!風景、宿の雰囲気、酒や料理……どれも素晴らしい物だった!余も個人的に何度も来たいと思うところであったぞ。」

「うーん、遊びに来たんだったら言うことなしだったんだけど……」

シェラザードやプリネ達の高評価にエステルは残念そうな表情をした。

「あれ、違うのかい?ボクはそのつもりだったけど。昼はボートに揺られうたた寝し、夜は酒と料理に舌鼓を打つ……。これぞバカンスというやつだね。」

「「………………………………」」

「「………………………………」」

「「………………………………」」

オリビエの言葉にエステルとリフィアは怒ったような表情でオリビエを睨み、ヨシュアは呆れたような視線を送り、プリネは困ったような視線を送り、シェラザードとエヴリーヌは冷ややかな視線をぶつけた。

「ハッハッハッ。ちょっとしたジョークさ。バカンスはいつでも楽しめるが、空賊退治は今しか楽しめない……。このオリビエ、優先順位はちゃんと(わきま)えているつもりだよ。」

エステル達に睨まれたオリビエは笑って誤魔化した。

「楽しむ、楽しまないの問題じゃないと思うんだけど……」

脱力したエステルは溜息をついた。

「ふふ、まあいいわ。本気でやってくれさえすれば。……さて、プリネさん達が言ってた目撃者を捜すわよ。」

そしてエステル達はプリネ達の情報の元となった目撃者を探し始めた。



しばらく歩いて探していると桟橋で釣りをやっている男性がいた。

「あ……確かあの人です。そうですよね、リフィアお姉様?」

プリネは釣りをしている男性を見てリフィアに確認した。

「うむ。」

「じゃあ、早速声をかけて見ますか。あのー、ちょっといいかな?」

「………………………………………………………………」

エステルは話を聞くために声をかけたが男性は釣りに夢中で全く気付かなかった。

「あれ?」

全く反応がない男性にエステルは首を傾げた。

「……エヴリーヌ達が話しかけた時も同じだったよ。釣りが終わるまで話しかけても無駄だと思うよ。」

「すごい集中力だね……魚以外目に入らないみたいだ。」

エヴリーヌの言葉を聞き、ヨシュアは男性の動作を見て感心した。

「フッ、仕方ない。ここはボクの出番のようだね。」

「へっ……」

オリビエが前に出て来、何かすると思ったエステルは場所を空けた。そしてオリビエは男性の傍に近づき耳に息を吹きかけた。

「……ふう~っ……」

「ひゃああっ!?な、なんだね君たちは!?い、い、いつからそこにっ!?」

オリビエの行動に驚いた男性は飛び上がり、エステル達に気付いた。



「エ、エゲツな~……」

「見ているコッチも思わず鳥肌が立っちゃったわね……」

「……プリネ、あいつの傍いっちゃダメだよ。」

「フフ、ありがとうございます。エヴリーヌお姉様。」

オリビエの行動にエステルとシェラザードは呆れ、エヴリーヌはプリネを守るように自分の後ろに隠すためにプリネの前に移動した。

「やあ、ごきげんよう。先程から声をかけていたんだが、さすがプロ、凄い集中力だねぇ。」

驚かした張本人であるオリビエは悪びれもせず話しかけた。

「あなたがロイドさんですね?」

「あ、ああ、その通りだが。はて、どうして私の名を?」

ヨシュアの言葉に男性――ロイドは首を傾げた。

「ここにいる3人からあなたのことを聞いたのよ。少し時間をいただけないかしら?」

シェラザードはリフィア達をロイドに見えるようにどき、尋ねた。



「なるほど……そこのお嬢さん達から聞いたのか。ああ、確かに見たよ。おとといの夜、奇妙な連中をね。」

「やっぱり……。その話、あたしたちにも詳しく教えてくれないかな?」

「……その前に。君たちは遊撃士だって?何か事件に関係することかい?」

エステルの質問にロイドは聞き返した。

「断言は出来ません。ですが、可能性はあります。」

「わかった……そういう事なら協力しよう。」

ヨシュアの説明に頷いたロイドは話し始めた。

「おとといの晩……ボートで夜釣りに出た時のことさ。ヌシとの格闘に明け暮れた私はクタクタになって宿に戻ってきてね。すっかり夜も更け、宿の者全員が眠りに就いている時間になっていた。」

「ちょっと待って。……そのヌシっていうのは?」

ある言葉が気になりシェラザードは尋ねた。

「よくぞ聞いてくれました!」

シェラザードの質問にロイドは目を輝かせて声を上げた。

「ヌシというのはこのヴァレリア湖に住む巨大マスのことでねっ!もう10年以上も前から我々釣り愛好家のあいだで畏怖されている魚なんだよっ!」

(しまった……)

(マニア心に火をつけましたね……)

熱く語り出したロイドを見てシェラザードは後悔し、ヨシュアは溜息をついた。

「そ、そんな凄いヤツなんだ!?」

一方釣りが趣味であるエステルは興味心身で聞いた。



「ああ、私は5年近くヤツを追っているのだが……。なにせ、広大なヴァレリア湖をあっちに行ったりこっちに来たりと

気まぐれにエサ場を変える魚でね。最近、この辺りに現れた事を知って、私も王都から追っかけてきたわけさ。」

「フッ、大した情熱だ。その気持ち、判らなくもないよ。ボクも気に入ったものがあったら、何としても手に入れたくなる口でね……たとえば『グラン=シャリネ』とか。」

「あれは手に入れたんじゃなくて飲み逃げしたたげでしょーが。」

ロイドの情熱に同じ気持ちのつもりのオリビエだったが、すかさずエステルが否定した。

「コホン……話を戻すわよ。それで、ロイドさん。夜釣りから戻ってきてどうしたの?」

話を戻すためにシェラザードは咳払いをした後、再び尋ねた。

「あ、ああ……。それで、ボートを戻して宿の中に入ろうとしたんだが……。奇妙な二人組が、宿の敷地から街道に出て行くのを見かけたんだよ。」

「街道って……そんな真夜中にですか?」

ロイドの言葉に疑問を持ったヨシュアは尋ねた。

「ああ、間違いない。アンセル新道に出て行ったよ。最初は、街から遊びにきた連中が戻るところなのかと思ったけど……さすがに時間が遅すぎるし、次の日、宿の人間に聞いてみたらそんな連中知らんと言うじゃないか。幽霊でも見たんじゃないかって思わず背中がゾーッとしたものさ。」

「ゆ、幽霊!?そ、そんなの出るの、ここ!?」

思い出して震えているロイドの言葉にエステルは悲鳴を上げた。



「はは、何せその二人組、若い男女のカップルだったからね。もしかしたら、周囲に認められずに心中したカップルだったのかも……」

「あぅぅぅ~、や、やめてよぅ!」

怪談話をするようなロイドの雰囲気にエステルは悲鳴を上げて耳を塞いだ。

「やれやれ……相変わらず幽霊話には弱いのね。」

「そのクセ聞きたがるんですよ。怪談とか、世にも奇妙な物語とか。」

「ふふ、エステル君もそうやって恐がってる分には、なんとも可愛らしいじゃないか。寒さに震える子猫のようだよ♪」

震えているエステルの様子にシェラザードは苦笑し、ヨシュアは面白そうな表情で話し、オリビエはからかった。

「ふーっ、噛み付くわよ!?」

オリビエの言葉に頭にきたエステルは振り向いてオリビエを睨んだ。

(う~ん……幽霊ってそんなに怖いものですかね?リタさんのことを考えたらそれほど怖くないのですが……?)

(プリネ、あ奴を比較対象にしてはダメだ。参考にならん。)

(ん。エヴリーヌ達の世界にいる不死者とか怨霊を見たら、普通の人間は怖がると思うよ。)

幽霊を怖がっているエステルを見て、幼い頃に会ったことがある幽霊の少女のことを思い出したプリネは不思議がったが、リフィアは比較する相手が違うことを言い、エヴリーヌもリフィアの言葉に頷いた。



「ははは……まあ、幽霊っていうのは冗談さ。だが、訳ありのカップルというのはもしかしたら本当かもしれないんだ。女の子が変わった服を着てたからね。」

エステル達のやりとりに苦笑したロイドは話を続けた。

「変わった服……というと?」

ロイドの言葉が気になったヨシュアは聞き返した。

「そちらのお嬢さん達にも言ったが……後ろ姿から見て学生服を着てたみたいなんだ。」

「学生服って、まさか……」

「ジェニス王立学園ですか?」

「ほう、良く知っているね。私の姪も通っているんだが、それとソックリだったよ。」

ヨシュアの答えにロイドは感心して答えた。

「どうやらアタリを引いたみたいね……」

「うん!あの生意気娘、とうとう尻尾を掴んだわよ~っ」

シェラザードの言葉に頷いたエステルは以前空賊の娘にバカにされたことを思い出し、怒りを再熱させた。

「なんだ……君たちの知り合いだったのか?だったら、あの2人が思い詰めて早まったことをしないよう注意してやってくれ。たしか、今夜あたりにまた来るような事を話していたからね。」

「なるほど……。貴重な情報、感謝するわ。後は我々に任せてちょうだい。絶対に悪いようにしないから。」

「ホッ、そうか……そう言ってくれると助かる。何だか肩の荷が下りた気分だよ……安心したら今度はボート釣りがしたくなってきたな。こうしちゃいられん!君たち、私はこれで失礼するよ!……ああ、そうだ!もう一つ伝え忘れるところだった。」

シェラザードの言葉に安心したロイドはその場から走り去ろうとしたが、ある事を思い出し戻って来た。



「何かしら?カップルの件で伝え忘れた事かしら?」

戻って来たロイドにシェラザードはさらに情報があると思って聞いた。

「いや、それとは関係のない話になるんだけど、伝えさせてもらってもいいかな?」

「ええ、構わないわ。」

「わかった。……実はここ最近の噂なんだが、このヴァレリア湖に”竜”がいるっていう噂があるんだ。」

「”竜”ってあのよくお伽噺とかで出てくるやつ?大きな体で翼があって炎を吐く。」

ロイドの話にエステルは半信半疑で聞いた。

「ああ。炎を吐くかはわからないが翼はあって、巨大な体で後、湖の底から姿を現したという噂だ。」

「……そう、ありがとう。一応その情報も気にしておくわ。」

「遊撃士の人達にこの情報を伝えれてよかったよ。それじゃあ改めて失礼する!」

シェラザードにもう一つの情報を伝え、安心したロイドはその場を走り去った。



「……湖の底から”竜”か……リベールでも”竜”の伝承はあるけど湖の底から姿を現すってのはないわね……エレボニアではどう?」

ロイドの情報の真偽を考えたシェラザードはオリビエにも聞いた。

「エレボニアも同じだね。”竜”は高い山脈で眠り、大空から姿を現すことが伝えられているね。」

「……3人共、メンフィルでは心当たりはない?」

情報の真偽がわからずヨシュアはリフィア達にも聞いた。

「……一つ、心当たりはあります。」

「うむ、恐らく先ほどのロイドとやらが言ってた”竜”は”水竜”のことだな。」

「”水竜”??何それ??」

リフィアの言葉がわからなかったエステルは詳しい説明は聞いた。

「”水竜”とはその名の通り、海や湖等水の中で生活する”竜”の一種です。”水竜”は賢く、自分が認めた者にはその背にのせ共に戦ってくれる心強い味方にもなりますから、騎馬代わりに乗る騎士も結構いるのです。」

「うむ、その者達は”水竜騎士”と呼ばれるのだ。”水竜騎士”は”飛竜”をあやつり大空をかける”竜騎士”とは逆に地上を駆け、さらには水上での戦闘も可能だからどの軍でも主力となるのだ。」

「ほう……メンフィル軍にもいるのかい?」

リフィア達の説明を感心して聞いたオリビエは質問した。

「もちろんメンフィル軍にも”水竜騎士”はいます。ただ少し気になることがあるんですよね……」

「それはなんだい?」

考え込んでいるプリネが気になったヨシュアは続きを聞いた。



「”水竜”は普通大蛇のような姿をしているんです。ですが先ほどの男性の話では……」

「あ……『翼が生えてる』って言ってたよね!?」

プリネが考え込んでいる意味がわかったエステルは声を上げて言った。

「うむ。翼が生えてる”水竜”もいることはいるが、その”水竜”は恐らく”水竜”の中でも相当高位に値する種族だな。」

「高位……ってことはかなり強いんだろうな~。でも、なんでこんな所にいるんだろ??」

「エステル……ロイドさんの話はあくまで噂だよ。まずいるかどうかわからないじゃないか。」

すっかり噂の竜がいると思いこんでいるエステルにヨシュアは呆れて注意した。

「あ……そっか。」

「まあ、一応心にとどめておきましょ。それより例のカップルを待つために今日はここで宿をとるわよ。」

シェラザードはヨシュアの言葉に頷き、今後の方針を言った。

「ふむ、先ほどから話によく出ていたそのカップルがどう事件に絡んでくるんだい?事情を知らないボクにも懇切丁寧に教えてくれたまえ。」



そしてエステル達は事情を知らないオリビエに空賊達のことを説明した後、真夜中まで待つために宿を取ることにして、それぞれ一時の休憩に入った…… 
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