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見習い悪魔

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6部分:第六章


第六章

 だがチブスはそれでも安心してはいなかった。切迫した顔で見ていた。
「相手は岩瀬だからな」
「そうよ。岩瀬よ」
 ミザルもそれを言ってきた。
「岩瀬を甘く見ないことね」
「中日はいい選手が多いな」
 これはチブスも認めることだった。
「強い筈だよ」
「そうよ、中日は強いのよ」
 ミザルはこう言って笑う。しかしその笑みには余裕がない。
「だからこの試合も勝つわよ」
「いや、阪神も強いぞ」
 チブスもここで言い返した。
「だから負けるか。兄貴、負けるなよ」
「岩瀬、やって」
 また二人はそれぞれ言う。
「ここで決めてくれ」
「抑えてくれたら後は打線がやってくれるから」
 その中でだ。岩瀬は四球目を投げた。それは。
 シュートだった。内角低めに入った。金本はそれを空振りしてしまった。
「まずい・・・・・・」
「よしっ」
 チブスは歯噛みしミザルは少しだけ微笑んだ。
「あと一球か」
「あと一球ね」
 二人の言葉はそれぞれ正反対であった。
「一球しかないんだな」
「一球で終わるのね」
 二人はその一球を見ていた。それがどうなるかだった。
 そしてだ。岩瀬はその最後の投球に入った。金本も構える。
「次のボールは」
「あれしかないわね」
 二人は岩瀬が最後に投げるボールをわかっていた。あれしかなかった。
「あの高速スライダーだな」
「それだな」
 それを投げるのだった。ベースを横切らんばかりの高速スライダーが投げられる。それはまさに魔球だった。そう呼ぶに値するものだった。 
 その高速スライダーが投げられてだ。金本もバットを振った。すると。
「行け!」
「しまった!」
 また二人の言葉は逆になっていた。金本は打ったのだ。
 そしてそのまま腰の力を極限まで使って引っ張る。腕もきしまんばかりになっている。
 力で振り切った。ボールは一直線に飛ぶ。
「行け!」
「くっ!」
 チブスもミザルも何故か今は力を使わなかった。見ているだけだ。
「兄貴!そのままだ!」
「岩瀬!まだよ!」
 ボールはまだ激しい攻防の中にあった。金本が勝つか岩瀬が勝つか。空中でまだせめぎ合っていた。
 しかしだ。ボールは阪神ファン達が歓喜の顔で迎えるライトスタンドに入った。ボールが入った瞬間爆発的な歓声が起こった。
 それを見てだ。チブスも言った。
「よし、やったな!」
「しまった・・・・・・」
「兄貴、やってくれたよ!」
「岩瀬が負けるなんて・・・・・・」
 まさに明暗だった。
「これで阪神は優勝だ」
「やられたわ」
 チブスは空中で小躍りしミザルは肩を落としていた。
「アミィー様の御意志通りになったな」
「申し訳ありません、オファニム様」
 それぞれ言う彼等だった。
「よし、じゃあこれで」
「帰るしかないわね」
「次も勝つぜ」
「何言ってるのよ」
 ミザルはチブスの今の言葉にきっとなった顔で返した。
「次こそはよ」
「へっ、悪魔は天使に負けないんだよ」
「何言ってるのよ、悪魔の天敵は天使よ」
「そんなの誰が決めたんだよ」 
 彼等は阪神ファンの優勝を祝う雄叫びが響き渡る甲子園の中で言い合う。胴上げが行われそのうえで紙吹雪が舞う。今世界は阪神のものだった。
 
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