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英雄伝説~焔の軌跡~ リメイク

作者:sorano
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第2話

(レナ、エステル……二人とも無事でいてくれ!)

”百日戦役”終結の調印式が終わった直後、圧倒的な戦力差で攻めてきたエレボニア帝国軍を自らが考えた作戦で撃退したリベール王国の勇将カシウス・ブライトは、上官や部下達の制止の声を振り切って愛妻と娘の無事を祈りながら王都から休む事なく走り続け、夕焼けに染まった森の中にある実家の扉を荒々しく開けた。



~ブライト家~



「レナ、エステル、無事か!?」

「あら、あなた。お帰りなさい。」

「あ、お父さん、お帰り~。」

ドアを蹴破るようにして帰ったカシウスが見たのは、いつもと変わらず食事の用意をしている愛妻と椅子に座ってストレガ―社の新作モデルの雑誌を見ている愛娘であり、二人の無事にカシウスは安堵の溜息を吐いた。

「二人とも無事でよかった………ロレントが襲撃された事を聞いて正直生きた心地がしなかったぞ……」

「フフ、親切な方が危ない所を私達を助けてくれたの。」

「あのね、あのね!ルーク兄がお母さんを助けてくれたんだ!」

「”ルーク兄”?レナを助けた?一体どういう事なんだ?」

そしてカシウスは二人からレナが死にかけていた所をたまたま通りがかった見知らぬ青年が助けてくれ、更に瀕死のレナに薬を飲ませてレナの傷を瞬時に回復させ、娘と共にレナを実家に運び、二人はそのお礼としてルークにブライト家に滞在してもらっている事を説明した。



「そうか………………………………」

二人から説明を聞き、いくつか気になる事ができたカシウスは真剣な表情で考え始め

「どうしたの、お父さん~?」

「何か気になる事があるのですか?」

カシウスの様子に首を傾げた二人は不思議そうな表情で尋ねた。



「いや、今の話を聞いていくつか気になる事ができてな。――――エステル、そのルーク君とやらはレナを助ける為に本当に瓦礫を砂にしたのか?」

「うん。こう、両手からパ~っと光を出したら瓦礫が全部砂になってお母さんを助けてくれたんだ!」

「…………………(少なくてもアーツの類いではないし、”星杯騎士”の”法術”とも異なる。となると何か特殊な能力なのか?)後エステル、もう一つだけ聞きたいんだが――――レナに飲ませたという薬で本当にレナの傷が完全に治ったのか?」

「うん!ルーク兄がお母さんにお薬を呑ませてくれたお蔭で一瞬でお母さんの傷がなくなって、顔色もよくなったんだよ!」

「……………(話を聞く限り、レナは頭に重傷を負った上相当の血を流し、瀕死の状態になっていた。そんな死の淵より呼び戻すようなまるで”魔法”のような秘薬は本当にこの世に存在するのか?)………………」

二つの自分の知る常識には決して当てはまらない”ありえない出来事”にカシウスはまだ見ぬ青年の正体が何者であるかを考え込んでいた。



「―――あなた。まさか私達の命を救ってくれた方を不審者と疑っているのですか?」

「おっと、スマンスマン。それよりそのルーク君とはどこにいるんだ?俺も家族を救ってもらったお礼を言いたいのだが。」

愛妻の攻められるような目で見られたカシウスは苦笑いをしながら思考を切り替えてまだ見ぬ居候の青年の居場所を尋ねたその時、開けっ放しの玄関からルークが入って来た。

「何で玄関が開けっ放しになってんだ?――――あ。」

首を傾げながら扉を閉めたルークは見たこともない男性に気付いて目を丸くした。



「あ、おかりなさ~い、ルーク兄!」

「おかえりなさい、ルークさん。ちょうどよかった。今、主人が帰って来てお礼がしたいそうです。」

「君がルーク君か?私の名前はカシウス・ブライト。レナの夫でエステルの父親だ。―――妻と娘が世話になった。本当にありがとう。君がいなければこうしてお互いの無事を確かめる事はできなかったかもしれない。」

「い、いいって!俺が勝手にした事なんだし!しかも家にまで泊めてもらっているんだから助かっているのは俺だって。(マジか!?エステルの親父さん、師匠(せんせい)―――いや、下手すればそれ以上の強さなんじゃねえか!?)あれ?そう言えば軍人なのに戦争中に帰って来て大丈夫なのか?エステルからはこの国を守る為に戦っているって聞いた事があるけど……」

頭を深く下げるカシウスにルークはカシウスから感じる”強者”の気配を感じ取って心の中で驚きつつ、恐縮した様子で答えた後ある事が気になって尋ねた。



「その件ならもう大丈夫だ。本日の正午に戦争終結の調印式が行われた。恐らくだが戦争終結の報も既に全ての都市に伝わっているだろう。」

「まあ……!これでようやくリベールに平和が戻ったのね!?」

「わーい、またみんなと遊べるわ!」

(よかった……)

もう戦火に怯える事がない事を知ったレナとエステルはそれぞれ喜び、ルークはこれ以上罪なき命が戦火によって理不尽に奪われる事がなくなった事に安堵の溜息を吐いた。



「あら?でもあなた、まだ戦後の処理とか残っているのじゃないかしら?確か階級は大佐でしょう?」

「た、大佐!?(ジェイドと同じ階級かよ!?軍でもかなり上の階級じゃねえか!?)」

夫の軍部での階級を思い出したレナは首を傾げて尋ね、目の前の男の階級とかつて共に戦った仲間の階級が同じである事にルークは驚いた。



「だ、大丈夫だ、うん。リシャールや将軍達がいるから、俺一人が抜けても何の問題も無い。」

一方レナに痛い所を突かれたカシウスは突如出てきた大量の冷や汗をかきながらレナから視線を外した。

「あなた。さては許可も取らずに勝手に抜け出してきたのね?」

「きょ、許可なら取ったぞ?実家の様子を見てくるとモルガン将軍に伝えたしな。……………まあ、将軍の返事は聞いていないが。」

呆れた表情で尋ねてきたレナの疑問にカシウスは身体を震わせながら最後の言葉を小さな声でボソッと呟いて答え

(聞いていないのかよ!それってどう考えても勝手に抜け出してきているじゃねえか!?)

カシウスの小さな声で呟いた最後の言葉が聞こえたルークは心の中で指摘した。



「全くもう。やっぱり許可も取らずに勝手に抜け出してきたのね?―――いいですか?あなたは多くの軍人の方達にとって見本となるべき立場なのですから……」

そして大きな溜息を吐いたレナは説教を始め、カシウスはレナの説教に頭を項垂れて聞き

(なあ。もしかしてカシウスさんってレナさんに弱いのか?)

その様子を見ていたルークはエステルに小声で尋ねた。

(うん!お父さんはお母さんに逆らえないんだー。)

(ハ、ハハ。そ、そうか……)

その後ルークはブライト家と共に夕食をとり、部屋の中にあるベッドに寝転んで天井を見つめながらこれからの事を考えていると扉がノックされた。



「ルーク君、少しいいかな?」

「はい、どうぞ!」

扉が開かれ、カシウスとレナが部屋に入って来た。

「―――ルーク君、少し聞きたい事があるのだがいいかな?」

「あー………やっぱ俺を怪しんでいるのか?」

カシウスが自分が何者であるかを探っている事に気付いたルークは苦笑いしながら尋ね返し

「ごめんなさいね、ルークさん。私も止めたんだけど……」

「いや、いいって。むしろレナさんが聞いて来ない方が不思議なくらいだって。」

申し訳なさそうな表情をするレナにルークは自分は気にしていない事を伝えた。



「で?何が聞きたいんだ?」

「君に聞きたいのは大きく分けて3つ。一つはレナを助ける為に瓦礫を”砂に変えた”事。2つ目は瀕死のレナを一瞬で治癒した薬の事。」

(超振動とエリクシールの事か………まあ、普通に考えたらそうだよな。)

「―――そして最後の一つは今晩の夕食を君と共に食べた時に君が見せてくれた食事のマナーだ。」

「ハ?食事のマナー??」

「?どういう事かしら、あなた。ルークさんの食べ方は普通の人よりも行儀がいいくらいよ?」

予想外の質問にルークとレナは目を丸くした。



「そう、その”行儀が良すぎる事”だ。まるで貴族や王族――――上流階級が食事をするように。」

「!!!(ジェイドみたいに鋭すぎだろっ!?)」

食事だけで自分の身分を言い当てたカシウスの推測にルークは顔色を変えた。

「あー、カシウスさんだっけ?まずはあんたの言う通り、俺は元公爵家の一員であると同時に王族だよ。一応、これでも3位になるが王位継承権も持っていた身だ。」

「ええっ!?」

「やはりか。しかし”元”とはどういう事だ?エレボニアの公爵家と言えば”四大名門”しか思い当たらないが、”四大名門”の中に”ファブレ家”という家名はなかったはずだ。」

自分達を助けた恩人が上流階級―――王族である事にレナは驚き、カシウスは納得した様子で頷いた後尋ね

「多分、説明しても信じられないかもしれないんだけどよ……」

尋ねられたルークは自分の事を説明し始めた。



自分がかつて”予言(スコア)”によって日々の生活が支えられていた異世界の住人であったこと。自分が王族であり公爵家の一員であるオリジナルのルーク・フォン・ファブレのレプリカという創りモノの存在であったこと。ローレライという星の神ともいえる存在を開放する為の存在であったこと。自分の力やその力によって多くの人々の命を奪ってしまった自分の罪のこと。その罪を償う為に仲間達と様々な冒険や戦いをした事。また、レナを治した薬は最終決戦の時にもっていた自分が住んでいた世界―――”オールドランド”にある薬のなかでも最高峰であったこと。ルークの語る話は二人を驚かせた。





「「…………………」」

ルークが語り終えると二人は黙り込み

「―――それでルーク君。今の話を聞く所、君は既に死んだように聞こえるが……」

やがてカシウスが口を開いてルークを見つめた。



「その事についてなんだが、俺もサッパリわかんねえんだよ。てっきりオリジナルのアッシュに吸収されて消えると思っていたのに何故か切ったはずの髪は伸びているし、全然知らねえ世界にいるしとか、他にも訳のわからない事だらけだよ。」

「そうか………」

「―――ルーク君は元の世界に帰りたいと思わないの?」

壮絶な過去を聞いて悲痛そうな表情をしたレナは自らの命を捨ててでも世界を救った若き”英雄”を見つめて尋ねた。



「いや、別に。俺は元々消える覚悟をしていたから自分の世界に心残りはもうねえよ。それに多分だが”オリジナルのルーク”のアッシュが俺の世界に帰還しているだろうし、そこにレプリカの俺が帰ったら大爆発(ビッグバン)が起こって良くてどっちかが消え、最悪はどっちとも消えるからな。むしろこうして生きているだけでも嬉しいよ。それに……――――レプリカの俺のせいでオリジナルのアッシュに迷惑をかけまくったからな。滅茶苦茶嫌な野郎だったけど、これ以上迷惑をかける気はねーよ。」

「……………………………」

どことなく陰りのある笑顔を見せるルークにレナは何も言えず

「……君はこれからどうするつもりだい?」

目を伏せて考え込んでいたカシウスは目を見開いて目の前の罪深き”(カルマ)”を背負う者であり”英雄”でもある青年に尋ねた。



「――――遊撃士、だっけ?それになって人助けをするつもりさ。傭兵に似た職業だけど国に縛られず、多くの人達を助けられる職業なんだろう?剣しか取り柄のない俺にはちょうどいい仕事だよ。」

「それも君が背負ったという”罪”を償う為か?」

「ああ。何も知ろうとせず、ただ師匠(せんせい)だけを信じていた馬鹿な俺のせいで死んだ人達の為にも、俺は俺が生きている限り一人でも多くの人達を助けなきゃならない。それが俺ができる唯一の”償い”であると同時に”義務”だ。」

「ルーク君……………」

「……………………」

何者にも消すことはできない熱き決意を持つ”英雄”をレナは辛そうな表情で見つめ、カシウスは目を閉じて黙り込んでいた。



「ふむ…………――――ルーク君。うちの子にならんか?」

そして目を閉じて考え込んでいたカシウスは目を見開いて驚愕の提案をし

「ハ……?」

「まあ!それはいい考えね、あなた。」

突然の提案にルークは目を丸くし、レナは嬉しそうな表情で手をパンと叩いて頷いた。



「ちょ、ちょっと待ってくれ!?何でいきなりそんな事を!?」

一方我に返ったルークは慌てた様子で尋ね

「子供を持つ一人の親として君をほおっておけないからだ。第一、話を聞く限り、君の実年齢は7歳じゃないか。うちの娘と大して変わらない年齢の子供をほおってはおけんよ。」

「いや、確かに実年齢で換算したら7歳だけどよ……そういう問題か?それ以前に俺は”レプリカ”だぞ。」

カシウスの話を聞き、表情を引き攣らせた後真剣な表情で2人を見つめて言った。



「―――君は立派な一人の”人間”だ。そんなことを言ってはいけない。」

「そうよ。それに私達はルーク君の言う”オリジナル”?だったかしら。その人の事は知らないし、この世界にはルーク君しかいないのでしょう?だったらルーク君もこのゼムリア大陸に生きる立派な”人間”よ。」

「……………あ、ありがとう……………その………これから、よろしく………”父さん”、”母さん”…………」

”偽物の存在”と知っていながらも”本物の人間”として言った親友ガイ・セシルと自分にとって初恋の少女であるティア・グランツと同じ言葉を口にした心優しき夫婦に心を打たれたルークは一筋の涙を流しながら頭を下げた。

「ああ。よろしくな、ルーク。」

「ふふ、エステルもきっと喜ぶわ。」

こうしてルークはブライト家の養子になった。



「まさかルークにあんな壮絶な過去があったとはな………”レプリカ”か。人が生み出す知識は本当に恐ろしいな………」

自分達の寝室に戻ったカシウスは重々しい様子を纏って考え込み

「いつかあの子に幸せが訪れてほしいわね……」

新しくできた息子の己の身を省みない事を心配するレナは辛そうな表情で呟いた。

「必ず訪れるさ。自らの命を奉げてまで世界を救うという偉業をこなしたんだ。”空の女神(エイドス)”もきっとルークを……俺達の息子を見守ってくれているさ。」

「フフ、そうね。」

夫の心強い言葉にレナは優しげな微笑みを浮かべた。



「――――レナ、俺はもう軍人をやめて、ルークと同じ遊撃士になることに決めた。」

「あなた?」

カシウスの突如の提案にレナは目を丸くし

「今回の事で痛感した。軍人では身近な存在は守れない。もしルークがいなければ、お前達の身もきっと無事ではなかった。―――だから今度こそお前達を近くで守る為に遊撃士になることに決めた。」

「フフ、わかりました。あなたがそう決めたのなら私はそれに従います。」

自分に相談する事もなく突如職を手放す夫を反対もせず、笑顔で応援した。



その後、カシウスは周囲の反対を押し切ってリベール王国軍を退役して更には剣を捨て、棒を新たなる得物として遊撃士になった。また、ルークもカシウスと共に研修を終了して準遊撃士になった後、わずか半年で全ての地方から推薦状をもらい、正遊撃士になり、更にはカシウスの紹介によって、”剣仙”と称えられる老剣士ユン・カーファイに鍛えられてその結果”八葉一刀流”の”皆伝”を認められる程の更なる強さを手に入れた。後に炎が燃えているかのように赤い髪をなびかせ、真紅のコートを身に纏い、また”八葉一刀流”の皆伝者である事から”焔の剣聖”の異名で呼ばれる事になり、トップクラスの正遊撃士の一人として数えられる事となった。



そして”百日戦役”から数年後、西ゼムリア大陸全土を巻き込んだ幼児誘拐の大事件の解決の為に各国の軍部や警察機構に加え、”七耀教会”からは”星杯騎士”を派遣して連合を組む事となり、その指揮をカシウスが執る事となり、また正遊撃士の中でもトップクラスの実力を持つルークも参加する事になった。 
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