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ソードアート・オンライン -Need For Bullet-

作者:鋼鉄の翼
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-Bullet5-水色のスナイパーと灰色の風

薄塩たらこ氏が死銃に銃撃されて1週間がたった。あれから薄塩たらこ氏を見たものは居ない。死銃に撃たれ、姿を消したプレイヤーはこれで二人目になる。ネット掲示版は二人と死銃の話題でスレッドが次々と立てられていた。

「ホント何なんだろね〜。どう思う?シノノン。」
「さあ。 私はあまり興味ないかな……」
助手席に座る水色の髪の少女は窓の外に広がる赤い空を見ながらそう言った。
彼女は数少ないGGO女性プレイヤーの一人でボクと同じ大口径ライフル使いのスナイパーだ。そして彼女もまたボクと同じ高校に通うリアル友達でもある。クラスは違うけどね。
「えー! なんだよつまんないの〜。」
「知らないわよそんな事。 てか、なんでいきなりその話題なのよ。」
「ふっふふ〜それはこの前その死銃とやらにね会ったんだよ。」
「えっ?」
「本当ですか! で、どうでした死銃。」
「おっシュピーゲルがこういうのに乗ってくるとは珍しいね。」
バックミラーに映る男性、シュピーゲルが食いつくように身を乗り出している。彼もリアルでの友達だ。
「6時方向マズルフラッシュ! 敵襲!」
「えぇ!くそっここでかよぉ〜! 」
アクセルを一気に床まで踏み込む。ランドクルーザーの6気筒ディーゼルターボエンジンが唸りを上げて重い車体を一気に加速させる。
「後方にティーゲル2台! うぁあ凄い撃ってきたぁ!」
「わーって言ってないでシュピーゲル反撃してよ!」
「わ、わかってるよ。」
シュピーゲルの銃はドイツ製短機関銃MP5K。小さくて取り回しのいい銃でこういう場面にはぴったりだ。ぴったりなのだけど‥‥
「シュピーゲル! もっと撃って! なにセミオートでちまちま撃ってるのさ!」
「だって6.5x25mmCBJ弾高いんだよ!」
「知るかー! あとで死体あさりすればいいでしょうが!」
彼の銃はボクの勧めで9mmパラベラム弾から6.5x25mmにコンバートしてある。この弾は貫通力が高く、ある程度のアーマーなら貫通できる威力がある。その分単価も高いが……しかし戦闘中にそんな事を気にするな!
「弾なら余ってるからあげるから!バンバン撃って!」
「ミウラ! RPG(対戦車ロケットランチャー)!!」
「そぉれはまずい!」
ピーッ!ピーッ!と警報機がロックオンされた事を叫んでいる。冗談じゃない。対戦車ミサイルなんて撃ち込まれたら木っ端微塵だ。
「シュピーゲル!早く射手を撃って!」
「やってるよ! 揺れがひどくてっ‥‥」
「私がやる!」
シノンがG18を抜こうとしたとき、すでにバックミラーには今まさに飛翔しようとするミサイルの噴煙が映っていた。
「二人ともいい!緊急回避する!シートベルト締めといてよ! 」
おそらくちらりと見えた発射機の形状からアメリア製のジャベリン。赤外線画像誘導式の高性能ミサイルだ。ギリギリまで引きつけて‥‥フレア放出と急旋回でっ!
「二人とも!対ショック姿勢!」
「「とっくに対ショック!」」
ランドクルーザーに取り付けられたフレアチャフ発射筒から大量の火の玉がばらまかれる。まっすぐ向かってきたジャベリンはその火の壁に突き刺さり…ランドクルーザーの真後ろで爆発した。

ランドクルーザーの重い車体が浮き上がり、天と地が激しく入れ替わる。
2回3回、そして4回転してやっと車は横倒しのまま停車した。


「うっひゃーグワングワンする‥‥シノノン大丈夫?」
「ええ。なんとかね。」
「僕のしんぱいはしてくれないんだね……」
「シュピーゲルは男の子でしょ! こんくらいで死んでもらっちゃ困る!」
あははと苦笑するシュピーゲルを置いておいて車の外に這い出る。車はボコボコだが、幸い燃料漏れはなさそうだ。
「RPGまで準備してるなんて‥‥まさか狙われてたのか‥‥?」
シートベルトをなんとか外し、横倒しになった車から赤い地面に這い出てきたシュピーゲル。シノンはすでに車の影で銃を構えている。
「ミウラ。またどっかに喧嘩ふっかけたんでしょ。」
「覚えがありすぎて怖いよ。」
ホルスターからUNICAを引き抜き撃鉄を起こす。このスペースじゃPTRDは使えない。それに今日は冥府の女神(シノン)さまがついてる。スナイパーは一人でいい。
「私の弾代もミウラ持ちだからね。」
「はいはい。好きなだけ撃っていいよ。」
恨めしげに睨んでくるシノンを受け流して自分の持ち弾を確認する。 腰のホルダーにはスピードローダーが6つ。ポーチにバラの弾がいくつか。それと大型のサバイバルナイフが1つ。 手持ちは多くないけれどまあなんとかなるでしょう。 シノンの持つフランス製.50口径対物狙撃銃へカートⅡ(冥府の女神)なら宇宙戦艦の装甲で作ったアーマースーツでも纏ってない限り一撃で吹き飛ばせる。
「ミウラはいっつもそのリボルバー持ってるけど他にいっぱいオートマチック持ってるじゃない。なに?そんなにジャムが怖いの?」
「いいの!ボクはウニカが好きなの!シノノンにはわからないのかなぁ。この良さが。」
「あっそ。」
さも興味なさげにシノンはスコープから目を離さない。 オートリボルバーというロマンの良さを語ってあげようかと思ったのに。
「ミウラ。来るよ。」
「了解。シュピーゲル。君の出番だよ。」
「わかってるよ。AGI型の意地を見せてやる。」
MP5Kのストックを伸ばし、車の影で出方を伺うシュピーゲル。今日はアサルトライフルを持ってきてないから彼の機動力と銃の連射力はいい戦力になる。 腕もなかなかいい。
敵の車がボクらから50mほど離れたところで止まる。ジャベリンの二発目はない。その代わりに車の中から散発的に銃弾が撃ち込まれた。いくつ可は壊れた防弾ボディを貫通してはくるがあたりはしない。

こちらから反撃がない事を訝しく思ったのか、それとも倒したと思ったのか。車からゾロゾロと出てくる男達。そこまで重装ではないが、きっちり防弾装備を固めた敵が10人。 ゆっくりと半円状に広がりながら段々とボクたちとの距離を詰めてくる。
「……見てこいカルロ。」
カルロと呼ばれた敵が一人ゆっくりと車の影を回り込んでくる。一瞬シュピーゲルと目を合わせるとボクらは同時に車の影から飛び出した。
AGI型の強さはそのスピードと着弾予測円の収束の早さだ。 シュピーゲルは灰色の風になり一瞬でカルロとの距離をつめ、一瞬でそのHPバーを銃弾の雨で吹き飛ばした。

「っ! 撃てっ! 撃てっ! うああああっ!」
まずは一人。その頭に.44Magnum弾を叩き込んで黙らせる。そして倒れる敵には目もくれず地面を蹴る。銃弾を掻い潜り肉薄し銃弾で頭を吹き飛ばし、時には相手の頭上に飛び上がりナイフで首を跳ねる。そんな事をすれば背後をとられ、銃口がむけられ事もあるが、そいつは一瞬でシノンのヘカートⅡの餌食になる。そしてシノンに銃口が向けばシュピーゲルのMP5Kから放たれた徹甲弾がアーマーを諸共せず食い破る。

しばらくたって、見える範囲で立つものはボクたちだけだった。

「ふう。これで終わり?」
「みたいだ‥‥」
「いやーさすがシュピーゲル。瞬殺だね。」
「いや、僕はあまり活躍してないよ。」
「またまた〜そうやって〜。」
「ミウラ上!」
「ほえ?」
頭上からの陽が遮られ影がボクを覆う。身体に突き刺さる無数の赤い線。 とっさにボクは頭を抱えて前へ飛ぶ。
「あぐっ!がっ!」
連続した5回の衝撃が身体を地面に叩きつける。
「キヒャヒャヒャ死ねやぐぼぁっ!!」
ズドンッ!という大砲のような発砲音とともに男の上半身が空に舞っていく。
「まったく。ミウラはもう少し周りを見なさいよ。」
「あははは〜ありがと。」
「立てますか?」
「ありがと。」
シュピーゲルに差し出された手を取ると力強く引き起こされた。
「てかあんなに撃ち込まれてよくHP残ったわね。」
「プレキャリが無かったら即死だった。」
「まったく。ミウラは。これで本当に最後よね。」
「多分ね。」
パンパンと衣服についた砂を落とし、UNICAをホルスターへとしまう。
「そういえばさっきの……」
ふと思い出したかのようにシュピーゲルが言う。
「死銃の話し続き聞かせてよ。」
「え?ああ。どう思ったかって話だっけ。」
今日はやけにこの話に乗ってくるなぁ。あまりこういうオカルトチックなのには普段乗ってこないのに。
「そういやミウラ。死銃に会ったって。もしかして撃たれたの?」
心配そうにシノンが尋ねてくるが、ボクは心配は無用だと笑顔を向ける。
「残念ながら撃たれたのは例のたらこさん。 ボクはピンピンしてるよ。」
「あ、そうなんだ‥‥ それでどうなの?噂は本当なの?」
「わかんない。確かにちょっと苦しんでたようにも見えたけど演技にも見えなくもない‥‥」
「どっちなのよ。」
「わかんない。でも、あいつのあれは‥‥あの狂気はきっと本物かも‥‥」
「なに?」
「何でもない。とにかくわかんないけど普通じゃないのは確かだから気をつけてって話だよ。シュピーゲルもね。」
「あ、うん。」
なんだよ。結局そんな興味ないのかな。
「あーあ。お腹空いちゃった。そろそろ2時だしみんなでご飯行かない?」
「そうね。私も少しお腹空いたかな‥‥」
「シュピーゲルも来るでしょ?」
「え、ああまあ‥‥それじゃ行こうかな‥‥」
「よし! じゃあ決まりね! 場所はいつものファミレスでいいよね。」
「にしてもどうするのミウラ。ここで落ちるの?車がなきゃ街に戻るのに時間かかるわよ。」
「こいつを使おう。奴らにはもういらん。」
ボンボンとボンネットを叩くとティーゲルの力強いディーゼルの鼓動が伝わってきた。









「まだかな‥‥ミウラ‥‥」
すっかり冷えてしまった手をコートの中で暖めながら少女はそう呟いた。駅前のベンチに座る少女は硝煙と鋼鉄の世界のシノンというスナイパーとしての面影はなく、ただの朝田詩乃という少女だった。

店で待ってていいと言われたけれどなんとなくミウラがいつも来る駅で待ってしまった。もう店に行こうか。それとももう少し待とうか‥‥
「おい。朝田ぁー」
後ろから聞こえてきた声は待っている彼女の声とは違い、一瞬体をすくませた私は先にファミレスに行かなかったことを後悔した。

私は3人組の少女らに腕を掴まれ、人気の少ない路地へと引きずり込まれた。
「朝田。いやーゲーセンであそびすぎちゃってさぁ。帰りの電車賃なくなっちゃったぁ。明日返すからさぁ、とりあえずこんだけ貸して」
指を一本立てる3人のリーダー格の遠藤は、悪びれる様子もなくそう言った。
たかが帰りの電車賃で1万円もかかるものではないし、更にここは学校の最寄り駅だ。定期券があるはずである。
「今、持ち合わせがないから‥‥」
すると遠藤はニヤニヤと笑いながら手を出した。
「あっそ。それじゃあるだけでいいから出して。」
彼女らをいっときは友達と信じていた自分はなんと愚かだったのだろう。
「嫌。貸さない。」
私はそう言って踵を返しその場をさろうとした。しかしそう簡単にそれを許してくれる相手ではない。
「ふーん。そっかそっか。」
残りの2人を避けて行こうとしたその時。遠藤が肩をつかみ私を強引に振り向かせる。
「だから貸さないってっ……」
もう一度強く言おうとして、目の前につきつけられたものを見て私は動けなくなった。100円ショップで売っているようなチープな拳銃おおもちゃ。小さな子供が持っているような、脅しには普通は何も効果のない物は私の動きを止めた。周りの喧騒が遠くなり、景色の色が薄れ、あの時の音が、景色が、匂いが蘇ってくる。
グニャリと景色が歪む

足に力が入らない。自分が立っているのか倒れているのか、座っているのかさえもわからなくなっていく。
赤い

赤い

鉄の臭い

私の手は‥‥赤黒い何かで染まっている。周りもすべて。
悲鳴。恐怖。


「……乃…………詩乃……詩乃!」
私の体はさっきまでのドロドロとした生暖かいものではない、しっかりとした優しい暖かさに抱きしめられた。

「大丈夫。大丈夫だよ。もう大丈夫。」
ゆっくりと周りの音がもどってくる。人々の喧騒、リズムよく音色を奏でるエンジンの音。そして路地裏の景色。そして自分を抱きしめているミウラ(古川 真琴)の匂い。温かい世界がもどってくる。
「ありがとう。真琴。もう大丈夫。」
「本当に?」
心配そうに顔をのぞき込んでくる真琴んk私は今できるかぎりの笑顔を返す。
「大丈夫。ありがとう。」
私は強くならなければならない。《あの事件》を乗り越え、シノンのように強い私にならなければ。
「……無理しちゃダメだよ。 どうする? お昼やめとく?」
「ううん。行く。‥‥そういえば遠藤達は‥‥?」
「んーとね。どっか行った。」
「そう‥‥」
「よし。行こうかシノノン! 早く後ろに乗るんだ〜。新川君待ってるよ〜」
「うん。にしてもバイクで繰るなら言ってよ。あとこっちでシノノンはやめて。」

真琴の差し出すヘルメットを被り、彼女のバイクに跨がる。彼女の背中から伝わってくる体温と、4気筒エンジン少し荒々しい音が心地よかった。
私はもっと強くならなきゃいけない。《あの事件》を乗り越えるんだ。





それはまだ夏の暑さが残る土曜日の午後だった。詩乃は母親と一緒に近所の小さな郵便局へと来ていた。母親が用事を済ませている間、詩乃は図書館で借りた本を読んで待っていた。そこで事件は起こった。男が一人入ってきて、カウンターにいた詩乃の母親を突き飛ばしこう言った。
「このかばんに金を詰めろ」と。男は異常な様子で拳銃を振り回しまずカウンターにいた一人の職員を撃った。そして次に一番近くにいた客、つまり突き飛ばされ固まっていた詩乃の母親に銃口を向けた。詩乃が幼い頃に事故で夫を亡くし、心に傷を負っていた母を自分が守ると、そう決心していた詩乃は思わず身体が動いた。強盗犯に飛びかかり噛み付いたのだ。突然の反撃に思わず拳銃ー中国製コピートカレフ、通称黒星ーを犯人は取り落としてしまう。そしてそれは偶然にも振り払われた詩乃の目の前だった。

結果、幼い詩乃は3発の銃弾を犯人の身体に撃ち込んだ。犯人は死亡。被害は最小限に抑えられた。しかし幼い詩乃の手は返り血で真っ赤に濡れてしまった。
たった11歳の少女の心にそれはそれは深い傷となって残ってしまった。
PTSD。詩乃の症状はこれだ。銃、あるいはそれに似たものを見た途端に事件の記憶がフラッシュバックしてしまうのだった。



ボクが詩乃のPTSDの事を知ったのは偶然だった。それは詩乃をボクの家に招いた時だった。偶然リビングにエアソフトガンが出しっぱなしになっていたのだ。悲鳴を上げて崩れ落ち、震える詩乃。ボクがどうしていいかわからずにいると詩乃は小さな声で「ごめん‥大丈夫‥‥あれ……」と銃を指さし、ボクはようやく気がついた。彼女がなぜ授業中に度々倒れたのか、なぜ彼女とゲームセンターに行くとシューティングゲームを嫌がるのか。

彼女が遠藤達にイジメられ始めたのはその少し後からだった。ボクは遠藤達にやめるよう言ったが当然聞き入れない。教師たちは見てみぬふり。だからボクは心に誓った。ボクの友達はボクが守ると。
まあきっと詩乃に行ったら「大丈夫。必要ない。」って言われそうだから、できるだけ詩乃と一緒にいる事で詩乃を守る事にした。 この背中に感じる温もりを二度と失わないために。



「二人とも遅かったね。何かあった? 大丈夫?」
ファミレスに入ると痩せた小柄な少年が待っていた。丸みを帯びた顔が少し幼さを感じさせられるが一応彼も同級生だ。一応というのは彼、新川恭二がイジメにあい、2学期以降学校に来ていないからだ。 なんでも医者の子供で金づるにされていたらしい。
「うん。また」
「大丈夫。いつもの事だから。」
ボクの言葉を遮って詩乃がそう言った。しかし、それで恭二にも何があったかは分かったようだった。
「無理しないほうがいいよ。 学校とか警察とかに相談したほうが‥‥」
「学校は使えない。 これ以上酷くなるようだったら警察に相談するから。大丈夫。」
心配そうにな恭二に対しても大丈夫の一点張り。 強がるのは悪いことじゃないけれど、余り無理を溜め込むのはいい事じゃない。
だから少しくらいボクが詩乃のストレスを解放してあげるんだ。
「よし! 食べよー食べよー! ねぇシノノンどれにする〜?ボクはミックスプレートにしよっかな!」
「だからこっちでシノノンは‥‥もういいや。 そんなに食べると太るよ。ミウラ。」
「残念ながらボクは太らない体質なのだよ〜!」
笑い合う事で少しはできるといいのだけれど

「そういえばもうすぐBoBね。」
料理も半分くらい平らげたところで唐突に詩乃が呟くように言った
「ん‥‥そうだね。 もちろんシノノンは出るんだよね?」
「出るよ、もちろん。前回20位までに入ったプレイヤーのデータは殆ど揃ったからね。今度はへカートを持っていくつもり。」
「ふーん。 じゃあボクも本戦にPTRD持っていこっかなぁ。」
BoB本戦では広大なマップに30人がランダムに配置されてスタートする。そのためいきなり近距離からの戦闘に巻き込まれる可能性があったので、ボクもシノンも巨大な狙撃銃であるPTRDやへカートを持っていかなかったのだ。 ボクも64式7.62mm小銃を装備していったのだが銃剣突撃をしている時に遠距離から狙撃されてしまったのだ。
PTRDの扱いにも慣れてきたし今度は全員ぶっ倒してやる!
優勝へ燃えるボクの耳に恭二の慨嘆めいた声が届き、優勝の妄想から現実 に意識が引き戻される。
「そっかぁ」
恭二はどこか眩しそうに目を細め、ボクらを見ていた。
「凄いなぁ二人とも。あんな凄い銃を手に入れて、ステータスもSTR優先。僕が朝田さんGGOに誘ったのにもうすっかり置いてかれちゃったな。」
「そんな事ないよ。新川くんだって前回は予選の準優勝まで進んだじゃない。」
「ホントだよ〜。 あれ惜しかったねー。完全に最後は運だけだったよ。」
「いや…ダメさ。AGI型じゃあ、よっぽどレア運が無いともう限界だよ。ステ振り、間違ったなぁ…」
彼のアバターであるシュピーゲルはGGO初期の時流に即したAGI、敏捷力をひたすら上げたタイプだ。最初期は圧倒的な回避力や照準安定速度で他のタイプを圧倒していた。しかし、次第に強力な大型で高精度な火器が実装されると回避もままならなくなり、さらにSTR値不足で攻撃力が高い武器をなかなか装備できなかった。そして次第に主流とは言えなくなった。

「うーん確かにレア銃は強いけどさ、それは強い人がレアな銃を持ってるってだけで‥‥上位ランカーの中には街売の武器を弄って使ってる人もいっぱいいるよ。」
「そーだよ。いくら大火力武器だって取り回しも悪いしさぁ。新川くんのMP5も強いと思うよ。」
詩乃の反論にボクも続くがどうやら恭二は納得が行かないようだった。
「それは二人がSTR優先で強力なレア武器持ってるからだよ。はぁ……」
恭二の瞬発力と高い瞬間火力は上手く使えばもっともっと上にいけるはずなのだが、本人がここまで自信がないんじゃどうしようもない。
「それじゃ次のBoBは出ないの?」
「……うん。出ても無駄だからさ。」
「そっかぁ。じゃあさじゃあさ!今度GGOで特訓付き合うから勉強教えてよ!今度のテストヤバイんだよぉ〜 」
「勉強教えるのは‥‥別に構わないけど。」
恭二は医大を目指している。いや、父親に目指すことを強制されてるといったほうがいいかもしれない。 恭二は少し嫌なようだがそれでも勉学の成績はいい。ボクなんかよりずっと。
「やったね。シノノンも一緒にやろうよ。」
「え、私も?……あんたただ先生増やしたいだけでしょ。 」
「あ、バレた?」



その後ボクらはまた今度戦場で会おうと約束を交わし、予備校があるという恭二をバイクの後ろに乗せて送った。 ヘルメットを貸したら「朝田さんの匂いがする」なんて危ないこと呟いてたけど聞かなかったことにしてあげよう。うん。でも今度はもう一個用意しよう。

大通りから一本入ったところにボクの家はある。シャッター付きのガレージがついた一軒家だ。 重いシャッターを開けると1台の黄色のクラシックカーが姿を表す。ボクはその脇にバイクを停めるとクラシックカーのボンネットをポンポンと叩いた。
「ただいま。ミウラ。」
この車はボクが小学生の頃に亡くなってしまった母さんの愛車だ。10年たった今でも大切に取ってある。いつか母さんが大好きだったこの車で世界中に行くのがボクの夢だ。だからボクのアバターネームもこの車から取ったのだ。
キーを差し込み、イグニッションスイッチを操作する。ブォンと闘牛の心臓が目覚め、ガレージに鼓動が響く。
「お母さん。 今日もねいっぱいいろんな事したんだ。あのね‥‥」 
 

 
後書き
また更新が遅くなってしまいました……
次回からBoB入ります 
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