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若き禿の悩み

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1部分:第一章


第一章

                       若き禿の悩み
 和田幸三には悩みがあった。
 それが何かというとだ。額であった。
「あんたひょっとしてまた」
「気のせいだよ」
 家で夕食を食べている時にだ。自分の向かい側に座っている母の言葉に応えたのだ。むっとした顔で。
「それはさ」
「けれど実際に」
「だから気のせいだよ」
 またむっとした顔で言うのであった。
「それはさ」
「額大丈夫なの?」
「あのさ、俺まだ十七だよ」
 彼はこう返すのだった。
「十七で何でそうなるんだよ」
「十七でね」
「そう、十七ね」
「それで何で禿るんだよ」
 自分で言ってしまった。このことをだ。
「高校三年でさ」
「いや、そうも言ってはいられないぞ」
 彼にそっくりの父親が言ってきた。見ればその額は。
「お父さんだってな。結婚してから急にだったからな」
「そうよね。二十三で結婚してね」
「三十にはこれだ」
 額はそのままつむじにまで達していた。てかてかと光ってさえいる。
「うちの家系は代々かなりの若禿だからな。御前もな」
「禿るっていうのかよ」
「そうよ。若いうちに来るのよ」
 母親がまた言ってきた。
「だから覚悟はしておきなさい」
「禿てたまるか」
 再びむっとした声で言う幸三だった。
「しかもまだ高校生でな」
「けれどお兄ちゃん額広いよ」
 今度は横からだった。見ればまだ中学生と思われる年齢の女の子がいた。その娘が明るい声で彼に対して言ってきたのである。その額のことをだ。
「やっぱりそれはね」
「隠せないっていうのかよ」
「髪の毛おろしててもね」
 身も蓋もない言葉であった。
「そのままだとあと二年かな」
「二年でどうなるんだよ」
「ほら、あの人」
 言ってはならない名前を出すのであった。
「ドラゴンズのエースだったね」
「川上かよ」
「それか和田ね」
 どちらも中日だった。
「和田さんみたいになるよ」
「いきなりとんでもない奴の名前出すな」
 中日の和田の名前を聞くとことさら不機嫌な顔になる彼だった。
「あそこまでなるか、だから俺はまだ十七なんだぞ」
「なるわよ」
「それは運命だ」
 ここで両親は無慈悲なことを言ってきた。
「それでもね」
「受け入れることが大事だからな」
「禿てたまるか」
 まだ言う幸三だった。
「禿は絶対に嫌だからな」
「育毛する?」
 今度はこんなことを言ってきた妹だった。
「それだったら」
「何度も言うが十七なんだぞ」
 幸三の言葉は続く。
「それで何でなんだよ」
「まあまあ。私だってさ」
 妹はまた話してきた。
「額広いんだし」
「それがどうしたんだよ」
「血筋は否定できないから。むしろ両親がわかっていいって思うべきよね」
「女は禿ないからいいよな」
「はい、自分で言ったし」
 笑いながら速攻で突っ込みを入れる妹だった。
 
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