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渦巻く滄海 紅き空 【上】

作者:日月
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百二 巫女の予言

 
前書き
大変お待たせ致しました‼

色々悲惨な事が続き、なかなか書けませんでした。申し訳ありません!
引き続き映画編ですが、捏造多数ですので、ご注意ください!!

 

 
砕かれたクナイ。
半壊同然の母屋へ射し込む朝陽が、木片に雑ざり散らばるその砕片を鈍く光らせる。

しかしながら瞬く間に粉砕されたクナイそのものより、黄泉配下の四人衆――クスナ・セツナ・シズク・ギタイの意識は皆、標的の前に現れた少年にあった。

鬼の国の巫女を背にする、その存在。

射光に彩られた金色の髪は普通ならば目立つ事この上ない。そのはずなのに、クスナ達は今の今まで少年の出現に気付けなかった。その事実が四人全員の身を粟立たせる。

暫しの間、立ち尽くしていた彼らは、少年の蒼の双眸に射抜かれた途端、自らの金縛りがようやく解けた。
「な、なんでありんす?」
至極当然の疑問を口にするギタイに続いて、シズクが驚嘆の声で呟く。
「音も気配も、何も感じ取れなかったなんて……ウチら並の大物?」

「……貴様らと一緒にするな」
シズクの質問は、彼の背後から突如一蹴された。


驚愕の表情で後ろを振り返ったクスナ達は、またもや見知らぬ少年二人の姿に眼を瞬かせる。
双方とも白く儚い印象を醸し出す少年達は、そのイメージに反して、鋭い視線で四人衆を見据えていた。
「…っ、何時の間に…!?」

ナルトより少しばかり遅れてやってきた白と君麻呂。
新たな人物の登場に、クスナ達は驚きを隠せなかった。
「貴様ら如き小物とナルト様を一緒にするな。不愉快だ」

君麻呂の辛辣な言葉に、「生意気言ってくれるでありんすね!」とギタイが食ってかかる。それを冷静に宥めながら、クスナは自身の行く手を阻む三人の少年を見下ろした。
特に、ナルトと呼ばれた少年を油断なく見つめる。

「…何れにせよ、只者ではないようだな」
先ほど目が合っただけで畏怖を感じたのだ。このナルトという少年は一体何者なのか。

身構えるクスナ達四人衆をよそに、ナルトは白と君麻呂に目配せをした。直後、二人の姿が掻き消える。
クスナ達がハッと我に返った時には、白と君麻呂は既に戦闘態勢に入っていた。慌てて踵を返す。
「チィ…ッ!!」

寝所の扉から外へ飛び出した四人衆。その後を追って白と君麻呂もまた、母屋を離れる。
思いもよらぬ展開に呆然としていた足穂は、目の前にすっと手を差し伸べられて、ようやく顔を上げた。


「到着が遅れました事、お詫び申し上げます……御無事ですか?」
「え、ええ。はい」
白く細い手を借りて立ち上がった足穂は、ナルトの姿を見て改めて驚愕する。

『暁』という組織に所属しているとは思えないほど華奢な身なり。もっと厳つい人物を思い描いていた足穂は、思わずまじまじと観察してしまう。
足穂の遠慮の無い視線を受け、ナルトは苦笑を零した。

「…先ほどの二人の少年も仲間ですので、御安心を」
「え、ああ。そうなんですね」
ナルトから白と君麻呂の説明を受けて、足穂はようやくじろじろ眺めるのを止めた。
恥じ入ったように視線を逸らした後、すぐさま己の主の許へ向かう。巫女の無事な姿に安堵の吐息をついた足穂へ、ナルトは聊か強い口調で進言した。

「即刻、現在この建物にいる兵士全員を避難させてください。負傷した者達には治療を…。今ならまだ間に合います」
「しかし…我々には紫苑様を御守りするという義務が…」
「…これ以上、犠牲者を出したくはないでしょう」

ナルトの有無を言わさぬ声音に促され、足穂は渋々頷いた。
確かに今の襲撃で兵士達が幾人も負傷している。だが今すぐ治療にかかれば、何人かは助かるかもしれない。それに救援の忍び達が不届き者たるあの四人衆と交戦するならば、兵士達は逆に足手纏いになる可能性が高い。ならば、ナルトの言う通り避難させたほうが良策だろう。

足穂は荒れ果てた室内を見渡す。敵の襲撃で崩された母屋。その天井に押し潰されてしまった兵士達は、何時の間にかナルトの手によって抜け出せていた。幸運な事に全員息がある。
(あの細腕で、どうやって助け出せたのか…)

足穂はナルトを見遣った。何やら手から青白い光を負傷した兵士達に注いでいる彼は、寸前の的確な指示と言い、とてもまだ子どもには見えない。それでも外見はやはり少年そのもので、足穂は素直に感服した。
ナルトの医療忍術で治癒された兵士達の一人が目を覚ましたので、足穂は彼らに避難及び負傷者の治療等の指示を下す。その手際もまた、見事なものだったのだが、誠実な人柄故、足穂は自分では気づいていないようだった。

自らのすべき事をテキパキとこなした足穂がナルトに向き直る。それを見計らって、ナルトは口を開いた。
「何処か、人目につかない場所はありますか?」














館前の前庭。
その大きな広場へ降り立った四人は、追い駆けて来た白と君麻呂を見下すように嘲笑った。

「たった二人で、何が出来る?」
「あちき達に勝てると思ってるんでありんすか~?」
セツナとギタイの嘲笑を受けても、白と君麻呂は顔色一つ変えない。依然として涼しげな顔をする少年達をシズクは気味悪げに眺めた。そしてなんとなく思った事をそのまま口にする。
その問い掛けは二人の涼しい顔を崩すのに、効果覿面だった。

「な~んか似たような雰囲気だけど、兄弟かなんか?」
「「誰がこんな奴とッ!!」」
シズクの質問に反応した白と君麻呂は、寸前とは打って変わって感情を表に出していた。嫌悪感を露に互いを睨み合う二人に、四人衆は戸惑い気味に顔を見合わせる。

ややあって、気を取り直したクスナがギタイに眼で合図した。直後、地を蹴る。
クスナの指示に従い、拳を大きく振り被ったギタイがその怪力を以って、白と君麻呂に襲い掛かった。だが、その瞬間。


「「――――遅いっ!!」」
敏捷な動きでその打撃を受け止めた君麻呂が、逆にギタイへ攻撃を仕掛けた。同時に白が素早く印を結び、周囲に鏡を展開させる。
既に地を蹴っていたクスナ一人だけがその場を逃れたが、残り三人は白の鏡の包囲網に囚われた。

「なんだ、これは…!?」
「鏡…ッ!?」
セツナとシズクが驚愕する一方、君麻呂に吹き飛ばされたギタイが困惑の表情を浮かべる。
「アンタ…あちきの怪力に耐えるほど硬いでありんすか?」

勢いを削がれたとは言え、君麻呂への打撃は確かに届いていた。だが君麻呂は平然とギタイの拳を受け止め、その上何かで吹き飛ばしたのだ。
不意に、鉄の味がして、ギタイは頬を拭う。その時初めて己の頬に切り傷がある事にギタイは気づいた。
実際、君麻呂は骨を用いてギタイを弾き飛ばしたのだが、そのような事実ギタイが知る由も無い。

苛立たしげに君麻呂を睨んだギタイに間髪容れず襲い来るのは、数多の千本。周囲の鏡から飛び出してくる千本の鋭い先端を目に留めて、セツナがチッと舌打ちした。
「油断するな!こいつら、できる!!」

舞っているかのような優雅な動きで相手を翻弄する君麻呂と、何処から来るか判らぬ白の鏡からの攻撃。回避の連続で徐々に疲労が溜まってきた三人は、互いに視線で合図を交わした。
「シズク・ギタイ、土・火・風の連携術だ!」
「あ~い~…―――【土遁・土回廊】!!」

セツナが号令した途端、ギタイが巨大な拳を地へ叩きつけた。やがて辺りが揺れ始めたかと思うと、地面から巨大な岩が迫り上がってくる。地鳴りと共に、白と君麻呂の頭上を無数の岩が覆い尽くし、まるで土で出来た回廊の如く二人を閉じ込めた。

【土回廊】唯一の出口を前に、シズクがくすくすと忍び笑う。
術者たる白が【土回廊】に閉じ込められたので、セツナ達を包囲していた鏡が消えてゆく。
それを確認してから、次いでシズクは片足で爪先立ちをした。そのまま片足で回転しつつ、印を結ぶ。するとやがて高速回転するシズクを取り囲むように、大きな火の輪が生まれた。

「【火遁・火走り】!!」
シズクが大きく仰け反るや否や、火の輪が【土回廊】の出口目掛けて突き進む。緩やかな動きで【土回廊】中へ入って来た火の輪を目にし、出口に向かっていた白と君麻呂が顔を顰めた。
同時に、回廊外から聞こえるセツナの声。

「【風遁・神颪】!!」
シズクに続いて印を結んだセツナから放たれた旋風。当初小さかったソレは次第に勢いを増し、【土回廊】内部を吹き抜けた。当然、先ほどシズクが【火遁・火走り】の火の輪に追いつく。

すると一見あまり大した威力が無さそうな火の輪が一変した。旋風に煽られ、火勢が強まった火の輪は忽ち大きく膨れ上がり、巨大な炎と化す。その上、ギタイが【土回廊】の出口までも閉鎖してしまった為、炎は密閉状態の回廊内部を一気に駆け巡る。

【土回廊】に閉じ込められた白と君麻呂に、爆発的な炎が猛然と押し寄せていった。



「今の連携術で、ウチらのチャクラ使い過ぎちゃったみたい~」
「でもこの術にかかれば、奴ら骨も残らんでありんす」
嘆くシズクに対してギタイが残忍な笑みを返す。熱気を醸し出す【土回廊】を前に、嘲笑していた三人は、次の瞬間その笑みを凍りつかせた。


巨大な氷の柱と数多の白い骨。

【土回廊】の壁を突き破って現れたその白きモノを、セツナ達は唖然と見上げた。
内部に籠っていた炎は氷柱によって治まり、土の壁は数多の鋭利な骨で破壊されている。

熱風と土煙が猛烈に回廊から噴き出され、セツナ達は咄嗟に後ろへ後退した。瞬間、寸前まで三人が立っていた場所を何か白いモノが凄まじい勢いで通り過ぎてゆく。

指節骨の飛礫。如何なる硬質な物質も貫く威力に回転をも加わった、いわば凶悪な弾丸が持ち主の指へ戻っていく。

【十指穿弾】を放った君麻呂は立ち込める煙の中で、指を元に戻した。その背後で音を立てて崩れゆく土の回廊。
巨大な氷の柱上に乗っていた白がふわりと地面へ降り立つ。

「……なんて奴らだ…」
「兄さん、もうチャクラが…」
ギタイの呼び掛けに頷きを返したセツナが地を蹴る。共に跳躍したシズク・ギタイを振り返り、彼は苛立たしげに指示を飛ばした。
「ギタイ、クスナ兄ぃを捜せ!」

セツナに従い、ギタイが口許の覆面を僅かにずらした。鼻をうごめかして、目的の人物の匂いを辿るギタイの後ろをセツナとシズクが追い駆ける。
リーダーたるクスナの居場所へ走り去る三人を、白と君麻呂は即座に追って行った。
















白く泡立つ滝壺。頭上へ降り注ぐ白滝。
断崖絶壁から落ちゆく巨大な滝の轟音が、足穂の荒い息を掻き消してゆく。

滝壺の上に渡された細い通路。其処へ向かって駆けていた足穂は、肩で息をしながら背後を振り返った。その背中には彼の主人たる紫苑の姿がある。
寝所の隠し扉を通って滝まで辿り着いた足穂は周囲を見渡した。敵の影が見えない事を確認し、紫苑を背負い直す。警戒しつつ、正面の流れ落ちる滝目掛けて足穂は足を速めた。

その足穂の背後から迫り来る影が、紫苑の背へ向かってクナイを振り上げる。


紫苑の首筋目掛けて振り落とされる鋭利な刃物。その先端が彼女の柔い肌に触れる直前、クスナは大きく眼を見開いた。
「……来ると思っていたよ…」

クナイを持つ手首がしっかと押さえされている。小さな細い手はその外見に反して、クスナの腕を力強く握り締めていた。
「分身か…ッ」
「ご名答」

足穂と紫苑がいた場所で白煙が立ち上る。掴まれた手首を振り解き、後方へ飛退いたクスナは目の前の少年――ナルトをじっと見据えた。ナルトから得体の知らない何かを感じ取って、クスナはごくりと生唾を呑み込む。
正直、この少年とは闘いたくないとクスナは本能で悟っていた。

わざと人目につかない場所を訊いたナルトは、紫苑と足穂には安全な場所で身を潜めてもらい、自身は彼らに成りすまして敵の接触を待っていたのだ。
変化させた影分身が白煙と化すのをよそに、ナルトは轟々と唸る滝を背に、クスナと対峙する。激しい水音が響く中、彼は沈黙するクスナの眼を覗き込んだ。
「…お前は誰の許で動いている?」
「……ッ!」

何の気もないナルトの問い掛けは、クスナを動揺させる。脳裏に過ったのは黄泉の姿だが、その中には【魍魎】がいる。どちらが己の主人なのか、一瞬判別がつかなくなったクスナは、その迷いを断ち切るように頭を振った。

クスナの心中の迷いを敏感にも感じ取ったナルトは、暫し思案顔で相手を眺める。ふと、こちらへ近づいてくる三つの気配と、二つの気配を彼は正確に読み取った。
その内、仲間たる二人がチャクラを激しく消耗しているのを察し、これ以上闘いを長引かせるわけにはいかないと悟る。

膠着状態。警戒心を露に動かぬクスナを前に、ナルトは軽く首を傾げてみせた。
「…今回はここまでにしておいたら?」
「…逃がす、というのか!?何故、」
クスナの当然の疑問には答えず、ナルトは頭上を仰いだ。
「君のお仲間も来ているようだしね」
「……ッ、」

ナルトよりやや遅れて、セツナ達の気配を感じたクスナは訝しげに眉を顰めた。怪訝な顔をしながらも、館の屋根の上まで跳躍する。
途端、鉢合わせしたセツナ達に、クスナは「…一端、退却するぞ」と一言告げた。

急な撤退発言に不審げな顔をしたセツナ達だが、後ろから迫り来る白と君麻呂に気づくと、すぐさま踵を返す。
館の周りを取り囲む断崖へ飛び移り、そのまま立ち去ってゆく四人の気配が完全に遠ざかっていくのを確認しながら、ナルトは白と君麻呂がこちらへ来るのを待った。




「申し訳ございません、ナルト様…」
「取り逃がしてしまいました…」
ナルトの許へ駆け寄るや否や、君麻呂と白が深々と頭を垂れる。それをすぐさま上げるように仕向けて、ナルトは詳細を聞きつつ、二人が闘った前庭へ向かった。


『暁』の要請に応えるや否や、ナルトがまず行った事柄は白と君麻呂を鬼の国へ向かわせる事だった。妖魔【魍魎】を封じる地下神殿がある遺跡。

しかしながら白と君麻呂が其処へ辿り着いた時には、既に【魍魎】は復活した後だった。
その旨を【念華微笑】の術で伝えた白と君麻呂はすぐさまナルトへ指示を仰ぐ。そこで砦付近の結界及び、遺跡周囲に【狐狸心中の術】及び【魔幻・此処非の術】といった幻惑系の術を幾重にも仕掛けておくよう指示したナルトは、敵が動き出すまでその場で待機するよう白と君麻呂に告げた。
また、砦付近の結界はある程度のチャクラを持つ者ならば通り抜けられるようわざと綻びを入れておくよう前以て指図しておく。

【魍魎】は遺跡周辺の幻術も結界も巫女の命令によるものだと思い込んで、術者もまた巫女の傍にいると考えていたのだが、実際は術者たる白と君麻呂は黄泉否【魍魎】及び四人衆をずっと見張っていたのである。
案の定巫女の館へ向かった四人衆を追った白と君麻呂は、そこでようやくナルトと再会できたのだった。


崩壊した【土回廊】。

館の前庭の惨状を前にして、ナルトは眼を細めた。徐々に溶けゆく氷の柱を見上げ、次いで砕けた岩の破片を拾い上げる。シズクの火遁によって滑らかな硝子のようになっているソレを指先でくるくる回しながら、ナルトは感嘆の声を漏らした。

「なるほど、連携か…。炉の中の火は送風で火勢を強めれば鉄をも溶かせる。同様に、土で動きを封じ、その中へ送った火を風で煽れば、炎の威力が高まるというわけだ」
「迂闊でした…。この【土回廊】から脱け出すのに、思った以上にチャクラを用いてしまって…」
悔やむ白と君麻呂に、ナルトは苦笑を返した。

「相手はお互いのチャクラ特性を熟知し、且つタイミングを合わせるのが上手かった。かなり息の合う間柄のようだね……白と君麻呂も協力すればきっと、」
「「それはお断りです」」
「………………………」
息の合った返事に、ナルトは空を仰いだ。













謁見の間。

早朝の襲撃の余韻も冷めやらぬものの、なんとか事態を収拾した足穂がナルト・白・君麻呂を広い表座敷へ招き入れる。

改めて鬼の国の巫女と対面したナルト。上げられた御簾の向こう側で、厳かな佇まいで座る紫苑を、ナルトは不躾にならない程度に見つめた。

強力な巫術を持つ偉大な巫女にしては、華奢でか細い印象を受け、ナルトは秘かに眉を顰める。ややあって、巫女の傍らに控えた足穂が口上を述べた。

「鬼の国の巫女…紫苑様であらせられます」
畏まった物言いで告げる足穂に応え、ナルトは会釈を返した。
「紫苑様の護衛を引き受けさせて頂きました、うずまきナルトと申します」

同じく目礼した白と君麻呂に視線を走らせてから、ナルトは謁見の間の奥で鎮座する紫苑を真っ直ぐ見据えた。
その強い視線を受け、それまで感情が抜けたように呆けた表情をしていた紫苑の顔色が一瞬変わる。
その唇が静かに震えた。



「うずまきナルト…お前は―――死ぬぞ」

彼女の胸に挿された鈴が、ちりんと鳴った。
 
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