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木ノ葉の里の大食い少女

作者:わたあめ
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第一部
第三章 パステルカラーの風車が回る。
  シノ

 がちゃがちゃと四本の腕を鳴らしながら、〈烏〉はシノにきゅるりと目を向けた。シノが両手を前に突き出す。ざわわぁあと音を立てながら溢れ出てきた蟲が彼の両腕の周りで飛んでいるさまはまるで黒い霧のようだ。

「俺は木ノ葉の油女一族。例え相手がどんな奴でもなめないし、全力で行く。――そして仲間は絶対守る」

 言い放った寡黙なチームメイトの背を見上げながら、キバは喜びに涙がこみ上げてくるのを感じた。蟲の取り巻くその背は不気味でありながら、見ていると奇妙な安心感が生まれてくるのだ。シノを敵に回したら厄介だが、彼が味方に回ってくれたら、彼はたちどころに限りなく頼り甲斐のある仲間になるのだった。
 〈烏〉がこちらに向かって飛んできた。ぱか、と口を開ける。胸元から尖った刃が三枚突き出ていた。肋骨のつもりなのだろうか。

「シノ、気をつけろ! そいつ、口からクナイを連射するんだ!」

 シノは答えなかった。二本のクナイが〈烏〉に突き刺さるのと同時に、〈烏〉が一本の丸太にかわる。
 ――変わり身!?
 木ノ葉で傀儡師など見たことなかったから知らなかったが、どうやら傀儡師は傀儡に変わり身の術などを使わせることも出来るらしい。予選でミスミが締め付けたカンクロウが〈烏〉だったことを見ると、変化染みたことも出来るようだ。あのときは樹脂製の皮膚を貼り付けていたようだったが。
 木の葉が目の前を舞った。飛び上がる。下方から伸びて来た木製の腕が足元を掠った。

「甘いぜ」

 カンクロウの指が動く。一般人には到底覚えきれないような細かい指の動きが、〈烏〉に命を吹き込み、多彩な動きをさせる。ぱか、と〈烏〉の口が開いた。口の中からクナイが投擲される。それぞれシノの額と左胸に突き刺さったそれに、カンクロウの口元に笑みが浮かんだ。

「やったじゃん」
「――シノ!」

 キバが叫んだのもつかの間、目の前でシノは黒々とした虫たちに分解した。弾けるように散った虫たちがざわめきをあげる。
 ――蟲!?
 気配を感じて振り返ればシノは既に目と鼻の先に迫っていた。飛んできた拳をすんでのところでかわし、後ろに向かってジャンプする。

「蟲で分身をつくって俺の背後に回るとは、やるじゃん!」
「――お前は人形を使う、中衛タイプだ。接近戦は苦手と見た。何故なら、人形の操作に集中しなければならないその傀儡の術とやらは、術者自体に隙が生じ易いからだ」
「よくわかってんじゃん……傀儡師の弱点をよ。だがな、こっからこの忍術の本来の戦い方ってのを……教えてやるじゃん!」

 チャクラ糸を繋げられた烏が立ち上がり、そして二本ある左腕の内、上の方を持ち上げた。ぱかりと音を立てて肘の部分が開き、そこから発された毒煙玉が蟲で防御する間もなく弾ける。毒を孕んだ煙が木々の間で充満する。とっさにまだ毒煙の昇ってきていない、一層高い枝の上に避難した。蟲に連れられたキバが自分より更に上空で浮いている。

「大丈夫か、シノ!?」
「ああ……だが、少し吸い込んだようだ」

 足が痺れて動かない。術者たるカンクロウはどこか近くで身を潜め、そして〈烏〉を使って攻撃を仕掛けようと隙を見ているはずだ。
 そう思ったその時、一つの気配を感じた。振り返る。掌から小さなナイフを生やした烏が腕を振るう。シノの体が真ん中から蟲となって崩壊していく。

「チッ……また蟲かよっ」

 だがあの状態でそんなに動けるはずはない。どこだ。どこにいる。混乱しているキバともども視線をめぐらす中、視界に入ったのは〈烏〉の直ぐ頭上で息絶え絶えになっているシノだった。
 笑みを浮かべて〈烏〉を操作する。しかし〈烏〉は動かなかった。

「お、おい、どうした!?」

 問いかけても〈烏〉が返答できるはずなく。ぎぎぎぎぎ、とその木製の体が虚しいうめき声をたてるばかり。
 ――くっ……どうなって、ッ!?
 ふと見えたのは木製の相棒の肘の中から溢れ出てくる蟲の群れだ。関節に蟲を詰められた所為で動かせなくなったらしい。しかも蟲たちはチャクラ糸を伝ってこちらへやってくる。何故チャクラ糸のありかがわかるんだ。思考を僅かにめぐらしただけで記憶が蘇った。そうだ、この蟲の餌はチャクラ。ならチャクラが視認できるのも問題はない。
 このままでは居場所がばれてしまう。チャクラ糸を大げさに揺らしながら断ち切った。かき乱された蟲たちが空を散る。それと同時に、がちゃんと音を立てて<烏>の首がその胴体を離れた。
 ひゅーん、と滑稽な音を立てながら空を飛んだ<烏>の頭ががちゃりと形を変え、その口から尖った針が突き出た。傀儡師にとって一度断ち切ったチャクラ糸を結びなおすのは造作もないことだ。その上<烏>は全てのパーツに武器を隠し持つ仕込み傀儡。動きを止めただけで終わりだと思ったら大違いなのである。
 たっぷりと毒を塗った針先がシノに迫る。しかし<烏>の首はその寸前で動きを止め、音も無く地面へと落ちていった。
 ――なに!? いつの間に蟲が……ッチャクラの糸を噛み切られている!?
 見下ろした自分の掌を蟲が這っていた。チャクラ糸がいつの間にか切れてしまっている。

「うわぁああああ!!」

 茂みから脱する。数多の蟲どもが自分の体を這い上がってくる。生理的嫌悪と何故やられたのかわけもわからずに叫ぶ。

「なんで、どうして!? この蟲たちはどっから沸いてきやがったんだ!!」

 静かな口調でシノは説明した。
 先ほどの拳をシノはカンクロウに食らわせ損ねたが、目的は殴ることではなく、人間には嗅げない特殊な臭いを発散するメスの蟲をカンクロウの額宛てにつけることだったのである。その臭いが嗅げるのは同種のオスだけだ。チャクラ糸から這ってくる蟲を振り払って油断したカンクロウは、臭いに惹かれて背後から迫る蟲に気づけなかった。
 毒が全身に回ってきた。蟲に這い寄られたカンクロウが樹上で倒れている。キバが傍に下された。二人ともどうやらサスケとチョウジ、シカマルとサクラの援護に回ることは無理なようだと、心の中で詫びながらシノもばたりと力を抜いた。

 +

「――我愛羅!? どこへ行く!」

 我愛羅は苦しみながらも、迷わずにサスケよりもう二つの影を選んだ。サスケよりももっと強いチャクラを纏った二つの影。一つは自分よりも更に莫大なチャクラを秘めている。
 暫くあっけに取られていたテマリは追うかどうか迷った後、まずは目の前のサスケを始末することに決めた。

「チッ……食らえ、カマイタチ!」

 扇子で呼び起こした風がサスケに襲い掛かる。跳躍したサスケがそれを回避し、カマイタチは周囲の木々を一斉になぎ倒した。それによって森の中に大きな空き地が生まれる。
 我愛羅を早く追いかけたいサスケとしては厄介だ。ち、と舌打ちをこぼしたその時、起爆札をつけたクナイが二つ、立て続けに空き地の真ん中に突き刺さった。爆発したそこに二つの穴が開く。すんでのところでそれを回避したテマリの視線が樹上に向く。

「テメエの相手はこの俺だ。女が相手ってえのはめんどくせえが――任務でめんどくせえもくそも言ってらんねえだろ。それに本戦でのお前の相手は俺だったんだし。っと」

 飛び降りてきたシカマルにサスケが目を見開く。す、とシカマルは後ろを指差した。押し殺した声で告げる。

「ナルトもこっちに向かってるはずだし、サクラとチョウジも直ぐ来るはずだ。こいつは俺が食い止める」

 言いながらシカマルは、先ほど二人の一般人の死体を前に泣いていたチョウジと、そんな精神状態のチョウジを放っておけないといったサクラを思い返した。早くサスケのところに来たくてたまらないという表情ではあったがぐっと堪えたサクラの目の奥に、両手を真っ赤に染めたいのの姿を見つけたような気がした。そしてほぼ本能的に思ったのだ、サクラも自分と同じようにいののことを考えているのだと。
 だがあの二人も直ぐ来るはずだという確信はあったし、シノがカンクロウと戦う為に残る前、ナルトを見つけたと伝えてくれた。その情報に間違いが無いなら。きっとナルトはこっちに向かっているはずなのである。

「俺じゃあ我愛羅に勝てる確立はゼロだが……お前とナルトには出来る。行け! サスケ!」

 サスケが頷き、そして走り出した。それを追おうとするテマリの方に向かって起爆札つきのクナイを三つ投擲する。こちらに注意を向かせられたテマリが腹立たしげに風を起こしてそれを払った。内二本が木を爆破し、もう一本があけた穴に転がり込んで爆音を立てた。

「いのとネジとテンテンが音忍を食い止め、キバとシノがカンクロウを食い止め、俺たちはここまでやって来れた……」

 印を組む。シカマルの影がうねった。

「今度は俺がお前を食い止める番だ! 食らえ、影真似の術!」

 するすると伸びていく影を見つめながらシカマルは叫ぶ。
 里を守るためにも、仲間を守るためにも。
 この戦い、負けるわけにはいかなかった。
 
 

 
後書き
次回はシカマルVSテマリ、それでやっとサスケvs我愛羅戦になりそうです。 
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