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普通だった少年の憑依&転移転生物語

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【ソードアート・オンライン】編
  133 12月8日


SIDE 升田 真人

菊岡さんからの頼みで俺が和人より先行する事になり、【ガンゲイル・オンライン】にコンバートして──《Peaeh(ピーチ)》と云う美少女プレイヤーに逆ナンされると云う珍事から翌日。……今日も【GGO】に二日連続でイン──していると云うわけではもちろん無い。

曲がりなりにも〝高校生〟である俺は学生の本懐たる〝勉学〟を果たす為に通学中だ。

「なぁ真人兄ぃ、【GGO】ってどんな感じなんだ?」

「あ、私もちょっと気になるかも。だって真人兄ぃ、いきなり〝【ALO】からコンバートする〟って言ったっきり、詳しくは教えてくれないんだもん」

学校への通学バスに揺られていたら、まるでタイミングを見計らう様に和人、直葉の順に【GGO】について()かれる。……和人はこれからやるハメになるだろうゲームの情報が少しでも欲していて、直葉は単なる好奇心からの質問なのだろう。

「和人については〝インしてからのお楽しみ〟だな」

「……まぁ、そうだろうな」

和人には意味有りげに──かつ意味有りげに目配せをしながら答えてやる。……〝【GGO】にコンバートした理由は殺人事件(?)の捜査をするため〟──だなんて、直葉には(つまび)らかに言えない事を和人も気付いたらしく、和人も納得した様子を見せる。

「直葉の疑問は…そうだな、本当に──本当にどうしても気になったらクリスハイトに()いてみれば、ひょっとしたら話してくれるかもな」

「……お兄ちゃん達、クリスハイトさんからまた何か頼まれたの?」

「大体そんな感じだな」

クリスハイト──もとい、〝菊岡さんから(なにがし)かを依頼されて俺と和人が動くと云う〟──一種の利害関係があると云うのは、仲間内では最早公然の秘密で、〝菊岡さん(クリスハイト)から依頼された〟と臭わせる発言をするだけでいろいろと融通は利く。

……とどのつまり、菊岡さんに丸投げである。

「……ふぅん…」

直葉も漸く得心した様子を見せる。……直葉に心配を掛けずに済んだのか、和人も俺に向かって鷹揚(おうよう)に頷いている。……意訳すれば、〝ナイス誤魔化しだ真人兄ぃ〟──と云ったところだろう。

そんなこんなでバスに揺られていると、学校の最寄りのバス停にバスが停車する。要は〝学生の務めを果たせ〟と云うことか。……さすがにそんな事は、バスに云われるまでのない事なので同じくバスに乗っていた学生達に流される様にバスから降りるのだった。

SIDE END

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

SIDE 《Teach》

「お待たせ──ってティーチ君?」

午後18時。ピーチとの待ち合わせ場所で独りでぽつん、としていると昨日逆ナンされた、覚えてある声の主──ピーチから声を掛けられる。……声を掛けられたのは良かったが、ピーチは俺を見た瞬間疑問符を頭に掲げながら俺の名前を確認してくる。

「君の名前がピーチで、昨日この場所でまた君と会う約束した男性プレイヤーの名前ならそうだろうな」

「えっ…? じゃあなんで──〝そんな装備〟なんか身に付けてるの? ……だって〝それ〟って、見間違えじゃなきゃあ──昨日案内したショップでは最高級マントだよね?」

俺の装備しているマントを見ては「私でも手が出せないマントなのに…」と溢すピーチ。

俺の今の恰好は〝初期装備(ただのふく)に≪スコーピオン≫添えただけだよ〟──だなんてどこからどう見ても言えはしないので、ピーチの驚きのあまりにやっと出せたであろうその呟きは、ある意味で正しいものである。

……もちろんの事ではあるが、【GGO】のプレイ時間が10時間未満の俺でもそんな──高価な装備を揃えられたのも理由はあった。

「……100万クレジットはしたはず…。でも多くとも、たった12時間かそこらで稼ぐとしたら…。……あっ──もしかして、ギャンブル?」

「Exactly(そのとおりにございます)」

昨日、ピーチは俺に賭場──〝ギャンブルの出来る場所〟を()かれた事を思い出したのか、直ぐに俺が(クレジット)を稼げた理由を当てる。……実際ピーチに教えてもらった賭場に入って割りと直ぐにフィーバータイムに突入した。

……それこそ端数を切り捨てて50M(メガ)クレジットと云う──現実(リアル)換算にして50万円くらいは荒稼ぎ出来てしまったのだ。……うっかり熱中し過ぎて他の賭場に訪れていた数人のプレイヤーの目を集めてしまったのはきっとご愛敬。

「初期資金を全部〝全か零か(オール・オア・ナッシング)〟でルーレットに注ぎ込んだ。……なに、ちょっとしたコツとそれなりの動体視力があれば、AI相手なら負けは無い。……だってAIの投げるボールの速度とホイールを回す速度が一定だったからな」

「うわぁ…」

したり顔──もとい、どや顔で語る俺に引いたのか、ピーチは俺から軽く距離をとる。

現実世界(あっち)〟でのカジノなら、ボールを投げ入れたりホイールを回したりするディーラーの気運やそのカジノの湿度や温度等を考慮しなければならないが、〝【GGO(このゲーム)】〟にはそこらへんの〝無作為(アトランダム)さ〟が無かったので、労せず──それこそ2~3時間で〝そこそこ〟のお(クレジット)を稼げてしまった。

……ちなみに間違えてはならないのが、俺がピーチに語ったこれらのルーレット攻略法は、前々世で読んだ【ギャンブルッ!】と云う漫画にあったルーレットのトンデモ攻略法を、身体能力が前々世より大幅に上昇した俺が独自に展開させたものなので、〝実用性は殆どない(但し升田 真人を除く)〟──と云うのが最終結論である。

閑話休題。

……(もっと)も、更にそもそもな話、何の因果関係が狂ったかは判らないが、〝当てるために懸ける〟──のではなく、〝賭けたから当たる〟──なんて荒唐無稽な事が多分にあるので、ギャンブルや株やらと云った、〝不確定要素かつ金が関係してくる場面〟では、いつからかは判らないが──大体前世辺りから外した事が無い。

また閑話休題。

「……これは昨日のお礼だよ」

「そんなっ、こんなに悪いよっ!」

ピーチに引かれた事に軽く傷付きながらもどや顔を引っ込め、トレード画面を呼び出し、昨日ピーチに代金を出してもらった“Vz61”──≪スコーピオン≫の値段の3倍のクレジットを端数を四捨五入して渡そうとする。

……しかしピーチは受け取ってくれなかった。俺的にはピーチから貰った情報代やらチュートリアルをやってもらった事に対しての料金を入れたらとんとんにしたつもりだったが、(クレジット)が大きぎたピーチは受け取ってくれない。

「……そんな難しく考えなくても、なぁ…。あぶく銭程度に考えてくれてもいいんだけどな。……もしアレだったら同じスコードロンの仲間内で、ぱーっ、てやっても良いし──」

「もうあのスコードロンには居づらいから帰れないよ…」

「……あー、なるほどね…」

ピーチの苦虫を噛み潰した様な言葉に、納得する。

……どうにもピーチの元居たスコードロン──【SAO】で云うところのギルドは、〝親・ピーチの元カレ派〟で固まっているらしく、〝ピーチの元カレ〟と〝その元カレをヨイショする〟メンバーが居るスコードロンにピーチが居づらいのは自明の理である。

「……そうか、済まなかった…。デリカシーが無かったな」

俺に出来る事は、ただただ陳謝する事だけだった。……もしも俺に【GGO】についての知識があれば、ピーチを逢瀬(デート)に──もとい、〝良い狩り(ファーミングスポット)〟に誘う事も出来たのだが、それは無い物ねだりでしかない。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「【PHANTASM CHORUS(ファンタズム・コーラス)】…。……ここがピーチの行ってみたかったバーか」

「うん。噂じゃあ〝美味しい〟って評判で、前から行ってみたかったんだけどね。雰囲気的に元カレとは──んんっ! ……前に居たスコードロンの皆とじゃあ、ちょっと敷居が高かったんだよね」

(なるほど確かに…)

取り敢えずピーチの精神を小康状態までに戻す事に成功した俺は、ピーチと共に【SBCグロッケン】が擁しているとある店──【ファンタズム・コーラス】と云う店に居た。……店内の色調を見回してみれば、〝幻想的な合唱〟と云う店の名前と合致していた。

ちなみにピーチを小康状態に戻した方法は…

―……だったらピーチ、どっか──ピーチも楽しめる様な場所へ連れてってくれないか? ……昨日のお礼も兼ねて、俺が出すからさ―

……ただそう言っただけで、ピーチは(たちま)ちその精神状態を快復させた。……俺としても昨日のお礼として、お(クレジット)を渡すだけでは味気無いとも思い直していたので──誤魔化す様に言った言葉だったが、ピーチの精神が快復したことはしたので、棚からぼた餅だった。

閑話休題。

「あ、ありがとう…」

「どういたしまして」

ピーチの椅子を先に引いてやれば、ピーチはそんな──言い方はあれだし、〝ごっこ遊び〟の域を出ないのだが〝レディーファースト〟みたいな感じに扱われる事に慣れてないのか、顔を朱に染めている。

……確かピーチは、この店に元カレと一緒に来にくかったと言っていた。そこら辺からピーチの元カレの気質が何と無く推測出来る。多分だが、ピーチは元カレからぞんざいに扱われていたのだろう。……あくまで推論の域を出ないが…。

「美味しいものを沢山食べても現実(リアル)では太らない。……VRMMOを開発した茅場 晶彦は、乙女の味方で──そこだけは良い仕事をしたと思うよ。……まぁ、あくまでも〝そこだけ〟なんだけどね」

「〝そこだけ〟かよ」

「……うん…。初恋の人が【SAO】に囚われちやったから」

「リアル情報リアル情報」

「あ、ごめんごめん」

悲しげに仮想の空の果てを見ながら、リアル情報を──無意識かは判らないがそう溢すピーチに諫言(かんげん)すると、ピーチは悪びれも無く謝る。

……取り敢えず、ピーチとは〝うっかりリアル情報溢される〟くらいに仲良くなれた、【GGO】二日目の事だった。

SIDE END 
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