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剣士さんとドラクエⅧ

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78話 死闘

「くくー……る」

 すべての頼りであるククールがやられてしまったなんて。手酷く、すら生ぬるい表現だ。巨体に飛びかかられ、体を地面に叩きつけられ、鮮血を地面に、そしてアルゴングレートの白い腹に飛び散らせて。結われた銀色の長い髪が赤く染まっていく。みるみる、染まっていく。ククールの一番近くにいたトウカの掠れた声が虚しく響き、その生死を危ぶませる。

 でも、流石というかトウカは何時までも呆けてなんていなかった。あの巨体に吹き飛ばされ、ククールが気絶する前にかけられた回復呪文で、一人、癒しきれていない体で、大剣を投げ捨てて彼女は、大剣より短く細い腰の剣を両手で構えて突っ走って、深々と腹を切りつける。連撃が、遠慮の消し飛んだトウカの攻撃はアルゴングレートの体の一部をミンチにする。アルゴングレートの、僕達の返り血で染まった腹をアルゴングレートの血で染め上げていく。

 そして、当然ながら痛みと怒りで滅茶苦茶に暴れるアルゴングレートの周囲から大きく距離を取って僕達は退避した。トウカも、回復魔法に専念できる者がいない今、駆けてきた。気絶したままのククールを背負って。

「エルトッ」
「勿論」
「任せたッ!」

 つまり僕が……ククールが仲間になる前のように魔法を使う番だ。使えない王子が逃げ出すことも出来ずに右往左往するのを邪魔に思いながら飛び出していったトウカ、後ろに続いたヤンガス、何時もより距離をさらにとった後方のゼシカをみんな把握しなくちゃいけない。

 優先すべきは一番の重傷のククールの回復。出来ることなら起きて復帰して欲しいけど、今はそんなことすら願っている暇はない。取り敢えず命の危機を何とかすべきなんだ。

 ……僕にはククールのようにまとめて皆の傷を癒す「ベホマラー」は使えない。ククールばっかりに構っていられないのが歯がゆい。ベホマを唱えている瞬間にもヤンガスがしっぽの攻撃に当たり、ヤンガスを癒せばトウカが飛びかかられてふらついている。

 急がないと、と考えている間にも盾さえ捨ててトウカが斬りこみ、噛まれそうになっては避け、次にヤンガスが斧で切りかかるフリをしてうまく尻尾を捕まえて抑える刹那の間にトウカが切り刻み……と前衛の素晴らしいコンビネーション。

 二人の素晴らしいコンビネーションも、ヤンガスが尻尾を受け止め損ねれば骨が何本も砕かれる大怪我に繋がるし、たとえ受け止められても腕が無事では済まないだろう。斬り込んでいくトウカだって無事では済まなかった。この方法をする前よりは怪我は減っていたものの……。

 それも……すべて僕の手にかかっている。削りきるか、全滅かも。なんて重いんだろう。みんなの命を預かって……前衛で預かるのとはまた違う重みだった。

 息ぴったりにゼシカが前衛二人の間をぬってメラミ、隙を見てメラゾーマを次々叩き込み、その上バイキルトやピオリムで補助をしてくれる。……攻撃魔法はあまり効かないのか、火が効きにくいだけなのか、あまり良いダメージにはなっていないようだけど。

 普段はここまで距離が離れていればまず怪我の心配はしなくていいけどさっきみたいに飛んでこられたら……なんとか出血を止めて回復を終えたククールの二の舞になってしまうので警戒を怠れず、彼女の表情も普段より険しく見えた。

 ともあれ、息をつく暇がないほどの魔法を唱えるしかなかった。だんだん、頭がぼんやりとしてきた。考えすぎと同じで魔法の唱えすぎのせいで頭が焼ききれてきたんだろう。

 足りなくなってきた魔力を補うために魔法の聖水を飲み干すも、本職と違って僕じゃやっぱり完全に代わりは出来なくて、さっき折れたらしいヤンガスの腕を治しきれない。動きがそこはかとなく鈍いトウカを元気にできない。万全ではない二人の制止を押し切って迫ってくるアルゴングレートから逃げればせっかく魔力を回復しても走りながらじゃ唱えられない。

 こんな時ククールなら逃げながらでもベホイミを口ずさんでいたというのに……彼はなくてはならない存在って分かってたけど、今ひしひしと感じる……。情けない……。

・・・・

 がぶりと肩を、噛み付かれて。幸い利き腕ではなかったから、右手の剣を突き刺して抵抗はできたもののどんどん視界は霞んでいく。斬りつけても斬りつけても無尽蔵な体力を持っているのか、赤い化物の土壇場は終わらない。戦闘は長引き、治りきらない傷だけではなく疲労までもが私たちを支配していた矢先の、私の失態。

 本来はメインのはずの王子?戦闘のどさくさ紛れに三回はアルゴングレートに思いっきりぶつけたけど、今はどっかいっちゃったね!のたれ死んでない事だけを祈る!どうでもいい!

 抵抗してもどんどん深々と肩に牙がくい込んでいく。痛みの脂汗が頬を伝っていき、抵抗できる力もなくなっていく。不気味なその目が私を射抜いて、絶望すらちらりと感じて。らしくない!

「あ……ねき!」

 ヤンガスの、全力の一撃がアルゴングレートの背に直撃するも、びくともしない。それはそうだ、ヤンガスの豪腕は噛み付かれた傷でずたずた、エルトの回復は間に合わなくて、全力とはいえ化物には大したことはないだろう……助けてくれようとするその本気の気迫だけはとても、嬉しい。

 肩から伝って、左手の手袋にたっぷりと染み込んだ血が限界を超えて地面にぼたぼたと零れ落ちていくのがこんな状況でもはっきりわかった。赤い血が……ククールの血と同じように地面を汚していく。私の突き刺した剣の傷からもアルゴングレートの血が溢れでていて、一面地獄絵図だ。地獄よりひどいかも、なんて笑えない冗談。

 人間は激痛に慣れるのかな、それとも冷静になっていくのは死にかけているから?脳内麻薬の出すぎかもしれない。後ろから飛んでくる回復魔法なんてこの状況では焼け石に水でしかないのに不意に痛みが引いていった気がして、執念深く私を離さないアルゴングレートを私は「素手で小さい手をもいでやった」。餅でも引っ張ったみたいに簡単だった。

 ギャァァアアアアッッ!!!!

 醜い雄叫びが、いや単なる悲鳴が木々や岩を揺らすように鳴り響く。痛すぎてハイ、としか言いようもない私は剣を拾い上げて暴れる化物の首に突き刺す。今度はバターに穴を開けるぐらい簡単だった。……それでもこいつは生きている。なんて生命力。せめてアルゴンハートを寄越してくれたら逃がすのに。

 血が足りない。視界が暗い。ふらふらする。分かってはいるけど休憩なんてできないし、これでも生きてるこいつを殺さなきゃ安寧なんてない。ドルマゲスはもっと強いだろうからこんな所でやられていられないのに!

 全体重を、全力で。流石に地に伏せたアルゴングレートを踏み砕く。その頭を、脳みその在処を。頭を砕かれて生きていた生物……この程度巨大な生物なら、いまいとばかりに本気で。

 ぐしゃり。音としては、パン、となんだか軽い音。

 大量の脳漿が噴出する。の割には手応えはくるみを踏んだ時よりよっぽど軽くて風船を踏みつぶしたような感じ。私を中心に吹き上がる液体。血よりも吐き気をもよおしそうな惨状が出来上がっていく。どろりとブーツを汚し、巨体は地に沈んでいく。……最初からこうすればよかった?

 その時私はうっかり忘れていたことが二つあったんだ。ひとつは……天然記念物アルゴリザードを殺さないようにすること。そしてもうひとつは……貧血のときに無理に動いたらどうなるか、ということ。

 私の意識もその瞬間、遠のいていった。二人分の面倒を見なきゃいけないエルト……頑張ってね。
  
 

 
後書き
アルゴングレート「そこまですることある?」

トウカも戦線離脱……勝利済みなので問題はありません。

めちゃくちゃ頑張ったエルトがククールの代わりを出来るか、と言われれば無理なのです。あと五分でも長引いていたらトウカ→ヤンガスと崩れ、ゼシカが飛びかかられて一撃でやられ二分後ぐらいにエルトがやられ肉壁チャゴスがその十分後ぐらいになぶり殺しにされていたかもしれせん。彼、耐久力(HP)だけは竜神王より優れています。

というのもエルトでは回復が間に合わず、またベホマの発動がそこまで早くもないのでダメージが蓄積していきます。魔力もそこまで高くないので、さらに魔力回復に時間を取られる上に。

一方、普段のククールは即発動のベホマ、一秒間に三回ぐらいベホイミ(全方向発射)、ベホマラーも即発動、ザオラルの機会はなかったもののやったとして十秒でやってしまうチート僧侶を想定してるので。タンバリンとは言わせない。(多分叩きながらこれができる人物)

満身創痍、まさに死闘。

勝利後の状態でだいたい察してください。

トウカ→気絶。瀕死。最後のはやけくそ。全治3ヶ月ぐらい。もっとかもしれない。肩からの血が止まらないけど案外タフなので生きてそう。
エルト→しばらくホイミも無理なほど。頭の回路焼き切れそう。それは普段のククールがやってるんだ?真似できるか!なぎ払いのダメージが残っている。
ヤンガス→両腕ずたぼろ。肋骨はヒビ。でもまだ動ける……執念で。
ゼシカ→唯一無事?なぎ払いのダメージが残っている。しかし魔力は枯渇。
ククール→言わずもがな気絶。蹴ったら起きそう。悪夢でも見てそう。傷は完治。
チャゴス→アルゴングレートに、トウカに全力でボールのようにぶつけられて精神的に摩耗。肉体的に無事なのは流石化物揃いのサザンビーク王家。 
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