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剣士さんとドラクエⅧ

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73話 鬱憤

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 クラビウス王がなんとかチャゴス王子を納得させて、私たちは出発することとなった。

 ふんぞり返った王子(馬鹿)。その容姿は絵画通りと言えるのは服装と髪色と眼の色ぐらいのもの……だと、客観的に思うね。あ、私の一意見だよ?トウカのね?トウカ・モノトリアとしてはそんなこと言わないよ?仲間内でのトウカは別だけどね?つまり、王子の目の前以外はって訳だけど。悪口なんか言う気はない。口が腐る。ちょっと事実を述べるだけさ。

 絵よりも私よりも小さい身長に、体の幅はエルトの二倍はあるであろう太りっぷり。顔に関しては顔面偏差値が五十あるか怪しい私が言っても仕方が無いから何も言えやしないけど、ククールみたいな色男と並ぶと哀れ?我ながら酷い言いようだ。そして、偉そう。実際、偉いけど。でも、戦場においてそれは致命的じゃない?私みたいな、オフでは野蛮な剣士にいらっとされたらどうするの?公式の場では紳士たれと振る舞うけどさあ。

 ああ大丈夫、依頼されたからには……依頼されたからには、ちゃんと護衛だってするし、失礼のないように振る舞うさ。ちょっと手が滑るかもしれないけどね、そこは私、人間だし?

 ……お前はどうやっても紳士になり得ないってそんなことは分かってるけど。

 さて、形ばかり、自己紹介させてもらおうか。

「大国サザンビークの後継者であられるチャゴス王子の、栄えある護衛……(わたくし)、『トロデーンの』トウカ・モノトリアは誠心誠意お護りいたしますことを誓いましょう」

 胸に手を当てて、軽く一礼。護衛は今、この玉座の間でもやっているつもりだ。だから膝をついてなんて隙ができる敬い方は出来なくても仕方ないよね?それに一番この場で敬意を払わなくてはならないクラビウス王も咎める様子もないしさ。……こういうことだよ、なんだかんだと理由をつけて、この馬鹿にわからないようにするっていう、ね。

 ちなみに私がモノとリアである以上、「トロデーンの」を名乗らない方が怪しまれるものだから名乗っただけね。全てはトロデーン陛下のために、王家を存続させよって、有名だから。

「うむ」
「こちらは私と旅をしております、右からエルト、ヤンガス、ゼシカ、ククール。いずれも腕のたつ……」
「ああいい。さっさと出発だ」

 ……。

「では、ご朗報をお待ち下さい」

 イライラを飲み込んで、私は軽く微笑んだ。ああ、前途多難だ。主に、私の衝動をこらえるのが。今まで幸運なことに敬うべき人々は尊敬に値する人、ばかりだったから余計にね!

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 本当はここで陛下にも姫にも私の偽りを明かしたい、ところ。でも、今はちょっと邪魔者……は、言い過ぎだけど、部外者がいるもんで、言えない。軽く一礼し、護衛任務の経緯を説明し、さっさとこの任務を終わらせるべく出発するしかなかった。

「王家の山まで、少々その馬車の中でお待ち下さい」

 さぁて暴れるかと大剣を引き抜き、何故か顔の引き攣っているチャゴス王子に恭しく言っておく。ちゃんと、姫や陛下に負担のかからない全速力で向かうから安心しなってことだ。まぁそれでもサザンビーク兵に任せるより安全で速い保証はする。

「えっと、トウカ……?」
「ん?」
「単騎突撃ってことでいいのかな……」
「いやいや、しないさ。この馬車を守らなくちゃいけないだろう?」

 わざわざ馬車から見えないところで戦うよりよく見てもらわないとね。目を塞ぐとか耳栓するとかも別に勝手にしたらいいとは思うけど……まぁ、慣れていらっしゃる陛下や姫には見せてもまぁ平気でしょう。ちょっとだけ怖がってもらいたくて。温室育ちなんだから社会経験を、ね。

 お……丁度いいところに魔物が……一、二、三……いやいや、数え切れないねぇ、見渡す限りのこの広い広いフィールドに蔓延っているんだから。さぁさぁ、危険だけど楽しいショータイムの始まりじゃないか!私の本領発揮ができるんだ、張り切っていこうね!

 好奇心半分か、少し馬車の幌の隙間からこちらを覗いていたチャゴス王子にとっておきのサービスとして、他のマージマタンゴより大きくて見栄えのいいやつを選んで一刀両断し、バイキルトのかかったダンビラムーチョの一撃を素早く躱しつつその首をすぱっと迅速に刈ってみせた。

 ……ううん、我ながら刺激が足りないね。でも必要ないのに切り刻むっていうのは……好きだけどさ、敵が多すぎるんだよね。

 ゼシカから飛んできた味方のバイキルトに感謝しながら続けてその、ダンビラムーチョの腹の贅肉と見せかけた筋肉にしゅっしゅっしゅっと深々切り目をつけてみたり、飛んできたヘルコンドルの羽根をばっさりむしってみたりと踊ってるみたい、と自分でも思う。

 そのうち、ざくりと一際しっかりとした手応えを感じて思わず口角が持ち上がった、とそこまでは自分の表情を把握していたのだけど……そこからは我慢の限界、というか。一応ライティアのしょぼいドルモーアを浴びていた日だというのに存分に暴れ回った私は、服にシミ一つ付けることなく随分遊んだみたいだった。みたい、なのは後半が無意識だったから。

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「あは!」

 アルトの高さの声は変声器が低く歪めているだけだと、知った。

 相変わらず焦げ茶色の髪が彼女の右半分の白い顔を覆っているが、浮かべているいっそ狂気的な笑みは遠目からでもしかと分かった。これはこれは……今日も、随分と楽しそうだ。勇ましいのはなりよりだと現実逃避じみた言葉が頭の中でちらつく。

 既に鮮血に染まっている巨大な刃が日の光にぎらりと煌めき、次の瞬間には血を噴水のように流した無惨な魔物の姿だけがそこに残っているのだ。たまに囲まれて一撃を入れられたとしても誰かしらの……主に俺だと思うが……回復魔法にすぐに元の俊敏な動きを取り戻し、にこにこと笑いながら礼を言う。

 その間にもざしゅ、と気持ちのいいほど潔の良い剣撃は邪悪な生を散らしていくのだ。すぐに青い光となって消えるとはいえ、魔物の内臓やら異臭を撒き散らす肉片やら、どす黒い血やらを間近に天使のような笑みを浮かべる彼女は戦乙女にふさわしく……。

「どうしたの、ククール。目が死んでるわよ」
「……あ、あぁ」
「回復魔法、変わってあげれたら良かったわね。でもあたしには出来ないから頑張れとしか言えないけど……」
「心配はいらない、ありがとう」
「……、エルト、休憩入れましょう」

 なんだというのか。休憩!と小さな姿になったトウカの方にエルトが叫べば瞬く間に彼女はこっちに帰ってきて、きらきら光る笑みを浮かべたまま疲れちゃった?なんて聞くのだ。……俺は夢でも見てるんじゃないだろうか。昨日まで、トウカは男で、この感情は夢で血迷っただけだと思っていたのに。

 彼女が彼女だと分かった瞬間、これか。ある意味では自分に呆れるほど。

 でも現実は非情であり、彼女がぼんやりしたままの俺を見て、心配して背負おうか、なんて申し出るほど腑抜けていると思われるほど。彼女を護るナイトになれるのだろうか、と叶いもしないようなことに対する願望がちらつく。

「あ!」
「どうしたの、トウ……」
「ククールのおかげで腕持ってかれずにさっき済んでさ!いつもありがとうね!」

 あの馬鹿力にバイキルトなんてずるいや、と地団駄を踏みながら彼女は俺を見上げる。

 ……ククール、しっかりしてよ。

 同じくアルトの声が飛んできたが、悪いがトウカの話を聞いてもその幼馴染みの話まで聞く気は無い今、スルーさせてもらった。

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