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没ストーリー倉庫

作者:海戦型
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御使いのいる家 ぱ~と2

 
 現在――俺(こと、ミツル)の過ごす世界では三月も後半……中学一年生から二年生になるまでの進化待ち時間、春休みの時期を過ごしている。春休み、嗚呼春休み、春休み。俺は春休みをたっぷり堪能するためのダラけ期間に胸を膨らませていた。

 ところがそんな日常は余りにも突然に砕けていくわけで。

「例えこの部屋を掃除しようとも地球全体の汚れから見れば意味のない行為……宇宙から見ればそれは砂粒以下に等しい行動なのですよ。そんな無意味な行為にどうしてミツルは拘るのです……?」
「黙って掃除する!そもそもこの部屋が汚れてるのは全体的にサクリファイ姉とテンプティが散らかしっぱなしで片づけないのが原因なんだぞ!?つべこべ言わずゴミ袋にゴミを詰め込めいッ!!」
「片づけなくともマクロな視点から見れば意味がない……」
「サクリファイ姉がよくとも俺が嫌なんだっつってんの!!他人の意志は尊重するっ!!」
「私の意志は聞き入れてくれないのに………」
「いつもいつも一人の意見ばかり尊重する訳ないでしょ!甘ったれないでやる!」

 サクリファイ姉は渋々ながら緩慢な動きで部屋のゴミをゴミ袋に詰め込む。この人、前に個人的我儘で地球の時間の流れを停止させようとしたらしいが、自分が止まったりしないだろうな。
 まったく、サクリファイ姉は全面的に甘ったれだ。こっちの言う事を聞いてないような人の意見が人間社会で尊重されるわけが無かろうに。アドヴェント曰く、そーいう空気読めない所が御使いの残念な所のようだ。まぁこいつらが誕生した経緯を考えれば当然の事だろう。唯でさえ個々が自分勝手な人間の意識を集合させて出来た意識なのだ。言ってしまえば偏りまくったエゴの集合体。そりゃ人の話を聞かない訳である。

「御使いって進化したのかもしれねーけど進歩はしてない訳ね」
「いえ、進化どころか真化にも失敗してますので………はっ!そうです、私にはミツルのことをどうこう言えるような存在ではないと当の昔に分かっていた筈なのに口答えを……嗚呼、何と傲慢な……!これではミツルが怒りを覚えるのも当然の帰結!自分で自分が哀しい………」
「あー、はいはい哀しい哀しい。分かるからその哀しみをゴミと一緒にポイしようね?」
「はい……………大丈夫です、落ち着きました」

 力なくしなだれかかってくる残姉さんを助け起こして頭をなでると、暫く身を任せた後にゆっくり頷いて作業を再開した。
 唯でさえ行動が遅いのに隙あらば哀しみはじめる……だからあんたは残姉さんなんだ。一度落ち込むとこうして慰めてやらないといつまで経っても立ち直らないので、最早手伝わせた方が面倒くさい気がしてきた。最初は美人なだけにちょっとドキッとしたけど今じゃすっかり介護気分である。
 と、別動隊のアドヴェントがいつも通りさわやか笑顔で戻ってきた。

「ミツル!不燃物を回収ボックスへ送り届けて来たよ!それにしてもこの文明は資源の無駄遣いが多いね?この調子ではいずれ数多のマウンテンサイクルが築かれてしまいそうだ。まぁ、その規模になる前にドクトリンの怒りが爆発しそうな気もするけどね!」
「あー、容易に想像できるな。とはいえ、あいつも我が家の立派な粗大ゴミなんだが……」

 基本的に、今のこの家ではアドヴェント以外の3人は単なる邪魔で小うるさい金食い虫である。いっそ名前を変えて「浪費のテンプティ」「残念のサクリファイ」「文句のドクトリン」とかどうだろう。俺としては全く違和感がない。

「じゃ、アドヴェントはコンロ掃除やっといて!油でギトギトだから!」
「了解した!コンロか……ふむ、汚れが堆積しているな。ブルーが見たら『料理人の聖域に何てことを!』とさぞ嘆いただろうね」
「誰だよブルーって?」
「私の部下だった男だよ。正義感が強く、イタリアンシェフとしてよくその腕を振るってくれた。食もまた生きているが故に感じられる喜び……彼の犠牲は今もこの胸にあるよ」

 ……そういえばこいつら、激おこ連合と戦争して負けたんだったな。ってことはそのブルーってのは御使い側の味方だった訳か。こいつらも色んなものを失って戦ってたんだなぁ。

「……アレ?そいつ何でお前の味方に付いたんだ?イタリアンシェフってことは地球人だろ。激おこ連合側につくのが普通じゃね?」
「私の『世界を救う』という理想の為に誘ったんだよ。勿論喜んで迎え入れてくれたよ」
「で、調子に乗って神になろうとしてフィーバーした挙句に5分でタコ殴りにされたの?なっさけない奴……」
「グッ………並行世界のアムロ君と同じことを……!」

 そう、こいつの『至高神Z』とやらの天下はなんと戦闘開始から5分で終了してしまったらしい。それまでに散々の犠牲を出しておいて5分K.O.とか激おこ連合が凄かったのかこいつが弱かったのか分かったものではない。
 聞いた話だと御使いは人としての死がなく「生きる意志」を失ったために、生命の輝き全開の激おこ連合とは根本的に相性が悪かったそうだ。おまけに神になる為に強引に色んな意志を取り込んだ結果、取り込んだ中でも謀反を起こされて計画はどんどん瓦解。昇った頂点から転げ落ちるようにしてここに来る結果になったことを考えるとダメダメな奴だと言えなくもない。

「加えて言うなら、アドヴェントの勧誘とは人間の精神に干渉して洗脳状態にすることです。結局それがZ-BLUEの感情を余計に逆撫でする結果になりましたし、何よりアドヴェントは人が死んでも生きても『喜び』ですから……」
「うわー、ないわー……他の連中をクズニートとか言ってたけど、ひょっとしてお前が御使いの中で一番クズなんじゃねーの?」
「ググッ………御使いとなって失った筈の自己嫌悪の棘が心臓に……!」

 ゴミ詰めしてたサクリファイの思わぬ追撃に反論できなくなったアドヴェントはショボーンと肩を落としながらコンロを黙々と掃除していた。激おこ連合さん見てます?これがかつての神(笑)の姿ですよ。やぁーねぇー惨めだったらありゃしない。慰めてやろうかとも思ったが、やってきた事が事だけに反省させといたほうがいいだろう。

「嗚呼、アドヴェントから深い哀しみを感じます……しかし不思議です。彼の哀しみを見て、私の胸の内から哀しみとは異なる輝かしい感情が溢れてくるような………これが失った人間の心、『喜び』なのですね!」
「それ絶対なにか間違った喜びだよ!?」

 どことなく血色のいいサクリファイ姉が今までに見たこともないくらい弾ける笑顔を浮かべている。やだ、絶世なまでに綺麗だけどなんか怖い……。残姉ちゃんも何だかんだでぞんざいに扱ってくるアドヴェントに恨みを持ってたんだな、と思わせられる瞬間を目撃してしまった俺であった。



 = =



 時に、アドヴェントは以前「生活基盤を作ってお金を手に入れる」という旨の発言をしていた。
 大絶賛タダ飯食らい中の御使い共を抱える我が家の家系は火の車なので、この行動指針は素直に有り難いと同時にこれまでの損失分の補てんを期待される重要な話である。

 という訳で、ある日俺は御使いの外出先を尾行して確認することにした。
 なお、残姉さんは全くと言っていいほど外出しないのでお留守番である。とりあえず郵便物を受け取る方法は教えてあるし。唯一の心配事は通販や押し売りで変な物を買おうとしないかということだが、そこはアドヴェントのオシオキの効果を信じるしかなかろう。

 まずは一番働きそうな喜び厨、件のアドヴェントだ。自分勝手ではあるが一応ながら俺の意志を尊重しているし、我儘言い放題の他と違って色んなことに肯定的なこいつならばなんとかする筈。
 そんな期待の籠った俺の尾行に、アドヴェントは笑顔で手を振ってきた。

「……モロバレしとるがな」

 改めて。

 流石にモロバレだと恥ずかしかったのでアドヴェントは諦め、今度は淫乱ピンクの追跡をすることにした。淫乱ピンクめは俺の財布を片手に街に繰り出している………俺の財布!?咄嗟に自分の鞄に手を突っ込むと、いつものポケットに入れてある財布がない事に気付いて愕然とする。

「あいつとうとう俺の財布から金を抜き取らずに財布を堂々と持って行きやがった!!」

 これはマズイ。あの財布にはクレジットカードなどその他諸々の全財産を利用できる要素が集まっている。このまま放置すれば、最悪の場合俺の家は2日後に食糧難に陥って全滅する可能性がある。こうなってはもう尾行どころではない。一刻も早く奴を捕縛しなければ!

「ゴルァてめぇテンプティ!?何を人の全財産堂々とパクッてやがる!?」
「げっ、ミツル!?やばっ、財布パクったのがバレたんだ………!逃っげろぉぉぉーーーっ!」

 こっちに気付いたテンプティは猛ダッシュで闘争を開始。俺とテンプティのチェイスバトルが始まりを告げた。くそっ、人間辞めてるせいか見た目に反して結構足が速いぞ。

「いや~ん!変質者が追いかけてくるぅ~!誰か助けてぇ~!!」
「てめ、卑怯な手を!!……だがいいのか!?そんなことを言っているとアドヴェントにチクってしまうぞ~!?」
「ヒッ!?だ、駄目だよそんなの卑怯だよ!もぅ、何でアドヴェントはテンプティじゃなくていっつもミツルの味方ばっかりする訳!?」
「ハブられたことを未だに根に持ってんじゃね?」
「何でよ!!ドクトリンと違ってテンプティ謝ったじゃん!!いっぱい謝ったじゃん!!御使いは人間で言えば家族以上の存在だから許してくれてもいいじゃん!大体元はと言えば皆がテンプティを遊ばせてくれなかったのが悪いんだもん!テンプティ悪くないもん!!」
「はぁぁぁっ!?そんなガキみたいな言い訳通るか!!」

 清々しいまでに幼稚な自己正当化に、俺の中で何か虹色の種みたいなのが弾けた。
 見える、見えるぞ奴の動きが!今ならできる、ライダーの18番が!

「遊ぶんなら……自分のお金で遊びなさいキィィィィーーーーックッ!!!」
「きゃああああああああああああああああああああッ!?」

 スーパーなイナズマのように流星の如く炸裂した衝撃の飛び蹴りが直撃し、テンプティは財布を手放して盛大に吹き飛んだ。
 飛び蹴りから着地した俺は、くるくる回りながら落下してくるマイ財布を掴んでフッとニヒルに笑う。直後、吹き飛んだテンプティが先にあった公園の池の中にバッシャアアアアン!!と頭から突っ込んだ。
 
「ザマぁ見ろバーカ!俺の財布に手を出した報いだ!」
「うう、酷いよぉ……テンプティはぁ、楽しみを司る御使いなんだよぉ?ミツルみたいな人間と違って楽しいかどうかだけが存在意義になって生きてきたんだよぉ……?テンプティは遊べなかったらテンプティじゃなくなっちゃうんだからね!!」
「知るか。楽しみたいんなら自分の財布で遊べ!」
「じゃあサイフ買って!!」

 無言でテンプティの頭をポカッと殴った俺は悪くねぇ。「イタっ!」と悲鳴を上げたテンプティは、叩かれた頭を押さえながら頬をぷくっと膨らませて非難がましい目で俺を見つめてきた。しかしそんなあざとさ全開の顔したって無駄です。例えそれに加えて噴水の水で服がスケて下着が丸見えになっていても、俺のアーマーマグナムは決して暴発しません。
 そう、俺は御使いと違ってシンカしているのだ。決して「服が上手く着られません!」と助けを求めてくるサクリファイ姉の下着姿を見慣れたせいで異性への感覚がマヒしている訳ではない。あの人本当に手間かかるな……。

「ぶー。つまんないのー……」

 俺の反応が芳しくないのに気付いたテンプティはなにから不思議な力を使って全身から滴る水分を振り払った。あれが多分御使いの力なのだろう。しょーもない事に使いおって、そんな使い方が出来るんならもっとお金になる事に使えよ。世の中には稼いだお金を借金返済に持って行かれ続けて苦しんでる人もいるんだぞ。
 
「こっちの世界には『揺れる天秤』の適合者(リアクター)候補がいっぱいいるんだね~」
「???……よく分からんが、多分何かが違うと思うぞ」
「はぁ~……ゼータク計画もパァかぁ。なんか走ったから疲れたしお腹減った~!なんか食べて帰ろ~?」
「お前らの所為で金がないってのにムダ金が使え――」

 るか、と言いかけた刹那、グウ……と腹の虫が反乱を起こした。
 よりにもよってこのタイミングでの謀反。何故だ、何故なんだ胃袋。お前とはお母さんの腹の中にいた頃からの長い付き合い、古女房みたいなものだろう。どうして、どうしてこのタイミングで裏切ったァァァーーーッ!!
 チラッと横を見ると、テンプティが愉悦と期待の入り混じった目で口元を押さえている。こいつ、肩を震わせて笑いをこらえてやがる……!途轍もなく癪な話だが、事ここに到ってテンプティの意見を突っぱねるには胃袋の分が悪い。
 一つ大きなため息をついた俺は、財布の中身と相談してなるだけ低予算でお腹を満たせる計画を立てた。

「……………ここから二件先にミニドーナツの美味しいベーカリーがある」
「買ってくれるの!?わぁ~い!ミツルだぁ~い好きっ♪」
「畜生負けたぁっ!!って、ちょっとお前、くっつくな!!もし万が一同級生に見られたら春休み明けにあらぬ誤解を……引っ張るなっつーの!!」

 こうしておやつにドーナツを買い、ついでに慈悲の心で他の連中分のドーナツも買ってあげたその帰り道で。

「ぬう!こんな所にまで空き缶を捨ておって!まったく度し難い……なんだこの煙草の吸い殻の山は!さては灰皿の中身を車から捨ておったな!ええい、まだ『獣の血』の途上とはいえ何故こうも自分の星を汚せるのだ!!」
「ドクさん、そろそろ集合時間ですよ?」
「先に行っておれ!我はこの雑木林の塵を全て駆逐するまで戻らぬ!!」
「ど、ドクさん……何が貴方をそこまで掻きたてるのです!?ただの町内会のゴミ拾いですよ!?」
「愚か者!!この街は我が君臨する地であり、貴様等の過ごすはじまりの地でもあるのだぞ!?それをこのような薄汚い塵で汚したまま過ごすなど怠慢極まりない!!我はこの強い怒りを以ってこの町を世界一美しき町へと作り変えるまで活動を辞めぬッ!!」
「ど、ドクさん!!アンタって人は……心が汚れた俺達には色々と眩しすぎるぜぇぇぇーーーッ!!」

 禿げ頭で太陽の光を反射しながらゴミ袋片手にトングを振り回すドクトリンと、それに付き従う町内会ゴミ拾い部の姿があった。その姿は異様なまでに一生懸命で、テンプティの記憶からすると第4位くらいに感情が輝いていた。

「………い、意外な所を見ちゃったね?」
「………そ、そうだな」

 なお輝き1位はアドヴェントに命乞いをするところで、2位は元悪逆皇帝に道連れにされそうになった時、3位はZ-BLUEの面々に「お前らがバアルの正体だよ!」とキレ気味に指摘された時だ。
 考えてみればドクトリンは御使いの中でも職務には誰より忠実で完璧主義的な部分がある事を思い出したテンプティは、「1億2千万年一緒にいても知らないことってあるんだね……」としみじみ呟いた。
  
 

 
後書き
次があったら御使いの心の内に関してちらほらと。 
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