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剣士さんとドラクエⅧ

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24話 破壊

 閉じ込められた檻の中、格子をぶつぶつと分析する声だけがこだまする。勿論ただの鉄の格子じゃないからだろうけど、何でやってるんだろう。分析したら破壊できるものならやってるんだけど。

「……これはボクの剣と同じ、魔耐金属。たしか、常時強制マホトーンだね……その上物理攻撃にも強い謎の金属だ」
「そういう技術は防具に生かせって思うけど、こういうのは何故か出回らないね……」
「……パワーバランスが崩れたり、犯罪者が蔓延るからじゃよ」

 会話は割とのんびりしている内容だけど……僕たち武器抜いてるからね。トウカは片手に大剣、僕は槍。ヤンガスは斧でゼシカは短刀。前髪でトウカの顔は見えないけど、相変わらず脱色状態のまま怒りのオーラは目視出来そうだ。……客観的には僕も似たり寄ったりなのは自覚してる。

「そうですか。ちなみに私の武器の金属はだいたいそれですので扱いはわかります」
「……そうか」
「私に魔法が使えなくなるというデメリットは効きません。むしろ武器を奪われた場合には相手の魔法を封じますからメリットですね……さてと」
「……牢を壊す気かの?やれるならばやってしまえ」

 それが出来るものならやって欲しいな……僕もヤンガスも試したけど出来なかった。びくともしないこの格子、……トウカなら破壊できるよね、そうだよね。その魔耐金属の大剣で是非ともね。

「これなら素手で可能かと」
「……え」
「……」

 これ見よがしに指の関節をコキコキさせてからトウカは、自信満々な宣言通り牢をいともあっさり、ぐにゃりと……曲げた。それはもう、ちょっと力を込めました、みたいな勢いで。……ねえ。出来るならそれ、最初からやってよ。

「……しかし、問題はあります。外に出ることは出来ません。……扉以外を通り抜ける際には雷撃が発生しますから」
「そうじゃな……それを無効にすることは出来ないのか?」
「私は魔法系統に弱いので……方法は探れますが、実行に移せません」

 何でそんな、修道院側しか知らない様な事知ってるのかな……。

 って、その雷撃が起こるの分かっててなんで手を突っ込むの!

「まぁ、こんな感じですが」

 捻子開けた格子に手を差し入れてさっと引いてみせた。トウカの手を掠めて雷撃が落ちる。青や黄色の雷が撒き散らされた。

「これの解決策としては格子全部か扉自体をぶち抜くことですが」
「……勿体は要らぬぞ」
「やれますが、相当大きい音を立てないと無理ですよ?流石に間違いなく人が来ます……。…………あれ、人が来ましたね。この足音は、ククールさんです」

 確かにコツコツと靴が鳴る音がしてきた。確かにこっちに近づいてくるのが分かった。……個人特定は勿論僕には出来ないけど。

「……よおし、あいつの目の前で格子を破壊してやろう……あはは、見捨てた仕返しぃ」
「……陛下、これからトウカが格子をぶち抜いたり引き裂いたりしますからどうかお下がりください」
「……うむ」

 トウカの言葉通りに現れたククールさんが、「どうしてか」明らかに捻れて引きつれてる格子の前で訝しげに立ち止まった瞬間、ニヤリとこっちを見て笑った、トウカは絹でも裂くかのように……でも、親友として贔屓目に見ても全力で格子をねじり開けた。ご丁寧にも扉部分を。

 目の前でとんでもない技を見せつけられた哀れな被害者ククールさんは、目を丸くして固まってしまった。何となくゼシカをちらりと見れば、ややトウカに慣れたぐらいでは駄目だったのか、やっぱり固まっていた。さっきから静かだったから、最初にこじ開けた時からかもしれない。ヤンガスはまだマシではあったけど、それでも口がポカンと開いていた。

「……あはは、ククールさん。あんな恩を仇で返すなら……器物ぐらいは破壊するよ?脱獄なんて目じゃないんだから……」
「嗚呼……俺の初恋よ……」
「……ん?まだ破壊が足りないかい?なんか言った?」

 何かククールさんが呟いたような気がするけど、あまりにも小さな声だったからよく聞こえなかった。

「……力の種はいくらお召し上がりになられましたか?」
「失礼な!ボクは生まれてから一個だけ味見したことならあるけど、力は自分でつけたよ!」

 トウカは憤りを隠せないように格子を叩いた。その度、めきょっと、そんな音がする。……あぁ。また格子がぐにゃぐにゃと曲がっていくよ……。ねえ、手袋はしてるみたいだけどそんなことをして手は痛くないの?流石のトウカでも、そこまでとんでもない力を出しているのを見たこと無いんだけど……。本気で怒っていて我を忘れているにしては言葉が柔らかめだから……何だろうな。最早ふざけてるよね。……また強くなったのかな?

「……そうか」
「ボクは物心がつくや否や剣をとったんだ!毎日毎日一生懸命走って体力をつけて、筋トレは体の成長を阻害しないギリギリまでやったんだ!……それでも今はそれはもう残念な身長で止まっちゃったから気にすることなく全力でやってるし!今だって服と防具と武器で最低二百キロはあるんだぞ!生きてるだけで筋トレなんだぞ!」
「……すごいな」
「……あーー……トウカ、鉄格子のドアをバキバキに折らないで、こっちに飛んできたら危ないよ」

 こう、トウカが鉄格子を掴んで後ろに引っ張るだけでバリバリ外れる訳だ。圧倒的な力ってさ……魔法とか建築技術とか、そういったもの、常識とか摂理とかみんな吹き飛ばしてしまうのか……ははははは。

「よいしょっと」
「……嘘だろ。鉄格子を……素手で壊して……」
「あ、鍵持ってきてくれていたんですか、ククールさん」
「あぁ……」
「友人が完全に破壊してしまって……すみません」
「いや……理不尽なマルチェロの奴が悪いからな。それにあんたたちは俺の頼みを聞いてくれた」

 達成感に溢れた顔でしたり顔をしているトウカに呆れる陛下を背景に、一気に胃か頭が痛くなったであろうククールさんに謝った。

・・・・

「……トウカのお陰で牢からは出れるけど、これからどうするの?」
「あの野郎に侮辱されたままなのは嫌でがす」
「あはは……ボクはあいつなんかほっといてドルマゲスを何とかしたいけどね」

 彼女……いや、正しくは彼、か。トウカは冷ややかに笑いながら粉砕した格子だったものを踏み砕く。ああ、どうして俺は彼の性別を見誤ったのか。どうして剣をレプリカだと勘違いしたのか。彼は紛れもなく強者であり、人外とも言えるほどの力を宿している者だったのに。

 心奪われた、可愛らしい顔に昨日と変わりはない。俺よりも随分と小さな体にも違いはない。何故か分からないが髪が俺と同じ色に、目はアメジストの輝きに変わってしまっていたが変わらず俺の心臓を不規則に跳ねさせるトウカは……まぁ、簡単に言ってしまえば俺より余程強い男だったわけで。

 俺は…………どうすればいいんだ。男に走るつもりは毛頭ない。一時の気の迷いだったのか。その割には彼のアルトの声が優しい少女らしいものに感じれてしまう。勿論、声は隣のレディより低く、何で勘違いしたのかと思う。

 それから心を半分持って行かれたような気持ちで一行を外へ出した。此方を哀れむような、面白がっているような青年エルトにポンと肩を叩かれたり、縄梯子を見て目を丸くしたトウカに目を奪われてとっさに自分を殴りそうになったりといろいろした訳だが。まあ、些細なことだ……間違いない。

「脱獄を助けてくれてありがとう」
「いや、いいんだ……それ以前にあんたならやすやすと脱出出来ただろ?」
「ボク……何時も鉄格子を壊せる訳じゃないよ?今日はたまたま調子が良かっただけ……ん、今日は気絶とかしてるし調子は良くないか。どっちにせよ、たまたまだったんだ」

 たまたま?調子が良かったから?いや……違うだろう。普段から出来ないことが出来る時は俺だってあるが、鉄格子を破壊することは調子が良くても無理だ。

「……何か力が出るんだ、でも変化といえば髪の毛と目の色が変わったくらいだけど」
「……戻るといいね」
「戻らなかったらボクはドルマゲスを倒しても帰れないよ……父上にも母上にも、ご先祖様にもない紫色なんて持ってたらさ……」

 会話を半分聞きながら一行と馬を小屋から出した。紫色に煌めく目も綺麗だと素直に言えたら良かったが、生憎と彼はそのまま「彼」なのだから言えるはずもなかった。初対面の時に目が奪われたその微笑みにいきなり口説きにいって、手酷くホモ野郎のレッテルを貼られなくて本当に良かったと思う。

 見れば見るほど少女めいた微笑みを浮かべる彼……あの怪力がなかったら誰だって間違うものじゃないのか。今もただの少女にしか見えない。……背中の剣を見なかったら、だが。

 だが、彼の仲間は誰も彼も彼を当たり前だが男として扱う。だからこれは間違ってないのだ。そう思っておく。自分の目を、もう信じられない。

 そして多分、これからもう彼に会うことはないはずだ。

 そう考えて、マイエラ修道院を振り返る。俺の、居場所のない、住処……だが、敬愛するオディロ院長の居る……。

 その、マイエラ修道院に、火が上がっていた。血の気がザァッと引くのだけが、無音になってしまった、モノクロの世界で認知できた。

・・・・
 
 

 
後書き
制作秘話。

本人の言うとおり普段からトウカは鉄格子を破壊したり引き裂いたり出来るわけではありません。普段なら全力でも曲げるぐらいが限度です。変色効果です。

ちょっとお話すると、頭が痛いなどの体調不良にはある条件下のみです。基本的には力が上がります。

魔耐金属=〇〇を唱えた!しかし不思議な力でかき消された!のアレという事で。

繰り返しますが、同性愛描写はありませんし、偏見はございません。多分ククールがこうなったらこう考えるかな、という勝手な想像です。 
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