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剣士さんとドラクエⅧ

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1話 「彼」

「トウカ、ちょっと待ってよ!」
「はははは、これから念願の兵士になるのにボク如きについてこれなきゃいけないな!」

 ふはははははと可笑しな笑い声を上げながら徐々に遠ざかっていく、僕の親友、僕と同じく新兵のトウカ。

 トウカの言うとおり今日は僕らのトロデーン兵入隊式だ。でも同年代でもぶっちぎりに体力馬鹿で身体能力がこれまたぶっちぎりに高いトウカに足の速さで勝てというのは凄い無茶ぶりじゃないのかとは思う。僕は決して身体能力が悪くはないはずだけど、彼と比べると誰もが負けていると言うだろう、まぁ……お察しな身体の力しか無いんだ。

「ちょっと待ってよーー」
「やだねっ!」

 たったの一瞬だけ振り返ってキラッと黒色の左目を輝かせたトウカは更にぐんぐん遠ざかっていく。早くに出たんだから、別に普通に歩いても絶対に遅刻でも何でもないのになんで僕らは大衆の場で徒競走をしなくちゃならないの……。

「そこはノリだよ!」
「考えていること分かってるのっ?!」
「長年の付き合いさぁ!ふはは!」

 ぜいぜいと息を切らして走る僕と散歩でもしているかのように涼しい顔をしたトウカを、道行く人々は微笑ましいような生暖かいものでもみたようなような目で見てきた。とっても恥ずかしい。しかもその大半が顔見知りという…………。ああ、これは後でからかわれるな……。

「着いたよ!」

 にぱっと輝かしい笑顔のトウカが少し憎たらしい。頭半分程身長が低いトウカが実に憎たらしい。今まで僕よりも短髪だった髪を何故伸ばし始めたのかは知らないけど、伸びかけの髪の毛を風になびかせてどや顔をするトウカが憎たらしい。

 この前、大事なことは三回言うべきだとトウカが言っていたっけ……ああ現実逃避。今すぐにでも地面に突っ伏したい。そうするわけにはいかないのは勿論分かっているけど……。

「ここが宿舎かぁ」
「……新しい家か」
「ボクは家から通うけどね」
「トウカは家が近いからなぁ」

 ようやく息が調ってきた僕はトウカと軽口を叩きながら取り敢えず宿舎に入る。トウカは暇なのかここに来なくてもいいのに付いて来た。ここに彼は用がないから。

 その、親友のトウカ。この宿舎は王城の一部にあるわけだけど、彼に必要がないのは城のすぐそばに住んでいるから。それも城下町の中の貴族町の、一番立地の良いところで。どんと他の貴族の邸宅を霞ませるほど大きな家に住んでいる。何度招かれて行っても決して慣れることはない所。

 つまりトウカはお偉い貴族様の息子。……いや、お偉いどころじゃ済まなくて、世界でも一番って言っていいぐらい偉いところの。

 彼の名前はトウカ・モノトリア。

 世界に轟く名家にして、古代人の末裔の一族と呼ばれる貴族の……一人息子。

 こんなの聞いたらむしろトウカが兵士とか傭兵を雇うんじゃないかって突っ込みたくなるんだけど、トウカの家は特殊なんだ。多分、知らない人はいないと思うけど。

 モノトリア家は代々トロデーン王家を守り抜く騎士のような存在で、トウカの父君は現トロデーン陛下を、トウカは姫様……ミーティア姫を護るとされている。トウカの母君は城まるごとを結界で守護している魔術師。

 そして護る地位すらも自分で獲得しにいくんだ。例外は女性で、普通は結婚を優先するんだけど……今代は一人しか子供がいないから、関係なく騎士になるそうだ。でもトウカの母君の様子を見ていたら結局王家を守りに行くんだとは思うけど。性別も大丈夫だから気にすんなとも言っていた。最初から気にしてないよ、トウカ。君は男じゃないか。 誰よりも勇ましいし……。

「おっ、エルトの坊主じゃねぇか」

 いきなり後ろから声をかけられて振り向くと、そこにいたのは城の入口を守る門番の人。何度か話したことがある顔見知りの人だ。髭の似合う大柄な兵士。宿舎に居たのは休憩中なのか、これから入隊式だから?

「あんなに小さかったお前さんが兵士になるとはなぁ。俺も年をとったもんだ」
「お久しぶりです」

 そう彼は過去を懐かしむように目を細める。それをどこかぼんやり眺めているトウカが、視界の端でつまらなそうな顔をしていた。どっちかというとトウカは兵士を遠巻きに眺め、命令する立場だから個人的な知り合いが少ないって前にこぼしていたのを思い出した。

 その時に遠巻きって、真ん中で守られる側ってことだよね?って聞いたら、逆だと言われた。兵士が魔物退治で戦う最前戦よりも前で父君と二人突撃しまくっているらしい……モノトリアってなんなの。間引きって大事だよって……貴族だよね?あの、威張って兵士を顎で使っている側の……?

「こっちはお前さんの友達かい?同期のようだが」
「……初めまして」

 無感動な声で挨拶したトウカはさっと僕の背後に隠れてしまった。トウカって人見知りじゃなかった……よね?何やってんだか。身長的にすっぽり隠れるねって、そうじゃない。

「ははは、こっちの坊主は人見知りだな、これからよろしく頼む!俺はバートランド・ヘッスだ。お前さんの名前はなんて言うんだ?」

 あ……もしかして。目立たないようにしてたんだな、トウカ。本人にその気がなくても大きすぎるネームバリューが邪魔するからなぁ。
 
 例えば真剣勝負でも影で八百長を疑われたり、八百長を疑え無いほど圧倒的に勝っても妬まれたり。そんな風な腫れ物扱いはトウカ、大っ嫌いだから。でも、先に名乗られてから名乗れと言われたらトウカは同時に名乗らないことは絶対にない律儀な人間。ああ……これは。

「ボクは……トウカです」
「…………モノトリア様とは」

 心底嫌そうな声で取り敢えず名前だけ名乗ったトウカと、一瞬にして察して一気に表情が固まり、声を無理矢理絞り出したような門番の人。その顔に緊張の色。同時になんでお前は普通に接しているんだ、不敬だと訴えられる。

 僕はトウカの両親公認の友達で不敬罪は問われないし、先輩後輩としてだからそういうのを気にしたらトウカが本当に可哀想なんだけど……この考えがあるのはトウカとの付き合いが長いからで。何にも知らないと、まぁ僕もこうなったとしか言えないや……。不必要に敬われるとトウカは限界まで機嫌が悪くなる。だけど、こういう扱いこそが本当は当たり前で、僕とトウカの関係こそがおかしくて。

「ボクは確かにトウカ=モノトリアですが、エルトのただの友で極普通の新米兵士ですから」
「…………しかし」
「どうか、エルトのように接して下さりませんか」
「…………しかし、ですな」
「あの、トウカが震えているんでお願い出来ますか」

 何故か昔からトウカは妙な所でメンタルが脆い。人間関係が特に。だからといって簡単には泣き叫んだりはしないけど、十八の大の男が簡単に震えないで欲しい……いや、それ以前の問題だ。十八にもなって友達の後ろでぷるぷるしないでくれよ……。小動物さながらに。とても扱いにも反応にも困る。

「……ぶっ」
「っ?!」
「なんだ、かの有名なモノトリア様がどんな方かと思えば可愛らしい子供じゃねえか!はっはっは、悪いな、トウカ!これからは気にせず接させて貰うさ」

 トウカはそれを聞くと僕の背から飛び出し、恐る恐る門兵さんを伺い始めた。……取って食われたりしないってのに、同い年のはずがこういう時だけは幼い子供みたいで困る。

「怖がらせたりしないぞ?」
「……ええ、分かっています、……先輩」
「怯えてこっち見ないでよ」
「エルトの薄情者……」
「ははっ、見捨てたか?」
「あはは……いいえ?見捨てたりしませんよ」

 先輩と笑い合いながら、おどおどとするトウカを少しだけ生暖かい目で見た。

 でも、僕は知っている。こんなトウカは大の大人が何人飛びかかっても勝てないほどに強かな剣士であることを。門兵のおじさんも、勿論それを知っている。でも、彼は笑みを引っ込めることはもう無かった。
 
 入隊後の初訓練でトウカは八つ当たり気味にボコボコにされたのはまた別の話だ。その時のトウカは憮然としたまま半笑いという器用な真似をしていたとだけ記しておく。

・・・・
 
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