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異世界にて、地球兵器で戦えり

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第六話 中間地点の都市を占領せよ

エルメスはファルマート大陸の南に存在する湾岸部にある二つの島である。ここを海上拠点として、エルメス近くのファルマート大陸付近に基地も建設しており、そこを帝国の侵攻に対する足掛かりとしている。そもそも、どうして戦力に限りがあるのに、各拠点・都市を占領するにも訳がある。この異世界では、敵の首都を航空戦力の爆撃だけで攻撃しても意味がないからだ。

本来なら港町のエルメスや、エルメスに近い都市を拠点として、後は航空戦力で帝都を爆撃すれば済む話ではあるのだが、帝国も含めてこの世界では、王族によって権力が一本化していると思われがちであるが、実はそうではないのだ。

貴族と王族の微妙な戦力バランスがあり、例え王国の拠点ともいえる首都をいきなり爆撃して機能停止に追い込んでも、直ぐに降伏するとは限らないのだ。首都から離れている有力貴族たちの力が健在であれば、王族に変わり自分達が新たな国の支配者であると騒ぎ出し、余計に混乱する事態になりかねないのだ。実際に、王族の力が貴族を抑えるだけの力があり、権力が一本化していれば問題なく戦略爆撃を実行に移して、敵の降伏を待てばいいが、王族と貴族のパワーバランスが微妙な国ほど厄介でしかたなく、降伏するどころか決起を起こして独自に軍を起こす場合がある。アカツキ帝国も、アビス大陸で戦争中にて、そのようなパターンに嵌ってしまった事例が多くあり、無意味な戦力投入による戦果の拡大にともない無駄に伸びる戦争の延長戦。

このような泥沼に嵌りたくないアカツキ帝国は、彼らの軍事思想に伴い、分かりやすい都市や領地の占領という選択をして、王族と貴族の戦意挫く作戦を選択している。占領後の維持費も馬鹿にはならないが、変に独自に貴族達が決起を起こして戦果を拡大して泥沼に嵌るよりは、分かりやすい占領という形で彼らの戦意を無くすようにしているのだ。


ーーー。

イタリカとエルメスの近くに位置する都市フラークは現在、帝国のアカツキ帝国討伐隊の再編成で忙しかった。そのため、平時ならばそれほど滞在するはずもない帝国兵士や植民地より強制的に連れてこられた兵士達も混ざって数1万を超えている程の戦力だ。航空戦力でも翼竜の数も多かった。

「これだけの数の兵士が、この都市に集まる事ってあったか?」

「ねえよな」

いつものように歩哨として立っている帝国兵士は、アカツキ帝国との戦争に対して特にやる気が見いだせていなかった。そもそもこの二人は、農民出身で年中侵略戦争を続けている帝国の兵士募集が行われて、これに参加しているに過ぎないからだ。自国が戦争に負けそうだと分かっても、別に帝国に対して愛国心など微塵も感じておらず、ただ兵士になれば戦場に出ると言う死と隣り合わせな仕事ではあるが、三食の飯はでるし、給料も下っ端でもそこそこ給料が貰えるので参加しているに過ぎないのだ。

「司令官、アカツキ帝国の兵士を殺せば金貨1枚は、出すっていってもな……」

「そのアカツキ帝国の兵士が、ここに攻めてこないんじゃ話になんねえよ」

これも兵士達のやる気が見いだせない理由の一つだ。何しろ最初はエルメスの港町を占領した後に、その付近の町や都市も占領はしたが、そこから全く動きがないのだ。いつ来ると言う緊張感は、最初のうちはあったが、しばらくすると攻めてくる気配を感じる事がなく、今のような緊張感が欠けた状態が続いている。


「アカツキ帝国兵士は一人一人が、スゲー魔導師だって聞いたぜ」

「それ本当か?」

「逃げ帰った兵士から聞いたから本当だと思うぜ」

そんなうわさ話をしながら時間潰す二人の若い帝国兵士。そもそも、戦争に勝ったからといって平民出身の二人の生活が劇的に変化するわけでもない。例え平民出の自分が戦場で功績を立てても、自分達が所属している貴族の隊長様の功績になるので、特にやる気を見いだせないのだ。

戦争中でもあるのに穏やかな空気だが、それは突然として敗れる事になる。

それは、アカツキ帝国軍が保有しているレシプロ戦闘機、攻撃機の烈風と流星の攻撃隊がフラークに攻撃を仕掛けたのだ。突然のロケット弾と爆弾投下の攻撃により建物が爆発していき、突然の攻撃に都市にいる兵士達はパニックを起こした。

「敵だ!」

「何だ。何かの魔法か!!」

先ほどまで平穏な空気は、突然と殺伐とした戦場の空気に包まれる事になる。アカツキ帝国空軍の烈風と流星は最優先攻撃目標の馬舎と龍舎を破壊していく。ここに待機していた馬と翼龍は死亡、もしくは致命傷を負い暴れまわり、馬舎と龍舎の馬と翼龍を暴れるのを抑えるようにする兵士達もいたが、たいていが突然のアカツキ帝国の空爆により、浮足だって事態を修正するものは少なかった。

そもそも、この都市は軍事都市としての機能は備えていたが、度重なるアカツキ帝国の敗北により多くの士官、下士官となる兵士が戦死してしまい、そのため士官、下士官不足が起きており、練度もお粗末な物であった。そのため、事態を収拾して直ぐに戦闘態勢を取ろうとする部隊もあったが、大抵が寄せ集めの新兵であった為に、指揮系統は混乱していた。

「弓だ!弓で射落とせ!」

帝国指揮官の命令を聞いて弓をもった兵士が、空にいる烈風と流星に向かった矢を放つが、速度が軽く600キロを超える烈風と流星に照準を揃える事も出来ずに、何より弓では烈風と流星の高度に届くはずもないので、帝国兵から放たれた矢は届くことはなく、無残に地面に落ちていく。

そんな弓兵の攻撃に気がついたアカツキ帝国航空隊は、20mm機関砲の雨を降らせていく。

だが、彼らの地獄は始まったばかりだ。空の攻撃が終われば、今度は帝国にとっての地上の地獄の使者が、彼らに襲いかかる。アカツキ帝国 第六戦車大隊が到着したのだ。見た事もない戦車が、馬より速い速度で突っ込んでくる光景に、空爆で生き残ったフラークの帝国兵達は恐怖する。そして1式戦車から発射される90mm砲の一斉射撃による轟音と、着弾の大爆発の威力に更に戦意を挫かれた。

「ひ、ひい!」

「ダメだ!こ、殺される!」

「もう嫌だ!」

そもそも、ここに滞在する大半は帝国植民地より徴兵された兵士と兵員募集で来たばかりの新兵で固めらえている。そんな彼らに、真面な対抗手段もない状況で、見た事もない攻撃方法と兵器に対処しろなど無茶もいい所であった。

敵うはずもないと判断した彼らの行動は早く、直ぐに武器を地面に捨てて、両手を上げて降伏の意思を見せるのであった。


「大隊長。敵は武器を地面に捨てて降伏の意思を示しています」

「降伏を受諾する。だが、油断するなよ」

第六戦車大隊の隊長である島崎一騎中佐は、敵の降伏勧告を受諾した。こうしてエルメス付近とイタリカの中間地点となる都市の制圧を完了したのであった。だが、ここの敵司令官は空爆が一時的に止んだ所を見計らって部下を捨てて既に逃げている報告が入っていた。その取り巻きとなる大貴族もいなく、大抵が下級貴族の士官と下士官だけであった。

ーーー。


「フラークを落としたか」

アカツキ帝国国防省にある作戦会議室にて、フラークの占領が完了した事を健太郎は確認した。

「ここまで占領すれば、流石の帝国も講和派の人間が増えるでしょうな」

「そうすれば、イタリカを占領する事もないでしょう」

「ですが、まだ主戦派が優勢ですね。講和派の筆頭格ともいえるカーゼル侯爵の動きが目立ちますが、やはり主戦派の筆頭のモルト皇帝を抑える事は出来ていないようです。」

元々、侵略戦争を常識化していた覇権国家であるため、そう簡単に講和派が増えるとは思っていなかった。実際に、モルト自身がいきなり和議を締結するような動きになれば、今まで支持していた主戦派貴族に何をされるか分かっているので、モルトの気持ちは分からないが、そう簡単に方向転換は起きないだろうと判断した。

「いくつもの都市と拠点は制圧して、帝国に対する外圧はかなりの物になったはずだ。ここで、少しはこちらの武力を、後方でのんびりと過ごしている皇族や貴族達に分からせる頃合いだ。」

健太郎の言葉に、四軍の高級士官たちはニヤリと笑う。

「帝都に対して、警告爆撃を実行に移せ」

それは、帝国の帝都であるウラ・ビアンカに対する空爆命令であった。

ーーー。

「ようやくこいつの出番が来たぜ!」

「絶対に成功させるぞ!」

エルメス航空基地にて三機程の大型機が、今飛び立とうとしていた。

アカツキ帝国の戦闘機、攻撃機とは明らかにサイズが違う大型の航空機。それは地球世界で、B-52と呼ばれるアメリカ空軍が運用する戦略爆撃機である。このB-52は、アカツキ帝国命名で52式爆撃機という名で正式配備されている。管轄は空軍ではなく、特軍となっている。

この52式爆撃機で、敵の帝都を爆撃するという任務に選ばれた特軍パイロットは興奮していた。

「よし、発進するぞ!」

機器を確認して発進準備は完了する。

「発進!」

二機の大型爆撃機である52式爆撃機は、エルメス航空基地より飛び立つ。


飛行からしばらく経過すると、先行偵察に出た偵察隊の地図を確認して帝都に到着する。

「機長。帝都を確認しました」

「いよいよだな。念を押して言っておくが、市街地にだけは爆撃はするな!爆撃目標は、皇宮、元老院といった重要拠点のみに限定しろ。二番機、三番機にも伝えろ!」

「了解です!」

帝都に侵入した爆撃機隊は、爆撃進路に入る。これに、既に帝都に侵入しているアカツキ帝国兵士達のレーザー誘導を受けて、爆撃目標を確認した。

「爆撃目標を確認!」

「投下!」

高高度より精密誘導が可能なJSOWを投下して爆撃した。次々と帝都の重要目標を爆撃していく爆撃隊。その正確無比な爆撃で、帝都の重要拠点は吹き飛ばされて、がれきの山と化していた。

「爆撃は成功だ!」

「よし!」

爆撃を完了した爆撃隊は、仕事を終えたら後は用はないといった様に直ぐに帰投したのだった。この攻撃で、帝都の住民は、帝国貴族が神の怒りを買ったのではと恐怖しているが、帝国貴族は、この爆撃の実行犯をアカツキ帝国であると理解していた故に恐怖した。

こんな何も抵抗も許さずに、帝国が誇る皇宮を破壊つくす術を持っている事に恐怖を覚えたのだ。これで、帝国の中に講和派が増えるのだが、だがこれによりアカツキ帝国も予想もしない帝国の暴走が起きるとは、この時点では、誰も予想できなかった。

 
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