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ソードアート・オンライン~ニ人目の双剣使い~

作者:蕾姫
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暗黒領域の流儀

竜に跨がったユウキは地面に降りると、その竜を見た方向に視線を向ける。それに倣い、俺もそちらの方向に目を向けると確かに竜の様なシルエットが三つ、徐々に大きくなっている。

「誰か乗っていたか?」

角度的に、地上からは誰かが乗っているかは見づらいのでユウキに聞く。もしかするとあの倒した騎士がなにかしたから来た増援の可能性もある。

「うん。遠かったからちょっと自信はないけど、竜の上になにか乗ってた気がするよ。ね、リューちゃん?」

ぐるる、と同意するように鳴くリュー。……もう定着してしまったな。

「そ、それってあの騎士みたいに襲ってくるってこと……だよね?」

恐る恐るといった感じでレアはユウキに聞き返す。俺とユウキからすれば扱いやすかったが、レアからすれば自身よりも強い相手だったのだから仕方ないだろう。実力が同じであるという保証はどこにもないのだが。

「襲ってくると決まったわけじゃないが……。まあ、先の騎士の様子から察するに襲ってくるだろうな」

あの剣幕だ。種族的に敵対しているに違いない。まあ、ああやっていきなり襲ってくるのは極少数だろうが……。だろうな?

「そ、それなら早く逃げるか隠れないと……」

「どこにだ?」

今俺達の居る場所は荒野の真ん中。丈の低い草は疎らであり、所々に小さな木が生えているだけの不毛な地。とっさに隠れられる場所など、どこにもない。

「ついでに言えば今更逃げ隠れしても無駄だと思うぞ?こちらから見えたということはあちらからも見えているということだ。恐らく、すでに捕捉されているだろう」

日本人の視力なんてたかが知れているだろうしな。真っすぐこっちに向かって飛んで来ているのがいい証拠だ。

その言葉を聞いてレアは青ざめる。

「レアは下がってろ。まあ、心配するな。たとえ襲ってきても俺とユウキが守ってやる」

その言葉にレアの頬の色が青から赤へ。そしてユウキがジト目で俺を見てくる。

「……相変わらずだね、リン。いや、当たり前のことを言ってるんだろうけどさ。現実世界(リアル)に戻ったらしののんに言い付けてやるんだから……」

別に疚しいことは言ってないから恐れることはないのだが、何故か少し寒気を感じた。

先程までピリピリとした緊張感に包まれていたというのに、一気に柔らかくなってしまった空気を引き締めるために、ユウキとレアに目配せしてから指を動かしつつ竜の飛ぶ方向に視線を戻した。

もうすでにはっきりと形がわかる位置まで来ている。数は3。上には騎士を乗せている。

鎧の意匠は先程斃した騎士のものとほぼ同じ。つまり、同じ組織に属しているものだと断言して構わないと思う。これは救援に来たと見て間違いな。

つまり、完全に敵だ。原因がどうであれ、一人を殺めてしまっている。ここで引くようならば、組織の威厳が消えてしまうから。

いつでも剣が抜けるように構えながら、竜を見ていると、竜はこちらの手前、十メートルほど開いた場所に着陸した。どうやら奇襲をかけてくることはなく、先程とは違って対話もできそうだ。

降りてきたのは男性が二人に女性が一人。その内の一人の男性が前に出た。立派な体躯に浅黒い肌。切り揃えられたチョビヒゲが実直ながらどことなくユーモラスな雰囲気を放つ。

もう一人の男はその男性とは逆に軽薄そうな見た目である。一応鎧は着ているものの、騎士というよりはチンピラに見える……が立ち振る舞いに隙はない。

最後の一人である女性は長い髪を風に靡かせ、凜とした様子で立っている。いかにも真面目そうで、創作でいう女騎士とはこういう人物を指すのだろう。

「俺は暗黒騎士長、ビスクル・ウル・シャスターだ。とりあえず、此方に攻撃の意志はない。武器を納めてはもらえないか?」

そう言ってビスクルは腰に帯びている剣から手を離す。女性の方は少し躊躇ったものの、二人とも追随する。

それを見て俺達も剣を鞘に納めた。いざとなれば抜けるように手を添えてはいるのだが。ユウキも俺に同じ。レアだけは完全に武器から手を離してしまっている。

「ありがとう。……さて、二、三聞きたいことがあるのだが……構わないだろうか?」

わざわざ確認を取ることもないだろうに。軽く頷くことで肯定する。

「まずは、何故この場所にいる?肌が白い人族は門の向こう側にのみ存在しているものかと思っていたが……」

「気がついたらこちら側だったんでな。理由は聞かれてもわからない」

自分で言っておいてなんだが、説得力ゼロである。理由もなしに常識を改めろ、と言っているようなものだしな。これならばスパイですって言った方がまだ説得力がある。

「なるほど……。信じたい、とは思うのだが、俺にも立場があるのでな。簡単には信用することはできんのだよ」

まあ、当然といえば当然だな。ビスクルともう一人の男性は読み取れないが、女性の方は明らかに疑惑の目をこちらに向けている。

「ならどうする。剣で語れとでも言うつもりか?」

ダークテリトリーは世紀末だからな。なんでもこれでまかり通りそうな気がする。

「なっ……」

女性は驚きの声を上げるが、声をかけた男性は面白そうに顔を歪めた。

飄々とした男性はやはり表情が変わらない……が少し目が細くなった。一番の食わせ者はこいつだな。

何か文句を言おうとした女性を手で制し、ビスクルは一歩前に出る。

「確かにそれが手っ取り早い、な。ここはダークテリトリー。気は進まないが、力こそすべてだ。それに、来るべきベルクーリとの戦いのためのいい糧となりそうだ」

「そのベルクーリとやらが誰なのかは知らないが……仕合おうというなら是非もない。だが、俺を糧としたいならそれ相応の実力を見せてみろ」

その言葉を最後に、ビスクルは自身の長刀を引き抜き、正眼に構えた。呼応して、俺も一本の剣を引き抜き、下段に構える。

その俺の構えを見て、ビスクルは訝しげに眉を動かす。

「……もう一本は使わないのか?その構え、本来はもう一本の剣も使うと思うのだが……」

不自然に空いた左側から推測したのか、目線がそちらを向いている。眉を潜めたのは手加減されていると思った故の不信感からか。

「……殺し合いならともかく、これは仕合いだ。確かに俺は二刀流だが……だからと言って一本で戦えないわけではない。むしろ、こちらの方がいい時もある」

最初から二刀流を使うよりも片手が空く分、さらにトリッキーな戦いができるのも事実。まあ、基本的に二刀流を使うのだが。

「なるほど……後悔はするんじゃないぞ」

そう言うとビスクルの表情から感情の色が抜け、能面のようなノッペリとした様子になると、そのままこちらに踏み込んでくる。

正眼から上段へ。構えを変化させながら間合いに入ると、先ずは小手調べと言わんばかりの肩口を狙った斬り込み。それを半身になってかわしながら下段からの腕を狙った斬り上げを行う。しかし、それは予想していたようで即座に引き戻した剣で受け止められる。キィンという硬質なものと硬質なものがぶつかった音を聞きながら身体を回転させ、近くに居たビスクルに肘で打撃を加える。この攻撃は予測できなかったようで僅かに浮かべた驚きの表情と共にビスクルの身体が宙を飛ぶ。

加えた力以上に飛んだのはビスクルが上手く受け流した証拠である。距離を空けて、仕切なおすつもりだろう。追撃しようと思えばできたのだが、これが殺し合いならともかく、仕合いでは意味がないだろう。

「……さっき言った言葉を訂正しよう」

構えを崩さないまま、口を開く。

「さっき、ベルクーリのための糧と言ったな。……どうやら、相手の力を侮っていたのは俺の方の様だ。だからこそ、改めて言わせてもらおう。挑ませてもらう、と」

「なら、その姿勢に応じよう」

二本目の剣を引き抜いて、肩に。いつもの構えを取った。

「……参る!」

再び表情を消すと、こちらに走りこんでくる。先程と同じ軌道、同じ踏み込み。だが、先程とは違い、多少力が抜けている。こちらの対応によって柔軟に対策しようとする考えだと見る。

だから俺はあえてその誘いに乗ることにした。

受から能へ。受けるために少し斜に構えていた剣を手前に引き寄せると、こちらから踏み込んで間合いを詰めた。

「なっ……っ!?」

特殊な歩法によって即座にトップスピードに移った俺の突きにビスクルは虚をつかれたように声を漏らす……が、ビスクルもさるもので咄嗟に突きを払うように剣を動かした。

そこに俺の、斜め上からの袈裟斬りが襲い掛かる。

先程がギリギリだったのだろう。咄嗟に下がるビスクルだったが、俺の剣は浅くビスクルを傷つける。

「……!」

だが、そんな傷等関係ないとばかりに下がった身体を翻し、こちらに向かって踏み込んでくる。静かな呼気とともに放たれた斬撃は真っすぐで……とても読みやすかった。

「……俺の負けだ」

紙一重の位置でかわした俺はそのまま剣をビスクルの首元に突き付けている。もう一本の剣はビスクルの振り切った剣を抑えており、抜け出せるよりも先に首をはねることができるだろう。

「完敗だ。俺は君達を信用しよう」

負けた後なのにも関わらず、どこか満足げな様子だった。戦闘中は希薄だった感情が戻ってきている。

その様子はどこにでもいそうなちょいワル親父であった。

対して女騎士の方はこの結果が信じられないようで未だに固まっている。先程、ビスクルは騎士団長と名乗っていたので、彼女の中ではビスクルは最強の存在だったに違いない。

最期の騎士は飄々とした顔はどこへやら。こちらを見定めるような視線を隠さないようになっている。

「それにしても、まさかここまで強いとは思わなかった。少々増長していたようだったな」

「いや、そうでもない。その真っすぐな剣を使うやつが知り合いにいてな。慣れていたということもある」

キリトの剣は騎士の正統な剣とは違うが、剣筋が真っすぐなのは同じだ。まあ、キリトのはあくまで実戦の中で鍛えられた剣であり、やりにくさという点ではキリトの剣の方が数段上だろう。本人が真っすぐな性格をしているため裏をかくのは難しくはないのだが。

「それに、俺の剣は邪流だ。正統派の騎士剣では相性が悪いだろう」

言い方は悪いが教科書通りの騎士剣である。多少はアレンジしてあるだろうが、それも誤差の範疇であった。正統派は往々にして自分と同じ土俵では滅法強いのだが、そこから外れると弱い。ただ、どちらも全力は出してない以上、どうなるかはわからないが。

「そうかも知れない。実際にそんな剣は見たこともなかったしな。だが、負けは負け。君達がスパイのような存在ではないことを信用しよう」

好感の持てる人格である。こういうサッパリとした人物は嫌いじゃない。 
 

 
後書き
蕾姫です。

一応リンは片手剣でも戦えるんだよーってことを示そうとしたんですが、中途半端になってしまいました。ビスクルさん、いい人そうだったのに原作の登場シーンが短くてこのような登場になってしまいました。この話、執筆時間がちょっと中抜けしていることがあり、ちぐはぐになっているかもしれませんが……うーん。

主人公VSビスクルですが、どちらも本気であっても全力ではないとだけ言っておきます。ようやく話が進みますのでお楽しみにしていただければ幸いです。

感想その他お待ちしています。 
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