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魔法少女リリカルなのはINNOCENT ブレイブバトル

作者:blueocean
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DUEL15 届く声、失う心

「何なんだこれは………!!」

ふらつきながら何とか立ち上がる桐谷。
相手の零治は先ほどはボロボロだったはずなのに今ではそれを感じさせず、まるで全て回復したような快調な動きをしていた。

「この……ぶっ!?」

斬りかかりにいき、逆に拳を貰う。仕掛けても攻撃が通らない。

「ふざけ……ぐっ、がはっ!?」

足を掴み。倒そうとするが、直ぐに払われ、一歩的に蹴られ、踏みつけられる。

「はぁはぁ………」

桐谷の動きはどんどん悪くなっていく。

「ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな!!!ああああああああああ!!!!」

叫んだところで桐谷の思考がいきなりクリアになる。怒り、負ける事への焦り、そして恨み。様々な感情が入り混じっていたが、それが嘘の様にすっきりし、1つの思いだけが残った。

(負けられない……!!)

「!?」

全く表情を崩さなかった零治の顔が少し動く。

「………」

先程とは違う桐谷の雰囲気に零治は攻撃を止め、距離をとった。
互いに互いを無表情で見つめる2人。

「「!!」」

同時に地面を蹴る。そして2人の戦いは佳境へと進んでいく………












「何だ……これは………」

ディアーチェはそう呟きながら息を飲む。
ディアーチェだけではなく、ダークマテリアルズの4人だけではない。その戦いを見ていたプレイヤー全員がその戦闘を注目していた。

「もうスキル使ってないよ………」

ユーリが怯えた様子で呟く。画面の2人は動きが良くなってから1度もスキルを使っていない。

「2人の何がここまでさせるのでしょうか………?」

普通なら既に終わっている勝負だ。だが、勝負は終わらず、倒れては立ち倒れては立ち、そして今の状態となった。

「違うよ………そんなのどうだっていい!!」

そんなシュテルの呟きに反論したレヴィがシュミレーターの方へと向かう。

「レヴィ!?」
「何をしておる!?」

「2人を止める!!」

そう言ってレヴィは中へと入っていく。

「なら我も………」
「駄目だ!!」

珍しいグランツ博士の怒鳴り声にディアーチェはビクっと反応し止まった。

「アミタ、レヴィは?」
「駄目です、ゲームに参加します!!」
「くっ、早めに釘をさすべきだった………」

苦々しい顔で博士が呟く。

「……一体何があったのです?」
「………あの戦いはハッキングされ、ダメージがフィードバックされる様になっている」
「ダメージがフィードバック?」
「………簡単に言えば刀で斬られれば斬られた痛みが発生する」

それを聞いて3人の表情が変わる。

「それじゃあレイとレヴィは!!」
「痛みを感じるが、実際の身体には害は無い。だけどもし急所をやられ、死につながる痛みが発生すれば………」

それ以上は何も言わなかった。言わずとも3人には分かったからだ。

「では早く止めなければ!!」
「今抗体プログラムをアップロード中だ。それまではこっちの操作を受け付けない。しかもプログラムの進行スピードが遅い………間に合ってくれれば良いんだけど………」
















「リライズアップ!!」

何時ものジャケットに変わると一目散に零治の元へ向かう。

「レイ〜!!」

そして直ぐに2人の姿が見えた。


「「………」」

2人ともゾンビの様に倒れては立ち上がり、倒れては立ち上がりと戦いを続けている。

「もう、やめろーーー!!」

バルフィニカスを大剣へと変え、2人の間に割って入る様に振り下ろした。

「こんなのおかしいよ!!ブレイブデュエルじゃない!!!」

レヴィが2人に叫ぶが当の2人はレヴィの話を全く聞いていなかった。

(駄目だ……今のこの2人、互いの事しか目に入っていない……!!)

「止めて!!もう止めて!!ボクの声を聞いて!!!」

大剣で一旦止まったものの、2人は直ぐに戦い始める。先程明らかに限界だったが、今はどんなに攻撃を受けても衰える事はない。

「雷光輪!!」

雷の輪で拘束しても直ぐに解き、2人はまた戦う。

「止めて!止めてって!!レイ!!!」

名前を呼んでも零治の反応は無い。

「レイ!!!」

耐えきれずレヴィが零治に飛び込んだ。

「レイ!レイ!!目を覚まして!!!」

正面から零治に抱きつくレヴィ。邪魔そうに振り解こうとレヴィは離れない。

「レイ……!レイ……!!」

中々離れないレヴィに零治が拳を振り上げた。

「レイーーーーーー!!!!」
「!?」

身の危険を感じつつも逃げないレヴィの力一杯叫んだ声に零治が反応し動きが止まる。

「………レヴィ?何でお前………」
「レイ!!!」

嬉しさのあまり、レヴィが涙を流しながら零治を抱き締める。

「レヴィ、痛い………」
「レイが悪いの!!だから文句言わない!!!」

そう言って離れようとしないレヴィ。困った顔で取り敢えずこのままにした。

「しかし俺が悪い………?俺は一体……!!」
「えっ?」

不意に零治から引き剥がされるレヴィ。

「うっ………」
「レイ……?」

動きが止まった零治を不思議そうに見るレヴィ。
しかし腹から突き出した刀を見て顔色が変わった。

「レイ!!」
「大…丈夫か?」

その零治の言葉の後、刀は引き抜かれ、

「止めてえええ!!!!!」

レヴィの叫びも虚しく、零治の背中は大きく斬り裂かれたのだった………











『?誰かが呼んでいる………?』

何も無い真っ暗な空間で縮こまり体育座りでただその場に居た零治。何も聞こえ無いはずのこの場所で自分の名前を呼ばれたと感じた。

『……!……イ!!』
『零………君!!』
『………治君!!』
『やっぱり呼んでる。………でも一体誰が………』

様々な声が聞こえてくる。確認しようにも身体が動かない。気になるが、逆に呼び返す事も出来ない。
それでもまた聞こえてきた。

『レ……!……イ!!』

懐かしい……いや、最近だろうか?だけどそれでも今の自分に大事な人の声の様な気がした。

「行かなくちゃ………!!」

声も動けない筈の自分の身体が嘘の様に動く。

『『『『レイ!!』』』』
『『零治君!!』』
「ああ、今行くよみんな!!!」

















「………ここは?」

目を開けた場所は見慣れた自分の部屋の天井だった。

「俺は何して………!?」

動こうとした俺の身体に激痛が走る。

「痛たたたた………」

身体を何とか起き上がらせ、痛みの箇所を確認する。

「腹と背中が特に………後は身体全体に痛みがちらついてるって感じか………」

だが不思議と傷になっていたりしてはいなかった。

「っ!?………これじゃあ着替えるのもひと苦労だな………」

そう呟きながら部屋を見ると、壁沿いに並んだ椅子に座って寝ているディア、シュテル、ユーリ。そしてベットにうつ伏せで横を向き、寝ているレヴィが居た。

「みんな俺の部屋で何してんだ?」

起こそうと思い声を掛けようと思ったが、皆ぐっすりと寝ていたので止めておいた。

「しかし皆寝顔可愛いなぁ………」

普段見ない表情にこのまま見ていたいと言う気持ちが出てくる。

「しっかし何で俺の部屋に皆集まって………!?」

レヴィを撫でながらふと過去のことを振り返った。すると直ぐにあの時の戦闘が思い浮かんだ。

「そうだ!!あの戦闘は…うぐっ!?痛たた………!!」
「ふえっ!?」
「一体どうしたんです………?」

思わず大声を出してしまい、近くにいたレヴィを始め、皆起こしてしまったようだ。

「悪いな、どうも身体が痛くて痛くて………」
「レイーー!!!」
「ぎゃあああああああ!!!」

レヴィが不意に抱きついてきた。普通の男子であれば喜ぶシチュエーションだろうが、全身に痛みが走り絶叫してしまった。

「レ、レヴィ!レイから離れて!!」
「レイがまた眠りにつくぞ!!」
「えっ、あっ、ごめん!!」

レヴィは謝りながら慌てて離れた。

「レイ、大丈夫?」
「ああ、ありがとうユーリ。あっ、悪いけど飲み物無い?喉カラカラで………」
「分かった、取ってくるね!」

そう言ってユーリは部屋から出て行った。

「………さて、何となく察しは付いてるけど、一体何があったか教えてくれるか?」

ユーリもその光景をみているだろうが、あまり話に付き合わせたくないと思ったので、ちょっと飲み物をお願いした。
聞くと3人は驚いた顔をした。と言うことは恐らくまた………

「俺は無意識に暴れたんだな………」

そう言った俺の言葉に3人は深く頷いた。

「情けない………結局俺はあの時から何も変わっていない………」
「レイは覚えてないんだ………」

信じられない顔でレヴィが呟く。多分前と同じように暴れたのだろう。

「ああ。1度昔に同じようになったことがある」
「同じ事?」
「不良の集団に義妹が人質に取られたことがあってな、要求通り1人で指定された場所に向かったら義妹が制服をビリビリにされ、手を出される寸前だった。その瞬間、自分の中の何かが破裂して、気がついたら不良が倒れている中で1人立っていた。そして隅で怯えながら俺の名前を呼ぶ義妹。………あの時から俺は自分自身の中に潜む獣が怖くなった。何時、また同じように暴れて、もし皆に危害を加えたらって思うと………」

あの時、一歩的にやられた瞬間、再び加奈を守れず、同じ過ちを繰り返したくないと思った瞬間、前と同じように何かが破裂し頭が真っ白になった。

「俺の本性……なのかもしれないな………」

怒りに飲み込まれると見境なく暴れる獣。理事長は内なる自分に早めに気がつけて良かったと言っていたが、気がつけてもこれでは意味がない。

「違う……」
「ん?」
「違うよレイ……レイの本性がそんな獣みたいな筈はないよ」

そんな俺の言葉をレヴィが優しくて否定した。

「例えそんな一面があったとしてもレイは優しいよ。ボクが止めに行った時、振り払おうとした手をレイは止めてくれたもん。レイは無意識でもちゃんと分かってる。大事な人達の事、守らなくちゃいけない相手の事を………だからこそあの時身を呈してボクを守ってくれたんだよ」
「レヴィ………」

その時ふと、あの時自分を呼ぶ声が誰だったのかが分かった。

「そうか………あの時の声は………みんなの声だったのか………」
「あの時………?」
「あの時俺の意識は暗い何も無い、何も聞こえ無い空間の中にあった。ただ縮こまってただそこにいるだけで何も無かった。だけど暫くして俺を呼ぶ声がしたんだ。『レイ!レイ!!』ってね。その声はレイヴィだけじゃない。ディアやシュテル、ユーリそれにアミタにキリエ。俺のお世話になってた人達の呼び声に導かれて正気に戻ったんだ。だから元に戻れたのはレヴィを始めみんなのお蔭だよのおかげだよ」
「えへへ……」
「我等の声も………」
「私も知らず内にレイの助けになれてたんですね………」
「ああ。………だけどそれもレヴィが来てくれたからだ」

もしあの時レヴィが来てくれてなければ俺は最後の一線を越えてしまっていたかもしれない。

「本当にありがとう………」
「レイ………」

……妙に甘ったるい空気の中レヴィと見つめ合う。

「オホン!!………レイ、我等も色々と聞きたいのだが良いか?」
「あっ、ああ………」

あのままどうしていいのか分からずにいると、少々ワザとらしい咳の後、ディアが話しかけてきた。
シュテルが心なしか機嫌が悪そうだけど気にしないでおこう………

「先ず相手の男は知っているのか?」
「いや、知らない………ってあいつはあの後………」
「何時の間にか居なくなっていた。我等がレイに気を取られているうちにな」
「そうか。………だけどあいつ、加奈の事と俺の旧姓を知っていた」
「レイの旧姓………そう言えば聞いてませんでしたね。生き別れたって妹の名前も………」
「そう言えばシュテルの言う通り言ってなかったな………」

特に言う必要もなかったし、関係無かったので気にしなかったが、こうなれば言っておいた方が良いかもしれない。

「家の事情はある知ってるよな?旧姓は佐藤で妹は加奈。両親の事故死の後、勝手に親戚にそれぞれ転々とされ、今何処にいるかも分からなかったんだ。だけど………」
「知ってる人に会えたんだ………」
「そう。だけど何も聞けなかった………元気でいてくれれば良いんだけど………」

それだけでも知りたかった。だが、相手は煽り、勝ちにこだわり、俺を殺そうと必死だった。何がそうさせているのか分からないが、一層不安が募る。

「大丈夫だよ!!きっと大丈夫!!」
「そうですよ、レヴィの言う通りです」
「実際会ってみなければ分からないのだ、そう悲観的になるな!!」

「………そうだな」

確かにディアの言う通りだ。悲観的になったところで何も変わらない。だったらやる事は一つだ。

(次は絶対に聞き出してやる………!!)

そう心に決めた。

「零治君失礼するよ」
「博士………」

軽いノックの後、返事を待たずにグランツ博士が入ってきた。

「もう………返事の前に入ったらノックの意味がないって何時も言ってるじゃないですか!!」
「それで何回私達は着替えを見られたのか………もう1度みっちり教えましょうか?」
「す、済まない、つい癖で……」

部屋に入って早々、博士は娘達に責められていた。一体何をしに来たのだろうか………?

「……さて、もう21時を回っている。3人とユーリはご飯とお風呂を済ましてきなさい」
「零治君の面倒は私達が見てますので」
「ずっと座ってて疲れたでしょ?」

「そう……ですね」
「もう21時を過ぎていたのだな………分かった、ここはお願いしよう。だが夕ご飯は………」
「私とキリエが作りました。もう食べたので全部食べて良いですよ」
「レイは………?」
「俺は起きたばっかだし、腹も減ってないから気にせず行ってこいよ」

心配そうに聞いてきたレヴィにそう明るく返すと、渋々頷き、3人は一緒に部屋を出て行く。

「ユーリは?」
「私も行きます。はい、お待たせです」

そう言ってユーリはペットボトルのお茶を渡してくれた。

「ありがとう」

お礼を言うとユーリはにっこり微笑み、3人について行った。

「ふぅ………」

やはりお茶を飲むと落ち着く。

「………さて、ある程度3人から聞いたと思うけど、僕からもちょっと話をさせてもらうよ。零治君にとっても重要だと思うしね」
「はい」

博士の話は恐らく相手の男の事。俺の旧姓を知っているという事は十中八九両親に関係ある筈だ。

「その顔だと察してるみたいだね」
「俺の旧姓を知ってました。………となると両親の知り合いの子供じゃないんですか?」
「………実際のところ私もハッキリとは分からないんだ。だけどそっくりだったから間違いないと思う」
「それは誰ですか………?」

「加藤謙蔵。僕達の初期開発メンバーの1人で、早々に離れ、それから音沙汰が無かった。だけど彼の家は日本有数の財団である加藤財団。有名人でもあるから直ぐに何処にいるかは分かったけど、まさかこんな事をしてくるとは………」

ハッキリとは分かっていないと言っていたが、博士の中ではほぼ確定しているような口ぶりだ。

「博士、でも何でわざわざ息子を使ってこんな真似を?」
「そこまでは分からない。だけど彼の動機は分かる」
「動機………ですか?」
「ああ。ある意味それが大きくて彼はメンバーから離れたからね………」

そう言って博士は苦々しく呟く。

「昔何があったんです………?」
「それは君の両親、特に早苗君に関係する事なんだ………」












「さて、どこから話そうか………」

先ほどディア達が座っていた椅子に親子3人が座る。

「先ず話は開発メンバーが集まる前にまで遡る。当時大学生だった僕達は同じゼミで1つのグループとなった。それが私、雅也、早苗、謙蔵、そしてもう1人。彼については零治君は知らないから省かせてもらうよ。兎に角そのグループが僕達を引き合わせたんだ」
「そう言えばパパの昔話は初めて聞くかも………」
「お母さんとは何時であったんですか?」
「結構真面目な話だからそう言った話はまた今度」

そう言われるとあからさまに不機嫌になる2人だが、真面目な話をすると言われた以上何も言えなかった。

「兎に角、その時は授業を受けるグループの仲間みたいな印象しかなかったが、早苗君は違った様だ」
「母さんが?」
「後で聞いた話だけど、その時に雅也にひとめぼれしたみたいなんだよ」

「「ひとめぼれ………」」

と何やら楽しそうに話を聞く能天気な姉妹。こっちが身構えて聞いているのがバカらしく思えてくる。

「そして時間が過ぎて行く中で互いに惹かれ合っていく雅也と早苗君。それは誰の目に見ても明らかだった。けれどそれを許せなかった人間が居たんだ」
「それか加藤謙蔵………」
「そう。彼は早苗君の幼馴染で両親も親友同士で、仲が良かった。だから小さい頃からの付き合いらしいのだが、付き合いの長いせいか………いや、早苗君の性格かな。兎に角、謙蔵の好意に早苗君は全く気が付かなかった。その後は早苗君の気を引こうと色々と奮闘するが、結局早苗君の目には映らず、彼等はその数年後、僕達の前で交際している事を言ったんだ。そして卒業後にこのブレイブデュエルの開発に誘われた。謙蔵も最初は一緒にやっていたが耐え切れなくなったのか早い内にチームから抜けて行った。そこから音沙汰は無かったんだが………」

そう言って博士は部屋に飾ってある両親の写真を見た。その目はとても悲しそうで、今にも泣きだしそうに見えた。

「その数年後、早い内にそれぞれ家庭を持ちながらも研究は進んで行った。そしてやっと進展し始めたと思ったらあの事故………お蔭で去年まで完成に時間がかかってしまったけどね」
「………」

誰も口を開かず静かで重苦しい雰囲気に包まれる。

「………でもそれが何で謙蔵さんの息子さんが今日起こした事件に関係あるのですか?」

確かにアミタの言う通り、父との関係は分かったが、今日のような事を起こす理由が分からない。

「そこは僕の推測でしかないんだけど、先ずブレイブデュエルのマザーシステムに侵入できるのは初期の開発メンバーと八神はやて君、それとホビーショップの2人だね。後者の2人は論外として、そう考えると初期メンバーの誰かとなる。そうなると既に亡くなっている零治君の両親以外だと謙蔵ともう1人。その1人はネジがぶっ飛んだマッドサイエンティストだけど、人の生死に関わるような事はしない」
「ああ……あの人か………」

キリエもキリエの言葉に苦笑いして返したアミタも出会った事のある人物の様だ。

「消去法ではあるが、可能性は高い。連絡して聞いてみようと思ったが、取り次いで貰えなかった」

博士はかなり自信を持っている口振りで、俺にも特におかしな点など違和感を感じる事は無かった。

「多分、早苗君を奪われた雅也に恨みを持ってる。そしてその恨みを零治君に返そうとしているんだと思う」
「そんなの………!!」
「零治君には関係無いじゃない………!!」

俺が怒る前にアミタとキリエが怒っていた。何か怒るタイミングを逃し、イマイチ怒れない………

「因みに子供の名前は?」
「流石にそこまでは分からなかったよ。………だけど彼等はまたやって来る。今度は今日みたいな事にならない様にセキリティを強化するつもりだ。零治君も気をつけたまえ」

また来る………それはある意味、加奈の事を聞くチャンスがあると言う事。
今度こそ………

「取り敢えず相手の説明はこれくらいでいいだろう。何か質問はあるかい?」
「大丈夫です」
「そうか。続けて話をしても大丈夫かい?」
「はい」

身体は辛いものの話を聞く分には全然平気なので問題ない。

「それじゃあ次は今回のデュエルについてだ。零治君は当然違和感に気が付いていたよね?」
「はい。まるで現実で戦っている様でした」
「それが今回のハッキングの影響。簡潔に言えばダメージをそのままフィードバックすると言えばいいかな」
「えっ、それって………」
「強制停止があと一歩遅かったら零治君は死んでいてもおかしくなかったかな………最後の一突きは確実に致命傷だっただろうしね」

腹部を意識すると再び激しい痛みが一瞬走った。

「零治君大丈夫!?」
「ああ、大丈夫………」

慌ててアミタが心配してくるが、これは実際の痛みではないのだ。

「未だに痛みが続いているのはまだ脳が麻痺しているんだろう。しばらくすれば消えると思うけど、戻るまでは絶対安静にしてないと駄目だね」
「わ、分かりました………どっちにしても思う様には動けないだろう」
「明後日の学校も酷い様なら休みだね。看病はユーリにお願いしようか」

何か必要以上に迷惑をかけてしまっている気がする。

「申し訳ない顔しないの」
「っ!?………悪い」
「もう、怒ってる訳じゃないのに……」

キリエにはバレバレだった様で直ぐに注意された。

「病人なんだからお世話されるのは当たり前なの!あっ、なんなら下の世話もしましょうか?」
「………遠慮します」
「ちょっと迷ったわね………」
「美人にそんな事言われたら誰だって一瞬くらい迷うわ!!………なあ博士?」
「えっ!?あっ、うん、そう……カモネ……ハハ………」

姉妹の冷たい視線に最後の方は片言になる博士。
何故か博士には厳しいなこの2人。

「オホン!!それで別の話だけど………」

視線に耐え切れなかった博士は無理矢理話を変えた。

「焔とユリについてだ」
「2人に何かあったんですか!?」

今回の戦いで2人にはかなりの負担をかけた。ユリはまだしも返事のない焔はどうなったのか………

「ユリは問題ない。ただダメージがチヴィットまで広がっているため、明日までメンテに時間が掛かるかな。だけど焔は………」
「焔に何か………」
「ダメージが深刻で、チヴィットの身体もボロボロだった。まだちゃんとは見ていないけど、もしかしたらメモリーに障害があれば1度全て初期化しなければいけないかもしれない」
「初期……化?」
「もちろんそうならないように努力する。焔君の人格メモリーの零治君に2人が残してくれたものだからね」
「は、はい………」
「僕も最善を尽くすよ」
「はい………」

返事はしていたもののあまりのショックで頭の中がぐちゃぐちゃに混乱していた。

「それと零治君、今の君に言うのも酷かもしれないけど、ゲーム開発者の1人として言わせてもらうよ」
「何ですか?」
「君のせいではないし、望んでした訳でもないと思う。だけど今後あの戦いをまたするようだったら今後一切ブレイブデュエルはやらせないから。そのつもりでいてほしい」

そんな博士のキツい言葉に俺は何も言葉を返せないでいた。

「あの戦いは僕達が思い描いていたブレイブデュエルとは全く違う戦いだ。戦闘の映像を確認したけど、最初からあの戦いはブレイブデュエルとは程遠いデュエルだった。零治君、君は何故ブレイブデュエルをやっているんだい?」
「何故って………」

その後に続く言葉が出てこない。

「改めてもう1度ゆっくり考えてみてくれ………それじゃあ僕は失礼するよ。早速作業に取り掛かろうと思うから………」

博士は俺にそう言い残して部屋を出て行った。

「俺は………俺は………」

何時もなら直ぐ出るはずの言葉が出てこない。

「何で………」
「零治君………」
「取り敢えず今日は休みなさい。考える時間はいっぱいあるんだから………」

俺は言われるがまま横になり目を瞑る。

(ナニカガタリナイ………ナニカガホシイ………)

その謎の答えを思い出す前に不意に襲ってきた眠気に負け、直ぐに眠りについたのだった………













「この役立たずが!!!」

頬を殴られ桐谷は後ろに倒れ込む。

「あと一歩だったところを………お前がモタモタしてるから………!!!」

倒れた桐谷を蹴り踏み続ける。

「おやめ下さいご主人様!!」
「うるさい、黙っていろ鹿島!!」

執事の鹿島が止めに入るが、謙蔵は一喝し、再び桐谷を痛めつける。

「この!!この!!!」

桐谷は丸くなりながら歯を食いしばり耐えていた。

「はぁはぁ………」

やがて、息が続かなくなり桐谷から離れる謙蔵。

「次こそは必ず仕留めろ。出なければ約束は果たされんと思え」

そう言い残し、謙蔵は部屋を出て行った。

「坊っちゃま!!!」

出て行ったのを確認して鹿島は桐谷に近づいた。

「大丈夫だ………」
「しかし………何時もよりお顔が優れませんが………」
「いや、これは………」

「キルモードの後遺症だよ」

部屋に入って2人に声を掛けた人物がいた。

「クレイン博士………」
「今日も手酷くやられたね………」

そう言いながらクレインは懐から栄養ドリンクに使われるビンを取り出した。

「これは………?」
「痛み止めと栄養剤が配合された薬……とでも思ってくれればいい。飲めば少しは楽になるだろう」
「助かる………」

そう言って桐谷は直ぐに飲み干した。

「明日には効力が出ると思う。それで少しは楽になれば………」
「ああ、ありがとう………」

お礼を言う桐谷だったがクレインは俯いたままだったのを見て不思議に思った。

「どうしたんだ博士?」
「桐谷君、君は私を恨んでないのかい?私が君の父に協力しなければ君がわざわざ有栖零治を殺すこともないのに………」
「協力したのは進んでではないでしょ?鹿島から聞きました。何か父に秘密を握られていると」

そう言うと驚いた顔をして鹿島を見る。

「その内容を知っているのか?」
「いいえ。ただ秘密を握られているとしか知りません。それもたまたまお2人が話していたのが聞こえてきただけですので………」
「そうか………」

そう聞いて少し安堵したクレイン。

「だが、私も責任を感じてはいるんだ。彼がやろうとしている事はある意味、桐谷君がやろうとしている事よりも更に酷く、本人以外から見れば悪質で誰も認められるものではないだろう」
「それは一体………」
「悪いがそれは言えない。………だが、もしその時が来て、桐谷君がそれを止めようとするのなら『希望』を預けようと思う」
「希望………?」

そう言ってクレインは桐谷に1枚のカードを渡した。

「今は分からなくても良い。出来ればそう言う事態にならなければいいとも思っている。………だけど物事は中々思う様に行ってくれない。済まないね、これくらいしか私には出来る事は無い」
「博士………」

受け取ったカードをしっかりとホルダーに収めた。

「今回のデータを元にキルモードを更にアップデートするけどそれに恐らく2週間ほど掛かると思う」
「となると実際に結構するのは………」
「GWだね。それまでにしっかりと準備をしとくべきだね。それじゃあ私は失礼するよ」

そう言って部屋を出るクレイン。

「あっ、最後に1つ、今の内に言っとくよ。私は決行の日、逃がさせてもらう。成功するにせよ失敗するにせよ大きな事件になるだろうからね。悪く思わないでくれ」

そう言い残し、部屋を出て行った。

「………よく分からない人ですね」
「それでも少しでも協力してくれるならありがたい。後2週間か………」

そう呟いてホルダーを見る。

「リーゼ………まだまだ使いこなせないが、多少でも使える様にしないとな………」

そう呟きつつ、桐谷も部屋を出て行った………
 
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