| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

ソードアート・オンライン 神速の人狼

作者:ざびー
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

圏内事件 ー終幕ー

 
前書き
シィ「親指かむかむ、智慧モリモリ……み狐ーンと閃いた! 犯人はヨルコさんたちの中にいる!」
ユーリ「……そうだろうな」
シィ「叔父ちゃんの名にかけて、この事件解いてみせるぜ! 迷探偵Cちゃんの冥推理劇はっじまるよ〜!」

※始まりませんので悪しからず※



 

 
 〈笑う棺桶〉が去って数分、〈索敵〉の外へと出たのか怖い顔をしていた二人は表情を緩めて、息を吐き出した。

 目の前の危機が過ぎ去り、各々が武器を下ろして休む中、ひとりユーリは目に見えて疲労しており、地面にぐったりと倒れこんでいた。

「……だ、大丈夫?」
「ムリ、……っぽい」

 小さく返事をし、ぐったりと犬耳が垂れる。 無理もないだろう。 途中からとはいえ、命を賭して、殺人鬼三人を相手取っていたのだから。 それこそ、迷宮区で出現するエネミーを何倍も苦しかったはず。

 だから、こそ悔しい。 いつも彼の側に立って一緒に戦おうとこの世界(アインクラッド)に来た時から、決めていたのに……。 肝心な時は、いつもユーリ一人が背負ってしまう。無力な私が情けない。 だが、いつまでも悔しがっていられない。 心情を押し殺し、その上に明るい表情を貼り付ける。 地面に直に寝転ぶユーリの隣に腰掛けると、頭を持ち上げて私の膝の上に置く。 所謂、膝枕なる態勢に初めはユーリも慌てるがそれよりも疲労の方が勝ったらしく、目を閉じて眠ってしまう。

「……ありがとね、ユーリ」
「ん……」

 ゆっくりと頭を撫ぜると、小さく身動ぎ、微かに頬が緩んだ。
 後頭部越しに伝わる温かさに少しばかり微睡(まどろ)んでいると、突然足の上から重みと熱が消えた。 ハッとし、意識を覚醒させると起き上がったユーリが納刀されたままの鞘を手にし、丘の西側の斜面を睨みつけていた。 直ぐさま、〈索敵〉を行使するとプレイヤーを表す緑の光点が丘へと進んでいた。
 まさか〈笑う棺桶〉が戻ってきたのかと考えたが、どうやら違うみたいだ。

 ユーリが険しい顔で睨む中、暗闇から二人分の足音が響き、次第に大きくはっきりとしてくる。 まず視界に映ったのは、白と赤に彩られた騎士服を着た女性ーーアスナだった。 なぜか右の手には、透き通るような白銀の刃を持った細剣(レイピア)が握られている。 そして、彼女の剣呑な眼差しに追い立てられるかのように前を歩いていたのは、つばの広い帽子を被った長身の男性プレイヤーだった。

 香港映画に出てそうな兇人(ヒットマン)を彷彿とさせる出で立ちの男は、まずシュミットを、次にヨルコさんとカインズさんを見てから言葉を発した。

「……やぁ、皆。 久しぶりだね」
「……グリムロック、さん」

 人の良さそうな笑みを浮かべる男ーーグリムロックと呼ばれた男は、〈圏内事件〉を演出するために用いられた逆棘の武具を拵えたプレイヤーであり、ヨルコさん達以外に〈圏内事件〉のギミックを知っていたたった一人のプレイヤーでもある。

 彼がグリセルダ氏を睡眠PKに見せかけ殺人し、それについて調べていたヨルコさん達とグリセルダ氏殺害の片棒を担がされたシュミット達を消そう、〈笑う棺桶〉をけしかけて殺そうとした、とはキリトの見解であるが筋は通っていると思う。 足りないのは、〈結婚〉までした仲の人を殺そうとする動機だろうか?


 皆に懐疑の視線を向けられた鍛治師グリムロックは微笑を滲ませたまま、弁明した。

「……誤解だよ。 私は事の顛末を見届ける責任があると思ってこの場所に向かっていたんだ。 けど、私はあんな恐ろしい殺人鬼たちが来るとは知らなかったんだ。 丸腰なのに、あんな奴らの前に飛び出していかなかったと言って、どうして責められなければならないのだろうか? そもそも、私が、妻をーーグリセルダを殺そうとする動機がないと思うがね」

 意外と情に熱いアスナが何度かいい返そうとしているのを、キリトが左手で制し、口を開いた。

「初めましてだよな、グリムロックさん。 俺はキリトっう……まぁただの部外者だけど。 ーー動機ならあるぜ?」
「ほう……なら聞かせて貰おうか、探偵君」

 グリムロックは、スッと目線を鋭くさせキリトへと続きを催促する。 対するキリトも何か確信を得たような表情で言葉を続けた。

「去年の秋、《黄金林檎》解散となった〈指輪事件〉……これはあんたが必ず関わっている。 いや、主導している。 なぜなら、グリセルダさんを殺したのは誰であれ、必ず得をするのはアンタだからだ。 彼女が死ねば、ストレージを共有化していたアンタの手元に、絶対に件の指輪が残ったからだ。 彼女が死んだ後、その事実を明らかにせず、指輪を密かに換金して、半額をシュミットへと渡した。 これは、犯人にしか取り得ない行動だ。 ゆえに、あんたが今回の〈圏内事件〉に関わった動機もただ一つ……関係者の口を塞ぎ闇に葬ること」

 そう締めくくると、濃い沈黙が生まれた。 青白い光を放つ月がこの場の陰鬱さを濃くする中、グリムロックは口元を奇妙に歪めた。

「面白い推理だ、探偵君。……だが、その推理には一つ穴がある」
「なに?」

 反論の余地があると宣告され、キリトの表情が強張る。 グリムロックは、黒手袋をはめた右手で、鍔帽子を引き下げると続けた。

「確かに、当時私と妻のストレージは共有されていたし、彼女か殺されたとき、そのストレージに存在していた全アイテムは私の手元へと残った、という推論は正しい。 しかし、もしあの指輪がストレージ内になかったとしたら……? つまり、彼女が装備していたとしたら……?」
「くっ…………」

 キリトが思わぬ盲点を突かれ、歯嚙みする。
 データから、オブジェクト化され装備されていたアイテムは被装備主が殺された時、無条件でその場へとドロップする。 だからもし、指輪をを装備している状態で殺されたら、指輪はグリムロックの手へと渡らず、殺人者の手に落ちたという論法は成り立つ。

 私たちが反論出来ないでいるのを見ると、グリムロックは少しばかり口角を持ち上げた。 しかし、その表情をすぐに消し、グリムロックは悼むような仕草を見せながら言葉を続けた。

「……彼女はスピードタイプの剣士だった。 だから、売却前に指輪に与えられた凄まじい敏捷力補正を少しだけ体感してみようと思っても不思議ではないだろう? だが、あの指輪の為に大切な妻を失う事になるとは……私は悔しくてならないよ」

 グリムロックは鍔を下げ、表情を隠すと最愛の妻の死を惜しんで見せた。 やがて顔を上向けると黙り込んだ私たちを見渡し、慇懃に一礼する。

「では、私はこれで失礼させてもらう。 彼女を手にかけた首謀者が見つからなかったのは残念だが、シュミット君の懺悔だけでも、いっとき妻の魂を安らげてくれるだろう」

 グリムロックはマントの裾を翻し、この場から立ち去ろうとする。 がーー

「……ねぇ、グリムロックさん」
「…………何かね?」

 ーー私は鍛冶屋を呼び止めていた。
 初めはそんなつもりはなかったけど、これだけは訊ねておかなければならない。 そんな決意を秘めて私は告げた。


「さっきから、愛しいとか、最愛のだとか……言ってるけど、本当にそうだったの? 」
「藪から棒だな。 勿論だとも、生涯私が愛するのは恐らく彼女だけだろう」

 振り返った男は、一瞬厭わしそうな表情を浮かべるとそう言ってのけた。 だが、構わず私は続ける。

「……それは、グリセルダさんが死んでからも?」
「あぁ……勿論だとも。 だがなんだな、急に私と妻との仲を疑り始めて……。 よくミステリ物にあるように夫婦仲の拗れ、なんてものを疑ってるわけではないだろうね?」

 グリムロックは声に怒気を滲ませるとあんなものは「創作上の都合だ」と言った。 私もそんな事を聞きたいわけじゃない。 此方を強く睨んでくる。

「なら、その奥さんとの結婚指輪、今どうしてる?」
「っ……!」

 グリムロックの肩が小さく震え、黒手袋が嵌められた右手を左手がギュッと摑んだむ。 だが、彼は一向に革手袋を外そうとはしない。

 SAOにおける〈婚約〉には、指輪の交換を必要とはしないが本当に愛しあって、信頼し合っている仲なら必ずすると言ってもいいだろう。 それに死後も愛し続けている言った男なら、忘れないために指輪は外さないなり、保管しておくなりすると思ったのだが……

「……はぁ」

 なんだかがっかりだ。 途端に先のグリムロックの発言が薄っぺらなものに思えてきて、同時にこの男による妻殺害の嫌疑が高まった。

 今思えば実際、殺害法なんて無数にあるのだ。 ストレージ共有化が解除され、アイテムが収納仕切れなくなるのだって、殺害直前に要らないものをホームのタンスなどの別場所に移し返せばいいし、鍛冶師ならば重いインゴットを扱うため、〈ストレージ拡大〉などのスキルを取っており同レベル帯のプレイヤーが所持できるアイテムより遥かに多い量を収納出来るはずだ。
 それに指輪だって、殺害する場に居合わせ、例の指輪だけ貰ってしまえは済む話。 ヨルコさん曰く、指輪は相当地味な作りだったらしいから、PKer達もそんな大それたマジックアイテムとは思わず、多少の金銭を要求して渡しくれるだろう。若しくは、圏外に誘って油断したところを麻痺毒を塗ったナイフで刺すとか……。

 ーーなんだ、なんだ。 呆気ない。

 一度大きく息を吐いてから、私の推測を口にしてみれば、グリムロックは冷静な態度を崩し大きく動揺を示した。

「私が、グリセルダに手をかけただと? 巫山戯るなッ! 冗談でも言っていいことと悪いことがあるぞ」
「けど、結婚指輪ないんでしょう? 本当は金に目が眩んで殺したんじゃないの?」

「そんな馬鹿がことがあって(たま)るかっ……! 第一、私が彼女を殺すわけがーー」

 人が変わったように激情するグリムロックの言葉を後方でやりとりを見ていたヨルコさんが遮った。 そして、スッと迷いない動作で立ち上がるとグリセルダ氏の墓標の裏に跪くと、素手で土を掻き始めた。 全員が凝視をする中、やがて立ち上がったヨルコさんの右手には銀色に鈍く光る箱が握れていた。

「……〈永久保存トリンケット〉?」

 文字通り内部に保存したアイテムを永久に保存する事が出来る代物だ。 だが最大サイズが十センチ四方なので大きなアイテム類は入れられないがそれこそ、指輪アイテム位なら数個入れられる。 それにこれに収納されたアイテムは、フィールドに放置しておいても耐久値の減少による自然消滅する事は絶対にない。
 ヨルコさんがそっと銀の小箱の蓋を開けると、中に入っていたのは二つの指輪だった。

 片方は、平らになった天頂部に林檎の彫刻が施されたもの。 もう片方は、特にこれといった装飾はされていないものの、グリムロックはそれを目を見開いて見つめていた。

「……これは、《黄金林檎》の印章(シギル)。 そして、これは……これは! 彼女がいつも左手の薬指に嵌めていた、あなたとの結婚指輪よ! 内側にはしっかりとあなたの名前も刻んであるわ! ……この二つがここにあるという事は、リーダーが、ポータルから圏外に引き出されて殺された瞬間、両手にこれらを装備していたという揺るぎない証よ! 」

 二つの指輪をハッキリと見せつけ、ヨルコさんは涙混じりにグリムロックを糾弾する。

「ねぇ……! なんで……なんでなの⁉︎ なんでリーダーを殺したの! 本当に、お金のために……奥さんを殺したの!?」
「…………金? 金だって?」

 呆然としていたグリムロックは、ヨルコさんの言葉に反応を示したかと思えば掠れた声でく、くと笑った。
 左手を振り、メニューウィンドウを呼び出したかと思えば大きめの革袋がオブジェクト化され、それを持ち上げ、無造作に地面に放った。 ドスンという重い響きに、澄んだ金属音が幾つも重なった。 中身が大量の金貨だろうか。

「これは、あの指輪を処分した金の半分だ。 金貨一枚だって減っちゃいない」
「えっ?」

 戸惑った表情を浮かべるヨルコさんを見上げ、次いで私へと視線を移すと乾いた声で言った。

「金のためではない。 私は……どうしても彼女を殺さねばならなかった。 彼女がまだ私の妻でいるあいだにだ」
 墓標へと視線を向けた後、鍛冶屋は戸惑う私達を他所に独白を続けた。
「グリセルダ。 グリムロック。頭の音が同じなのは偶然ではない。 なぜなら、私達はSAO以前から同じPNを使っていたからだ。 そして、システム的に可能ならば必ず夫婦だった。 なぜなら……私達は現実でも夫婦だったからだ」
 全員が少なからず驚愕の色を表し、息を呑んだ。

「グリセルダ……いや、ユウコは私にとって一切不満のない理想的な妻だった。 可愛らしく、従順で、ただの一度すら喧嘩をしたことがなかった。 だが……彼女は、この世界に囚われてから、変わってしまった……」

 グリムロックは小さく息を吐くとまたツラツラと独白を再開し始めた。

「……デスゲームに参加させられ、怯えたのは私だけだった。 彼女のいったい何処にあんな才能が隠されていたのか……ユウコは着実に力をつけ、私の反対を押し切り、ギルドを結成し、メンバーを募り、鍛え始めた。 側で彼女を見ながら、思い知ったよ。 あぁ……あの従順だった妻はもう帰ってこないのだろうってね」

 男は小さく肩を震わせた。 それが自嘲なのか、悲嘆なのかはわからない。 だが、今度顔を上げると私達へと悲哀の視線を向けた。

「……君たちには、分かるまい。 妻と肩を並べ、戦うことことすら出来なかった夫の惨めさを。 同時に私は畏れた。 もし……もしもこのゲームがクリアされ、現実へと戻った時に、ユウコに離婚を切り出されでもしたら……そんな屈辱、私には耐えられない。 だから……だからこそ、彼女が私の妻でいるあいだにユウコを永遠の思い出の中に封じてしまいたいと願った私を、誰が責められるだろうか。 いや、きっと出来はしないだろう」

 長くおぞましい独白が終わっても誰も言葉を発しようとはしなかった。 ただ唯一キリトが体を震わせながら言葉を発した。

「屈辱……だと? 奥さんが、言うことを聞かなくなったから、そんな理由であんたは殺したのか?」

 今にも斬りかかりそうな激情に駆られているキリトをグリムロックは視界の端に捉え、囁いた。

「……充分過ぎるとも、探偵君。 君も愛情を手に入れればいやでも理解するだろうよ。 それが失われるときの屈辱と惨めさをね。 そしてーー」

 グリムロックの狂気染みた視線がキリトから私へと移動する。 がしかし、それを敏感に察知したユーリが庇うように一歩前へと出た。 鍔帽子の影に隠れた表情を不気味に歪めながら、続けた。

「赤い娘は、私に指輪の事を訊ねていたね。 確かにそれは何処かにやってしまったよ。 だが、誤解しないでほしいな。 ユウコへの愛情がなくなったわけではなく、単に必要ないからだ。 なぜなら、彼女は私の思い出の中で生きづいているからね。 だから、あんな形式的なものは必要ないんだよ。 分かるかね? いや、まだわからないだろう……」

 妻を殺した夫は胸へと右手を置き、そう締めくくった。 同時に私の心中では疑心が満ち、あり得ないだろう恐怖に震えた。

 もし、もしも……私が変わったら、ユーリもこの男のようになってしまうのだろうか。 いや、そんな事はない。 けど、もしかしたら……

「……大丈夫」
「えっ……」

 自ら肩を抱きしめ俯いているとポンッと頭に手を置かれ、そう囁かれた。 慈愛に満ちた声音は心を暗くする疑心の霧を払い、いつしか体の震えも治まっていた。 照れ隠しなのか、わしゃわしゃと強めに撫でるとユーリは手を離し、グリムロックを強く睨みつけると語調を強めて言った。

「……グリムロックさん、あんたは間違っているよ。 あんたが、グリセルダさんにーーあんたの妻に抱いていたのは、愛情なんかじゃない。 ただの所有欲だ」
「なにっ……!」

 チラリと私の方を向くと、再びグリムロックと向き合い毅然とした態度で続けた。

「レアアイテムを手元に置きたがるように……あんたも理想の妻を手に入れて悦に浸っていただけだ。 だからこそ、それが自分の手の届かないところに行ってしまう事に、もしくは他の誰かの手に渡ることを恐れてーーそれこそ、殺してまで手元に留めておきたかった。 違うか?」

 グリムロックはがくりと膝から崩れ落ちた。 グリムロックは下向いたまま、動こうせず、再び静寂が訪れた。だがそれを破ったのは、押し黙っていたシュミットだった。

「……キリト達よ。 この男の処遇は俺たちに任せてもらえないか。 もちろん、私刑にかけたりはしない。 だが必ず罪は償わせる」

 その落ち着いた態度に数刻前までの怯えは一切見られない。 キリトは、無言で頷くと解ったと一言言葉を返した。
 無言で頷き返すと、カインズと共にグリムロックの両腕を摑み立たせ、丘を降りて行く。
 その後を、小箱を埋め戻したヨルコさんが続いた。 私たちの横で立ち止まると深く一礼する。

「皆さん、ありがとうございます。 何とお詫びすればいいのか……。 けど、ユーリさん達が駆けつけてくれなければ、きっと殺されていたでしょうし、グリムロックの罪を暴けなかったと思います。 だから、本当にありがとう」

 顔を上げると今度は私をしっかりと見て、彼女は口を開いた。

「あの時、シィさんが問い詰めてくれなければ……私は指輪の事を気がつけなかったと思います。 それに毅然とした態度でグリムロックを問い詰めて……少しカッコ良かったです」
「……そんなこと、あるかな?」

 照れ隠しで(おど)けてみせると真横から「自粛しろ」と厳しいツッコミが入る。 ヨルコさんはクスリと小さく笑みを浮かべるともう一度深々と一礼をして、シュミットらに続いて丘を降りて行く。

  * *

 四人を見送った後、グリムロックの独白を聞いて胸に燻っていた疑問をユーリへと訊ねてみた。

「……ねぇ、ユーリ」
「ん?」
「……もし、もしさ。 私のユーリの知らない一面を知ったらどう思うのかな?」

 殊勝な態度に目を大きくして驚きをみせるもそれは一瞬の事で、直ぐに表情を改めると、なぜか呆れ顔をしながら口を開いた。

「年齢と同数の付き合いしてる俺らに知らない事ってあるのか……? 」
「いや、もしもの話だから、ねっ?」

 彼はうーんと首を捻り悩む素振りをみせた。 が、今度は私の顔をまじまじと見つめて小さく笑いながら。

「それはそれでいいんじゃないか? 馬鹿ですぐに調子にのる、どうしようもない阿呆だけど咲良(さくら)は咲良だから」
「……うー!」

 キザっぽい台詞に思わず顔を赤くしていると笑われた。 すぐにからかわれたって解ったけど、久々に名前で呼ばれて嬉しかったのは確かだ。

 キリト達は既に主街区へと向かったようだけど、私達は何だか動こうという気分にならず丘の上に腰を下ろして空を眺めていた。
 穏やかに吹く夜風を心地いい。 真っ黒なキャンパス一面に星が散りばめられたような夜空が綺麗だ。 夜空を見上げていると上空を幾つもの光の線が横切った。

「おっ……流れ星!」
「綺麗だね〜」

 横で無邪気な表情を浮かべ、空を見上げるユーリを眺めた後、私はそっと瞼を閉じ空を駆ける星へと祈った。

 ーー例え、現実でも仮想でもいい。だから、彼との幸せな日々が続きますように……。










 
 

 
後書き
圏内事件【完】!!

『ユーリ君のお昼寝話を書きたい!』という安直な気持ちで始めた圏内事件編がまさかこんな話数になるとは思いませんでした。 軽く見切り発車で幾度となく挫けそうになりましたが、読者様方の感想やお気に入り、評価のおかげでどうにかこうにか、一先ず終了させられました。 読んでくれて頂いた方は本当にありがとうございます。
オリキャラ達の魅力を見せつつ、原作の路線を沿うだけでなく少しずつオリジナル感を出せたと思います。 個人的には、自分に80点くらいあげたい。(残り20は更新の遅さと文章の稚拙さですかね?汗)


とまぁ、最終話みたいなあとがき書いてますが、ちゃんと続きます。そして次回からはようやく原作一巻です!
シリアスより、戦闘多めの章になると思いますので僕自身より一層張り切って、頑張りたいです。

ではノシ 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧