| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

異世界にて、地球兵器で戦えり

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第二話 次の戦争は始まる

帝国の交渉決裂から一週間後。帝国艦隊がアビス大陸に向けて進軍したとの報告を受けて、健太郎はアカツキ海軍第三艦隊に、追撃するように命令を出す。

第三艦隊の編成は以下の通り。赤城型空母二隻、伊勢型戦艦二隻、天龍型巡洋艦六隻 不知火型駆逐艦十六隻の編成である。この艦隊は、特軍で使用されているイージス艦、原子力空母、原子力潜水艦等の最新兵器で固められていない。地球世界でいえば、既に退役をしても可笑しくない艦艇で構成されている。艦艇性能も、特軍と比べたらかなりスケールダウンしているが、これは異世界の軍事事情により、編成されたのである。

特に第二次大戦時にその役目を終えた戦艦が復活したのも、イージス艦の性能をフルに発揮する必要性がないからだ。二十一世紀の戦争は、まさに電子機器やミサイルを扱うハイテク戦争である。ミサイルも、そもそも誕生した理由も、艦砲よりも長い射程で敵の重要拠点を正確に攻撃するという目的から生まれたものだ。そのようなミサイルは、二十一世紀の地球では音速を超えており、イージス艦といった最新のハイテク兵器も、これに対処するために設計された兵器だ。

だが、そういった近代兵器で武装されていない異世界の戦争は、昔ながらの戦列を組んだ槍や剣で武装した歩兵が主流であり、海軍も大砲も積んでいない木造型のガレー艦である。そのため、金がかかるハイテク兵器で武装するより、第二次大戦時や冷戦初期に開発された兵器を使用した方が、効率的でコストパフォーマンスにも優れると判断したのである。そのため、第二次大戦時と冷戦初期の武器を参考にして古い兵器をあえて再配備しているのだ。

この艦隊も、第二次大戦時の艦艇を参考に作られているが、ある程度は後世技術を扱い第二次大戦時の艦艇よりも信頼性も性能も向上はしている。そして空母に搭載されている艦載機も、ジェット機ではなく、レシプロ機だけが配備されている。現代の地球世界の軍事関係者は、このような骨董品を再配備してどうすると笑うかも知れないが、しかし、これも異世界の状況に応じて再配備しているものであるため、アカツキ帝国の海軍兵は、古いかも知れないが、それでもこの世界では絶対の力を持っていると信じている。

「閣下。偵察機からの入電です。『我、帝国の艦隊を発見セリ』です。攻撃命令を出しますか?」

「そうだな。前田元帥殿より、攻撃命令は出ている。知らないとはいえ、我々の国境付近まで来ているのだ。土足で入り込んだ礼儀知らずには出て行ってもらおうか」

「は!」

旗艦『赤城』に搭乗している第三艦隊司令官である坂本 明少将は、副官の言葉を聞いて艦載機の出撃命令を出す。

空母赤城、加賀より戦闘機 烈風が28機 攻撃機 流星が40機が飛び立つのだった。

こうしてアカツキ帝国と帝国の初めての戦いは始まったのだ。レーダーという概念も知らない帝国軍は、艦隊からの目視で確認できない情報は、龍母より発進したドラゴンライダーによる偵察だけで行われていた。とはいえ、無線機もないので、発見した直後に艦隊に連絡する手段もないドラゴンライダーは、帝国艦隊に接近中のアカツキ航空機動部隊の情報を瞬時に伝える事は出来なかった。

そのため、烈風に発見された偵察に来ていたドラゴンライダーは、烈風の20ミリ機関砲により、風穴を開けられて、何も出来ずに海に叩き付けらて、海の底へ沈んでいく。

「敵の大艦隊を発見。」

「数はスゲーな。100は超えてるぜ」

そして偵察に来ているドラゴンライダーを撃墜していくと、帝国艦隊を発見した。大型軍艦を筆頭に小型艦も含めた100隻を超える大艦隊である。しかし、そんな大艦隊も第一次攻撃隊からすれば、怖い敵ではなかった。

敵もこちらの存在に気がついたようで、騎士が翼龍に搭乗して龍母から多くのドラゴンライダーが発進した。翼龍は、飛行機と違い滑走路を必要としないために、すぐさまに飛翔した。翼龍の厄介な所は、ヘリのようにVTOLして、展開能力の高さだ。そして翼龍の鱗は12・7mmNATO弾も貫通もしない、辛うじて腹部に命中して何とか貫通する程度である。地上で会えば近代装備で固めたアカツキ帝国兵士でも厄介な敵だ。しかし空中戦で戦うとなれば話は別であった。

旋回性能は良いが、速度は100キロも満たずに、攻撃方法もロングランスと弓というお粗末な武器であった。そのため、烈風に直ぐに後ろを取られてしまう始末だった。龍母から発進した翼龍は、バタバタと落ちていく。

そして目標を定めた攻撃機流星で編成されている攻撃機部隊は、搭載している爆弾を軍艦と武装商船に目がげて落としていく。爆弾の爆発で軍艦の船体は破壊され、爆発の破片と衝撃で無残な死体となって絶命する帝国兵士。中には生きている兵士もいるが、腕や足が吹き飛び、苦痛を叫ぶが誰も助けてはくれない。まだ攻撃を受けていない武装商船や軍艦にいる兵士や、無事な兵士の中には弓やクロスボウで、流星や同じように攻撃している烈風に向けて放つが、空を切るばかりで辺りはしなかった。


「前から思ったが、この世界の列強の連中は、何の自信があって俺達に戦争を仕掛けたんだ?」

攻撃隊パイロットの一人である島津 軍平少尉は、疑問に思った事を口にした。ろくな火器も装備しないで中世時代のような軍艦と武装商船で、最新兵器とまではいかないが、近代兵器で武装した俺達に、何で戦争を仕掛けた事に、何処から勝つ見込みがあると判断した事に、自意識過剰もいい所だよなと思っていた。

「馬鹿な選民意識の塊で、現実が見えてないんだろ」

「そんな事を考えてないで、早くこんなアホみたいな任務を終わらせて一杯やろうぜ」

「ああ」

同僚からの無線を聞いて、彼は考えを辞めて任務に戻る。

(恨むなよ。恨むなら、アカツキ帝国に無謀な戦争を仕掛けたあんた等の王様の無能ぶりを恨んでくれ)

島津少尉は、既に爆撃で戦死してしまった帝国兵士に、そう心の中で呟くのだった。


ーーー。

「な、なんだこれは……」

我々は、愚かにも帝国以外に帝国を名乗る愚かな蛮族に罰を与えて、蛮族共の領土を奪う名誉ある戦を行うはずだった。いや、そうあるべきだった。そう心の中で叫ぶ、この帝国艦隊の総司令官であるバルガ・フク・オルガンは、この現実の世界とは思えない戦争に、何もいえない心情に支配されていた。

名誉も誇りも全て否定する圧倒的な力。戦う事も抵抗する事など一切許さない。その圧倒的な力で平民も貴族も関係なく蹂躙されていく。

「……ふざけるな」

これは戦じゃない。こんな何の情念もない、一方的な殺戮が戦であってたまるか……戦とは名誉ある戦いである。それを全て全てを台無しにしている!!

バルガは恐怖よりも怒りが心情を支配している。こんな殺戮劇を実行に移しているアカツキ帝国に、怒りの矛先が向く。

「悪魔め……我々は貴様らの存在など認めぬぞ」

最後に見たのは、帆も張らないで動く巨大な鉄で覆われた船であった。その船から放たれる轟音を響き渡る。その瞬間に凄まじい衝撃が、バルガを襲う。それが彼が見た最後の光景であった。

ーーー。

「敵艦隊の八割は消滅しました。敵は混乱しているようで、指揮系統もバラバラのまま撤退しています。追撃なさいますか?」

「いや。ここまでやれば十分だ。」

「よろしいのですか?このまま壊滅させる事もできますよ」

司令官である坂本に、副官は意見具申する。

「壊滅させれば、我々の武力を報告するものがいないではないか。あれだけ一方的に負けたのだ。我々の詳細を詳しく本国に報告するはずだ。信じるか信じないかは知らんがな」

今回の戦いで、出来れば壊滅させないで欲しいと健太郎が坂本に命令を出していた。だが、坂本としても出来れば敵を壊滅させたいという気持ちはあった。あんな礼儀知らずの国に何を遠慮する必要があると、強く思っていたが、これも最高責任者の命令でもあるので、坂本は渋々と命令に従った。

「敵が完全に後退を確認したら、ヘリを飛ばして生存者を探せ。捕虜の暴行は許さんぞ」

「分かりました」

こうして帝国との初戦は、アカツキ帝国の勝利で終わった。帝国の大艦隊の八割がやられて帰ってこなかった事には、帝国に衝撃が走るのだった。

ーーー。

「馬鹿な。あれだけの大艦隊が敗北したともうすのか!?」

帝国皇城の薄閄の広間にて、出席している貴族と元老院議員に現皇帝のモルトを含めて、アカツキ帝国と帝国の最初の開戦が、大敗北で終わった事に驚愕していた。貴重な軍艦と武装商船の八割が損失したなど、とんでもない被害だ。しかも、今回の遠征で貴族もかなりの数が参加しているので、貴族の被害も尋常ではなかった。

「は、はい。敵は恐ろしく早い空飛ぶ剣の攻撃に、我が方の翼龍は壊滅。その後は、敵の空飛ぶ剣の魔法で我が艦隊は蹂躙されました。そして遠くで轟音が響きますと、我が艦隊の船が次々と吹き飛ばされていくのです。私はあんな恐ろしい魔法は見た事がありません」

遠征軍の生き残りからの詳細の報告に誰もが、常識(帝国基準)から外れている内容に半信半疑であったが、艦隊の被害と生き残る証言が現在説明している彼と同じように言っているので、事実であると理解してしまった。これに、元老院議員であるカーゼル侯爵は、皇帝のモルトに進言する。

「大失態でありましたな陛下。今回の遠征で海軍の機能は失ったも同然です。いくら、未開の大陸の国家が帝国を名乗っているだけで、戦を仕掛けるべきではありませんでしたな」

これは主戦派に近い考えのモルトと、そしてモルトを煽って考えなしの戦を仕掛けた主戦派に対する嫌味でもあった。このカーゼルの言葉に、皇帝のモルトは微動だにしていないが、逆に主戦派は何とも居心地が悪い表情になる。

「ならば和議を……」

「馬鹿をいうな!こんな大失態のまま講和など出来るか!属国の兵士を根こそぎ集めて戦いを挑み、敵を殲滅するまでやめるべきではない!!」

「こんな状況で、奴らが素直にいう事を聞く者か!!」

「考えて物を言え!この戦バカが!」

「何だと!!」

ザワザワと主戦派と、それに属さない貴族と元老院達が議論を交わしている時であった。そこに一人の騎士が慌てた様子で薄闇の間に入ってきたのだ。

「会議中だぞ!」

「も、申し訳ございません。それより外に来てください!何やら可笑しな物が空に浮かび上がっています!!」

騎士の報告に、モルトも他の貴族や元老院も外に向かう。そして彼らが見たのは、上空に映し出された映像であった。そこには、アカツキ帝国の軍の最高指揮官であると同時に、国の最高責任者でもある前田健太郎元帥であった。

漆黒の黒い髪と漆黒の黒い変わった服を身に纏った30代の青年だが、そこは鋭い眼光に、その鋭い眼光に見合ったカリスマを思わせる覇気のある青年が映し出されて、その映像を見て誰もが見入ってしまった。

『我が名は、前田健太郎である。アカツキ帝国軍元帥であり、アカツキ帝国の最高責任者である!』

それは、ファルマート大陸に君臨していた帝国に大敗北を与えた王の出現であった。いや、正確には映像に移っているだけであるが……。

『この映像を見ている全ての者に告げる。我がアカツキ帝国は、宣戦布告も無しに我が国に攻め入った帝国に対して、アカツキ帝国の総意を上げて、帝国に対して戦う事を決意する!!』


それは事実上の宣戦布告であった。こうして、帝国の重鎮達は、未開の土地にいる王の姿を目に焼き付ける程の印象を受けるのだった。



 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧