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とある科学の傀儡師(エクスマキナ)

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第18話 罠

荒涼とした砂漠のような場所に佐天は立っていた。
何もない砂だらけ地を見渡す。
「何ここ?」
レベルアッパーを使って、もうすぐ意識が無くなるんだろうなと考えていたが。
ネットやテレビでしか見たことが無いような砂漠地帯に首を傾げる。

夢?
レベルアッパーが見せる夢だろうか?

上を見上げればピーカン照りの太陽だ。
何だか暑くなってくる。
直射日光は、乙女には大敵だ。
紫外線や日焼けなど気にしなければならない項目はたくさんある。
「ふいー」
右手で汗を拭う。
夢だとすればあまり気持ちのいい夢じゃなさそうだ。
何処かに日陰は無いものかと、当てもなく彷徨いてみる。
あっちを見たり、こっちを見たりとグルグルと見回り、綺麗に足跡がランダムウォークを形作った。
目を凝らして見てみれば、良い感じの洞窟があるではないか。
「ひとまず、あそこで休もう。これで冷えた炭酸ジュースでもあったら文句なしなんだけど」
なんて都合の良いことを考えて、洞窟に足を踏み入れていく。
「はあー、涼しいわ。ひんやりしてる」
手を団扇のようにして服の前に隙間を作って冷えた空気を流す。
奥に座るには適した良い感じの大きさの岩があり、座ろうと近づいていくと
「!?」
赤い髪をした少年が先に座っていた。
忍者のような様相で手書きの地図を眺めている。
「サソリ?」
よく見れば、見知った顔をした人「サソリ」だ。

何でこんな所に居るの?

佐天は驚かそうと後ろから接近して押してみようとするが
スルッと通り抜けてしまい、無様にも前からつんのめる形で転んでしまった。
「イタタ......サソリ?」
呼び掛けてみるがサソリは佐天の存在を知らないように黙々と地図を眺めて考えている。
サソリの額には砂時計のようなマークのついた額当てをしており、横に一文字傷が付けらていた。
地図を畳むとサソリは、腰を上げて洞窟から出ていき、佐天から離れて行った。
「待って!」
そう叫んでは見たが聴こえていないようで出入り口を目指していく。
「サソリ!?」
服の裾を掴んでみるが、水に溶けている色を掬うような感触の無さを感じて立ち止まった。
サソリは出入り口から眩しそうに手を翳しながら砂漠の外へと出て行ってしまった。
そんな後ろ姿を見せつけられ、独り残された佐天は、心細さを覚える。

佐天の目の前がくらくなり、景色が歪み出して気がつけば真っ暗な部屋の中にいた。

君が選んだ結末だ
能力を持ちたいというエゴが生んだ末路だよ

佐天の前には、同じ服装、同じ髪型のやや全体的に黒い人物が立っていた。
渦を巻いたかのような面を被らせた姿の自分の影のように見えた。
渦の面を着けた自分の影が佐天の前に近づくと 前に聴いたことのある声を出して佐天を責める。

なんて自分勝手な女の子なんだろうね
何も出来ないクセに
周りに迷惑ばかり掛けて

誰もお前の事なんて気にしない
いや、居なくなってせいせいしているさ
才能がない奴は、お似合いの地べたにでも這いつくばっていればいいんだよ
友達も巻き込んで、自分勝手だよね

佐天の脳裏には、レベルアッパーを共に使った友人が倒れていくトラウマに近い映像。
思い出したくないかのように頭を抱え横に振る。
佐天は、ヘタリと座り込み小さくなるように膝を抱えて頭を付けた。

助けて、初春

また人任せ?
暴力を受けている人を助けようとシャシャリ出て、どうすることもできなくて
白井さんに助けて貰って
白井さんがピンチだったら、サソリが助けに来て
結局、君は何もしてないよね
それなのに、また助けを呼ぶんだ?
良い身分だね

ねえ、もっと絶望を見せてよ
もっと残酷な現実に打ちのめされろよ
仮面を被った影は、佐天の髪を掴んで持ち上げた。
「痛い......もう、もうやめて」
お前が生きていて良い世界じゃないんだよ
あそこは......

きっと軽蔑しているんじゃない?
初春も御坂さんも白井さん、サソリも

あれだけ危ないって言いましたのに

能力無いから道具に頼って、結局ズルしたってことでしょ?

佐天さんになんて構ってられませんよ
またまだ倒れている人がいますのに
余計な仕事増やさないでください

自業自得だな
助ける価値も見つからん

サソリ達の影が出て来て、佐天を取り囲む。口々に佐天への不満を口にした。

「もう嫌、もうやだ」
いっその事、死んだ方が楽なんじゃないかと思った。
引っ張られた髪からの痛みが無くなり、身体が非常に遠くに感じだした。
世界が遠のくように感じて溶けてしまいそうになる程。

死にたいの?
選べると思っているの?
自分勝手な奴にそんな権利なんてないよ。
掴んでいた手を離して、黒い影は佐天を踏みつけた。
ここで一生絶望に浸るんだよ
それがお前の運命だよ

助けて
助けて
もう耐えられない
佐天の精神は限界だった。
現実感が喪失していきそうだ。

後少し
後少しでコイツは壊れる

黒い渦の面を被った自分の影が佐天を踏み付けたまま両手を前に広げる。
悦に浸るように震えた。

人の心を根こそぎ壊す
これが最高

天を仰いだ佐天の影の面に唯一空いた穴から真っ赤に染まった輪廻眼が怪しく光っている。

ギィと空間から人形のような手が伸びてきて渦の面を付けた佐天の影の胴体を貫いた。
「!?」
面を付けた影は後ろを見ると黒いロングの髪をした女性の人形がカタカタと微震をしながら首を機械的に動かす。
ゆったりとした黒い服を着た女性の人形は、腰から刀を取り出すと黒い影の頭を飛ばした。
ゴロゴロと生々しく黒いインクを零したような血を傷口からダラダラと流しながら首は転がり、佐天と人形を見つめ、苦しそうに擦れ声を出す。

キサマ
よくも邪魔をしたな
これで終わると思うな
かなら......

人形が先に動いて黒い影の頭に刀を突き立てて止めを刺した。
造形が崩れ出して、暗い床へと吸い込まれて消えてしまった。

倒れている佐天の目の前に黒い髪を垂らした女性の人形が手を広げて立たせた。
血色が良くなって、マジマジと助けてくれた人形を物珍しそうに見る。
「あのー、ありがとうございました」
助けてくれたんだし、お礼を言っておかないと

しかし黒髪の女性の人形は悲しげにキィキィと音を出している。
そして佐天の肩を掴むと訴えるように口を開閉した。
涙は枯れ、声は枯れてもなお、何かを叫んでいるように必死な顔をしている。
女性の人形はうまく動かない顎を動かしながら眼をギョロギョロ動かしゆっくり一文字一文字を絞り出すように言う。

オネガイ
タスケテアゲテ
サソリ
ヤサシイコ
オネガイ
タスケテアゲ

喉の奥でモノが詰まっているようにくぐもった声で佐天に懇願している。
更に

サソリ
ゴメンネ
ゴメンネ
イッショニイテアゲラレナクテ
サソリ
サソリ
......カワイイ......ワタシノコ......

「えっ!?子?」
ガシャンとその場で人形は関節全部無視したように崩れ落ちた。

これってサソリのお母さん?
何で?
もう亡くなっているの?
何で人形なの?

不明点が多すぎて、逆に動きが取れない。

サソリを助ける?
あたしに助けられるのかしら

すると倒れた母親の人形の近くに小さな赤い髪をした子供が居て、女性の人形の手をら自分の頭に押し当てた。
自分で頭を撫でて貰っている。
サソリの眼から涙が落ちていく。

「お母さん、帰ってきてよ......一杯待ったよ......頑張ったよ」

戻らぬ愛情を欲するサソリ。
佐天はそんな光景に胸が締め付けられる想いだった。
サソリ......

******

「ちゃんと考えてろよ!」
「佐天や初春だけじゃなく、白井やオレまで危険に晒すつもりか」
御坂は、悔しそうに唇を噛み締めながら道を歩いていた。

何よ!
何なのよ!
サソリのあの態度!
全て分かったような感じで。
でも反論出来なかった。
何も言い返せないに等しかった。
全て具体性が伴わない、「大丈夫」等の抽象的な言葉だった。
それは事実。
あたしはレベル1から努力でここまで来たのよ。
強くなったら、人を助けられるなら助けたいじゃない。
切り替えなきゃ
サソリに怒鳴られたけど、初春さんを助けて木山を止めないと。
あたしが止めないと
あたし以外にいないんだし

タクシーを止めて、さっきジャッジメント本部で感じた磁場反応から方向を指定して向かう。
御坂のスカートのポケットの中にはサソリから渡された砂鉄が入り、静かに御坂からの振動を受けて揺れていた。
御坂はその事をすっかり忘れている。

******

木山は、高速道路上でレベルアッパーの副産物である能力を用いて、捕縛しにきたアンチスキルを返り討ちにしていた。

能力が使えるのは「超能力開発」のカリキュラムを受けた者、もしくは現在受けている者だけだ。
つまり、「学生」という身分の者しか能力を使うことが出来ない。
それに加えて木山は、複数の異なる能力を行使できた。
普通の能力者が通常では一系統の能力しか扱えないと決まっているのに、発火能力、爆発、水......など同時進行で扱えるようでアンチスキルの対処容量を大きく上回っている。

初春は、車から飛び出て砂で出来た壁をよじ登ろうと手錠が掛けられた両手を掛使って登ろうとするが、砂がバラバラと崩れて視界が一気に開けた。

木山が能力を使用した事も驚いたのだが、木山の前に突如として現れたサソリが初春を困惑させる。
まだ初春の記憶では、サソリは歩くのが満足に行かず、車椅子で生活している。
それなのに目の前のサソリは二本足で自然に歩行している。

木山と向き合っていたサソリは印を高速で結び、チャクラを集めていく。
すると地面から砂塵が舞いがり、木山へと一直線に飛んで行った。
数十個の砂で出来た手裏剣が木山目掛けて飛んでいく。
ザッザッザッと硬質な砂が何かに当たる音がして砂埃が一層悪くなり視界を奪う。
サソリは指を胸の前に置きながら様子を見ている。
ただ単に、木山を倒すだけではない
どうすれば木山に勝てるのか、何をすれば倒せるのか把握するために様子を観ている。
余計な攻撃や追撃をせずに、戦略を組み立ていると
木山が立っていた場所から砂嵐が発生し、煙の中から木山が涼しい顔でサソリを見下ろした。

「!」
すかさず印を結んで砂の波をぶつける。
木山は向かって来る土砂に手を伸ばすと周囲を吹き飛ばし砂を飛ばす。
「......砂を使った能力か」
散り散りに拡散する砂を横目で確認すると呟いた。
次に木山はフワフワと三つの大小バラバラの水滴を浮かばせ、形状を変化させて鉛玉のように発射した。
水というのは、液体を保っているがある一定以上の速さで叩きつけるとコンクリートに匹敵する凶器に変貌する。
サソリはチャクラ糸を放出すると最低限の動作で躱す。
躱した後、サソリから5m離れた場所で鉛玉に近い水滴がピタッと止まる。
まだ木山の能力の影響下だ。
サソリは、不自然に肩の隣に付けていた右手を感触を確かめるように動かす。
「お返しだ」
サソリがチャクラ糸を高速で巻き取ると、水滴が横を通過すると一気に全面に腕を前にさせて加速させる。
「!?」
木山は、演算を開始し返された水滴を弾き落とそうとするが
サソリは、写輪眼を発動させて片手で印を結ぶとチャクラ糸に炎が一直線に走り出して水滴を炎に包ませる。

発火!

急激に熱せらた水滴は、沸点を超えて気化するがその時の体積膨張が加速的に始まり、木山の目の前で水蒸気爆発をした。
ボン ボン ボン
きっちり三発の水滴がほぼ同時に起き、水蒸気の熱風に咄嗟に顔を伏せた木山は咳をして息が苦しそうに呼吸をする。
「はあはあはあ」
小さな水滴であったため、大規模な水蒸気爆発は起きずに木山の前に暫し湯気のように漂う。

次の瞬間
ボコッと木山が立っている高速道路から人の手が這い出てきて木山の脚を掴むと道路にめり込ませた。
「!?」
片足だけが道路にめり込み、身体の自由度が制限された。
サソリは、水蒸気爆発で木山の視界を奪うと土遁の術で地面を進み、木山の脚を引きずりこんだ。
木山は道路から外そうと能力で足先に力を込めようとするが
「そうはいくか」
サソリが砂を操り、木山の脚に何重もの土砂を巻き付けた。
硬化!
ピシピシと乾いた音が鳴った後で土砂の色が変化し、コンクリートのように硬くなった。
「くっ!」
「やりたければ、やるがいい......脚が吹き飛んでもいいならな」
木山が足を動かそうと下肢に力を入れるがサソリが縛り付けているため、ビクともしない。
「この程度のようだな。さて、レベルアッパーについて知っていることを洗いざらい吐いてもらうか」

この程度?
この程度だと......

全てを捨てて、やっとあの子達を助ける手立てを見つけたのに......

「この程度のはずがないだろう!」
木山は自由が効く手を動かして念力で近くに横転していたアンチスキルの車を持ち上げた。
自分の頭上で照準を合わせる。サソリは印を結んだまま少し汗を流した。
「この程度じゃない!私は私は......」
投げつけようとするが、ピタッと木山の腕が動かなくなった。
「!?」
「まあ、そうするしかねえよな」
サソリが嘲笑うように木山を見据えた。
サソリの手から光るチャクラ糸が伸びており、木山の両腕にくっ付けていた。

先程の水蒸気爆発は、木山の動きを止めるためではなく、完全に木山を倒すための目眩しだった。
水蒸気爆発で視界を奪い、地面にめり込ませ注意を足に集中させる。その後に両腕にチャクラ糸を飛ばした。
「ふん」
サソリは、右手を捻ると木山の手が下がり車が頭上へ落下を始めた。

わ、私は......

木山の眼には迫ってくる鉄の車体がはっきりと映った。
能力の展開がうまくいかない、間に合わない。
「終わりだ」
ズンと木山を巻き込んで、車体は物理法則に従うようにあるべき場所へと落ちていった。

はあはあはあ
サソリは息を荒くして気だるそうに身体を前屈みになった。

予想以上にチャクラを使った。

動かない車を見ながら、警戒を解かぬように見続ける。
「サソリさん!」
初春がサソリの元へと駆け寄ってきた。
前に手錠をしたまま心配そうに、汗をかいているサソリの顔を覗き込んだ。
「大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だ......少し休ませてもらう」
「木山さん......は?」
「これ位のことしたから、死んではねえと思うが」
不気味な静寂さが辺りを包んでいる。何が起きる前触れのように......
サソリは、身体を引きずるように進むと車の下敷きになっている木山を助け出し向かった。

レベルアッパーに関する情報
吐かせなければ......

初春もサソリの後ろをついて行く。
ジャッジメントとしての仕事はまだ残っている。

すると、車の下から光線が放たれて車を天高く吹き飛ばし、衝撃により曲がった車体が道路上に数回のバウンドの後に横倒しになり止まった。
「「!?」」
硬化した地面から解放された木山が頭から血を流しながら口先だけで笑みを浮かべ、能力を更に解放していた。
「こ、コイツ!」
木山は、掌を突き出すと炎を発生させて火球を作り出した。
サソリは、後ろにいる初春に手で合図を送りながら
「初春!早く離れろ」
「は、はい」
初春が横に逃げていこうするがそれに合わせて木山も照準をサソリから初春へと変えて、火球を放つ。
「何!?」
自分に来るであろうと思っていた火球が初春に迫っていく。
「えっ......」
初春の身体が火球に照らし出されて瞳が一層白くなった。

サソリは印を結び、逃げていった初春と距離を詰めて、火球を防ぐ砂の壁を作り出した。
初春は、衝撃に驚いてその場で転んでしまった。
「あ、ありがとうございます」
「はあ、はあ......」
顔色がかなり悪くなっている。
火球は砂の盾に阻まれると盾上でそのまま炎上している。
サソリの反応に木山は一層、予想通りの笑みを浮かべた。

「ふふ、やはり守りに入ったようだな」
木山は、サソリが作り出した砂の壁にレーザーを当てて焼き切ると、空いた穴からサソリと初春の存在を確認する。
背後には水滴がフワフワと浮かんでいた。
「悪いと思わないでくれたまえ、君に対する最大の賛辞だよ」
木山は、またしてもサソリではなく横で座っている初春目掛けて水滴を飛ばした。
「クソ!」
写輪眼で水滴を作り出して木山の水滴とぶつけて相殺させた。
相殺した水滴は、相互に大きな塊となり道路へと落ちていった。

「初めて会った時から油断できない相手だと思っていたよ......だが、私の計画を頓挫させる訳にはいないのでね」
木山は、盛られた砂の壁の上に移動して白衣のポケットを突っ込んだままサソリと初春を見下ろしている。

木山はサソリとの直接対決を避け、手錠で動きに制限が掛かっている初春を狙うことで勝つことだけに意識を集中させた。

「良いことを教えてあげよう......その娘にレベルアッパー治療用データが入ったものを持たせている」
「!!?」
サソリは背後に回した初春に確認するために後ろを向いた。
「はあ、はあ......本当かお前?」
「は、はい......まだそんな効果があるか分かりませんが」
初春は、自分のポケットの中に手を入れてチップの存在を確認した。

「大元のデータは消去されてしまったからね。残っているのは彼女が持っているデータだけとなってしまった」
木山は、手をポケットから取り出すとバチバチと少量の電撃を掌から放出していき、力を溜めた。

「さあ、お姫様を護りきれるかな騎士(ナイト)君」

「き、キサマ......」

サソリは悔しそうに顔を歪ませ、見下ろしてくる木山を見上げた。
チャクラが残り少ない、圧倒的に不利な状況の中で初春を守りながら木山と闘わなくてはいけなくなってしまった。
 
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