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ソードアート・オンライン~漆黒の剣聖~

作者:字伏
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アインクラッド編~頂に立つ存在~
  第二十五話 黙示録の赤い竜

ソレイユの名乗りが戦いの合図となり、シリウスとベガは左右から、ソレイユは正面から仕掛けていく。しかし、アポカリプスは返り討ちにしようと迎撃してくる。右から仕掛けたベガに対して尻尾を薙ぎ払い、ベガはそれをギリギリで避ける。

「攻撃範囲が馬鹿みたいに広いわね」

呆れるように呟き、これ以上仕掛けるのは危険と判断し、やむなく後退する。逆の左から仕掛けるシリウスに対しては、翼をはためかし強風を起こす。吹き飛ばされることはなかったが、足が止まってしまい、それが隙となってしまう。右に薙ぎ払った尻尾を今度は左に薙ぎ払う。

「ちっ!?」

舌打ちをしてこちらも後退せざるを得なかった。最後に、正面から仕掛けて行ったソレイユに対してアポカリプスは七つの口から炎のブレスを吐いた。それに臆することなく突っ込んでいくソレイユ。飛んでくる火球をギリギリで避けながらアポカリプスの七つある頭のうち、真ん中の頭にめがけて攻撃を仕掛けていくが、右端の頭が鞭のように薙ぎ払われた。それをギリギリで避けながら、薙ぎ払われた右端の頭に刀を振るう。いきなりのカウンターになす術がないアポカリプス。ダメージを与えたことを確認したソレイユはすかさず後退する。
ファーストアタックはソレイユが与えた一撃のみとなった。巨体の割に素早い動きをするアポカリプスの動きを知っているソレイユだったから与えられたものの、シリウスとベガはまだその動きになれてはいないためソレイユのような芸当は今のところ不可能だった。

「今の俺の実力はお前にダメージを与えることができるほど、ということか」

〝たかが一撃与えただけで、図に乗るな、小僧!!〟

「たかが一撃、されど一撃、だぞ」

なんて強がりを言うソレイユだがアポカリプスのHPを見てみると数ドットしか削れていない。アポカリプスのHPの総量はゲージ二十個分だった。それでいて、攻撃力が高く、防御力も高い。攻撃モーションもばかにならないくらい速いと来ている。それをたった三人で攻略しなければならないのだから絶望感に打ち震えてもおかしくない。しかし、ソレイユたちはそんなことは気にせずにアポカリプスに向かっていく。

果てしなく長い戦いが幕を開けた。



ファーストアタックから一時間後。古塔の床は爪でえぐれたり、一部が爆風で吹き飛んでいたりしている。アポカリプスのHP総量はゲージニ十個から十五個まで減っていた。ソレイユたち三人のHPはソレイユが二割ほど削れ、シリウスが三割、ベガは無傷であった。

〝なかなかにしぶとい。ほざくだけのことはあるという訳だな、小僧・・・〟

「まぁ、そういうことさ、ヘビ助」

見下すアポカリプスの言葉に軽愚痴で答えるソレイユ。そんなソレイユにアポカリプス鼻で笑うと次なる行動に出た。

〝ならば、これはどうかな・・・〟

その言葉とともにアポカリプスのHPがゲージ分減っていく。いきなりのことに面食らうソレイユたちは何が起こって要るのかわからないので、うかつに攻め入ることもできず警戒しながら事の成り行きを見据えている。
すると変化が起きた。アポカリプスの十個ある王冠が地面に落下した。そこから血のように赤い液体らしきものが広がっていく。どんな攻撃かわからないがソレイユたちは即座に距離を取る。そうしている間にも赤い液体らしきものは広がっている。ある程度まで広がったところで増殖を止めた赤い液体は、今度は赤い液体からいくつもの波紋が広がった。その波紋は徐々に激しさを増すと、波紋が起こっているそれぞれの中心点から人影らしきものが現れた。その数、十一。その人影にソレイユがカーソルを合わせてみると、それぞれゲージ一個分のHPがあった。表記された名を見てみると、

≪The Augustus≫ ≪The Tiberius≫ ≪The Caligula≫ ≪The Claudius≫ ≪The Nero≫ ≪The Vespasianus≫ ≪The Titus≫ ≪The Domitianus≫ ≪The Galba≫ ≪The Otho≫ ≪The Vitellius≫

と書かれていた。ただ、≪The Domitianus≫にはHPゲージがなかった。それを見たソレイユはアポカリプスが何をしたのか大体理解した。

「・・・ローマ皇帝だとでも言いたいのか」

〝ほう、するどいのう、小僧〟

嫌らしい笑みを浮かべている、とソレイユは思った。だが、アポカリプスのHP総量を見てみると十五個あったゲージが五個にまで減っていた。どうやら、それなりの代償が必要だったようだ。しかし、状況は最悪と言ってもよかった。唯でさえ、アポカリプス一体にてこずっているのに、そこからさらに敵が増えたのだ。だが、そんなことで臆するソレイユたちではなかった。

「しょうがねぇから、アポカリプスの相手をしながらあの人影の相手もするしかないだろ」

「やっぱりそうなるか・・・」

「仕方ないんじゃないかしら」

そんなやり取りをしているさなか、ローマ皇帝たちの一体がソレイユたちに向かって突っ込んでくる。突っ込んでくるローマ皇帝≪The Vitellius≫のなりは盾に片手剣を持ち、重厚な鎧装備に身を包んでいた。盾を構えながら突っ込んでくる姿を確認したソレイユは左手を刀身に添え、突きの構えをとる。≪The Vitellius≫がソレイユの間合いに入ったその直後、その首に一筋の閃光が走り、鎧の隙間を穿った。その攻撃を受けた≪The Vitellius≫のHPは徐々に減っていくが、半分くらいまで減ったところで止まってしまった。突きを繰り出したソレイユに≪The Vitellius≫は片手剣で攻撃していこうとしたが、今度は一陣の風が吹いた。それと同時に片手剣を持っていた腕は斬られ宙を舞う。

【―――!?】

何が起こったのかわからない≪The Vitellius≫。≪The Vitellius≫が困惑していると、ソレイユは首元から剣を引き抜き後退する。その直後、今度はシリウスの槍が寸分の狂いもなくソレイユの穿った場所と同じ場所を貫いた。なすすべなく喰らってしまった≪The Vitellius≫はポリゴン片となって消えていく。
その一帯が完全に消滅した後、ソレイユはアポカリプスに向かって攻撃を仕掛けて行こうとするが、他の十人のローマ皇帝たちが邪魔立てし、うかつに近づくことができなかった。攻めあぐねていると、突如ローマ皇帝たちが身を引いていく。いきなりのことにわけがわからないソレイユだったが、次の瞬間いやでもその意味を理解した。

「くそっ!?」

柄にもない悪態をつき、飛んできた火の玉を避ける。ギリギリで避けるがその余波にあたってしまいHPが数ドット削れる。火の玉が飛んできた方向をみると、アポカリプスの口から残り火が噴出していた。

「エンペラーたちを倒さないとアポカリプスに攻撃できないらしいぜ」

シリウスとベガに向かって言うソレイユ。残りのローマ皇帝たちの数は十人。一人頭三人の割合であるが、それに加えアポカリプスの支援攻撃までやってくるとなると厄介極まりない。

「ばらけて戦った方がよさそうだな」

「そうだな、各個撃破ってことで」

「よさそうね」

三方向に分かれながら、ローマ皇帝たちの相手をしていくソレイユたち。そこにアポカリプスの支援攻撃が飛んでくるがそれを避けながら戦っていく。このゲーム内で頂点の存在に等しい彼らだからこそでき打戦法であった。



二時間後。≪The Domitianus≫を除く、ローマ皇帝たちをすべて排除した後、怒涛の勢いでアポカリプスに攻撃を仕掛けていき、とうとう残りHPゲージが一本になった。しかし、ここまでに三時間も休みなく戦い続けてきたせいもあり、ソレイユたちの残りHPは四割を切っており、息も絶え絶えだった。しかし、ここまで来てあきらめるわけにもいかず、三人はこの三時間でぼろぼろになったアポカリプスを鋭く見据えている。

〝なかなか、やるではないか小僧・・・。まさか、我がここまで追い詰められるとは思いもしなかった。だが・・・〟

「だが、なんだよ?」

アポカリプスの言い回しに疑問を覚えるソレイユ。そんなソレイユを見てアポカリプスが厭味ったらしく七つの口をゆがませたとき、黒い瘴気らしきものがアポカリプスと≪The Domitianus≫を包んでいく。≪The Domitianus≫はアポカリプスの近くにいたので、二人を包む黒い瘴気はローマ皇帝たちを召還した時ほど広がらなかったため、そう距離を置く必要はなかったが、ものすごくうんざりした雰囲気を纏いながらソレイユは状況を見据えている。
少しすると、瘴気らしきものがだんだんと晴れていく。しかし、そこに先ほどまであった巨大な七つの頭を持つ赤い竜と鎧を着た皇帝は存在していなかった。代わりにいたのは、人間の大人サイズの人影だった。全身を真っ赤な角ばった鎧で覆われ、背中からドス黒い瘴気を羽のように噴出している。
その姿から出るプレッシャーは世界を恐慌させるほどと言ってもよかった。現にその鎧に覆われた人影が現れた時から、黒い雲に覆われた空からは雷鳴が響き渡り、風は吹き荒れるその様子は、まるで世界が唸りを上げているようだった。
鎧がソレイユたちに向かい合うために一歩踏み出したとき、そこを中心に強風が巻き起こる。吹き飛ばされないように踏ん張るソレイユたち。風が収まると、ソレイユは呆れたように呟いた。

「嫌味だぜ、それは・・・」

〝怖気づいたか、小僧〟

「いや、呆れてるだけだ」

何に、と聞かれれば製作者趣味の悪さに、とソレイユは答えるであろう。HPがある一定ラインまで減ると姿を変えたり、新たな武器を出したりとするボスはアインクラッドにもいたらしいし、古いゲームタイトルを見てもそれが起こるゲームもある。しかし、だからと言ってこれはやりすぎだろう、などと思わなくもないソレイユ。正直な話、やりすぎ感が半端ではないのである。

「まぁ、あのでっかいのよりはやりやすいか・・・」

〝本当にそう思っているのなら、小僧・・・貴様は実に愚かだ〟

その言葉が聞こえると同時にソレイユは吹き飛ばされた。何が起こったかは理解している。アポカリプスが瞬時に距離を詰め殴ってきたのである。しかも殴られたのは自分だけではなくシリウスとベガも殴られて吹き飛ばされていた。

〝むっ・・・?〟

しかし、思った手ごたえがなく眉をひそめるアポカリプス。吹き飛ばされたソレイユは体勢を崩さずに着地すると、十字に組んだ腕を解いた。アポカリプスはそれを見てすべてを悟った。すなわち防御されたことを。だが、それだけではなかった。

「見切れない速度、じゃないな」

手ごたえがなかった原因は防御されただけではなく、攻撃がヒットする瞬間に後ろに飛ぶことで威力をある程度殺したのである。それはソレイユに限らず、シリウスやベガもそうだった。HPゲージを見てもさほど変化はない。

〝・・・・・口先だけではない、ということか・・・・・〟

「まぁ、そう言うことだ」

不敵な笑みを浮かべソレイユはアポカリプスに向かって突進していく。アポカリプスはそれに対して右の拳を握り打ち出していく。その速度は先ほどのように常人には見切ることは不可能な速度だった。そう、常人、にはである。

〝―――っ!?〟

「見切れない・・・、とは言ってないんだがな」

飛んできた拳を薄皮一枚で躱すと、懐に入りながら刀を右薙ぎにふるう。拳が伸びている状態ではガードすることもできず、なすすべなく喰らってしまうアポカリプスであるが鎧の防御力がバカ高かったため、一ドットくらいしか削れることはなかった。

〝ふんっ!?〟

今度は左の拳がソレイユに襲い掛かるが、半円を描く様にステップを踏み紙一重で拳を避けると、襲い掛かってきた腕を伝うように剣が走り抜け首に直撃した。今度は目に見えてHPが数ドット分削れた。他の箇所を攻撃するよりも首を攻撃した方がいいということが判明した。
弱点は首であることを確認したソレイユは地面を強く蹴り、アポカリプスと距離を置く。しかし、そうはさせまいと追撃しようとしたアポカリプスであるが、突如アポカリプスの首めがけて地面と平行に剣閃が瞬いた。咄嗟のことに足を止め腕を十字に交差させガードする。そのためHPは一ドットも減らなかった。ガードされたことを悟った強襲者であるベガは即座に距離を取る。距離を置いたことを確認したアポカリプスはガードを解いたその直後、首めがけて一筋の閃光が走った。

基本槍技 ≪トラスト≫

〝ぐおっ!!?〟

「・・・・・ワーン、ダウン」

思わず唸り声をあげ、首を抑えながら膝をついてしまうアポカリプス。先ほどソレイユが与えたダメージより効いているようであった。閃光となってアポカリプスにダメージを与えたシリウスはスキルディレイにさらされながらも一言呟き、ディレイが解けると即座に距離を置いた。

〝やって、くれる・・・っ!?〟

「そう言いなさんなって。これからが本番だろ?」

〝ふん。ならば、もう加減などせん!!!!?!?〟

そういって、闘気のようなものを溢れさせるアポカリプス。邪悪で禍々しい闘気が風となりてソレイユたちを襲うが、三人はそんなことは意に介さずにいた。

「どうするよ。奴さん、マジだぜ」

「いや、もうここまで来たら」

「ああ、ガチでやるしかないでしょ」

シリウス、ベガ、ソレイユの順である。ソレイユの言葉を聞いたシリウスはだよなぁ~、などと呟くと、シリウスの纏う雰囲気が一変した。シリウスだけではなく、ソレイユもベガの雰囲気も一変する。荒々しく、静謐な、猛々しい闘気が発せられた。

アポカリプスの、邪悪で禍々しい闘気が――――

〝全力でひねりつぶしてくれるわっ!!!?!!??〟

シリウスの、激しく荒々しい闘気が――――

「そう簡単にいくか!?」

ベガの、猛々しく荘重な闘気が――――

「つぶされるのはあなたよ!?」

ソレイユの、静謐で荘厳な闘気が――――

「さぁて、最終ラウンドだ!!」

――――世界を恐慌とさせる。

四つの影が地面を蹴ったのは何の因果か同時だった。その瞬間四つの影はそれぞれの闘気を纏いながら一筋の閃光と化していく。その後の動きを捉えられるものはほかにいない。その後、辺り一帯には閃光が迸り、甲高い金属音が響いているだけである。

今、誰も認識できないほどの戦闘がそこで行われている。


・・・・・・・・・・・・・・・


・・・・・・・・・・・・


・・・・・・・・・


・・・・・・


・・・


時間にして、わずか五分。その五分間は今までで一番濃密な時間となっていた。一歩間違えば死ぬ状況でありながら、誰一人として臆することはなかった。ソレイユたち三人のHPは、後一割ほどとなっていた。しかし、アポカリプスのHPはあと一撃でも喰らえばなくなるほど減っている。息も絶え絶えなソレイユたちだったが、不意にソレイユが長刀と刀を納刀するとアポカリプスに向かって歩き出す。ある程度距離が詰まったところで止まり、息を切らしながらもアポカリプスと向かい合う。

「決着をつけよう、アポカリプス」

〝・・・・・よかろう〟

それだけでソレイユの言葉の真意を理解したアポカリプスはソレイユとの距離を詰めていく。その距離は立ち合いの間ぐらいだった。

「なぁ、アポカリプス」

アポカリプスの、邪悪で禍々しい闘気は薄れることなく――――

〝なんだ、小僧・・・〟

ソレイユの、静謐で荘厳な闘気は薄れることなく――――

「“わたし”は、お前に会えてよかった。だから――――」

爽やかな笑顔で言うソレイユ。その言葉にアポカリプスは何の反応も見せなかった。それからは静寂があたり一帯を包んでいた。
どちらからともなく一歩だけ踏み込む。その時、纏っていた闘気が風となりて吹き荒れた。まるで邪魔者を排除するかのように。

そこから、もう一歩踏み出したところで二人が攻撃を仕掛けた。アポカリプスは渾身の右ストレートをソレイユは納刀してある長刀の柄に手をかけたままである。有り得ない速度で迫り来るアポカリプスの拳。ソレイユは微笑するとたった一言呟いた。

「Auf Wiedersehen――――アポカリプス」

その言葉が言い終えると同時に抜刀するソレイユ。その攻撃を感じ取れるものはここには、たった一人しかいなかった。 
 

 
後書き
ゼーハーゼーハーゼーハー、お、お久しぶり、です・・・

ソレイユ「なんか、ものすごい息上がってるが・・・どうした?」

いや、ここ何日か、忙しくて、全然、これ、書けなくて・・・ふぅ、今日急ピッチで仕上げたわけよ

ソレイユ「それはお疲れ様・・・何でそんな忙しかったんだ?」

それは秘密だ。
そんなわけで、アポカリプスとの戦闘回でした。やっぱ戦闘シーンを書くのは難しいねorz
感想、ならびにご意見などがありましたらお待ちしております!

ソードスキル説明
基本槍技 ≪トラスト≫
槍の単発ソードスキル。対象に通常よりも鋭い突きを繰り出す。
 
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