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SAO‐戦士達の物語《番外編、コラボ集》

作者:鳩麦
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コラボ・クロス作品
戦士達×剣聖
  剣聖×戦士達 プロローグ

 
前書き
はい!お久しぶりです!鳩麦です!

…今回は、以前申し上げました、3000P突破記念!コラボ作品を投稿したいと思います!!

コラボ先はなんという事か!字伏先生の、ソードアート・オンライン漆黒の剣聖!!

読んだことのある方は恐らくご存じと思いますが軽く説明させていただきますと……まぁ、なんと言うか……主人公のソレイユ君がとにかく滅茶苦茶に強い!本当に!しかも素で!
そしてなんと言いますか……結構、恋愛シーンが直球な作品でして、そう言うシーン僕書けてないので見習いたいな~。なんて思ってる作品でもあります。
え?見習えてるか?あー、その、実力不足を体感していると申しますか……ま、まぁそれはいいではないですか!

とにかく、今回はそんなソレイユ君とウチのリョウ、そして剣聖側のヒロインである、ルナちゃんと、サチが、奇妙な縁で絡んでいくお話です。

どうぞ、最後までお楽しみいただければ、幸いです

では、どうぞ! 

 
人と言うのは、誰しも一度は失敗する物である。

それがどういう物であるか、そして、その規模の大小を問わなければ、恐らく人類が始まって以来失敗した事の無い人間などと言うのは先ず居ないだろう。
埼玉県川越市にすむ、ある18歳の青年にも、これは当てはまる。その日、青年は何時も通りの時間に目覚め、何時も通りに家事をこなし、何時も通り……とは行かぬ物の、特におかしなことも無く、居間で朝のニュースを見ながら紅茶を飲んでいた。

実は青年、今日は予定が有った。上野で、幼馴染の少女と会う約束をしているのだ。なんでも動物園に行きたいらしい。
別に行かねばならない訳でも無かったが、彼自身今日は暇で有ったため、なんだかんだで誘いに乗った。とりあえず、家を八時半に出れば約束の時間である十時には電車を乗り継いで充分に間に合う。寧ろ十分ほど余裕だ。ちらりと時計を見れば今は八時二分。この紅茶一杯飲み終えても、まだ余裕だろう。まぁそれでも、とりあえず一杯くらいは飲み終えてから行くかな。とリョウは再び一口をのむ。

そのまま十分ほどのんびりしていると、やがて手元のカップから紅茶が無くなってしまった。

「んじゃ、そろそろ行きますかねぇ……」
のんびりと立ち上がって、再び何気なく時計を見る。八時二分。

「ふぅ、にしても……ん?」
はて?おかしくないだろうか?自分が先程時計を見た際にもあの時計は八時二分を指していたような……

「…………」
少々嫌な予感を感じつつ、よくよく壁に掛けられた時計を見てみる。……秒針が10を指している。一秒後、10。二秒後、10。三秒後、10。……時計が止まっていた。

「っ!?」
慌てて彼は自身の目の前に有るテレビが映し出している画面の斜め右上を見る。そこにはしっかりとデジタル時計が有り、そして彼の家の時計が止まっていたからと言って時間が止まっていた等と言う奇跡が有る訳も無く……

八時五十分。

「ま、じ、かよっ!?!!?」
怒鳴るように言って、彼は慌てて傍らの肩かけバッグとジャケットをひっつかむ。カップを洗いおけにぶち込み、テレビを消すと居間から飛び出した。

「わぁっ!?」
と、廊下に出た途端に目の前に従妹の顔が現れる。たたらを踏むように下がった彼女を躱して玄関に向かいつつ、彼は叫んだ。

「スグ、悪い!カップ洗っといてくれ!」
「え、えぇ!?ちょっとりょう兄ちゃん……」
戸惑ったように帰ってくる言葉に事情を説明している暇はない。そのまま靴をひっつかんで履くと、短く返す。

「明日の朝飯当番変わるからよ!」
そう言って、彼……桐ケ谷涼人は外へと飛び出した。

これが、今日、彼が犯した、たった一つの失敗。
他愛も無い。単なる失敗。

実際、これだけならば唯の小さな日常の一ページだろう。しかして、そんな失敗が、ある同じようで別の世界の、全く別の場所で、同じような失敗をしたものが居たりすると……ほんの小さな奇跡を、引き起こしてしまう事もある。

例えば、そう……世界が、交差したりすることも、ある。

これは、とある世界達の物語。

剣の頂に立つ青年と、
力の頂に立つ青年との世界が、
ある共通の元に奇跡を持って交わった。

そんな、ある春の日の、物語。

────

「間に合えぇ!」
全力疾走。
今の涼人程、その言葉が似合う人物もなかなか珍しいだろう……此処は池袋駅。涼人は今、東武東上線の改札を出て、池袋駅の東口の方へと人の間を縫って駆け抜けていた。社会的にはまったくもって非常識極まりないが、そうも言って居られない。

少しは知ると、JR線のホームに続く改札が見える。その改札に電子マネーカードを一瞬で認識させつつ走り抜けると、目の前に見えた改札御一気に駆け抜ける。目指すは七番線、山手線外回り(上野方面行き)のホームだ。
駆け上がったホームには、既に電車が控えており、発射のベルが鳴り始める。涼人は更にスピードを上げ……

「間に合えマジで頼むからァァァ!!」
頼むって誰にだ?誰かにだ。

しかし一気に走った甲斐あってか、なんとかドアが閉まる前に車内に駆け込む事に成功する。安心して息を吐いた、途端に……

『「はぃ、お客様駆け込み乗車はおやめください」』
少し怒ったような声で、軽くなまった感じの駅員さんの声が聞こえた。周囲に座る老人たちや妙齢の女性の苦笑気味の視線に、涼人は頭を掻いて内心で駅員さんに謝罪しつつ端の席に座る。前方の席の天井には、スカイ・エンゼル社と書かれた広告が見えた。

「ふぅ……」
なんとか間に合った……と言っても、既にどうあがいても遅刻は避けられないだろう状態にはなってしまっていた。携帯で連絡しようと思ったが、急いで出かけたことで家の自分の部屋に忘れて来てしまった事に気が付いたのは先程の事だ。壁について居る液晶画面に表示されている時間を見るに、まず間違いなく十分は遅れてしまうだろう。彼女に何を言われるやら……

「やれやれ、なんだなんだ今日はよぉ……」
辟易とした様子でリョウは頬を掻いた。なんとも前途多難なの事だ。……まぁとは言え、これから16分程はこのまま座っている以外することも無い。少々暇つぶしが欲しい所だが、仕方ないだろう。と……その瞬間だった。

──グラリ──

「っ……!?」
突然、体を強烈な眠気が襲った。全身が一気にけだるくなり、今すぐにも眠ってしまいそうなほどに眠くなる。
否応なしに瞼が下がって行く。

『ちょま……』
リョウは必死に抵抗しようとする。ここでぐっすり眠ってしまおうものなら間違いなく上野駅を寝過ごす自信が有る。いくらなんでも、これ以上遅れるのは困るのだ。

『やべ……落ちる……』
しかし本能に訴えかける凄まじい眠気には逆らい難くやがて涼人の瞼は閉じ、意識が下へ下へと落下し──

────

ソレイユこと、月影 桜火は、品川駅からの山手線内回り(上野方面)のホームに立っていた。
今朝の従姉による衝撃的起床から丁度十五分程が経過している事を駅天井の時計で確認して、桜火は小さめの溜息をついた。間違いなくここから目的地である上野駅まで十五分以上は掛かる。待ち合わせ場所が駅のすぐ近くである事を考えても、完全に遅刻だった。

「ホント、いい加減にしてほしいもんだ……」
あいも変わらない、そして全くやめようとしない(恐らく、否、恐ろしい事にこれからも)従姉の行動に桜火はいい加減に頭を痛めていたが、最早今更の事なのでと諦め気味だ。しかしまぁ、成熟した女性の裸体を行き成り見せつけられるという衝撃を慣れで諦められる辺り、自分もいい加減どうなのだろう等と思考を回す。
と、電車が来たことでその思考を止めた。ここから先はルナ……もとい。恋人である柊 月雫(ひいらぎ しずく)の前での自分で居たい。何と言うか、先程の事をいつまでもうんうん言っているのでは、余りにも格好が付かなすぎる。

「……あー」
そんな事を考えている自分に苦笑しつつ、桜火はやってきた緑色のラインの入った列車に乗った。
端の席に座ると、何となく周囲を見渡して一息をつく。ふと上を見ると、レクトの広告が見えた。ここから十六分間は、静かに座っているしかない。なので今日のこの先の予定についてをじっくりと考え始め……

──グラリ──

「っ……!?」
行き成り、全身から力が抜けた。体が重くなり、同時に強烈な眠気が彼を襲う。まるで睡眠薬でも飲まされたかのように唐突で強い眠気に、桜火は戸惑うが、しかし、だからと言って眠る訳にもいかない。何しろ後十五分で上野だ、今ぐっすり眠れば起きられずに寝過ごす確率大である。

『ちっ……』
が、彼の意思とは無関係に、眠気はドンドンと増大ずる。やがて無意識の内に瞼が閉じ、体から意識が切り離され、下へ、下へと沈むように──

────

「ん、ん?」
ピクリと瞼が持ち上がり、涼人は眼を開く。目の前には、やけに暗い空間が有った。

「……っ!?」
ぼんやりとする頭で、自分の状況を思い出してみて……涼人は跳ね起きた。既に周囲が暗いことから、まさか夜まで寝たのか等と思ったからだ。しかし……涼人の想像は外れていた。それは多分……悪いとか良いとか、そんな事を全て超越した意味で。

「……此処は何処、とか言えばいいのか?オイ」
そこは薄暗い、八畳ほどの広さの石作りの部屋だった。周囲は完全に石の壁に囲まれ、その壁には妙に明るい蝋燭の食台が付いている事で、かろうじて灯りが確保されている感じだ。寝ていた場所も石の床の上で、どのくらい寝ていたのか、少々背中が痛かった。

「んあ……ん?」
立ち上がり、痛くなった腰を触ろうとして、気付く。来ている服の感触。これは明らかに今日着て来た筈のパーカーやジャケットの感触では無い。なめらかながら、確かな堅さを感じる。これは……

「ありゃ、随分気が利いてるじゃねぇの」
改めて自分を見降ろすと、リョウの体は灰色から光の加減で緑色に輝く浴衣を着こんでいた。
翠灰の浴衣。つい半年前まで、涼人の全身を守っていた。SAOにおける涼人の愛用防具だ(まぁ半分服だが)。首の後ろに手をまわし、状況の読み込め無いリョウは周囲を見渡す。と……

「おっ、と?」
自分のすぐ隣に一人、黒ずくめの少年(?)が寝ていたのだ。
黒い髪なので恐らく日本人。黒いコートを着ていて身長はリョウよりも幾らか低いくらいか……中性的な顔立ちをしているので、本当に女で無いかは確信は持てないが、胸も無いし男だろう。

『つーかどっかのガキんちょと良い此奴と良い……最近中性の顔はやってんのか?』
そんな訳はないが思わずそんな事を思って、リョウは苦笑する。と……

「んー……」
その青年が声を上げたことで、リョウは意識を此方に戻した。

「よぉ。起きたかい、(にい)ちゃん」
「……えっと、どちら様?つか、ここどこだ?」
青年は此方の姿を見止めると一瞬首をかしげ、周囲を見渡しながらそう言った。

「知らね。俺としてはアンタがなんか知ってんのに期待してたんだが……こりゃ期待薄か?」
「……うわっ、懐かし……あぁ、悪いな。申し訳ないが力になれそうにない」
言ってる間に、青年は自分の姿を確認して、何か納得するような、あるいは疑問を持つような顔で唸った後、リョウの質問に答えた。肩をすくめる青年に、リョウは苦笑する。

「さよか……なぁ、アンタ、自分がここに来る前何処に居たか覚えてっかい?」
「んーっと……電車だな。山手線の……内回りだったはずだ」
「ほぅ……って事は……」
「……どうした?」
首をかしげた青年に、リョウは苦笑しながら答える。

「いや、俺も山手線に乗ってたんでな。外回りだったんだが……つーことはあれか?この状況も山手線絡みだったりすんのかね?山手線に寝ると石の個室に叩き込まれる。みてぇな七不思議的なの、有ったか?」
「さぁな……少なくとも俺は初耳だ」
面白がっているように言うリョウに、青年は笑いながら肩をすくめて答える。と……

[いやぁ、そうだったら面白いかもしれませんけどねぇ]

「ん?」
「…………」
突然、天井から声が響いた。なかなかの大声だったそれに、りょうは首をかしげて天井を見上げ青年は無言で天井を見上げる。

[どうも剣聖殿にジン殿!×60(バイシクスティ)の世界へようこそ!]
「……はぁ?」
「?」
昔の呼び名を呼ばれたせいか、あるいは妙なテンションで声が意味不明な事を言っているせいか。二人は首をかしげる。

[さて、早速ですがこれからお二人には、ゲームをしていただきます!]
「……ゲームだぁ?」
「行き成りだな、おい……」
やたらとテンションの高い天井の声について行けず、リョウは疑問の声を漏らし、青年は天井をジト目で見据えている。そんな温度差を気にする様子も無く、声は続けた。

[はい!今からこの先に続く通路をお開きいたします。その先に有るダンジョン、四つの試練をクリアしていただければ、ゲームクリアです!]
「ちょい、ちょい。待て待て!」
[はい?]
リョウが声を上げると、声は不思議そうに言葉をかえしてきた。遮ったリョウはそのまま続ける。

「何言ってんのか訳分かんねぇし。つーか、こっから出せっつーの。こっちは知り合いとの待ち合わせに遅刻まっしぐらなんだよ。んなお前のゲームにかまってられるほど暇じゃねぇの!」
と、それに乗るように、ソレイユが言った。

「そうなんだよなー……おれもデートっつー大事な予定があるんだよ。ただでさえ遅刻なんだ。あんたのお遊びなんかに付き合ってられないんだよ」
その二人の声を聞いて、声は少し黙ると、思い出したように話しだした。

[それはそうですね!お二人にはそちらの説明の方が先でした!]
「あぁ……?」
[勿論。お二人とも現実世界には帰っていただけますよ。ただし、このゲームをクリアすれば。の話ですが]
「「…………」」
その言葉に、二人は真剣な顔で黙り込む。

[先ずお二人とも、右手を振ってステータスウィンドウをご覧ください]
「?」
「……お、出た」
言われて、首をかしげつつも二人は右手の人差指と中指をそろえて縦に振る。これはSAOに置いて、ウィンドウを出すための動作だったものだ。すると即座に、まるでSAOその物のように、二人の眼前にステータスウィンドウが現れた。

[その中の、時計をご覧ください!]
「時計……?」
「これは……」
言われて、二人はウィンドウの隅に常に表示されている、デジタル式の時計を見る。そこには、15:00と言う表示だけが有る。
しかし……リョウが寝たのはせいぜい九時後半から十時そこらだ。と言う事は……まさかもうすでに……

[それは、カウントダウンです!]
嫌な想像をした所で、天井の声が割り込んだ。とりあえずその言葉が今が午後三時だと言う事を表している訳ではないようだったので、リョウは内心息を吐いた。実を言うとそれは隣の青年も同様だったのだが、それはリョウが知る由も無い。

[この世界の名は×60(バイシクスティ)つまり、この世界では時間が六十倍に引き延ばされて流れます。具体的には、現実世界での一秒が、この世界では六十秒に、一分が一時間になるのですよ]
「っつーことは……」
リョウが呟くと、声は嬉しそうに言った。

[はい!その表示は、あなた方二人が乗る列車、山手線、外回り内回りの列車が、上野駅に到達するまでの残り時間を示している訳です!そしてそれは、貴方方にとっては言わば……]
「タイムリミット、ってことだねー」
青年の言葉に、天井から華やかなファンファーレが流れた。煩い。

[その通り!ちなみに、現実世界での貴方方は、今は山手線の車内で爆睡している状態です!言わば、此処は夢の世界と言う事になる訳ですね。何となく楽しそうな響きですが……もし15時間が経過した時点でクリア出来ていなかった場合や、この世界でゲームオーバーになった場合は、列車が上野を通過してから更に五時間は寝ていただきますのでそのつもりで!]
「げっ……」
「それは流石に不味いなー……」
その宣告は、流石に二人の精神を揺るがしたようだった。五時間も遅れれば、まず間違いなく自分達の相手は待ちぼうけだ。それは流石に……困る。

[ルールはOKですか!?では最後に、貴方方のステータスですが、容姿、装備、スキルはSAOに居たころの終了時の物。ステータスはALOの物とさせていただきました!その素晴らしい能力を駆使して、是非この先に有る四つの試練をクリアしてくださいね!他に質問はございますか!?]
「一つだけいーい?」
[はい!何でしょう!?剣聖殿!]
剣聖と呼ばれた青年が左手の人差し指を立てながら天井に向かって声を投げかけた。

「あんたの目的が見えないんだよねー。しかも、SAO時代のおれの通り名を知っているあんたは何者だ?」
[…………]
「そーいやそうだな……」
二人の言葉に、声は再び少しのあいだ黙りこむと、言った。

[昔、かの天才は言いました。私はこの世界を、観賞するためのみの為に作ったと]
「「…………」」
その言葉に、リョウは黙り込み、青年は呆れたように溜息を吐く。声の言う“天才”が誰であるか、彼等はよく知っていたからだ。

[私達もまた、然りなのですよ。今この状況は、私達が観賞するためだけに有る……この状況こそが、私達の望みなのです]
「そりゃまたご勝手なことで」
呆れたようなリョウの声に、声は苦笑したように言った。

[ははは。まぁ、かの天才と違い、私達は命を奪う訳では有りません。まぁ、貴方方の恋人さんや幼馴染さんの悲しみや怒りや心配は賭け金になっていますが、それがどうなるかは貴方方次第でしょう?]
「悪趣味だな」
呆れたような青年の言葉にも声は揺らぐことはなく。声は続ける。

[何を言おうとも状況は変わりませんよ。それでは、剣聖殿、ジン殿……]
そこで何故か少しだけ息継ぎをる様に間をおいて、声は言った。

[バッドラック♪]

────

「で……どうすっかね」
「んー、そうだねー」
チュートリアル(?)が終わり、前方の石の壁が左右に開いてその奥に通路が現れてから、リョウと青年が初めに言った言葉がそれだった。

「正直、妙にリアルな夢としか思えねぇし、信憑性も証拠もねぇけど……まぁいいや、どうする?兄ちゃん、俺は行くけど、お前は?」
前方の通路を指差して言ったリョウに、青年は呆れたように立ち上がって行った。

「どうもこうも……この状況じゃ確か事なんてひとつしかないからな……」
「ほぉ、それは何ぞや?」
言いながらストレージを操作し、かなり長い長刀と、それより幾分か短めな黒刀を取り出し、腰に括った青年に、リョウは尋ねる。ちなみに長刀の方は、刀の事等全く知らないリョウにでも一目で技物だろうと分かる物だ。彼が刀のチェックをしている時に、ちらりと見えた刀身は異様なほどに美しく、それでいてしっかりとした存在感と重厚感を感じるものだった。
青年は、特に何の力みも、思い入れも感じさせない平静とした口調で言った。

「おれはここに居るってこと」
「ははっ!ちげぇねぇ!!」
聞いて、リョウは天井に向けて短く笑った。面白い事を聞いたといいたげに笑いながら、ストレージを操作して柄の短い偃月刀を取り出す。

「此処に居ることは確か。となると後は……」
偃月刀を点検しながらリョウは呟く。それを引き継ぐように青年が言った。

「出来ることをやるだけ、だろ」
「ますますもって、ごもっとも、だな」
そう言うと、リョウはその場で偃月刀の柄を持ち、くるくると回転させ始めた。

「?」
「出口まで、試練四つだっけか?」
その動作を首をかしげながら青年は見たがリョウの言葉に我に返った。

「らしいね……腕に覚えはあるほうかい?」
「んー……」
言いながら、リョウは偃月刀を回転させ続ける。始め、唯の柄の短いそれだった刃は、やがて柄を伸ばし、ブンブンと重々しい音を立てて回転する。

「ほぅ……」
「っと」
青年が感心したように呟くのと同時に、ダンッ!と大きめの音を立ててその柄を地面にたたき付けると、そこには肉厚の刃に、竜の装飾が施された、青龍偃月刀……冷裂があった。
リョウはニヤリと笑って言う。

「やってみねぇとなんとも言えねぇな」
「確かにね……それじゃ、存分に期待させてもらおうじゃないの」
「へへっ」
笑いながらそう言うと、青年はゆっくりと歩き出す。リョウが冷裂を持って続く、自然と二人は、前衛と後衛、それぞれの位置取りを取っていた。と、青年が何かに気が付いたように立ち止まり、振り向いて言う。

「そう言えば、互いに名乗ってなかったよな?」
「あぁ。そういやそうだな。俺はリョウコウだ。リョウとでも呼んでくれや」
何時ものように笑ってそう言うと、青年は一つ頷いて答えた。

「ソレイユだ。呼び捨てで良いよ」
「了解。よろしくな、ソレイユ」
「あぁ、よろしく。リョウ」
そう言って互いに微笑してから、二人は薄暗い廊下へと歩きだした。

────

さて、所変わって、此方は東京都、上野駅前。
サチこと、麻野美幸は一人ベンチに座って涼人が来るのを待っていた。

此処は上野駅のすぐ前、東京文化会館と、国立西洋美術館の間に有る舗装路で、この道をまっすぐ行くと、上野動物園。少し行って右に曲がると、国立科学博物館や、東京国立博物館等に行く事が出来る。
そんな場所なので、一般的にも休日の今日は、家族連れやカップルらし気人々が多く美幸の前を通っていた。
春も近いとは言え、今日は昨日までのポカポカと暖かい陽気に比べると少し寒く、美幸は少し暖かい格好をして来ている。手持ちのバッグから取り出した携帯を見ると、九時五十五分。未だに涼人が居ないというのは、なんとも珍しいことだった。と言うのも、彼はいつも時間を決めて待ち合わせると、大体十五分くらい前には来る人間なのだ。それこそ、普段授業に遅れたり団体の集合時間に遅れるのがまるで嘘のように、二人や和人達と出かけるとき“だけ”は行動が早い。ちなみに、恐らくそれがようはその用事に対する好き嫌いに関係しているのだろう事は、美幸としても予想している事だった(殆ど正解である)。

『て言う事は……私とのお出かけはそんなに嫌じゃないって事なのかな』
ふふふ。と思わず顔がにやけて慌てて表情を戻す。こんな所で携帯を覗き込んで一人で笑っていると言うのは殆ど不審者だ。しかし、遅れるならば連絡の一つもあって良い物を……まぁ、彼が遅れる事自体には所謂彼が(嫌がる)集団行動で慣れっこなのだが。……む?

『あれ、つまり、りょう今回のお出かけは嫌なんじゃ……』
思い切って動物園等に誘ったのは失敗だっただろうか!!?等の考え、一人でおろおろしだす。先程よりも表情の変化は少ないが、どちらにせよ少々挙動不審だった。と……

「あのー、隣良いですか?」
「へっ!?あ、はい。どうぞ……」
不意に声を掛けられて、変な声が出た。少々朱くなりつつ、美幸は席をベンチのとなりを示す。

「ありがとうございます」
柔らかな声でそう言った相手は、自分とそう変わらぬ歳であろう少女だった。濡れるような美しい黒髪を腰より少し上まで伸ばしていて、スタイルも良い。顔も一般的に見て美少女の部類に入るだろう。

『綺麗な子だなぁ……』
何となくそんな事を考えて、こんな子なら今日はデートかな?等と言う事を考えてついつい微笑ましく思ってしまった。自分と同じように携帯を取り出して時間を確認する彼女を、あまり何時までも見つめるのも失礼なので自分の携帯に目を戻す。

時刻は午前十時。丁度、待ち合わせの時刻だった。
別に一分たりとも遅れていないのに、いつもの事が有る為に、ついついこんなことを呟いてしまった。

「「おそいなぁ……りょう(桜火)……」」
「「!?」」
同時に呟いて、二人同時にそれが隣に居る人物の声だと気が付き、驚いたように向き合った。
 
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