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龍が如く‐未来想う者たち‐

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冴島 大河
第一章 刑期中の悲報
  第一話 兄弟

秋山が神室町に戻る、数日前。
場所は移り、北海道の網走。
殆どの地域は暑さに悶える中、この地域はそれ程気温は上がらず涼しい。
夏という季節がこれほど快適に過ごせる場所は、恐らく北海道以外だと殆ど無いだろう。

網走刑務所。
この場所で刑期を全うしてる男も、そう思っていた。
坊主に刈り上げた男、冴島(さえじま)大河(たいが)
かなりの大柄な男で、厳つい顔を見せる。
彼もまた極道者、東城会の1人だ。

牢獄の中、ただただ出所の時を待ち続けた。
だがその時が来る前に、思わぬ報せが届く。


網走刑務所の所長である高坂(こうさか)誠司(せいじ)が、冴島の牢獄へとやって来たのだ。
半年前に1度冴島と接触し、かつての事件に手助けをしてくれた男。
当時は副所長だったが、所長が殺害されたのを期に所長へとなった。
そんな高坂が今、冴島のもとに現れる。


「面会だ、冴島」
「俺に、面会?」


高坂は何も言わない。
鍵を開け、冴島を連れて面会室へと向かった。
誰が来たんだ?
何故高坂がここに?
訊こうと思ったが、何故か言葉は出てこなかった。
いろいろ頭を悩ませている間に、面会室へと辿り着く。
先頭を歩いていた高坂が振り返り、冴島の肩を叩いた。


「現実に向き合うか、逃げるか。それはお前に任せる」


その言葉は、いつもの彼らしくない。
普段の高坂を知っているなら、尚更違和感を覚えた。
この扉の先には、何かある。
普段なら何とも思わない扉を、冴島はそっと開けた。

だがそこに待っていたのは、重苦しい雰囲気とは正反対の男。
黄色の派手な柄ジャケットに、左目を隠す龍の眼帯。
それを見ただけでも、男の正体はすぐにわかった。


「兄弟……」
「会いに来たで、冴島」


東城会幹部の1人、真島(まじま)吾朗(ごろう)
冴島と兄弟の(さかずき)を交わした、親友とも呼べる存在だった。
半年振りに見る真島の姿は、『相変らず』という言葉が似合ういつも通りの風貌。
だが、真島が世界を見れる唯一の右目は、どことなく真剣だった。
ガラス1枚隔てた先にいる真島を見ながら、正面の椅子に座る。


「悪かったなぁ、なかなか会いに来れんで」
「ええって、お前も忙しいんやろ。俺の事は気にせんでええ」
「アホぬかせ、ホントは寂しかったんやろ」


そう言う真島の顔は、嬉しさを隠しきれていなかった。
冴島の顔にも、少し笑顔が溢れる。
たわいのない話を少しした後、真島は急に眉をひそませ本題を切り出した。


「……桐生ちゃんがな、死んだらしいんや」
「何やて!?」


驚きのあまり思わず椅子をひっくり返して立ち上がるが、数秒固まった後に椅子を元に戻して改めて座り直す。


「せやけどな、ワシは桐生ちゃんが死んだって話、嘘やと思っとんねん」
「嘘やと……?」
「まだ死体が出てきてへんからや。ワシはこの目で見ん限り、死んだとは認めへんからな」
「それは俺も同感や。あないなごっつい男が、簡単に死ぬなんて思えん」


さっきまでの笑顔から一変、互いの顔が強張る。
何故、という疑問。
失った、という虚無感。
それよりも、信じられないという気持ちが1番強かった。


「冴島、ワシは桐生ちゃんを捜そうかと思っとる。見つけても見つからんくてもええから、いっぺんやってみよかて」
「ま……まさか兄弟、ここに来た理由っちゅうんは……」


真島は、目の前のガラスを叩き割らんかの勢いで、頭を思い切り下げる。
悩んでいた冴島は、真島のその行動で気付いた。
桐生捜しを、手伝ってほしい。
やれるなら、やりたい。
ただ今は、このガラス1枚で隔てられた向こうの世界に出る事は出来ない。
誰かの許可無しには……。

そこで冴島はさらに気付く。
現実に向き合うか逃げるか、お前に任せる。
その言葉の真意が、わかった気がした。


「兄弟、俺も連れてってくれ。手伝う」
「ホンマか!?」
「勿論や。俺だって真相を知りたいんや。桐生はホンマに死んだんか……」


その言葉を聞いて安心したのか、真島は椅子の背に力が抜けたかのようにもたれかかった。
断られると思ったのだろうか、顔にいつもの余裕がない。


「とりあえず明日、10時に駅で待っとる。それまでに、準備は出来るだけしとくんやで」


そう言い残して、真島は去って行った。
1人取り残された冴島の元に、再び高坂が現れる。


「決めたか、冴島」


振り返った冴島の目には、既に迷いは無かった。
言葉で伝えずとも、考えを汲み取った高坂は、静かに笑う。


「逃げは、しないのだな」
「何や、えらい嬉しそうやないか。俺は囚人やぞ?」
「そんな事は無い。明日、所長室へ来い。仮釈放の届け出をだしてやる」
「……あんたも変わったな」
「気のせいだ。独房へ戻るぞ」


冴島は立ち上がり、面会室から出ようとする。
ふと振り返り、そこに誰もいない事を再確認した。
気のせいか……。
そのまま面会室を、静かに去って行く。

入れ替わるように、面会室に男が入ってきた。
こんな時期には似つかわしく無い、黒コートにフードを被った男。
顔を上手く隠しているが、少し伸びた髭は隠せていなかった。


「奴が、冴島大河……か。」


男は何かを確認して、面会室から姿を消した。 
 

 
後書き
次回4/30更新 
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