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大統領 彼の地にて 斯く戦えり

作者:騎士猫
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第十三話 事後処理

イタリカ防衛戦は第一航空騎兵団が到着したことで一気に終結した。
盗賊団はそのほとんどが冥界の門をくぐっていた。

「化け、物・・・」
50人余りの盗賊が戦闘ヘリのチェーンガンによって一瞬で葬り去られたのを見てピニャとハミルトンは唖然とするしかなかった。むろん50人程度であれば損害覚悟で行けば勝てる数ではあったが、一瞬で片づけることなどできない。
「・・鋼鉄の天馬・・・なんなのだあれは・・?人が抗うことの出来ない絶対的な暴力・・・全てを叩き潰す力・・誇りも・・・名誉も・・・全てを否定する・・・」
ピニャは震えながらつぶやいた。
「これは女神の蔑みなのか?・・・人は何て傲慢で、無価値で・・無意味なのか・・・」

やがて第一航空騎兵団の輸送ヘリ部隊が到着し、降下するとすぐに展開し始めた。各所にいる斬敵の掃討及び拘束、負傷者の救助である。

「あれだけの盗賊が、全滅・・・ロンディバルト軍とは・・・」
ピニャはテラスから城門周りを見渡した。そこには全身に返り血を浴びたペルシャールとシェーンコップが立っていた。ピニャは最初にあった時とはまるで別人のようになったペルシャールを見て再び震えた。


「終わりましたな・・・」
未だ少し身を震わせているピニャにグレイとハミルトンが歩み寄ってきた。
「・・確かに盗賊は撃退した・・・」
「はい、我々の勝利です」
「違う・・・勝利したのはエムロイの使徒ロウリィとロンディバルト軍で妾では、ない」
戦勝の祝いの言葉を言うハミルトンに対してピニャは拳を震わせながら言った。
「そして奴等は・・聖なるアルヌスを占拠し続けている・・我等が敵・・・」
「!!?」
「やはり・・薄々は勘付いてはいましたが・・・」
「・・・妾はイタリカを掬うつもりで・・もっと恐ろしいものを引きづり込んだのではなかろうか・・・。一瞬にして盗賊を撃退したあの鋼鉄の天馬と強大な魔導がもし・・イタリカに向けられたとしたら・・・妾も・・」
ピニャは想像した。ロンディバルト軍がイタリカに攻め込み、自身が捕虜になっている姿を。
「フォルマル伯爵公女ミュリ殿も、簡単に虜囚となり、この帝都を支える穀倉地帯は敵の物となる・・・それを民は歓喜の声で迎えるだろう」
「そ、そんなことはっ」
「ないと言い切れるかっ?実際、町を救ったのは彼らだぞ」
ピニャの言葉にハミルトンは言葉を失った。民は自らにもっとも真摯な方につくのが普通である。
「もし彼らが開場を要求すれば、妾も取りすがって慈悲を乞い・・足の甲にキスしてしまうかもしれない・・・。特に妾はあの二人が恐ろしく見える・・・」
「ミースト殿とワルター殿・・ですな?」
「あの殺気と狂気に満ちた戦い・・・まるで・・死神・・・ロンディバルト軍でも特にあの二人を怒らせれば・・待っているのは冥界への門・・・」
ピニャは初の戦いは最悪な形で、それも未だ終わることはなかった。
ピニャは何があっても怒らせることがないようにと心の中で繰り返し呟きながら伯爵邸へと戻った。


■ペルシャール・ミースト


俺たちは軍服を着替えて身だしなみを整えて伯爵邸の大広間に来ている。随行員はシェーンコップ、おやっさん、レレイ、テュカ、ロウリィの6人だ。中央奥の玉座にはミュイ皇女とピニャ皇女、そしてその眼には腹心の、確かハミルトンだったか。おれ達の横にはメイド丁らしき婆さんと4人のメイドが待機している。
「イタリカ救援に感謝し、その対価の交渉を行いたい」
感謝してるならソファにでも座らせてくれと言いたい。なんで助けた側が立たされて助けられた側が堂々と座っているんだ。それも玉座的な奴に。やっぱり中世だから向こうが上になるのは仕方ないことなんだろうな・・・。
「感謝されるのは結構なことですが、ピニャ殿下?一つお忘れになっていることがあるのでは?」
俺がそういうとピニャ殿下とハミルトンが顔を見合わせた。
「我らはロンディバルト軍、貴方たちの呼び方で”異世界の軍隊”です。帝国と我々は現在戦争状態になっていると記憶しているのですが、そのような者たちをこんなところに呼び寄せてよろしいので?」
俺がそう言うと二人は顔を強張らせた。同時にメイドたちの目も変わった。なるほど、ただのメイドではなくピニャ皇女たちの護衛か。目が鋭いな。かなりの手慣れのようだ。
「そ、それは・・・」
「ピニャ殿下もご覧になったかと思いますが、わが軍は帝国を遥かに凌駕する軍事力を保有しております。率直に言えば今すぐにでも帝国の重要な穀倉地帯であるここイタリカを武力占領することなど容易いのですよ」
「ま、まってくれっ!話し合おうではないか!?」
ピニャ皇女が慌てて言った。
「では、横の客間で座りながら話し合いましょう」
「す、座りながら・・?」
本当にやるとでも思ったのだろうか?
「そうです。あなた方と対等の立場で話し合いをしたいのです」
「わ、分かったっ!すぐに準備しよう!!」
ピニャは急いでメイドたちに指示を出した。メイド長は随分落ち着いているな。戦場経験済みか?ピニャ皇女と変わったほうがいいんじゃないだろうか。


「で、では改めて交渉を行わせていただきたい」
急に敬語になったな。これでようやく対等か・・?まだ少し自分が上だと思ってるだろうな。
皇族だし仕方ないけど。
「分かりました。こちらから提示させていただくのは7つです。

・戦闘でかかった諸経費を金貨又は銀貨で支払うこと
・使節の往来の安全保障と諸経費はそちらが全額負担すること
・アルヌス協同組合の貿易の租税を免除すること
・捕虜の権利をすべてこちらに渡すこと
・イタリカを含むフォルマル伯爵領内を範囲とする停戦協定を結ぶこと
・現地治安維持及び防衛のために一個大隊(約千人)が駐屯することを認めること
・上記の駐屯地の土地の割譲及び食糧(穀物)を提供すること

以上が、こちらからの提案です」
俺が言い終えるとハミルトンはピニャの方を向いた。
「第一第二第三については了解した。だが、捕虜の権利はこちら側にしていただきたい」
やはり捕虜の権利は譲ってもらえないか。まぁ街の復興とかに人手がいるからな。仕方ないか。
「イタリカの復興のために人手が必要だということは理解しました。しかし人道的に扱う確約を頂けますか」
「ジンドウ、テキ・・?」
しまった、この世界には人道的という言葉はないんだったな。
「友人、知人、親戚のように無下に扱わないということです」
「友人や親戚が、平和に暮らす街を襲い人々を殺め、略奪などするものかっ!」
ハミルトンが席を立って声を荒げた。
「それが我々のルールです」
「・・・分かった」
ハミルトンを座らせながらピニャが答えた。
「その代わりと言ってはなんですが、捕虜数人をこちらにいただけないでしょうか。現地の情報を詳しく知りたいと思いますので」
「かまわない・・・」
「ありがとうございます」
俺は笑顔で頭を下げた。だがピニャ皇女の顔はいまだ強張ったままだ。もう少しリラックスしろよ・・・しわが出来るぞ?

「では残りは停戦協定と軍隊の駐留についてだが、停戦協定はともかく軍隊の駐留は・・・」
「この世界では相手の街に駐留して占領することがあるようですが、これはあくまでイタリカを守るためのものです。こちらとしても異世界との重要なつながりを失くしたくはありません」
「なるほど、分かった。認めよう・・・」
こちらには圧倒的な軍事力があるからな。下手に怒らせるより逆に取り入れる方が向こうにとっても利益があるだろう。一個大隊とは言っても各地の治安維持には十分すぎる数だ。防衛についてもイタリカだけであれば十分に援軍到着まで持ちこたえられる。
「では捕虜の権利を除く6条は認めていただくということでよろしいでしょうか?」
「ああ、問題ない・・・」
「では我々は失礼させていただきます。・・・あ、捕虜を選びたいのでハミルトン殿に同行をお願いしたいのですが」
「ああ、かまわない・・・」
俺たちが部屋を出るまで終始ピニャ皇女の顔は強張ったままだった。
 
 

 
後書き
この時点でペルシャールは一通り現地語は覚えています。ところどころ言えないところはレレイが裏で補足していると解釈してください。
アニメと同じ条文にしようかと思いましたが、少し付け加えたりしました。
ネタで「先ほど皇帝である私に対して攻撃したようだが宣戦布告ととらえてよろしいかな?」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」「聞く耳持たん!」「(捕虜)」
というのも考えましたが、当然続くはずないので即却下しました。

やっぱり独自でストーリー作っちゃうとアニメの展開がことごとく潰えそうなのである程度はアニメ基準でとこどころ変えるといった感じにします。 
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