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ピンクハウスでもいい

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5部分:第五章


第五章

 それから。まずは千佳が口を開いた。
「それで先生」
「言いたいことはわかってるわ」
 先生は覚悟を決めた顔で千佳に応えた。
「さっきのことよね」
「はい、そうです」
 先生のその言葉にこくりと頷く。
「どうしてですか?また」
「ずっと前から秘密にしていたけれど」
 先生はその覚悟を決めた顔でまた述べる。観念したように。
「あれが先生の趣味なのよ」
「趣味ですか」
「そうなの」
 また言う。
「先生ね、普段は地味な格好をしているけれど」
「学校のあれですね」
 地味なスーツ姿だ。それは千佳もよく知っていた。
「本当は。可愛らしい服が好きなのよ。服だけじゃなくて」
「他にもですか?」
「そう。アクセサリーとかも」
 これまた意外だった。先生は少女趣味だったのだ。
「男の子もね。ちょっと」
「ちょっと?」
「気付かなかったかしら。先生結婚してるの」
「えっ!?」
 この告白はこれまでになく衝撃的だった。先生が結婚しているとは流石に思いもしなかった。千佳はその目を思わず点にさせてしまった。
「だから。先生旦那様がいるのよ」
「そうだったんですか!?」
「指輪もしていないし秘密にしているけれど。名前は変わっていないし」
「そういえばそうですね」
 これにふと気付いた。名前が変わっていない。
「お婿さん貰ったから」
「お婿さん、ですか」
「先生一人娘だから。家を継がないといけないし」
 古い考えだがまだある考えであった。だから先生は結婚していても他の人にはわからなかったのだ。中々面白く隠れたものであった。
「それで。お婿さんをね」
「はあ。そうだったんですか」
「可愛い子を貰ったの」
「御主人もですか」
 どうやらこの先生の少女趣味は筋金入りだと思った。夫まで可愛いと言うのはもうそれだけでかなりのものだとわかることであった。同じ少女趣味の人間として。
「大学生だけれどね。その、だから」
「年下の方なんですね」
「そうなの。大学でたら先生になるの」
 それも決まっているようであった。どちらにしろ子の先生が可愛がっているような人なのは確かでえあった。これはそのよそよしい言葉からわかる。
「その人とね」
「どんな方ですか?」
「えっ!?」
「だから。どんな方ですか?」
 千佳はまた先生に尋ねるのだった。
「ここまでお話して頂いたら。最後まで御聞きしたいので」
「写真ね」
 先生はふと口に出した。
「主人の写真。見せて欲しいのね」
「駄目ですか?」
「いえ、いいわ」
 少し意外にも先生は素直に千佳の申し出を受けたのだった。
「よかったら。はい」
 そして懐の財布から一枚の写真を出してきた。そこには楽しげに笑う先生と童顔で小柄で可愛い男の子が映っていた。大学生にはあまり見えない感じだった。
「この人ですか」
「大学の三つ後輩で」
 先生はそう説明する。
「一目で。その、あれで」
「好きになられたんですね」
「そうなの」
 頬を赤らめさせてこくりと頷いてきた。
「主人は私の趣味を知っているけれど別に何も言わないし」
「そんなに気になります?」
「だって。当然じゃない」
 顔を俯かせて千佳に述べる。
「似合わないでしょ、やっぱり」
 それが先生の言い分であった。
「先生みたいな女がそんな格好」
「それは別に」
「お世辞は言わなくていいから」
「じゃあ本音言いましょうか?」
 千佳はこう先生に返した。
「それだったらいいですか?」
「ええ、いいわ」
 また覚悟を決めている声になった。その声で言うのだった。
「是非。言って」
「じゃあ」
「人それぞれですよ」
 にこりと笑って言う千佳であった。
「えっ!?」
「ですから。人それぞれですよ」
「お世辞!?それとも」
「だって。私も同じですし」
 千佳はまたにこりと笑って言う。そこには何の照れも隠しもなかった。
「同じって。それは」
「一緒にピンクハウスの服着てますよね。ですから同じじゃないですか」
「それはそうだけれど」
 しかしそれでも先生は俯いている。納得していない顔であった。
「私はそうは。思えないわ」
「じゃあ逆の立場だったとしますね」
 千佳はそれを受けて今度はこう言うのだった。
「私が先生だったら。どう思われますか」
「それで私が生徒なのよね」
「はい、それだと」
「羨ましいわ」
 これが先生の意見だった。見ればその目は少し羨望が入っていた。そうして千佳を見ている。彼女がピンクハウスが似合うのが羨ましいのだ。
「本音を言うけれど」
「羨ましいですか」
「ええ、似合うから」
 それを正直に述べる。紅茶がいつもより苦く感じる。だがそれは有り得なかった。何故なら先生が飲んでいるのはロイヤルミルクティーだからだ。しかもそこには砂糖をこれでもかという程入れているのだ。苦い筈がないのだ。甘くはあっても。
「やっぱり」
「それで。どうしたいと思われますか?」
「どうしたいって私が!?」
「はい」
 またにこりと笑って先生に言う。
「どうされたいですか、羨ましいと思ったら」
「やっぱり。そうなりたいわ」
 これが答えであった。
「似合うように。無理かも知れないけれど」
「私もです」
 そこでこう言う千佳であった。
「私もそうなりたいです。似合うように」
「けれど後藤さんは」
「先生は素敵な方ですよ」
 声をうわずらせた先生に言うのだった。
「そ、そうかしら」
「背が高くて奇麗で」
 これは本当のことである。千佳が本当に思っていることだし他の皆もだ。実は先生は美人で評判なのだ。色々と地味だの言われていてもだ。この評判は確かである。
 
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