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ピンクハウスでもいい

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3部分:第三章


第三章

「じゃあいいです」
「まあまあお客様」
 ここで店員さんはフォローに入る。善意と計算の両方がそこにある。なおこの店員さんは善意が七で計算が三であった。いい人と言っていいか。
「そう仰らずに。御気を落とされずにですね」
「ええ」
「これなぞ如何でしょうか」
 その善意と計算のもとに別の服を提案してきたのだ。
「これって?」
「はい、これです」
 その売れた服と同じページにある服を指差してきたのだ。
「この服は如何でしょう」
「あっ、これですか」
 実は千佳もその服に目をつけていたのだ。だが考えた末にその売れた服にしたのである。そうした経緯がある為その服もまたお気に入りだったのだ。千佳も店員さんも見る目があると言えた。
「如何でしょうか」
「いいですね」
 千佳は明るい声で応える。
「じゃあこれで」
「はい、それでは」 
 こうして千佳は本命の服は買い損ねたが次点の服を買うことができた。このことで機嫌はまあ保たれた。それで早速家に帰ってまずは服を片付けて次の休みに着て遊びに行くことにしたのだった。
「残念だったわね」
 次の日由美子にそのことを話した。すると由美子はこう言葉を返してきた。
「それはまた」
「うん。けれど別の服が買えたし」
「それでよしなのね」
「そういうこと」
 日に焼けていささかボーイッシュな由美子に対して言う。由美子の髪型は千佳のそれに似て長いが色ははっきりとした黒である。ボーイッシュな顔立ちにロングヘアは微妙なアンバランスと可愛さを醸し出していた。
「よくあることだし」
「何か買わされたって気もするけれど」
 由美子は右手で頬杖をつき少し目を細めさせて言うのだった。
「まあそれもよしね」
「いい服買えたし」
 千佳はそれで満足であるようだった。
「それでね、今度の土曜日」
「何処か行くの?」
「買い物行こうかなって思ってるの」
 機嫌のよさを全開にしての言葉だった。
「どうかしら」
「悪くないんじゃない?」
 由美子は頬杖をついたままクールな声で述べてきた。
「お金があれば」
「まだ少しあるの。じゃあいいわよね」
「買い物行くの私じゃないしね」
「一緒に来てくれないの」
「御免なさい」
 何故か謝ったところで急に顔がにこりとしていた。
「私その日は」
「ああ、あれね」
 千佳は由美子のその顔と声で事情を察した。
「デートね」
「ふふふ、そうなのよ」
 心から楽しみな顔になっている由美子であった。
「いいわよ。彼氏優しいし」
「隣のクラスの御木本君だったわよね」
「ええ。千佳も彼氏作ったら?やっぱり違うわよ」
「私も。そうね」
 由美子のその言葉にふと考える顔になる。
「いいかしら。相手がいればだけれど」
「そんなのは作るものよ」
 由美子はきっぱりと言った。
「自分でね」
「そうなの」
「そうよ。いい?」
 由美子はここで己の恋愛感を言うのだtった。
「まず押す」
「押す?」
「そう。そして次に押す」
 かなり強引な恋愛感であるらしい。
「また押してその次も押して」
「最後は?」
「そこも押すの。いいわね」
「全部押すんだ」
「そういうこと」
 強い声で答えた。
「押して押して押しまくらないと駄目よ、ああいうのは」
「止まらないんだ」
「ええ、とまるわ」
 ここで由美子は不意に言うのだった。
「ただ、とまるのは」
「止まるのは?」
「相手の家よ。それも強引にね」
「えっ、じゃあ」
「そうよ、泊まるの」
 言葉の意味が違っていた。由美子は話をしてそれを理解したのだった。
「ストップしたらそれで終わりだから」
「そうなんだ」
「そうよ。そしてそこでも押すのよ」
 高校生から逸脱した言葉になっていた。だがそれでも由美子は己の主張を変えないのだった。やはり強引な彼女であった。
「もっと細かく言えば迫る」
「迫る・・・・・・」
「そう、迫るの」
 また言うのだった。
「相手が戸惑えばさらにね。わかったわね」
「何か凄いのね」
「好きになったら当然でしょ」
 由美子は当然のように述べた。
 
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