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王朝

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第一章

                 王朝
 曹操の頃は強勢を誇り天下の殆どを治めていた、だが。
 今曹家は何の力もなかった、皇室は飾りに過ぎず。
 国家の全てを宰相である司馬師、そして司馬昭の兄弟が治めていてだ。皇帝は次々に廃され弑逆された。
 そして曹奐が皇帝となっていたが。
 彼は宮廷にいるだけで何もしなかった、それでだ。
 周りにいる僅かな者達にだ、こう問うたのだった。
「今日は何かあったか」
「はい、特にです」
「そうか」
「はい、これといってです」
 まさにというのだ。
「何もありませんでした」
「宮中ではだな」
「宮中では何もありませんでした」
 周りの者達もこう答えた。
「特に。しかし」
「それでもだな」
「外の世界はです」
 そちらはというと。
「わかりません」
「そうか、全てはだな」
「司馬昭殿が動かされています」
 宰相である彼がというのだ。
「そうしていますので」
「そうか、わかった」
「全てはです」
 何もというのだ。
「宰相が動かされていますので」
「朕がすることはないな」
「何も」
「では朕はだ」
 曹奐は実にだ、つまらなさそうな顔で言った。
「今日も何もせぬ」
「そうされますか」
「何もする必要がないからな」
 だからこそというのだ。
「何もしないでおこう」
「左様ですか」
「食いそして寝る」
 あくまでそれだけだというのだ。
「そうしよう」
「女は」
「それなりに抱くが」
 しかしというのだった。
「子孫を残してもだ」
「何もならぬと」
「どうせ曹家に何もない」
 皇室であるこの家にはというのだ。
「それならばだ」
「子孫を残してもですね」
「何もない」
 全くというのである。
「ならそちらもだ」
「それなりにですか」
「すればいい。もう曹家には何の力もないからな」
 こう話してだ、そしてだった。
 曹奐はこの日も何もすることなく、もっと言えば何も出来ないまま一日を過ごした。そしてある日周りの者にこう言われたのだった。
「蜀が滅びました」
「そうか」
「はい、兵が蜀に送られ」
「そうか」
「その後で叛乱が起こりましたが」
 それでもというのだ。
「あの国は滅びました」
「そうか、わかった」
 その話を聞いてもこう言うだけだった。
「では次はな」
「呉ですか」
「魏だな」
 全てを達観している言葉だった。 
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