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一瞬の役なれど

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第三章

「家老の息子でしょ」
「はい、敵役の」
「斧久右衛門のですよね」
「息子で」
「親父より悪い奴で」
「悪党の親父からも勘当される位の」
「そう、そうなるきっかけの話とかもあって」
 それにというのだ。
「奥さんの話もある位よ」
「あっ、そういえば何か」
「女定九郎って舞台もあるらしいですね」
 二人もここで思い出した。
「私観たことないですけれど」
「私も」
「これは仮名手本の後の作品だけれど」
「それでもですか」
「そうした舞台裏もあるんですね」
「そう、最初に演じた役者さんも結構名のある人だったし」
 当時からだ、今も当然名前が残っている。
「そうした色々なことがあってなのよ」
「ほんの一言の役でもですか」
「あんなに格好よくてですね」
「いい役者さんが演じる」
「そうなんですね」
「そうなの、定九郎はね」
 琴乃は微笑んでだ、お茶を飲みながら二人に話した。
「そうした役なのよ」
「成程」
「よくわかりました」
「歌舞伎は色々な作品、色々な役があるけれど」
「そうしたですね」
「定九郎みたいな役もあるんですね」
「そうなの、私の地元なんてね」 
 琴乃は笑ったままだ、二人にこうしたことも話した。
「熊本でしょ」
「あっ、そうでしたね」
「先輩熊本の人でしたね」
「どんな舞台でも絶対にね」
 それこそ何の関係もなくともというのだ。
「清正公さん人出るのよ」
「ええと、加藤清正さんですか?」
「あの人ですか」
「そう、その忠臣蔵でも勧進帳でもね」
「出て来る」
「そうなんですね」
「そうなのよ、一瞬でも」
 それこそというのだ。
「絶対に出るのよ」
「清正さんと関係ないお話でも」
「絶対にですか」
「清正公さんよ」
 琴乃は亜季と愛美にこう訂正させた。
「熊本ではね」
「公とさん両方付けって」
「また凄いですね」
「それだけ尊敬されてるの、だからね」
「どんな舞台もですか」
「出て来られるんですか」
「加藤清正でござるって一言でもね」
 それだけの出番でもというのだ。
「出て来られるのよ」
「熊本ではですか」
「そうなんですね」
「まあ定九郎さんとは違うけれど」
 少ししか出ないということは同じでも、というのだ。
「そうした役もあるわね」
「少しだけしか出番なくても」
「重要な役がですね」
「あるんですね」
「歌舞伎には」
「覚えておくと面白いわよ」
 琴乃はお茶を飲みながらだ、二人に話した。歌舞伎にはそうした役もありそれだけに奥が深いということをだ。
 二人もそのことを聞いて頷いてだ、お互いに言った。
「じゃあ今度忠臣蔵観る時はね」
「定九郎さんにも注目しようね」
「そんな面白い役なら」
「絶対に」
「歌舞伎は侮れないのよ」
 最後にこう言った琴乃だった、出番の少ない役でも思いも寄らぬまでの深いものが存在するからこそ。


一瞬の役なれど   完


                        2015・12・20 
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