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バレンタインは社交辞令!?

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4部分:第四章


第四章

「じゃあ引き分けかな、やっぱり」
「彼にとってみればどうでもいいのよ」
 岩田さんは卓を差して言ってきた。
「チョコレートが貰えれば」
「それで一杯しようって考えてるんだろうね」
「そうでしょうね。だから乗り気なのよ」
「やれやれ」
 それを聞いてどうにもぼやいてしまう。
「何か妙なことになったな」
「けれど受けたのよね」
 岩田さんは今度は浩太に言う。
「勝負」
「まあね」
 それは認める。
「けれど。どうなるかな、本当に」
「まあ今更どうこう言わないことよ」
 岩田さんこう言ってきた。
「どんと構えていけばいいじゃない。引き分けでも負けでも」
「勝つとは思ってないんだね」
「そんなのやってみたいとわからないからね」
「けれど何で勝てるって言わないの?」
「じゃあ勝ちたいの?」
「そう言われると」
 首を捻ってしまうのも実はある。彼もそんなことは考えてはいないのだ。
「あまり」
「そうでしょ」
「まあね」
 自分でもそれを認める。
「勝ったら大吟醸だけれどね」
「じゃあ勝ちたい?」
「お酒がかかってるとやっぱり」
 そう答えはするがやはり言葉の歯切れは今一つである。彼もあまり勝ちたいとかそういうことは思っていなかったりするのが実情なのだ。
「勝とうかな」
「じゃあ勝ったら?」
 岩田さんは素っ気無い素振りで言ってきた。
「誰か女の子にでも頼んで」
「ううん」
 そう言われると今度は腕を組んで考えてきた。
「そうするのもなあ」
「煮え切らないわね」
 岩田さんはそんな彼を見てまた言ってきた。
「そんなことでどうするのよ」
「だってさ。確かに大吟醸は欲しいけれど」
 それを受けて述べる。
「そこまで極端にはね」
「けれど勝負事は勝負事よ」
「うん」
 その言葉には頷く。
「じゃあ勝ちたいのね」
 何故か岩田さんは話を強引に纏めにかかっているようであった。
「やっぱり」
「まあ強いて言うならね」
 浩太もそれに押される形で答えた。だがやはり強引な感じだったので彼は引き摺られる感じであった。しかしそれでも言ったのは事実である。
「まあ勝負なら」
「わかったわ」
「!?」
 岩田さんの言葉に眉を顰めさせる。
「そういうことならね」
「どういうこと?」
 何か話が全く見えなくなってきた。首を傾げながら尋ねる。
「それって」
「ああ、何でもないわ」
 けれどそれには答えようとはしない。
「何でもないから。気にしないで」
「いや、気にしないでって言われても」
 それに突っ込みを入れる。
「ここまで来てそれはちょっと」
「とにかくね」
 だが相手の方が一枚も二枚も上手であった。岩田さんはまた押し切ってきたのであった。
「バレンタインは頑張ってね」
「社交辞令だけれどね」
「思わぬトラブルがあるかもよ」
「だといいけれど」
 苦笑いというか冗談めかした笑いで返した。
「まあ期待しないで待ってるよ」
「期待してないのね」
「だからさ。社交辞令じゃない」
 それを強調する。
「それで期待するも何も」
「そこよ」 
 しかし岩田さんはそこを強調する。
「人間期待しないと駄目と。何でもね」
「こんなことでも?」
「そう、こんなことでも。たかがバレンタイン」
 何かお決まりの言葉を出してきた。続く言葉もである。
「されどバレンタインよ」
「じゃあ」
 彼はそれに応えた。そして言った。
「期待するよ」
「それがいいわ。それじゃあさ」
「うん」
「どっかで飲む?」
「どっかでって」
 話はそれで一旦終わり飲む話になった。実は岩田さんはかなりの酒豪でもあるのだ。
「何処で?」
「駅前の養老の滝か白木屋なんてどう?」
「悪くないね」
 何処にでもあるチェーン店であるが浩太も嫌いではない。実際に時間とお金があればちょくちょく入って飲んでいる程である。彼は煙草もギャンブルもやらないのでお金は結構持っているのである。
「じゃあ飲みましょう。丁度白木屋で面白いのやってるのよ」
「何、それ」
「焼き鳥よ。それとビールが凄く安いのよ」
 岩田さんはその言葉を待ってましたとばかりに言ってきた。焼き鳥にビールは確かに魅力的だ。浩太もそれを聞いて心を強く惹かれた。
「どう?」
「どうって言われると」
 無意識のうちに喉がゴクリ、と鳴った。

 
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