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戦国異伝

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第二百四十九話 厳島その六

「瀬戸内の西での戦となると」
「壇ノ浦ですな」
 明智が言ってきた。
「あの海で」
「そうなるであろうか」
「そうなることもです」
「やはりあるか」
「はい、しかし壇ノ浦での戦となると」
 それはとだ、明智は言った。
「まさに最後の戦に相応しいかと」
「我等の戦にか」
「あの戦で平家は滅びましたが」
「今度はか」
「はい、魔界衆が滅びます」
 そうなるというのだ。
「実際には平清盛公も平家も悪ではなかったですが」
「ですな、どうもそれがしが聞きまするに」
 羽柴が明智に応えて言って来た。
「あの方は悪ではなく」
「暴虐の方でもありませんでした」
「左様でしたな」
「平家は一門も家臣もまとまっていました」
「見事なまでに」
「それを見ますと」
「むしろ、ですな」
 羽柴は首を傾げる動作をしつつ述べた。
「源氏の方が」
「常に身内で争い家臣を何かと討っていました」
「幕府を開いてからも」
「そして最後は血が絶えてしまいました」
「頼りになる幕臣も減り」
「そうなっていますので」
 明智も言うのだった、その源氏のことを。
「こちらの方が問題でした」
「ああなってはなりませぬな」
「上様もそれがわかっておられます故」
「ですな、我等はその上様の下」
「壇ノ浦での戦になっても」
「魔界衆を滅ぼしましょうぞ」
 どの様な場であろうとも、というのだ。こう話してだった。一行は厳島明神に勝ちを約した。そしてその後で。
 顕如は空を見てだった、目を瞠って言った。
「これはよきこと」
「はい、全く以て」 
 雪斎も顕如のその言葉に頷く。
「これ以上はない吉兆ですな」
「ですな、五色の雲が出るとは」
「何とよきこと」
「これはどうやら」
「天が上様の願いを喜んでおられますな」
「神仏も照覧あれよ」
 信長は強い声でだ、その五色の雲を彼自身も見つつ微笑んで言った。
「わしは必ず勝つわ」
「そしてそれを聞かれたからこそ」
「だからですな」
「厳島明神も聞かれて」
「雲で応えられましたか」
「そうじゃ、思えば厳島明神は最後まで平家を庇った」
 平家物語によればだ、この社の神は他の神々が平家を批判する中でただ一柱庇っていた。その守り神であるが故に。
「見事なものじゃ」
「ですな、心優しき神であられますな」
「厳島明神は」
「そしてその厳島明神がですか」
「上様のお心を受け取られましたか」
「ではじゃ、この五色の雲を吉兆として受けてじゃ」
 そのうえでというのだ。
「最後の戦いじゃ」
「魔界衆とですな」
「最後の戦ですな」
「これより」
「そうなりますな」
「そうじゃ、では瀬戸内の幸を食い」
 その海の幸をだ。 
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