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八神家の養父切嗣

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三十五話:予言



 ―――旧き結晶と願望の石は器となり無限の欲望に満つ

 ―――死せる王は古の英雄の下に聖地より彼の翼を蘇らせる

 ―――正義の使者は踊り、中つ大地の法の塔は欲望に呑まれ滅ぶ

 ―――それを先駆けに数多の海を守る法の船は終わりを迎え

 ―――二つの月が交わる時、新たな世界は産み落とされる



「これが私のレアスキル『プロフェーティン・シュリフテン』で何度も予言されている内容です」

 聖王教会の最深部にある騎士カリムの部屋にてある極秘の会議が行われていた。その場にいるのは主であるカリム・グラシアと六課の後見人であるクロノ。そして六課の部隊長であるはやてになのはとフェイトの計五人だ。

 光や音の一切を遮断する暗幕を引かれた上で行われている会議の議題は六課設立の真の理由。管理局の崩壊を意味する予言を阻止するための部隊だということをなのはとフェイトはここで初めて聞かされていた。そして、同時に二人にも予言の詳細な内容が伝えられたのである。

「細かい点は不明で解釈は割れるんですが、はっきりとしているのは今の管理局の終わりが予言されているということです」
「中つ大地の法の塔は欲望に呑まれ滅ぶ。これは多分地上本部のことで」
「数多の海を守る法の船は終わりを迎えっていうのが管理局の終わり、つまりは滅びやな」

 カリムの説明に捕捉する形でクロノとはやてが付け加える。その説明を聞いてなのはとフェイトは顔をしかめる。確かに管理局の終わりは告げられている。だが、本当に管理局が滅ぶのだろうか。地上本部が完全に破壊されれば確かに大きな痛手にはなるだろう。

 なんといってもミッドチルダは管理局発足の地でありお膝元だ。そこを落とされるのは物理的ダメージよりも精神的ダメージが大きい。しかしながらあくまでもそれは陸に限定した場合だ。そこから海に広がる管理局全てを潰すなど普通に考えれば結びつかない。

「まあ、二人も思っとるやろうけど管理局が終わるっていうのはちょっと現実味がないなぁ」
「信じられないのも、まあ、分からなくもない」
「私の能力は良く当たる占い程度です。ですが、何度も同じ内容が出るのは決して偶然ではない。何かしらが起きる可能性が高いのです」

 もしもこの予言が一回だけであればカリム自身が流してしまっていただろう。だが、何度も続いていることこそが不気味な点である。あり得ないと思ったことが何度も続けばだれであろうと少しは信じてしまうのである。

「僕もはやてや騎士カリムといった信用できる人物以外に言われていたら信じていなかったかもしれない。だが、どうしても見過ごせない単語が中にあってね。なのは、フェイト、君達も何か引っかからないかい?」

 クロノに言われて二人は予言の内容をもう一度頭の中で復唱する。自分達と何かしら関係がある単語。それは自分達の出会いの原点であった。これがなければすべての奇跡は、出会いはなかったと言える物。それをめぐって何度もぶつかり合ったロストロギア。

「願望の石……ってもしかして?」
「ジュエルシード…?」
「確証はないが僕はどうもそんな気がしているんだ」

 ジュエルシード。願望を叶える性質を持った宝石のようなロストロギア。これだけ言えば喉から手が出るほどに欲しいものに聞こえる。しかし、そんなに上手い話など現実にはない。ジュエルシードは願いを歪んだ形で叶える。

 それが高い知能を持つ生物であればるほどに歪みは大きくなり力も比例して大きくなる。要するに実用性など皆無だ。何故作ったのだと本気で制作者に聞いてみたいような代物であるのだ。

「そんな……でもあれは管理局がちゃんと管理しているはずじゃ…!」
「研究所に研究で貸し出した際に紛失して行方不明中や。12個全部な」
「嘘……それってどう考えても……」
「ああ、意図的に紛失という形で扱っているだけだろうな」

 衝撃の事実に驚愕の表情を浮かべるなのはとフェイト。1つ2つであればまだ納得も行くが12個全部など故意に無くそうとしなければ無くさない。1つで世界を滅ぼしかねない物をそれだけの数失ってしまえば普通に考えて大問題である。

 マスコミにでも知られれば管理局の大失態と新聞の一面を賑わすことは間違い無いだろう。しかし、なのはやフェイトは知らなかった。もし、普通の失態であればただ単に批判から逃げるために管理局が意図的に隠しているだけだろう。だが、これはそれとは毛色が違う。

「初めから紛失という形でどこかに横流しにするために仕組まれていたと考えるのがいいかもしれないな」
「どうしてそんなことを……」
「陸と海だけやない。管理局は一枚岩でいるわけやない。色んな思惑が渦巻いとる。直接関係しとるかは分からんけど今回の件はそういったもんがからんどると思うんよ」
「騎士カリムには大変お見苦しいところを聞かせてしまって申し訳ないが、我々も色々とありまして……」
「いえ、そういった面は神の家である教会ですらありますから。でも、私はあなた達は信用できる人だと信じています」

 渦巻く陰謀は何も一つに限ったことではない。幾多もの欲望が複雑に絡まり人間社会を形成している。汚らしいものだ。しかしそれも人間の一面であることに変わらない。もし、それらを否定すれば人間社会は容易く崩壊し、人は人でなくなるだろう。もっとも、優しい人間であればあるほどにその事実に絶望するのだが。

「ありがとうございます。六課の面々も全員がはやてが集めた信頼できる者達です」
「そっか、だから身内ばっかりなんだね」
「そういうことや。私の人生最大の幸運は人に恵まれているってことやからね」

 今更ながらに六課の歪ともいえる構成に納得がいったなのはが頷く。その横ではフェイトが内部に何かしらの敵がいるという状況に頭を悩ませていた。元来、人が良すぎる彼女は基本的に人を疑うということをしない。

 そう言ったところでは兄のクロノに比べて暗部に踏み込む力が弱まってしまう。しかし、逆にクロノではできない被害者に寄り添うということができるために一概に悪いとは言えない。

「でも、最後の新たな世界は産み落とされるっていう部分はどういうことなんだろう?」
「解釈としては恐らくは新しい政治体制という意味合いではないかと」
「そう言ったところから政治的テロの可能性も検討されとるんよ」

 その後も予言の解釈についてあれこれと話をする五人は知る故もない。その言葉に比喩や偽りなど含まれていないということに。常人である彼らには思い至りもしない。





「ただいま、ヴィヴィオー。いい子にしてたー?」
「あ、おかえりなさい」

 帰宅し子どもに真っ先に会いに行く女性。そして待ち侘びた人物の到来に飛び跳ねるように駆け出していく子ども。いつ転ぶか分からない危なっかしい子どもの足取りを心配そうに見つめる瞳。子どもが自分の下へ辿り着いたと同時に抱き上げ慈愛に満ちた微笑みを浮かべる。

 その様子はどこからどう見ても親子にしか見えない。だが、二人は真の親子ではない。ヴィヴィオとなのはに呼ばれた少女は以前に地下水路から現れた少女のことだ。現在ではなのはが保護をしており常に彼女にべったりで出かけるのにも苦労するほどである。

 一見すればどこにでもいる普通の少女であるが彼女の背負うものは重い。遺伝子検査から判明したことはヴィヴィオの生まれは普通の生まれ方とは違うといった点だ。人造魔導士、それも今から数百年前の人間の遺伝子と記憶を上継いでいる可能性が高いときた。

 何らかの実験によって生み出され、利用される為に運送されていた途中で逃げ出してきたと考えるのが適当であろう。これからもこの子の身に災厄が降り注ぐかもしれないと思うといたたまれない気持ちになり力を込めて少女を抱きしめるなのは。

「どうしたの?」
「……ううん、何でもないよ」
「へんなの」

 キョトンとした顔で自分の瞳を真っすぐに見つめるヴィヴィオの頭を撫でる。新しい保護者が見つかるまでの間は自分がこの子を何としてでも守らなければならない。いや、このあどけない笑顔を守りたい。なのははそう強く願う。

「エリオとキャロもヴィヴィオの面倒を見てくれてありがとうね」
「いえ、私達も楽しかったですから」
「はい。なんだか懐かしかったですし」

 なのはが聖王教会へ向かっている間にヴィヴィオと遊んでもらっていたエリオとキャロ。この二人も辛い過去を背負っている。エリオはフェイトのようにオリジナルの人間のコピーとして作られた人間であり、親から捨てられた。

 キャロは幼き頃より開眼していた大きすぎる力を恐れた部族の長から追放され管理局の下に来た。どちらも大人に翻弄された幼い犠牲者であった。しかし、フェイトが二人を引き取ったことで救われた。

 二人にとってはフェイトは言葉で言い表せないほどの恩人なのだ。そのことを思い出しながら自分もヴィヴィオにとって二人のフェイトのような存在になれればとなのはは思う。

「それでは僕達は失礼します」
「うん。ほら、ヴィヴィオも二人にバイバイしよっか」
「ばいばい」
「またね、ヴィヴィオ」

 ヴィヴィオに手を振らせて二人にお別れの挨拶をさせるなのは。そんな姿に二人は本当の親子みたいだなと内心思い、同時にフェイトのことを思い浮かべていた。誰かの家族を見ると自分の家族と会いたくなるのはどうしようもないことである。

「ヴィヴィオ、今日は二人と何してたの?」
「えほんをよんでもらったの」
「そっか、面白かった?」
「うん! ママもよんで!」
「はいはい、ちょっと待っててね」

 キラキラとした目で絵本の読み聞かせをねだってくるヴィヴィオ。自分も小さい頃はこんな風に絵本を読んでもらっていたのだろうかと思いながら上着を脱ぎ、掛ける。その間にも自分から離れようとしないヴィヴィオに苦笑したところでふと気づく。

 自分もこんな風に甘えていたかった。大好きな母に父に、兄に姉に甘えていたかった。今ではすっかり割り切れていることであるが子供の時はいい子であろうとし過ぎたために甘えることをしなかった。この子にはそんな思いはして欲しくない。相手がもういいと思うほどに構ってあげよう。

「今日はヴィヴィオが寝るまでいっぱい遊ぼうか」
「わーい!」

 そう心に決めてなのははヴィヴィオから絵本を受け取るのだった。





 ミッドチルダ中央にそびえ立つ地上本部の塔。その最上階には地上の守護者であるレジアス・ゲイズが居る。彼には魔法の才はない。しかし、その類いまれな政治的手腕と過激とも受け取られる正義感から中将の地位まで上り詰めた男である。

 ギリギリの予算でミッドチルダを守るために常に黒い噂が付きまとうようなことを行ってはいるがそれは全て地上を守るためである。そのため、彼の強い信念を知った者達は皆彼を慕い付き従う。カリスマという一点でいえばかの三提督にも引けを取ることはないだろう。

 そんな彼が今目をつけているのが先日市街区で派手な戦闘を行った六課である。海と本局が敵である以上相手を攻撃するためのネタを探すことには余念がない。こうした個人的な志向もあり秘書には自分を理解している娘を置いている。赤の他人であれば過激すぎる行動をどこかしらで止められかねないからだ。

「機動六課の視察はまだなのか?」
「すでに準備は整っていますので今週中には」
「そうか。……あの小娘の部隊か。あれは元犯罪者の割に目が澄んでおって気に食わん」
「発言にはお気を付けください。公式で聞かれれば問題になります」
「ふん」

 秘書のオーリスから注意を受けたレジアスであるが鼻を鳴らすだけである。以前にはやてと会った時は危うく戦闘が始まりかねないほど険悪な空気になった。レジアスは元犯罪者が局員になるのを快く思っていない。一度腐ったものはもう戻らないという考えもあるが部下や同僚を傷つけた者達と肩を並べたくないからというのが一番の理由だ。

 しかしながら、八神はやてにはそれとはまた違った嫌悪感を抱いていた。堂々と自分に言い返してきた態度はともかくとして、彼女の目は犯罪者にしては綺麗すぎた。更生に燃える熱意でもなく、罪悪感から来る後ろめたさでもなく、彼女の目は希望に満ちていた。無知ゆえの希望ではなく現実を知った上でそれを求める強さを持った瞳であった。

 その瞳にかつて自分が殺してしまった親友を思い出してしまい、同時にはやて如きがあの親友と並べるはずもないという思いがあり毛嫌いしているのだ。それともう一つ、彼女の雰囲気が大嫌いな男に似ているからである。

「あの男の娘か……」
「何かおっしゃいましたか?」
「いや、何でもない。それよりもアインヘリアルの完成を急ぐように伝えろ。だが、手は抜くな。あれは地上の為に命を落とした全ての勇者達の魂。地上の未来の守り手だ」
「かしこまりました」

 それだけ伝えるとレジアスは立ち上がり窓からミッドチルダの街を一望する。この街を守るために生涯の全てを賭けてきた。いかなる犠牲を払ってでも守り通したいと願うこの街を―――人間の数でしかとらえない男が気に入らなかった。

 男の経歴などどうでも良かった。結果的に世界を平和にしているなどという情報も怒りを抑えるにはまるで足りなかった。地上を守ってきた誇りを踏みにじられた。自分の大切なものをどこにでもあるものとして軽視するでもなくどこまでも平等に扱われたことが気に入らなかった。

 この街を守るために流れてきた幾多の血を他のより数の多い場所に使うべきだったと断じた男が許せなかった。何年も前に初めて会った時の人を見ていない瞳が己と男の違いを感じさせ殺意すら抱いた。

「愛する者がいる地上を守る。それすらできずに何を守れるというのだ」

 かつて友と共に抱いた信念は変わったかもしれない。簡単に冷酷な判断も下せるようになった。だが、レジアスが守りたいと思ったものは昔から何一つ変わってはいなかった。
 
 

 
後書き

「こんな街一つ守るよりもロストロギアの回収に力を入れた方が救える人数が多いだろう?
 単純な計算だよ。家族一人よりも顔も見たことのない二人の命の方が重いに決まっている」

 かつてこんな感じのセリフを言ってレジアスをブチ切れさせた男とは一体(棒読み) 
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