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優しい巨人

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1部分:第一章


第一章

                   優しい巨人
 ノルウェーの古いお話です。この国に白くてとても大きな巨人がいました。
 巨人は雪と氷でできていてその身体は山みたいでした。しかしその心はとても優しかったのです。
 普通巨人は人々に悪いことをするので恐れられて嫌われていました。けれどこの巨人は皆に対して親切でよくしてくれたので皆から好かれていました。よく子供達とも遊んでいました。
「ねえ巨人のおじちゃん」
 子供達に自分の身体を登らせて遊んでいると肩のところに来た子供の一人が彼に声をかけてきました。
「何だい?」
「おじちゃんはいつも寒い時にしか来ないよね」
 彼はそう巨人に聞いてきました。
「どうしてなの?」
「それはおじちゃんの身体が雪と氷でできているからなんだ」
 巨人はそう子供に言いました。優しい笑みを浮かべた大きな顔を彼に見せています。
「だからなんだよ」
「そうだったんだ」
「そうだよ。雪と氷は暑い時にはないよね」
「うん」
 ノルウェーはとても寒い国ですがちゃんと夏もあるのです。その短い夏や春の間は巨人は人々の前に出て来ることはありません。それにはこうした事情があったのです。
「おじさんは暑いのは駄目なんだ。御免ね」
「ううん、それでもいいよ」
 子供も優しい笑みを浮かべていました。そして巨人に言います。
「だっておじさんは皆に優しいから。寒い冬もおじさんがいるなら平気だよ」
「そうなのかい?」
「うん、そうだよ」
 子供は優しい微笑みのまま巨人に語ります。巨人はその言葉を聞いて心が温かくなるのを感じました。それはとても美しいものに思えました。
「だって吹雪からも獣からも守ってくれるから」
「おじさんがいるから僕達冬を過ごせるんだ」
 他の子供達も言います。
「何時までも一緒にいてね」
「おじさん大好きだよ」
「ああ、わかったよ」
 巨人はにこりと笑って子供達に言いました。そうして彼等は仲良く一緒に過ごしたのです。
 巨人はその大きな身体を使って色々なことをしました。人々の家を作るのも手伝ったりします。
 木を切ってきてそれを持って来たり。指でのこぎりを摘んでそれで切っていくのです。何ともおかしな動作ですがそうして切った木を人々のところに持って来ます。
 切られた木がどんどんやって来ます。家を作っている人達はそんな巨人と木を見て思わず溜息をつきます。
「いやあ、これは凄い」
「全くだよ」
「そんなに凄いですか?」
 巨人は彼等の声を聞いて上から尋ねました。
「これって」
「いやあ、凄いよ」
「おかげで大助かりさ」
 彼等は口々に巨人にこう言います。
「おかげで今日のうちに家が建つよ」
「何か贈り物をしたいけれどね」
「いや、贈り物はもう貰ってますよ」
 巨人は彼等にこう言いました。
「もうって?」
「はい、今ですよ」
「今って」
「何も贈ったりしていないけれど」
「いえ、贈ってくれていますよ」
 巨人は笑って述べます。
「感謝の気持ちが伝わりますから。それが一番の贈り物なんですよ」
「私達の?」
「はい、私はそれが一番好きなんですよ」 
 人間達の明るく朗らかな顔を見て述べます。
「皆が喜んでくれているから。だから」
「そうなんですか」
「はい。だから私は働くんです」
 彼はまた言います。
「皆さんの笑顔を見る為に。それが私への一番の贈り物なんです」
「けれどそれだと悪いですね」
 誰かが言いました。やっぱり貰ってばかりじゃ皆気分がよくないのです。
「だったらこうしましょう」
 巨人は言いました。
「私も皆さんの笑顔を見て皆さんも私の笑顔を見る。それでいいじゃないですか」
「私達の笑顔を」
「はい」
 にこりと頷いてきました。日の光がその大きな身体で隠れて少し暗くなっていましたがそれでも笑っているのははっきりとわかりました。
「それでどうでしょうか」
「わかりました。それじゃあ」
「ええ、そういうことで」
 皆も巨人もお互いの笑顔を見せ合うことにしました。巨人にとってはそれでよかったのです。人々が自分に対して笑顔を見せてくれるだけで。だからこそ悪い奴等からも人達を守りました。
「それ、行くぞ」
 デンマークからならず者達がやって来ていました。彼等は雪の中に隠れて進んできます。誰もそれに気付くことはありません。
 けれど巨人は違いました。すぐにそれに気付きました。
 ノルウェーの皆を攻めようとする彼等を許すつもりはありませんでした。雪の森の中に隠れている彼等を見つけるとすぐに上からこう声をかけてきたのです。
「私は神だ」
「えっ」
「神様だって!?」
 ならず者達は突如上から声が聞こえてきたので思わず辺りを見回しました。しかし巨人の身体はあまりにも大きくて山にしか見えません。だからわかりませんでした。
「そうだ、神様だ」
 巨人は彼等が自分に気付いていないのをいいことに言葉を続けます。
「御前達はそれ以上先に行ってはならん」
「どういうことなんだ!?」
「一体何が何か」
「若し行けば恐ろしい吹雪に覆われるだろう」
 そう言って実際に吹雪を起こします。森の中まで吹き荒び恐ろしい音が聞こえてきます。そのうえ凍えるまでに寒いのです。これは堪りません。
「うわわ・・・・・・」
「さあ、わかったか」
 巨人はまた言います。
「御前達が去らなければいけないのが。悪いことはするのではない」
「どうする?」
「どうするったって」
 彼等はその凍える吹雪の中で話し合いました。といってもここまで寒ければもう答えは出ています。どちらにしろ先に進めはしないです。
「帰るか」
「ああ」
 こうして彼等は帰りノルウェーの人達は守られました。巨人は彼等をその頭と力を使って守っていたのです。

 
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