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ソードアート・オンライン‐黒の幻影‐

作者:sonas
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第1章 始節 奇縁のプレリュード  2023/11
  6話 浅瀬の槍妃

 突き、下段へ振り降ろし、鋭く全体を薙ぐ。漆黒の長髪とベールが舞うのも気に留めない女王の連撃を、グリセルダさんと共に遣り過ごし、後退する。

 通常攻撃は上中下段のどれかから繰り出される突き、上段か中断突きから派生する振り降ろし、穂先が下段を向いた場面からの斬り上げ、巻き込むように全方位に向けられる薙ぎ払い。更に回避動作と幾つかの両手槍系ソードスキル。攻撃には高確率で毒状態を引き起す追加効果付き。

 ここまでニ十分ほどの攻防で相手の手の内の把握が叶ったが、どうにも多彩な技と卓越した速度はこの層においては一際異彩を放つ強さを形作っている。とはいえ、技の精度はレイの槍捌きを見る機会の多い俺には見劣りするものがあるし、やはり速度というものにおいては相棒のペースに慣れてしまったところがある。更に言及すれば、長物武器の常である《火力の心許なさ》は、女王であっても例に漏れないらしい。
 よくよく考えれば毒付きで高火力の薙ぎ払いなどアンフェアなだけなのだが。

 ともあれ、そんな余裕もあって戦闘は順調な推移を見せる。ヘイトは終始俺に釘付けになり、女王の繰り出す槍は俺を害するべく舞い踊るも、剣と拳によって流され、往なされ、時折掠める程度でしか傷を与えられない。忌々しげに睨めつける女王の紫眼と視線が合うが、その一瞬の隙に捩じ込むように身体の軸を回転させ、遠心力の乗った回し蹴り――――体術スキル重範囲技《朧月》を以て返答とする。ノックバックに喘ぐ女王を目掛けて、AGI型のグリセルダさんが《ホリゾンタル・スクエア》で追撃。立て続けに浴びた四連技に女王が僅かに怯むものの、深追いはせず、むしろ盾を構えて後方に退避する。
 堅実が過ぎて臆病に見えなくもないが、ディレイの後に三回転もの全方位薙ぎ払いが炸裂するとなればやむを得ないというものだ。僅かに足に赤いダメージエフェクトを刻んだグリセルダさんではあるが、致命傷には程遠い。間合いを取り、再び仕切り直す頃には女王のHPは最後のバーの四割を越える損耗を抱えていた。このまま終わってくれればいいのだが、そう簡単に事は済まないだろう。節目に差し掛かってギアを上げてくるのはゲームの難易度の定石なのだから。


「HPが半分を下回ったら、一旦様子見だ。頼むぞ」
「ええ、分かってるわ」


 並立する暫定PTリーダーが首肯し、より警戒を強くする脇で、この後に起こるであろう女王の変化について推測する。
 毒々しい紫と緑の、おおよそ金属製とは思えないような色彩を纏った大槍は、一概に断言こそ出来ないが、それだけでも通常のプレイヤー仕様の両手槍とはリーチという面で一線を画する。加えて、特殊なソードスキルを行使するわけでもない使い手(女王)の挙動から察するに、毒付与効果は槍自体のマジック効果と捉える方が自然。これほど整っている《攻撃面》の強化は望めないだろう。
 すると、ほぼ裸体に近い女王が鎧を纏うか、乃至は他の手段を以て防御力を跳ね上げるのだろうか。《防御面》での強化。その公算が高く思えてならない。
 だとしたら、無敵モーションは確実に発生する。ステータス変動系の変化は、極めて高い頻度で無敵時間が設定されていた。ボスの強化前に畳み掛けられるという事態を防ぐために講じられたギミックなのだろうが、俺としては《変身前に倒せるに越したことはない》というスタンスの為に、その現象に幾度となく煮え湯を飲まされたものだ。結果的には撃破するのだが。


「来るわよ!」


 グリセルダさんの叫びが空気を裂き、同時に乱戦から遠ざかるように左方へと駆けた。
 女王については、そんなグリセルダさんを捨て置くように猛然と俺に向かってくる。女王自身も、彼女からはAGI型の素早く冴えのある連撃ソードスキルを幾度となく浴びたのだが、どうもこのボスのヘイト算出判定は特殊らしく、通常の《攻撃によるダメージや手数》によるダメージ重視型ではないらしい。最もレベルの高いプレイヤーを狙ってくるのだとしたらヘイト管理は極めて楽なのだが、真相はもっと別の場所にあると見た方が賢明だろう。とはいえ、俺からしてみれば願ったり叶ったりだ。

 突きを手刀で撃ち払い、踏み込みと同時に愛剣で斬り上げる。
 しかし、槍を流された時点で後退を決めた女王には直撃に至らず、脇腹を僅かに掠めた程度。手の甲に残るダメージエフェクトを見遣り、痛み分けとなることを悟ると、女王はようやく不敵な笑みを目元に浮かべた………気がした。


「………いい気になりやがって。お互い、ここからが本番だろう」
「………………………フッ」


 呼気とも、薄笑いとも取れない、でもどこか強い何かを秘めたそれを返答として、再び剣と槍が切り結ぶ。心なしか更に速度の増した女王の槍と激突する幾合もの剣戟。金属同士の凌ぎ合いが織りなす清澄な快音は涼やかなれど、命を賭した戦いに感傷を持ち込む気など毛頭ないのも事実。乾坤一擲、懐へと踏み込む。


「シェアァ!」


 鋭い斬り上げが胴を捉えたのも気に止めず、引き絞った掌底――――体術スキル重攻撃技《裂衝》が女王を撃ち貫く。
 右の肺腑を穿った、実体のない衝撃の刃に苦悶を零すように()せながら、たまらず退散する女王とグリセルダさんが交錯し、その背中に《ソニックリープ》でコンパクトにダメージを刻む。これで女王はバーの半分を微かに下回る。


「そろそろか」
「………知らないわよ。そんなの」
「………怒ってます?」
「知りません。理由は自分で考えなさい!」


 何故か素っ気ない、むしろ冷たいくらいに刺々しいグリセルダさんの声が痛い。何か気に障るような真似をしてしまっただろうか。だが、記憶を精査する時間も碌に与えられず、至近距離での戦闘から離脱した女王は槍の石突を床に打ち付けた。
 そして間もなく、女王の足元から噴き出した黒い液体が飛び散る。それは、先のカラティンに似た印象を受ける。それ自体は石畳に撒かれただけで動くようなことはないのだが、見た目だけでなく性質まで似通った、あるいは同質というならば、この液体は毒性を備えている。だとすれば地形ダメージ系か。
 カラティンのランダムな取り巻き生成やカウンターといい、女王の地形ダメージといい、PT向けの難易度でありながらも人数を多めにして挑むと痛い目を見る構成はまったく厭らしい。とにかく、女王を中心に発生した液体はバケツから水を零した痕のように、中央に向かうほどに密度を増す。加えて自身は水場の中央から微動だにせず、ひたすらに待ち構えている。
 《Madb The Shoal Queen》――――浅瀬の女王とは、言い得て妙ということか。
 だが、耐毒スキルのおかげで俺はある程度は強気に攻め込むことが出来るが、グリセルダさんには荷の重い難所となろう。大事をとって、この辺りで戦線から外れてもらうとしよう。

 緩やかに槍を携える女王の周囲を見渡し、地面を蹴って水場へと踏み込む。
 ただし、黒い液体は極力踏まずに、未だ乾いた石の面を晒す箇所を飛び石に突き進む。液体という不定形の特性上、空気中に飛散した際は塊で居ることは出来ない。空気を受けた部分は帆のように膜を広げては弾け、或いは飛沫となって飛び散る。液量が多ければ範囲内の全てを覆うことは叶っただろうが、足場が残っていることこそ最大の救いだ。多少の距離も《軽業(アクロバット)》スキルの恩恵で難なく飛び越えられる。故に利用しない手はない。

 一歩、二歩、やや長めの跳躍で三歩、続く四歩目は女王を剣の届く間合いに捉える。
 迎撃に動いた女王の槍も穂先を蹴りつけて弾き、《武器落とし(ディスアーム)》とまではいかなかったが、確実に怯んでいるのが見て取れる。十分過ぎる隙だ。これならば最大火力のソードスキルを使ってもお釣りがくる。黒い液体を踏み締めた足を肩幅に、予備動作(プレモーション)を完成させ、薄紅のライトエフェクトに輝く刀身を女王の瞳越しに見遣る。

――――だが、どうも俺は目算を見誤ったらしい。


「ぬ、ぅおぁ!?」


 突き出される、三本の杭。或いは槍にも見えようか。
 両脚を衝き穿つ害意は、認識の外側――――足下に広がる黒い液体から不意を突出したものだ。
 カラティンの特性、女王の状態異常付与。黒い液体と両名に連想する共通項から導き出した共通項は、結果としてミスリード。答えはカラティンの《攻撃被弾時に発動するカウンター》を《領域進入時のトラップ》へと変更して流用したフィールドギミック型の攻撃手段ということになるだろうか。
 そして、愚かにも罠に掛かった敵を嘲笑うように、視線の先で勝ち誇ったように目元を笑わせる女王がいる。しかし、自分でも分かるくらいに口角が吊り上がり、槍を構え直す女王に向けて、我ながら獰猛な笑みで零す。


「………それで、俺に勝ったつもりか?」


 俺の発言に反応してか、女王は槍の穂先を僅かに震わせる。それが如何なるアルゴリズムによるものかは知るつもりはないが、しかし、もし言葉の真意を自己判断することが叶ったならば、三連の刺突は意味の薄いものであったと理解することだろう。

 武器によって与えられるダメージはそれぞれ属性が存在する。《斬撃(スラッシュ)》《刺突(スラスト)》《打撃(ブラント)》《貫通(ピアース)》の四種類。片手剣のソードスキルの大多数は斬撃属性に区分されるし、これまで石像相手にめざましい活躍を飾った体術スキルによる拳打や蹴脚は打撃属性に該当する。更に言えば、黒い液体から生じた三本の槍は貫通属性となる。この貫通属性は総じてノックバックに向かないという傾向にある。ソードスキルによる遅延効果のアシストがあれば話は変わってくるが、単純な貫通ダメージにはソードスキルを阻害する効果というものはそれほど高くない。

 故に、スキルアシストの姿なき道筋は、未だ途切れていないことになる。
 薄紅の輝きは最高潮に達し、重量を帯びて加速する刀身は女王に苛烈な傷を刻み付ける。

――――片手剣()四連撃技《ブラッドラスト》

 腰溜めから振られた剣は大振りの弧を描いて女王を垂直に斬り伏せ、刀身を巻き込みながらの二連薙ぎ払い、下段に叩き下ろすような重い刺突で締め括られる高火力連撃。それでも、女王の底意地か、それともただ単に火力不足だったか、僅か数ドットで踏み止まる様には敬意さえ覚える。

 だが、既に勝敗は決してしまった。
 空を切る音に続いて石畳を叩く金属音、それはグリセルダさんが盾を放った音に他ならない。
 踏んだ瞬間に対象を迎撃する黒い水、しかしそれは、プレイヤーが踏み締めた瞬間に牙を剥く代物であったらしい。落下した盾に攻撃を行わないと見極めるより早く、グリセルダさんは安全地帯と自らの盾を足場を駆け抜ける。俊足の迫る音に振り返る間もなく、女王は最期の一撃をその身に受けた。


「………態度は気に入らなかったけど、女の子だもの。顔だけは狙わないであげる」


 肩越しの呟きを聞き、自らの胸の間から延びた白銀の刃に視線を落とした女王は、一度だけ頷くように首を縦に揺らすと、グリセルダさんに身体を預けるように倒れ掛かりつつ眠るように瞳を閉じ、足下に広がる《浅瀬》と共に消滅する。
 訪れた静寂を破るように鳴り響いたリザルトウインドウの出現に伴って、ネームドボスとの戦いが終結したことを実感させられる。


「お疲れ様。それと、LA(ラストアタック)おめでとう」
「………へ、ぁ………そっか、終わった………のよね………お、おつかれしゃま………」


 しかし、どういうわけかグリセルダさんはへたりこんだまま、どこか上の空になってしまっている。
 盾を足場に用いる機転や、LAを攫う際のセリフのカッコ良さはどこへやら、すっかり腑抜けてしまっている。


「どうした、麻痺毒でも貰ったか?」
「そ、そうじゃなくて………あんな、強い敵と戦うなんて初めてだったから………」
「………まあ、そうなるだろうな」


 なるほど、緊張が切れたならば仕方ない。
 剣を収めてドロップ品を確認すべく、ウインドウを数度スクロールする。恐らくはカラティンの液体と思しき素材系のアイテムがずらりと並ぶ中、ある一つの行に焦点を合わせる。


「どうしたの?」
「………武器、ドロップしたみたいだ」


 グリセルダさんの問い掛けに応じるようにオブジェクト化させるのは、先程まで猛威を振るった女王の大槍の穂先部分にあたる刃。柄尻はひび割れた断面のようで、あたかも戦いに堪えかねて破損したかのような恰好だが、カテゴリーは立派な片手剣だ。しかし、その性質(プロパティ)は異質の一言に尽きた。
 脇から首を伸ばして性能を確認したグリセルダさんも、眉間に皺を寄せて疑問符を幾つも浮かべている。


「攻撃力、低過ぎよ………それに、《50%の確率でレベル5ダメージ毒を付与》ってそこまで強いものかしら?」
「考え様によっては強いかもな。たぶん、毒付与系の片手剣の中では現状最強クラスの追加効果だ。ただ、攻撃力がこれだと話にならないな」


 問題の武器、銘を《クラン・カラティン》とする片手剣は、保有する毒付与性能こそ破格の性能なのだが、グリセルダさんの言う通り攻撃力ははじまりの街の店売り剣と同等程度。片手剣の攻撃力で削りつつ、毒で補助的にダメージを稼ぐという毒付与剣の基本運用が成立しない迷剣なのである。いや、火力を度外視すれば十分に有用性はあるのだが、現状において価値を見出されることはないだろう。


「………悪くない、貰っておこう。で、LAボーナスは何だったんだ?」
「ベール、なのかしら。被って装備するみたいだけど、隠れ率と毒耐性にすごいボーナスがあるわね」
「そっちのがアタリっぽいけど、このクエストは周回出来るからな。情報が広まる前に集めとくのも良いんじゃないか?」
「いいえ、これだけで十分よ。それよりも、クエストの方の名剣はどこなのかしら?」
「ああ、それは多分あそこだ」


 毒剣(カラティン)をストレージに納め、伽藍堂になった堀を飛び越える。中央に安置された石櫃に手をかけて蓋を押すと、石臼を挽くような鈍い音が鳴り、半分ほどが開くと自らの重みで床に落ちる。


「やっぱり、ここしかないよな」


 ダンジョンの名前になっているくらいだ。クエストの報酬(リワード品)の在処に妙な捻りを加える余地はもうないだろう。視線の先、石櫃の底には青い鞘の片手剣が眠っていた。
 一応、性能だけを確認させてもらうが、やはり武器としては前線で使うには心許ない数字が散見される。現在装備している《ソロースコール》と比較しても、今一つ及ばないところがある。溜め息を一つ吐き、横からリワード武器――――《クルジーン》に視線を送るグリセルダさんへと実物を差し出す。こうなっては、申し訳ないがグリセルダさんに引き取ってもらった方が有意義に思える。


「………どうしたの? せっかく手に入ったのに」
「使ってくれ。俺が持っても持ち腐れだからな」
「とても嬉しいけれど、私にはコレがあるから」


 しかし、グリセルダさんは苦笑しつつも腰に提げた細い片手剣を見せる。


「そんな貴重な武器を貰うのが怖いから、建前にしかならないかも知れないけれど………この剣はね、旦那が作ってくれた私の宝物なの。だから、私には使えないわ」
「確かに、大切な剣だ。そうした方がいい」


 数値的な性能で言えば、恐らく《クルジーン》が勝るだろう。
 だが、このSAOというゲームにはパラメータで表すことの出来ない力が存在する。データで構成されたこの世界で《人の想い》云々を語るのは迷信に傾倒したような気もするが、でも確かにそれはプレイヤーに影響する。ましてや、リアルでも深い絆で結ばれた相手の鍛えた剣だ。下手なリワード品よりもずっと強くグリセルダさんを守ってくれるに違いない。


「そうすると、これはエギルにでもくれてやるか」
「あ、ちょっと待って!?」


 ストレージに納めようとポップアップ・メニューを操作していると、咄嗟にグリセルダさんが声を張り上げる。言われるままに中断すると、続け様に言葉を繋げる。


「この剣、うちの旦那に装備させてもいいかしら?」
「旦那さんも片手剣士なのか?」
「うん、もうだいぶ圏外には出ていないけれど………でも、私はやっぱり、あの人と一緒に戦いたいの。だから、もし良かったら………その………」


 やはり、貸し借りについては一歩引いてしまうか。
 一つ考えを巡らせ、有用な情報を幾つか洗い出す。ここまで一緒に戦った縁もある。悩んでいる仲間を無下にしようものなら、俺は相棒と保護者に叱られてしまう。


「LA記念だ。やっぱり貰っておいてくれ」
「………い、いいの?」
「もとは俺から譲渡を持ち掛けた剣だ。気が済まないなら、これもあとで埋め合わせしてくれればいいさ」


 有無を言わさぬ勢いで投げ渡すと、グリセルダさんは数回のお手玉の末に両手で鞘を確保するのを見届け、話を続ける。


「それと、旦那さんのステータス配分は分かるか? もしかしたら、使える装備を調達出来るクエストとか教えられると思う」
「でも、そういうのって情報料が発生するような話なんじゃ………」
「ホントに物の貸し借りが苦手なんだな。安心してくれ、俺はこういうので稼ごうとは思わないからさ」


 専売特許というべきか、俺は基本的にアルゴに情報を卸すだけの仕事をしている。
 そこから経由して、有用な情報は最前線で戦う攻略ギルドに届けられる。つまるところ、そこから中層プレイヤーに情報が行き渡っていないのが前線プレイヤーに対する情報独占という不平不満を構成する一因なのかもしれない。これだけで解消できるとは思わないし、解消する為に教えるわけでもない。言うなればこれは、ただのお節介だ。

 そして、観念したように旦那さん――――《グリムロック》さんのステータス構成を聞き取る。
 STR型、盾持ち片手剣、軽金属装備。ステータス上の一点さえ除けば、グリセルダさんとほぼ同一と言っても差し支えの無いようなビルドは、そもそもグリセルダさんがグリムロックさんを真似たことが発端のようだ。今までプレイしたゲームでも、グリムロックさんのビルド傾向は一貫していたということで、後方に控える回復職のグリセルダさんに攻撃が向いた際に、そのSTRと技量を以て瞬時に敵を薙ぎ払ってくれたとのことだそうだ。惚気を聞かされる身にもなってほしいものである。
 ともあれ、これだけ情報を貰えれば、相応のレクチャーは可能というもの。周回すれば、同種の防具を装備するグリセルダさんの分まで整えられて一石二鳥。更に少人数ギルドということなので、全員で挑めばレベリングも同時に行えるわけだ。戦線から離脱して久しいというグリムロックさんには厳しい要求をするようだが、是非とも乗り越えて欲しいところだ。精査した情報を口頭で伝えつつ、全く柄にもないことを考えさせられると内心でごちる。


「あとは上手くやってくれ。他のメンバーの強化は………出回っている攻略本を見ながらギルドで悩むんだな。その方がいい」
「ありがとう。でも、絶対にお返しはさせてもらうんだから」
「………そうだな、ただ、無理はしないでくれよ」
「わかってるわよ。無理せずコツコツやってくわ………それと、コレ」


 話も終わったと思いきや、後付けで足された一言と共に、眼前に一枚のウインドウが出現する。

【Griselda からフレンド申請を申し込まれました。承認しますか?】

 その下に(承認)(拒否)のタップアイコンが表示され、返答を無言で待ち続ける。
 その向こうでは、グリセルダさんが笑みを浮かべたまま佇んでいる。表情の真意は判然としないが、しかし、拒否する理由はない。或いは、申請された相手がグリセルダさんだからだろうか。一時とはいえ、共に肩を並べて戦った経験は極めて大きいものだ。すげなくあしらうには惜しい。
 一拍おいて、緑のアイコンを押下。これで互いのフレンド欄に双方の名が記されたわけだ。


「ふふ、ありがとう。もしかしたら断られちゃうって思ってたの」
「失敬な、俺はそこまで冷血じゃないぞ」
「知ってるわよ。ちゃんと約束を守れる良い子だものね」
「なッ!? ヘンなこと言うな!」


 妙な評価を受け、耳が熱くなるような感覚に襲われつつも反論するが、グリセルダさんは意に介する様子は全くない。


「………でも、さっきの戦闘でスレイド君、その………女の人の胸を鷲掴みにしてたわよね」
「………………は?」
「してたじゃない!? 思いっきり掌で触ってたじゃないの!?」


 はて、何を仰いますことやら。そう流そうかと思った矢先、戦闘中の一瞬の交錯が脳裏に過る。
 互いに剣と槍を交錯させ、攻撃を遣り過ごした末に繰り出した《裂衝》………
 あれはどこへ撃ち据えられたのだろうか。確か、右の肺だったか。苦しそうに咳込んだ女王の姿を思い出すが………いや、肺は本来、どの位置にあるものだろうか?

 記憶の中の女王の姿と渾身の掌底を繰り出した右手とを意識が往復し、一つの結論に達した時、俺はグリセルダさんから小一時間ほどの説教を貰っていた。 
 

 
後書き
隠しクエスト終了、グリセルダさんフレンド欄加入回。

ガチンコ毒槍使いメイヴ女王、そのヘイトは《最も高レベルのプレイヤー》にガッツリ向けられます。強者との戦いを望み、欲しいものは勝利して得る。ケルトの流儀はここでも息づいています。
まあ、そんなヘイトのアレコレはさておき、女王は最後に《領域に接地したプレイヤーを自動で攻撃する》固有スキル(結界宝具)を発動させましたが、スレイドはそもそもHP総量の都合でダメージを度外視、グリセルダさんは《盾を足場にしているからセーフ》という仕様の穴を掻い潜って突破。あまり見せ場こそありませんでしたが、本来であれば接近さえ許さない《対人迎撃結界》となる筈でした。相手が悪かったですね。

そして、クエストの報酬で登場した片手剣《クルジーン》ですが、これはメイヴ女王とは直接の関係性はないです。出典はカラティンやメイヴ女王と同様なのですが、所有者はなんとクー・フーリン(槍ニキ)です。お師匠さんから《ゲイ・ボルグ(先の尖った赤い棒)》や《恐槍ドゥヴシェフ》と一緒に贈られた卒業祝の品だそうで、折り曲げても元に戻ったり、突きで家二軒をぶち抜いたり、ドゥヴジェフで心臓を穿った相手が倒れるよりも先に首を斬り飛ばしたり、強力な形状記憶能力と伸縮性を誇る剣として描かれています。流石にビームは出ないのですが、これで軍を薙ぎ払ったりしてたんですかね。
当然、SAOのシステムでこんな宝具を再現するとバランスが死んでしまいますので、耐久値が高い程度にしておきましょう。

そして、燐t……スレイドの使用した片手剣重四連撃技《ブラッドラスト》ですが、元ネタは神話からガラリと変わって《MGR(キレちゃった方のメタルギア)》に登場するボスキャラ《サンダウナー》の保有する二振りの巨大マチェーテ《人斬り鋏》の銘と主人公装備時の特性から取っています。超重量の刃を振ることから、一撃で雑魚が両断されるという尋常じゃない得物でした。詳細は割愛させていただきますが、サムとウルフが自分の中では一番のお気に入りです。


次回の更新もやや不定期になってしまうかと思います。



ではまたノシ 
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