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モラビアの服

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第六章

「この服家にもう一着あるのよ」
「もう一着です」
「小さな子供が着る為のがね」
「そうなんですか」
「若しも」
 さりげなくを装ってだ、自分の長女を見て彼女の夫に言った。
「私に孫娘が出来たら」
「その娘にですか」
「あの服をあげたいわね」
「そうですか」
「ええ、それで着せてみたいわ」
 こう言うのだった、そして。
 アントンはルチアと二人きりになった、夜に用意してもらった部屋に入った時にだ。こう妻に言ったのだった。
「若し僕達に子供が出来たら」
「ルチアみたいにね」
「あの服を着られるのかな」
「お母さんもう一着あるって言ってたでしょ」
「うん、僕に話してくれたよ」
「それならよ」
 ルチアは内心会心の笑みを浮かべつつアントンに言葉を返した。
「私達に娘が出来たら」
「その娘にだね」
「服着せられるわよ」
「あの服を」
「そうなるわよ」
「僕スロバキア人だけれど」
 ここでもだ、アントンは自分のルーツを言葉に出した。
「いいかな」
「だから別に戦争した訳じゃないでしょ」
「分裂しただけでね」
「こう考えてばいいじゃない」
「こうって?」
「私達の子供はチェコ、そしてスロバキア両方の子供なのよ」
「それを言ったら僕も」 
 アントンは自分のことにも言及した。
「お袋がチェコ人だし」
「そうよ、チェコの服も着られて」
「スロバキアの服もだね」
「着られるのよ、だからね」
「どっちの服も着られる」
「そう考えればいいでしょ、そもそもね」
 エディタはまたこの話をした。
「同じ国だったじゃない」
「今は分かれても」
「今も何だかんだで助け合っていて」
 エディタはさらに言った。
「私達みたいな夫婦も多いから」
「だからなんだね」
「そう、あの服を着てもね」
 モラビアの民族衣装、それをというのだ。
「いいのよ」
「スロバキア人の血が入っていても」
「そう、もっと言えばどの国の娘でもね」
「あの服を着ていいんだ」
「あの服が売れたら」
 それこそというのだ。
「チェコも有名になってお金も入るしね」
「そこでそう言うんだ」
「だって資本主義になったから」
 それ故にだった、エディタがここでこう言う理由は。
「お金が必要だから」
「そういうことになるんだね」
「そう、とにかくね」
「僕達に娘が出来たら」
「あの服着られるわよ」
「それじゃあ」
 アントンはここで頷いた、そしてだった。
 彼もまた子供をもうけることに前向きになった、そして一年後見事にだった。
 エディタは出産した、しかし二人はその最初の子供を見て苦笑いになった。
「男の子だね」
「そうね」
「いや、それじゃあね」
「もう一人ね」
 エディタは嬉しいがそれでもという顔でアントンに返した。 
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