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モラビアの服

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第二章

「私達が子供の頃じゃない」
「まあね」
「その頃まで一緒の国だったし」
「今もだね」
「お隣同士で交流も盛んじゃない」
「そうだね、ただ結局離婚した夫婦だよ」
 妻にだ、夫はいささか不吉な感じの話で返した。
「そして僕はね」
「その離婚した一方の家の人間」
「その人間がもう一方の相手のところにいたら」
「微妙だっていうのね」
「そう思うけれどね」
「けれどお母さんはチェコ人でしょ」
「そうだよ」
 同じ国だった頃にだ、アントンの父と知り合って結婚したのだ。共産主義だった頃に。
「だから僕は半分チェコ人だよ」
「じゃあ特に気にすることないでしょ、そもそもね」
「そもそも?」
「あなたがスロバキアに帰ったら」
 その時はというのだ、エディタは。
「今度は私がそうなるのよ」
「今の僕の立場に」
「そうよ、だからね」
 それでというだ。
「言ってもね」
「仕方ないかな」
「そうよ」
 まさにというのだ。
「それじゃあね」
「ううん、そうなるね確かに」
「そうよ、私はお父さんもお母さんもチェコ人よ」
「僕と違って」
「だったらね」
「僕よりもだね」
「余所者になるわよ、けれど私達みたいな夫婦多いじゃない」
 このこともだ、エディタは言った。
「そうでしょ」
「チェコにもスロバキアにも」
「そう、だからね」
「言っても思っても仕方ないんだね」
「そうよ、あとね」
「あと?」
「明後日はちゃんとスロバキア料理を作るから」
 エディタは夫にこのことを約束した。
「楽しみにしていてね」
「そのことは頼むよ」
「たっぷりと作るから」
「そうさせてもらうね」
「ええ、それで今度のお休みだけれど」
「そうそう、休暇の時にね」
「里帰りするってことでいいわよね」
 夫の目を見てだ、妻はこのことを確認した。
「それで」
「うん、じゃあね」
「それじゃあね、モラビアに行きましょう」
「モラビアもいいところよね」
「そうだね、何だかんだでこの街もいいけれどね」
 アントンは窓の外を見た、今は夜なのでプラハのあまりにも有名な美しい街並みは夜の闇の中にある。だが無数の灯りがその美しい街並みを夜の闇の中から幻想的に浮かび上がらせている。
 その夜の街を見つつだ、彼は妻に言った。
「こんな奇麗な街他にないよ」
「それで有名な街よ」
「そうだね、けれどね」
「モラビアもいいでしょ」
「お義父さんとお義母さんにも優しくしてもらってるし」
「ええ、皆も楽しみに待ってるわよ」
 エディタの家族もだ。
「それにあの娘もね」
「ああ、ルチアちゃんも」
「あの娘もあなたのこと楽しみにしてるわよ」
「僕に会うことをだね」
「そうしてるわ」
「それは嬉しいね」
 妻の末の妹である彼女のことを聞いてだ、アントンは明るい笑顔になった。
「それじゃあね」
「モラビアにね」
「行きましょう」
 次の休みにとだ、こう話してだ。 
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