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誘惑

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2部分:第二章


第二章

「俺そういうの嫌だから」
「こんなことで魂なんか求めないよ」
 悪魔はそれはないと言った。
「だってさ。彼女プレゼントなんて些細なことだから」
「些細か」
「魂を貰うとすればそれこそ」
 どうかとだ。悪魔は雄太郎に話す。
「あれだよ。阪神を十連覇させろとかいうレベルじゃないとね」
「そんなことできるのか?」
「絶対に無理だけれどね」
 阪神の十連覇はだ。不可能だというのだ。
「天地をひっくり返す様な話だからね」
「魂を貰うにも一苦労なんだな」
「まあ。阪神の十連覇は無理でも」
 それは置いておいてだった。
「大金持ちになるレベルだよ。魂を貰うって話は」
「俺家お寺だから仕事あるから」
 雄太郎は自分の家の話をはじめた。
「親父の跡継いで住職になるし。仕事はあるからお金にも家にも困ってないから」
「ふうん。っていうか兄ちゃん坊さんかい」
「これでも大学で坊さんの資格も取ったし修業もちゃんとしてるぞ」
「そのパンクな格好で?」
「そうだよ。信仰は心だよ」
 とても僧侶には見えない格好での言葉だった。
「ちゃんとしてるさ」
「っていうか坊さんが悪魔と話すって」
「あからさまに宗教違うな」
「何か話がおかしくなってきたけれど。坊さんでも彼女いるんだ」
「日本ではいいんだよ。それに俺の家は浄土真宗なんだよ」
 その宗派では最初から妻帯もいいのだ。親鸞上人からだ。
「全然平気なんだよ」
「そうなんだ」
「そうだよ。で、彼女の話だけれどな」
「何だよ、パンク坊主」
 雄太郎をそれだと言う悪魔だった。
「彼女がどうしたってんだよ」
「何だ、その言い方」
「だから。あんたパンクやってんだろ」
「ヘビメタだよ」
 それだと返す雄太郎だった。
「俺はヘビメタ派なんだよ」
「今時ヘビメタかよ」
「ヘビメタ馬鹿にするな。あのよさがわからねえってのか」
「おいらジャズ派だからな」
 悪魔の趣味はそちらだった。
「ヘビメタに興味ないからな」
「ジャズかよ」
「サッチモは最高だよな」
 ルイ=アームストロングである。アメリカジャズを確立した歌手の一人だ。
「あのバスとサックスはな」
「渋い趣味だな」
「いい趣味だろ」
 悪魔は誇らしげに雄太郎に言う。
「やっぱりジャズだよ。コーヒーかバーボンを飲みながらカウンターで聴くんだよ」
「本格派だな」
「そうだよ。それであんたどうしたいんだ?」
「願いか」
「ああ、折角だから願い適えるぜ」
 話が戻った。本来の話にだ。
「何でも好きなこと言ってみな」
「別にないな」
 ところがだ。雄太郎はここでもこう言うだけだった。
「正直なところな」
「何だよ、ないのかよ」
「何度も言うけれど彼女はいいからな」
 それは完全に否定するのだった。
「当分な。一人でいいからな」
「それで金や仕事もか」
「坊さんになるからな」
「食い物はどうなんだよ」
「食えれば何でもいいからな」
 それについても無欲な彼だった。
「野球だってな」
「あんた阪神ファンだろ」
 このことはこれまでの話から察することができることだった。それで悪魔もここで雄太郎に対してこのことを尋ねたのである。
 
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