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毒蜘蛛

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3部分:第三章


第三章

「それが必要だよ」
「だよな。とにかく御前の言うことが間違いなかったらな」
「ちょっと洒落になってないだろ」
「おい、先生に言うか?」
「それで探して退治するか?」
 こんな話になってだ。そうしてだった。
 忽ちそのクロゴケグモが出たという話が学校中に広まりだ。そしてだった。
 校内でだ。蜘蛛に気をつけろという紙が配られだ。皆警戒することになった。
 ここまででもかなりの騒動だがさらにであった。
 一週間後歩はだ。学校に行く途中に戯れで通学路にある公園の花に戯れで手を触れた。するとその瞬間に痛みを感じたのだった。
「つっ!?」
 手を慌てて引っ込め花を見た。白い花にだ。
 何とあの蜘蛛がいた。黒く小さく丸い形の蜘蛛、紛れもなくだった。
「こいつか!?じゃあ」
 クロゴケグモだと確信した。そうなればだ。
 噛まれた、即ち毒にやられた。それでだ。
 彼は大騒ぎしてだ。周囲に叫ぶのだった。
「噛まれた!蜘蛛だよ!」
「蜘蛛!?」
「蜘蛛って何だ!?」
「クロゴケグモだよ!」
 それだとだ。必死に叫んで訴えるのである。
「医者何処!?毒にやられたんだ!」
「何っ、毒!?」
「毒だって!?」
 ここでだ。周囲の通行人達、通勤や通学中のサラリーマンやOLや学生、それに散歩中のおばさんや老人達がだ。只ならぬものに気付いたのだ。
「そりゃ大変だ!」
「あんた大丈夫か!」
「おい、今医者呼ぶからな!」
「ちょっと待ってくれよ!」
「もう少しの辛抱だ!」
 こう叫んでだ。それでだった。
 救急車が呼ばれ歩はそれに入れられだ。すぐに治療を受けることになった。その治療は。
 血清を打たれたのだ。クロゴケグモ用の血清をだ。それを打たれて暫くしてからだ。彼は治療をした医者にこんなことを言われたのだった。
「運がいいですね」
「俺、助かるんですよね」
「はい、助かります」
 それは間違いないと言われるのだった。
「本当に運がよかったです」
「まさか。噛まれるなんて」
 歩はまだ治療用のベッドに横たわっている。そうしての言葉だった。
「思わなかったですよ」
「そうでしょうね。運がよかったっていうのは」
「助かったからですか?」
「それが一つです」
 理由はだ。もう一つあるというのだ。
「血清が届いていましたから」
「それですか」
「アメリカにいる蜘蛛です」
 それならばだというのだ。ここから先の言葉は決まっていた。
「日本には血清がありませんよね」
「ですよね。それがなんですね」
「噂を聞いてまさかと思いまして」
「アメリカから取り寄せたんですか」
「はい。本当に運がよかったですよ」
 そうした意味でもだ。運がよかったというのだ。
「血清もあって」
「若し血清がなかったら」
「死んでました」
 確実といった言葉だった。
「間違いなく」
「そうなんですか。死んでましたか」
「それはおわかりですよね」
「わかりたくないですけれど」
 それでもわかる。そういうことだった。
「やっぱりそうでしたよね」
「はい、死んでました」
 やはりそうだという医者だった。
 
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