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衛宮士郎の新たなる道

作者:昼猫
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第18話 赤銅の丘

 
前書き
 小説情報を少々変更(削除した部分と新たに加えたFateシリーズの一覧)しましたので、ご確認ください。 

 
 「―――――I am the born of my sword(体は剣で出来ている).」

 そこは赤銅の荒野であり、丘だった。

 「―――――Steel my body,and fire is my blood(血潮は鉄で心は硝子).」

 そこには夥しい数の剣が突き刺さっていた。

 「―――――I have created over thousand blades(幾たびの戦場を越えて不敗).Unaware of loss(ただ一度の敗走もなく、).Nor aware of gain(ただ一度の勝利もなし).」

 剣だけではなく、斧もあれば槍もある。古今東西様々な刀剣類で埋め尽くされていた。

 「―――――With stood pain to create weapons(担い手はここに独り).Waithing for one´s arrival(剣の丘で鉄を鍛つ).」

 どれもこれも相応の存在感のある武器だったが、その様はまるで剣の墓場だ。

 「―――――I have no regrets.This is the only path(ならばわが生涯に意味は不要ず).」

 そんな場所に黒髪の少女が1人、横たわっていた。

 「―――――My whole life was(この体は、) “unlimited blade works”(無限の剣で出来ていた)

 そして少女は目を開けた。

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・何だ、ここ?」

 黒髪の少女――――川上百代は、自分が何故こんな場所にいるのか理解できなかった。
 それもそうだ。
 こんな場所、まず日本の何所にもないし、世界中の何処かにもあるかどうかも疑わしい。
 見渡す限り、剣剣剣。
 故に彼女は理解する。

 「変な夢だな・・・」

 しかし夢だと理解できても覚める方法など知らないし、一向に覚める感覚も無い。
 その為、退屈を何より嫌う彼女は散策する事にした。

 「――――どこもかしこも剣ばかり、この数の相手に無双するなら楽しめそうだが、突き刺さってるだけじゃつまらんな」

 何とも彼女らしい感想だ。
 この景色を眺めていれば寂しいとか心細くなるなどの感想が出て来そうだと言うのに。
 そうつまらなそうに歩いて行くと、丘に行きついた。

 「ん?誰かいる・・・」

 丘の上の人影に気付いた百代は、丘を登っていく。
 近づくにつれ背中を向けている事と、男だと判別出来た。
 さらに近づけば黒いボディアーマーの上に赤い外套を羽織っているのが判る。
 丘の一番上にいるからか、向かい風により白銀の短髪と赤い外套が靡き続ける。
 それを百代が少し下の方から見ていると、夢の中に気配と言う概念があるか不明だが、何となしに振り向いて来た。
 その顔に百代は見覚えがあった。
 全く同じと言うワケでは無いが似ている顔つきに心当たりがあった。
 そう、彼は――――。


 -Interlude-


 「――――衛宮?」

 目が覚めるとそこは毎日のように見知った天井だった。
 外からは朝の陽光と暖かさが障子を突き抜けて日陰を作る。
 そこで自分が夢から目を覚ましたことに気付く。

 「それにしても変――――」
 「彼が如何かしたのかのぅ?」
 「なっ!って、朝から爺が何でここにいる!?」

 百代は声が聞こえる方へ振り返えると、鉄心にすかさず抗議をする。
 しかし当の鉄心は気にすることなく笑顔だった。それはもう、不気味なほどに。

 「モモよ。昨夜の事は覚えてるかのぅ?」
 「昨夜・・・・・・あっ!」
 「思い出したようじゃのぅ。儂を殴りおってから出かけた上に、探してみれば近所を騒がせた轟音の中心地で呑気に寝取るし、全く何をしたかったんじゃ」
 「私が・・・寝ていた?」

 鉄心の言葉に違和感を感じる百代だったが、昨夜の全容をどうしても思い出せない様だ。
 唯一覚えているのは、轟音の中心地に行くために鉄心を殴ったぐらいだった。
 百代が思い出せないのは訳がある。
 士郎に頼まれて百代が寝てる時にスカサハが魔術により思い出させない様にしたのだ。
 勿論、鉄心立会いの下でだ。

 「お前が何をしようとも基本は許すが、昨夜の事は別じゃのぅ。よって罰を言い渡す。今朝は皆が鍛錬中お前だけで朝の掃除をせい」
 「何だと!?」
 「加えて、一子との夕方の走り込み以外の今日一日一切の武を禁ずる」
 「ふ、ふざけるな、じ――――」
 「川神院総代としての命令じゃ、異論は認めん!お前はそれだけの事をしたんじゃ、反省せい!」

 百代はこの事に悔しそうに歯噛みする。
 それに実際自覚してやった行いなので、臍を噛むしかなかった。
 言いたい事を言い終えた鉄心を見送った百代は、非常に不満な心境に陥りながらも夢の事を思い出していた。

 「あの丘、それに衛宮も・・・・・・随分悲しげだったな・・・・・・ん?」

 そこで自分の体の異変に初めて気づいた。

 「如何いう事だ?私・・・・・・気が全然感じ取れない」

 それを百代の私室から少し離れている場所で、聞き耳を立てていた鉄心が溜息をつく。

 (衛宮士郎()の言う通り、まだ戻っていない様じゃのぅ)

 士郎と鉄心は昨夜の川神院に戻るまでの間に話していたのだ。
 今日の戦いの影響で百代の気が完全回復するのは最低一日以上掛かるだろうと。
 その為、対策として一日の武の禁止を命じたのだ。勿論罰と言う大義名分もあるので、怪しまれぬだろうと予測しての事だ。
 因みに、魔術耐性のない気を扱う普通の武術家であれば最低でも一週間から一月は掛かる所なので、百代が異常なだけだった。

 (兎も角、様子見じゃな)

 ――――と。今度こそ鉄心は怪しまれぬ様に、その場を離れて行った。


 -Interlude-
 

 昼頃
 今現在、士郎はスカサハと吉岡利信を連れて現地の調査とクレーターなどの補修のために来ていた。
 因みに冬馬達3人は、最近の不可思議の現象が一応の落ち着きを見せたと言う事で、約束通り士郎も小旅行行けるのもあって明日の準備をしている。

 「いやはや、昨日も見たがまた派手にやったな、士郎!」
 「これの大半はバーサーカーが原因なんだから、俺のせいみたいに言わないでくれますか?吉岡さん」
 「ふむ、アサシンの次はバーサーカーか。ならばいずれ残りの五騎も襲来すると言う事か?」

 スカサハは誰に言うまでも無く独り言を呟くように言ったが、利信がそれを拾う。

 「そもそも五騎で済むんですか?目標の百代ちゃんを殺しに来るまで何体でも呼び出すんじゃないんですか?姐さん」
 「それはガイアに聞かねばわからんな。あと、その姐さん呼ばわりを辞めろと言ったろ!お前のその体格で言うと、余計にあのフェルグス(節操なし)を思い出す!」
 「すいやせん。けどあの大英雄フェルグス・マック・ロイを彷彿してもらえるなんて、光栄の極みですよ。スカサハ姐!」

 注意した傍からこれかと、スカサハは溜息をつく。

 「それにしてもガイアはどうして俺でも倒せる程度の英霊しか送ってこないんだ?いや、それ以前にクラスに当てはめるのは人間がマスターだった場合の制限だ。ガイアにクラスを当てはめる手順は本来必要ない。にも拘らず当て嵌めなければならない理由でもあるのか?」
 「・・・言われて見ればそうだな。その理由――――制限をガイアに強制させてる“何か”の正体なぞ判らんが、この世界の何処かにある(・・・)には確実だな」
 「物騒な話ですね。こりゃあ近いうち、相棒になってくれそうなサーヴァントを召喚した方が良いんじゃねのか?士郎よ。もう、姐さんが来てから数年経ってるんだ。霊脈も安定してんだろ」

 利信の提案に士郎は確かにと頷く。

 「日にちと時刻で最適なのは、お前達が小旅行で帰ってくる日を跨いだ夜中の2時頃だな」
 「分かりました。準備しておきます」
 「2人とも。俺が切り出しといて何ですけど、ちゃっちゃと終わらせちまいましょう。こんな後処理」

 利信の言葉に、そう言えばそれが本来の用件だったなとスカサハが言う。
 それからは士郎がクレーターの補修をし、利信が穢れが残っていないか索敵をしている。
 そしてスカサハがこれから先の事も考えて、昨夜に起きた戦闘の記録を魔術で抽出して脳内で再生させていた。

 (・・・・・・士郎の奴め、カラドボルグで戦端を切りゲイボルグで終わらせるとは、私に対して何かしらの当てつけか?)

 士郎にはそんな含んだ理由は無い。
 勿論スカサハも解っている上での冗談だ。
 しかし、その途中で興味深い記録が流れ込んだ。
 これにスカサハは悪巧みを考えたように口元を吊し上げる。

 「なぁ、士郎」
 「ん?何ですか?」

 クレーターを埋めるための土を車の荷台で持ってきた士郎は、丁度荷台にある土を持ってきた所だった。

 「確かお前は川神百代とパスを繋げたのだろう?」
 「ええ、まぁ、緊急時でしたから――――」
 「良かったじゃないか、緊急時と言う名の大義名分があって」
 「な、何が言いたいんですか?」

 士郎は聞いてはいけないと言う嫌な予感を感じながらも、流れ場聞いてしまう。
 と言うか、恐らく聞かなくても言うだろうが。
 そして予感通り爆弾が落ちる。

 「川神百代の口づけの感触は如何だった?」
 「んな!?」「おほ♡」

 士郎は露骨なまでに同様半分驚き半分の顔をして、利信まで何故か喰いついた。

 「オイ、オイオイオイオイオイオイオイオイ!!オイオイ、士郎!緊急時の大義名分利用して百代ちゃんの唇奪うなんてヤルじゃねぇか!!」
 「ひ、人聞きの悪いこと言わないで下さい!」

 利信は士郎の肩を抱き合い、もう片方の腕でグッジョブサインを送る。
 勿論、士郎は真正面から否定する。
 しかしまだスカサハが残っている。

 「―――それで?感触は如何だったんだ?」
 「そ、そんなの憶えてませんよ!」
 「すでに何度も幾人もの女たちを股にかけて経験して来たんだ。そんな初心な反応していないで正直に言うがいい。それとも、パスをつなげた口付け程度、今更如何と言う事は無いと言う事か?――――なるほど、まだ未経験の女子(おなご)の唇など大した感想も抱けなかったと言うわけか」
 「そんな訳無い!川神は才能だけじゃなく体まで天性の才の恩恵があるのか、唇を押し当てた瞬間蕩けるんじゃないかという位柔らかかったですよ!アレに感想を抱けないなんてそんな事ある筈がない!・・・・・・・・・はっ!?」

 スカサハの挑発?に勢い余って覚えてる限りの感想を言った後に気付いた。
 見ればスカサハは面白そうに見ており、利信など過去最高の楽しい玩具を見つけたような口先を吊し上げて笑っていた。

 「ハッハッハッ!いいね、士郎!俺はお前ほど経験したわけじゃねぇからよ、是非とも後学のためにより詳しく教えてくれよ!!」
 「な、なんでさッッ!!」

 士郎が逃げようとした所を利信が抑え込もうとする。
 それをすり抜けて弾き飛ばそうとするも、防御されてから利信に捕まりそうになる。
 いつの間にかインファイトに突入する士郎と利信(2人)
 それを爆弾を落とした張本人たるスカサハが、その光景を眺めて愉快そうに薄く笑う。
 そしてふと思う。

 (ガイアを抑え込むなど七つの冠位でも出来るか怪しい所業、一体この世界に何があると言うのかのぅ?)

 天を仰ぎながら考え続けていた。


 -Interlude-


 この世界にはある3つの影響力の強い組織がある。
 一つは、極東の島国である日本国内の政令指定都市の一つである神奈川県川神市に構える、言わずと知れた武の総本山、川神院。
 常識外れの技を伝える極地である。
 総代である川神鉄心は今でこそ武神の称号を孫に譲り渡したが、今現在においても世界への影響力は計り知れず、某大国の大統領は『川神鉄心が健在であると言う事実だけで、日本は核を保有していると言い切ってもいい』と戦々恐々としている位だ。
 一つは、世界一の大企業に最近名乗り上げた九鬼財閥。
 世界各地に支部があり、様々な分野のスペシャリストをそろえており、人材こそ九鬼の力の根源と豪語する程だ。
 そして最後の一つは――――。

 此処はどの国にも属さぬ島。
 面積的にはハワイ島に匹敵する島で、半世紀前に突如出現した。
 勿論近隣の国々が揃って自国の領土であると主張しだしたが、《H》と名乗る人物が様々なコネとパイプを使った上で近隣の国々の上層部には非公式的に大金を送り、公式的には莫大な金額でその島を買い取った。
 そして今では川神院と九鬼財閥に並ぶ三大組織の一つの本部が置かれている。
 その名は人理継続機関マスター・ピース。
 文字通り人の歴史の理を何時までも継続させていくことを目的として創設された組織で、活動内容は規模の大きさ関係なく紛争の早期終結や、関係が悪化した国と国の仲介。
 テロ組織の撲滅などもあるが、災害により大きい被害を受けた地域や小国への支援援助から医療技術の発展などもある。
 こうした活動内容により、自分たちの仕事を減らされた要因となった国々の者達からすれば煙たがられているが、基本的にどの国々の民衆からの支持が絶大である事が影響して、各国の首脳陣は民衆の反発を受けないために表面上は賛辞だけを送っている。
 そしてこの組織の創設者は勿論《H》と名乗る人物だ。
 今現在はある作業に専念するために、十数年前にある傑物にその任を引き継がせた。
 その人物は、現代の若者に絶望しているミス・マープルが数える九鬼帝に並ぶ現代の英雄と言わしめるほどの者だった。
 その者――――彼は、マスター・ピースの本部にある執務室にて最新情報に目を通していた。

 「ガイアの代理人の二体目の現界か。マスター・ピース創設者(グランドマスター)の力による制限を受けて完全に抑制されていると思いきや、僅かな隙間から搦め手を使ってまで使徒を顕現させるとは・・・・・・・・・グランドマスターにも限界はあると言う事か。――――いや、案外態と漏らしたかな?」

 あの方ならやりかねないと1人で笑う。
 そこへ、機械からブザーが鳴り、音声が流れる。

 『代表、ドクターとの会議の時間です』
 「・・・・・・もうそんな時間か。分かった、直に向かう」

 報告を聞いた男は椅子から上着を取ってから退室した。
 その執務室には男の役職と名前がフルネームで刻まれていた。
 そこに刻まれていたのは――――。

 『マスター・ピース現代表、トワイス・H・ピースマン』 
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