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逆襲のアムロ

作者:norakuro2015
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30話 調整者 3.5

 
前書き
仕事が忙しすぎて、空き時間でゆっくりとのんびり書いていました。
書いていて難しかったです。まとまりきれているか・・・。
 

 
* ダカール市 郊外 高級住宅地 3.5


カイはミハルの運転する車でゴップ議長の居る邸宅へ向かっていた。
数日前のアポイントでゴップとの会談に難なく漕ぎ着けていた。

しかしながら会談時間はわずか10分。
議会開催前の為、世界から有力者がゴップに根回しや協力を求め、会談の予約は過密となっていた。

「さすがゴッドファーザーと呼ばれるだけあるな」

とカイは評した。ゴップは連邦軍部でもコリニーと同等の発言力を有しており、コリニーでもゴップに気を配っていた。ゴップはコリニー以上に政界への繋がりが強く、それは軍部に在籍していた当時からだった。

その成果が連邦議会議長という座を有していることに尽きた。
中立派と呼ばれるゴップ派閥は席数でもコリニー・ゴップ・その他で4・3・3という派閥の比率だった。

ゴップの意思が政治を左右しているとも揶揄されるほど、絶妙な均衡を勢力で保持していた。
当の本人は、「世界が良くなるならば・・・」と傍から見ると適当な政治を助成していた。

カイは幾度の対談でゴップの人間性を垣間見ていた。
彼は達観していたとカイは思っている。

戦争初期のV作戦の有効性。政界へ転進する段取りも戦時中でも怠らず、コリニーより先に転じては既に政界のドンの座の確保に勤しみ、コリニーが転じた時には既に重鎮。

彼は実はこの事態を当初より予見しては見抜いていたとカイは推測した。彼はその位置で最悪の事態を促さない様に世界を守護していたのではないかと。

「カイ。ゴップ議長は中立派閥の大物だよ。私もガエルさんと同様にバウアー氏が良いと思う」

「ミハル、それじゃあダメだ。オレらジャーナリストは終末でも世界にありのままの情報を伝える義務がある。この話は俗物が関与して良いレベルの話じゃない」

「今までエゥーゴ寄りの貴方が?」

カイは助手席で鼻を鳴らして、ミハルに言った。

「フン、ティターンズの様な帝国主義的考えは報道の自由を奪うからエゥーゴの民主派閥運動をクローズアップしただけだよ。それでも良し悪しを伝えていたよ」

カイは武力で訴えている両者を批判していた。已む得ない抑止力など詭弁だ、互いのイザコザで苦しむのは民衆であって、それに政府が無関心、変えられるのは世論だとカイは地球圏に住む者たちへ常にメッセージを流していた。

「ガエルが持ってきた情報は発信元が最重要だ。バウアーやコリニー等のような対立派閥でなく、それを両天秤に掛ける奴が発信してこそ情報の最大限の力を発揮できる」

「・・・カイ。無思想な議長に何を期待しているの?」

「無思想なもんか。彼は一環してしていることがある」

「何なのそれ?」

「世界の均衡の維持だ。彼は達観している。人の可能性は一つの思想に留めてはならない。人が成長していくためには戦うことや競争が必要なんだ。統一しようと思えば、ティターンズかエゥーゴを選択したはずだが、両勢力とも未だに残っている。その間に新勢力や新思想が生まれていく」

ミハルはゴップ邸に通じる道である車行列の最後尾に付けた。

「ふう、まるで蛇の生殺しね。喰う喰われるを鑑賞しているわけ」

「平和思想なんて夢物語なのさ。平等など停滞と同意義なんだろう。そんな彼に一番の有効策は競争原理や成長の糧になる代物を紹介できるかどうかだ」

「それがガエルさんの」

「ああ。先方はどうやら正義感があるらしいな。バウアーが議会提出し、連邦の在り方を再編する。それはティターンズを切り捨てるやり方だ。しこりを残さんためにも両者が対等に試行錯誤しなければならない。それが本来の在り方であり、人類の為だ」

「・・・私は善悪を区別していたのね。平等でなく、公平に見ないと正しい情報を伝えられない」

「そうだな。勝てば官軍と言ったもんだが、元来善悪など多数派が決めてきた手法だ。人が存続していくための知恵でもあるが、ゴップは善悪の判断を常に命題として市民に課すようなことを暗にしている」

何も意見や政策が無い政治家がキャスティングボードを握る立場は保身の為だと考える。ゴップについて、カイはそれを否定していた。今競う者達の暴走を調整する役割であると。
そして実は争いを好む。

「人にはそれぞれ役割がある。あんな風体が指導者としては向かないだろう。自分を弁えている。そこで出来ることを彼はしているだけだ。それを無責任と罵るならば、彼は相手にしない。彼と話す為には彼の言葉を理解できることが何より重要だ」

「・・・達観ねえ。私は好きになれそうにない。例え人の事を考えていても、政治家は目の前の困った人を助けるのが仕事でしょ」

「それは彼の派閥の下っ端、若しくはティターンズ、エゥーゴの仕事だ。人生は短い。彼は全てを見極めた上で彼の役割をしている。ミハル、あんまり人に期待することは良くない。かくもオレもお前も書き物しかできない。それを世論に訴えかけても、世界に共感されるほど手は長くなれる訳がない」

「カイ、貴方の言い方も卑怯ね」

「感情論でするようだと仕事ではない。訴えかけるにはそれなりの理由が必要だ。ミハル、お前も仕事を続けていくならば、その姿勢を覚えるんだ。今、道に倒れている人を見かけたら助けてあげる、それぐらいの許容で良い」

「凄く矛盾していない?可能性を信じるのに自分の許容を弁えて、世界の重鎮たる彼が何もできないなんて。しないだけじゃないの?」

「彼は有権者からの支持を得ることはできても、有権者に指示することはできないんだ。それが政治家だ。彼らは有権者の支持と指示を仰ぐことが仕事さ。それが重鎮の限界だ」

「それじゃあバウアーだろうがゴップだろうがどうにもならないんじゃない?」

「ビストはあくまで権力者であった訳だ。一大事もミクロの視点でなくマクロでしか見れない。ミハルの考え方はある意味正しい。政治家に倫理観を求めても意味はなさない。彼のスポンサーが欲求の塊だからな。現にティターンズ、エゥーゴ、カラバなど、彼ら程アウトプットが出来ている連中に託すことは人類の総意ではない」

ミハルは一台ずつ進む行列にため息を付いていた。

「はあ・・・。この列全てがゴップ邸の列なの?」

「議会開催となると陳情、請求がこのようになる。彼がキーパーソンの証拠だ。どこぞの名の知れない議長に祭り上げられた連邦の首相よりもだ。それが今回の議会でコリニーが立候補を表明している」

「コリニーを認めたらば、帝国主義化が進む?」

「統制はかかるだろうよ。宇宙に住む者の革新的な考えをまず認めない。地球有っての宇宙にしたいそうだからな」

「言論の、信仰の自由を奪うなんて・・・。どうしてそんなことを」

「ある意味平和思想さ。管理下において慎ましく暮らす、一種のユートピア思想だな。宇宙は静かに限るから、造反の芽を全て摘むつもりだ」

カイの話にミハルはハンドルを離し、腕を組んだ。

「犠牲を払っても恒久的な平和思想を目指すティターンズか・・・。エゥーゴはその姿勢に反対する。つまり好戦的なのかな?」

「ティターンズ以外の勢力は宇宙での革新を認め、受け入れていこうというスタンスだ。それが戦争という手段も是非は問わずだ」

「ジオンは・・・、なんかティターンズとエゥーゴの合いのコ的な中途半端だったね」

「そうだな。宇宙でのコリニーみたいなものだな」

「最近ジオンの話がめっきり入って来ないんだけどね」

「・・・情報封鎖というより、入って来ないというお前の表現が正解だろう」

そして1台分車が進んだ為、ミハルはハンドルを握り進ませた。

「情報が死んでいるということかな。それは・・・」

「それは国家が機能不全に陥っている可能性がある」

「ジオンが滅亡!」

「直接見た訳ではないからな」

「うー・・・スクープが取れないなんて・・・」

「スクープはこの行列の終点さ」

「ジオンよりも?」

「ああ、ティターンズやエゥーゴのテーブルを全てひっくり返してやる」

「返った後は?」

「皆で飾り気ない綺麗なテーブルに座ればいいさ。連邦という組織は元々集合体だ。そこに強制的な制限を掛けてきた。強固な組織は腐りやすいものだ。多様な生き方、国体があって良いとオレは思う」

「それがカイの望みなのね」

ミハルにそう聞かれた事にカイはシートのもたれかかり、目を閉じた。

「オレは物書きを始めてから更に性格が悪くなったと思う。その点に付いては今争ってる奴らや傍観している中立派閥と同義だ。捻くれ過ぎてサッパリしてしまった。オレの思う事もきっと死人は出るような代物だ。偽善者を気取る気はないからな」

「でも、私は自覚が有っていいと思う。先の話からだけど、多数決で根本的な善悪を決めてきたと言ったじゃない。やっぱり殺しは良くないと思わないと、この8年近く続いた戦争を止められないと思う」

カイは今度はシートより背中を離して前のめりになった。

「そうだな。今競っている輩の気付いていない、いや無視や見ようとしないその根本的な悪を戦場に居ない人たちは(こぞ)って嫌うはずだ。生者の願いは・・・」

「生きること」

「ああ。追加、人は欲深いものだ。生きがいを見つけることだな」

「それが多様な生き方ね」

「それを一から導く必要などないんだ最初から。ただ土壌を作ればいいだけ。指導者がよく無責任と言われるが、学ぶ者が能動的にならなければならない。その事を放棄する方が無責任なんだ。遠くでのテロや事件、事故、全て対岸の火事でしか思わないことがそうだ」

「物事抽象的なことでいいの?」

「敢えてはぐらかすわけ。人類の総意も本能的なもので良い」

「それとガエルさんの土産とゴップ議長がどう繋がるの?」

「凝り固まっていない素直な思考論者なゴップにありのままを伝える。それで事足りる」

そう2人が話しているうちに陽が傾き地平線へと落ちかけそうな時、ゴップ邸へカイとミハルの車が入っていった。

ゴップは休憩を挟みながらも朝から晩まで面会の相手をしていた。
議会開催前の風物詩であったが、ゴップは毎度来客する者達の俗物加減に嫌気を指していた。

「・・・次で最後か・・・」

ゴップは応接間の最高級のソファで時折姿勢を変えながらもマメに接客していた。
そして執事が最後の来客を迎え入れた。

「・・・ああ、君らか」

カイとミハルが応接間に入るとゴップがうんざりしている顔を2人とも感じ取った。
執事より「所要時間は10分です。主が下がれと言われればその場で会談終了となります」と2人に言い、執事は応接間より出ていった。

「議長閣下、座ってもよろしいですか?」

「ああ、座りなさい」

カイとミハルが座るとゴップが愚痴り始めた。

「全く権欲者は利益ばかり求めて、肝心な所を見ようとしない。社会だ。奴らは自分が富めば他が良いと抜かしている。彼らの存在意義は彼らの下によって支えられていると思わずにだ」

その愚痴を聞いたミハルはゴップの人間性を改めた。政治家で、それも結構洗練されたものだと。
カイは「仰る通りです」と軽く相槌をして本題に入った。

「早速ですが、決断して頂きたいのです」

ゴップの視線が途端に鋭くなった。その口から出た言葉にカイを戦慄させた。

「・・・ラプラス憲章か」

「!!・・・何故、それを」

「私の草は連邦一でな。安心しろ、コリニーやブレックス、バウアーも知らんことだ」

カイはゴップの恐ろしさを知った。盗聴か何らかか不明だが、彼は千里眼とも言える力を持っているらしいと。

ゴップは姿勢を正して、カイに問いただした。

「で、私に何を求める?」

「全てを止めて、一から出直して再生を図るのが宜しいかと・・・」

「・・・カイくんがその手段を持ってきた。君はビストの近習の願いを反故にし、私の下へ来たことを評価しよう」

「では!」

ゴップが手を前に出して、カイを制した。カイはまだ質問があると感じ、口を摘むんだ。

「君は何故そこまでするかね?一介のジャーナリストだろう」

政治ネタを政治家へ供給するということが政体思想を持たないジャーナリストにとって異質だとゴップは思った。カイは少し空を仰ぎ、ゆっくりと答えた。

「人の生き死にや価値観、生きがいなど、連邦という組織で思考を縛られては勿体ないと思います。ジャーナリストであるからこそ、多様な価値を求めて食い扶持にしていきたいと願っております」

ゴップは高らかに笑った。カイとミハルは緊張した面持ちでゴップの回答を待った。

「・・・ハハハ・・・、全く君も相当な俗物だな。まあ人の糧は欲求から来ているものだ。正直で良い。他の俗物共はどうも着飾った答えしか持ってこないから、尚たちが悪い。議会で披露してやろう。私の晴れ舞台を」

そしてカイはゴップに目的の代物を運び入れる為、相談を持ち掛けた。宇宙からダカールへティターンズや他の高官の眼を潜り抜けて運び入れないといけないモノが相当な大きさだということも付け加えて。ゴップはニヤッと不敵な笑みを浮かべ、「いい案がある」と2人に話した。

カイとミハルは夜のハイウェイを再び市内の予約を取っているホテルへ返していた。
助手席に座るカイをミハルは横目に見て、怪訝な顔をしていることに質問した。

「・・・カイ、何故そんな顔をしているの?」

「ん?・・・ああ。もしかしたらオレは間違ったのかもしれない」

「どういうこと?」

カイは一目ミハルを見て、前に視線を戻した。

「ゴップは憲章を知っていた。そして鼻っからそういう決断でいたんだ。それは何を意味するか・・・」

「何をって・・・」

「政治決断さ。それは並大抵の動機ではできない。既に腹に決まっていたということだ。それは事前にオレがこの選択をすると知っていた。というより促されていた」

ミハルは目を丸くした。カイは次の思考へ進んでいた。さてゴップはラプラス憲章の利用をティターンズ、エゥーゴを差し置いて、利用する上で何をする気でいるのか?

ネオ・ジオン、カラバという組織もあるが、彼らがゴップの期待に応えることが出来る可能性は少ない。憲章に対する自分の考察とゴップの想いの共通項は「人類の次なる挑戦」だ。

この戦争もある過渡期に来ている。大体の思想の構図が定まってきたとカイは考えていた。
ジオンは唯のきっかけに過ぎなく、連邦という大所帯はこのように内紛はそのうち必須だった。
鎖国か開国か、ニューディール政策・ブロック経済かTPPか。人類はフロンティアを見ては価値判断を現在決めかねている。

もう一度7年前からおさらいした方が良いのかも知れないとカイは考えた。
繰り返してきっかけはジオンの独立戦争。そこより波及した地球対宇宙の構図。技術の発達とゴップの栄達。

「ゴップは食えない狸だ。彼は何かを成そうとしていることは確かだ。それも2大勢力を差し置いてだ」

ミハルは複雑な顔をした。行きと帰りでカイの印象が大違いだった。

「何故議長を警戒するの?あの会談の場では終始和やかで議長の了承に貴方は安堵していたじゃない?」

「ああ。車に乗ってから彼の言葉を反復したらある事が浮かんだ」

「ある事?」

「お前だ、ミハル。いつからだ?」

ミハルは真顔になり、進行方向の道を見据えていた。

「・・・4年前のニューヤークでのイセリナさんの紹介よ」

カイは記憶を辿った。ニューヤークでのガルマの地盤をイセリナがフォローアップしていた当時、ミハルらの面倒を彼らが見てくれていた。ガルマはゴップと繋がっていたとは、可能性は政治家だから無きにしも非ずだとカイは思った。

「ガルマはてっきりエゥーゴ寄りだと思っていた」

「そうね。少なくともティターンズではないよ。彼はジオンよ。宇宙に住む者のことを考えているの」

「何故ゴップと?」

ミハルは交差点で赤信号を見て、車を減速させた。

「シロッコのせいね」

「シロッコ?」

カイがより一層怪訝な顔をした。

「貴方が救ってくれてから彼が私のトラウマなのよ。女の恨みは倍にして返す」

ミハルの顔が強張っていた。カイが脇目でそれを見て顰めていた。

「・・・ったく、オレも注視していたんだがな。無茶しない様にな」

「私は守ってらればかりよ。そんなんじゃ私の悪夢を払拭できやしない」

「・・・焦りは迷いを生む。オレがゴップを選んだのも考えて見れば、お前の誘導もあったのかもしれない」

「そんなこと・・・」

「無意識の自覚さ。行動した結果に真理がある。考え過ぎていいのかもしれない。こんな異常事態ならばな」

「異常?」

「世界の違和感さ。歴史的にも長く続く戦争状態は異常事態さ。特攻などの自爆行為、常人では考え付かないことが起きている」

「それって今の戦争とどう繋がるわけ?」

カイはミハルに前の信号を指差した。既に青になっていたからだった。
ミハルはギアを入れて、車を走らせ始めた。

「今までは船や戦闘機、そこからモビルスーツが登場し、ニュータイプのようなエスパーが生まれた。そしてサイコミュだ。今や人類はある思想の終着点を目指そうと動いている。しかもたかが7年でだ」

「それって良くないの?」

「これがある超越した力の作用によるものならばな。オレはリアリストだが、それでも運命はあると思う。お前とこの場に居ることも理由があるわけだからな」

「理由って・・・私を助けたからじゃないの?」

「違うな。オレはあのホワイトベースに居て、助けることができたのはホワイトベースに居たからだ」

ミハルはカイの言ったことが少し不明瞭だった。カイはそれについて補足した。

「あの艦に乗っていたからオレはお前を助ける力を得れた。あの艦の力は正に特殊で違和感を今になって感じている。それはアムロが居て、シロッコが居た。奴らを始めとした艦のひとたちがオレの視野を拡大してくれた。これも割と不自然だ」

「何故?あの艦のひとたちは皆器量があって落ち着いていたよ」

「それさ。ほぼ10代のクルーだ。そんな落ち着き払った少年など可愛げないだろう。今振り返れば違和感だ。結論言えば、違和感から導かれたオレらや他の奴ら、組織など違和感の極みだな。ミハル、お前はゴップの草だろ?彼は何を本当は求めている?」

「草が話すと思う?・・・フフフ、冗談よ。カイ、貴方の言う通りよ。均衡の維持、多様な思想が共存する世界。ある一定の解決は見ても、完全なる解決は望まない。それが世界の成長に繋がるのよ」

「ふーん。本当にそれだけか?オレの印象が、ゴップに対して何かをしこりがあるように感じる」

ミハルがキョトンとした。

「他に何があるの?」

「今はわからん。だが勘が告げているのさ。ひっくり返してやろうと思ったのだが、オレも含め既に返された後だった、それとも見えない糸があるのかもしれない。それが世界の違和感の正体かもしれん」


* ゴップ邸 同日22:30

ゴップは別室にてある者と話していた。
互いに高級な1人用のソファーに腰かけていた。ゴップはバスローブに身を纏っているがもう一人はチノパンにワイシャツ一枚というラフな服装だった。

「・・・ここまでは君のシナリオ通りかな?」

「いや、多少なりとも人の移り変わり往く心に世界を任せている訳だから、そこまでは予想してはいないさ」

「君の導くままの流れで私もこの地位まで来たのだ。あのビストの先を往くことができた。調整者たる立場を得てな。君も経験からこのような世界が望ましいと思ったのだろ?」

その者が微笑を浮かべた。ゴップはその表情に恐怖を感じた。

「私は既に破綻した存在さ。ただ仕方なく挑戦状を叩き付けているに過ぎない」

「だ・・だが君はまだ表舞台に出ないのか?」

「・・・」

その者は何も語らなかった。ゴップは背中をソファーに預けた。

「取りあえずは真の連邦憲章の公表でティターンズの地球至上主義に終止符を打つ。エゥーゴも他勢力も大義名分を失う」

「・・・」

「しかし、彼らは決死の覚悟で戦うだろう。議会の評決を待たずして一糸貫徹だ。双方ただでは済まないだろう」

「エゥーゴ、ネオ・ジオン、ティターンズそして・・・」

「そして?」

「フル・フロンタル、シロッコ・・・。彼らの動向・・・局面を見てからで幕を開けるとしようか」

ゴップは身震いをしていた。どんな大物で手強い傑物たちを前にしてもこの者の異端さには遠く及ばないとゴップは感じていた。


* 月 フォン・ブラウン市 アナハイム工場訓練場 3.6


アムロはνガンダムを操り、月面での重力下実験と共にサイコミュのテストをこなしていた。
そのテストとは人為的に動く小さな障害物の除去とそれから発する電磁波の回避行動だった。
因みにこの試験時のガンダムにフィン・ファンネルの未実装状態だった。

その人為的に動くモノがこの世界で特級の技量を持つ赤い彗星が操るファンネルだった。

ガンダムが月面擦れ擦れを飛行していた。レーダーは遮蔽物を苦手としていた。それ故サイコミュという代物がどう発揮できるかで目標の識別感知に役立てていた。

シャアのファンネルがこれみよがしにアムロの後方へ回り込んできている。
それを感じ取るアムロは舌打ちをしていた。

「ちぃ・・・シャアは手強いな。常に後手に回る」

アムロは移動しながらもビームライフルでシャアのファンネルを狙い定めた。勿論模擬戦ということで同じく電磁波を直撃で物体が捉えたらば撃墜と見なされるシステムを導入していた。

追尾してくるファンネルは3機でそのうち2機を撃墜した。
アムロは後ろからだけでなく前からもプレッシャーを感じ取った。

「挟み撃ちか。シャアめ」

アムロは月面飛行を止め、上空へ飛び逃げた。追尾するファンネルと待ち伏せたファンネルがガンダムを追った。多少の距離感があったが、感覚でアムロは残りのファンネルの位置を掴み取った。

「3機か。ファンネルの有効射程よりビームライフルの方が上だ」

アムロは全てのファンネルをピンポイントに撃ち抜いた。
そこでテストが終了した。モニターのワイプにオクトバーが映し出された。

「アムロさん、お疲れ様です。シャアさんも」

アムロはコックピット内にあるタオルで汗を拭った。

「ふう・・・、流石赤い彗星だ。危うくやられるところだった」

別のワイプにシャアが映し出されていた。その表情は不満足気だった。

「しかしできなかった。アムロの方がサイコミュとの連動制で上回っていたんだろう」

アムロは軽く手を挙げて否定した。

「いや、この度のテストには制限が掛かっていた。シャアが直接仕掛けて来たらこうはいかない」

「そうだな。ファンネルだけで君を討とうとは驕りだな」

「ああ、オレもそれ程腕がない訳じゃないからな」

アムロの自賛にシャアが笑った。

「ハッハッハッハ、連邦の英雄が腕がない訳がない。さて、オクトバーさん」

「なんだい?」

「次は模擬戦でいいのかな?」

オクトバーが肩を竦んで賛同した。

「まあ、そうなるだろうねと考えていたのだが両本営から帰投願いがきています」

アムロはモニター越しにこちらに近付いてくる赤い機体を見ていた。とても違和感があった。過去宿命の対決で命のやり取りをし合っていた両機体が今は並列して宇宙に浮いていた。

シャアはそんなアムロの感慨をいざ知らず、オクトバーの帰投願いの事について話していた。

「事態は差し迫ってきたということか」

「そうですね。ティターンズが地球軌道上で集結を図っています。議会開催を皮切りに何かを起こすと噂されています。それがスペースノイドの根絶やしとか・・・」

オクトバーが不安そうな顔をした。宇宙に住まうものがティターンズの無差別虐殺を仕掛けてくると巷では専らの噂だった。
あくまでも噂だが、宇宙にいるものには戦々恐々な話だ。スペースコロニーはとても不安定で脆い住まい。もし強固ならば7年前のジオンのブリディッシュ作戦やら成功はしなかっただろう。

「取りあえずは一度メンテナンスに入れるからご両人とも工場へ戻って来てください」

「ああ、分かった」

「了解した」

ガンダムとサザビーは揃って工場へと帰投していった。


* インド洋上空  ラー・アイム艦橋 3・6


シナプスはトリントン基地よりブレックスを乗艦させ、一路ダカールへと進路を取っていた。
艦橋にはシナプスと旧アルビオンクルー、ブレックス、コウ、キース、ルセット、ファ、そしてカミーユと皆集まっていた。

トリントン基地を飛び立ってからも、ティターンズの妨害が続いていた。
ヘンケンのネエル・アーガマ隊がアジアを席巻し、ティターンズの勢力圏を制圧しつつあるとは言えど未だにティターンズは健在だった。

今日もまた敵襲の警報が鳴った。トリントンからほぼ敵襲の繰り返しだった。飛行機の時が有ればモビルスーツの時もあった。今回はちょっとスパイスが効いた襲撃だった。オペレーターのスコットが叫んだ。

「艦長!レーダーから言ってミノフスキークラフトの巨大モビルアーマーが3機後方より接近!」

「なんだと!」

正面の大きなモニターが後方の接近するモビルアーマー3体を捉えていた。
紫のカラーリングの機体が向かってきているのが誰でも分かった。そしてラー・アイムへ遠距離ながらも砲撃を加えてきていた。

ブレックスがその機体に付いて知識を持っていた。

「シナプスくん、アレはMRX-010 サイコガンダムMk-Ⅱだ。20基のメガ粒子砲を兼ね備えたニュータイプ専用機体の唯の化け物だ」

「艦長!オレが出ます」

カミーユがシナプスへ進言すると、ブレックスが首を振った。

「そしてカミーユ君。アレのI・フィールドシステムの強固さは並大抵じゃない。君のサイコ・フィールドが果たしてどれぐらい通用するか・・・」

「やってみないでは答えは出せませんよ議員」

シナプスはカミーユの意見を尊重した。

「議員、生憎このままでは本艦が捕捉されるのは必至であります。カミーユがそれを遅延してもらえるならばそれも手段です。当面の目的は無事アラビア半島への上陸を果たす事です」

ブレックスは腕を腰に当てて、もう片方は髭を触っていた。
空中戦であの巨大モビルアーマー3体を相手にするにはラー・アイムも厳しい。

「・・・よし。艦長の随意で。飛行形態機は本艦への帰投も問題ないだろう」

「はっ。ではカミーユ、直ぐ迎撃に移れ」

「了解です」

カミーユがブリッジより出ようとするところでコウが話し掛けてきた。

「隊長、我々は後詰しましょうか?」

その呼びかけにカミーユが振り向き、

「いや、コウとキースはこの艦の甲板にて実弾兵器実装で鎮座していてくれ。ビーム兵器が無効化されるフィールドを確実に持っているならば多分有効だ」

と答えた事にキースが反応した。

「多分・・・ですか?」

「ああ。アレらパイロットが大したサイコフィールドを持っていなければな」

コウとキースは顔を顰めた。彼らのZプラスもサイコフレーム実装機体だがニュータイプを相手にするには、例えばカミーユを相手にするに遠く及ばない。これから戦う相手はまだ姿が見えないことに2人共冷静に分析していた。

カミーユがZガンダムのコックピットに乗り込み、意識を追跡してくる部隊へ向けてみた。
すると、慚愧の念にかられる3人の気持ちが汲み取れた。どうしてこんなことになったのか、才能を買われて期待を受けて養成所に入ったことが、結果人殺しの道具にされてしまった、洗脳が往き過ぎて自分の意思では既に止められない、そんな想いをカミーユは受け取り、深く息を付いた。

「ふう~・・・、時代の弊害だな。このガンダムの様なものがなければこの人たちは生まれなかった。人は脆くも弱い。オレもそうだ。多少の誘惑でも易く負ける」

そうカミーユが呟いていると、モニターワイプが映り、シモンとその傍にファが割り込んでいた。

「カミーユ・・・私も感じる。あの人たちは普通の人達よ」

「ファ、分かっている。君も分かるとはな」

「何年一緒に居ると思うのよ。貴方から完全に勘含めて感化された気がするわ」

ファが少し笑っていた。カミーユはそれを見て同じく笑った。

「フッ・・・、少々骨が折れるミッションになりそうだ。カミーユ・ビダン、Zガンダム出ます!」

カミーユはカタパルトで射出されると否や飛行形態になり、追跡してくる敵へと向かって行った。

 
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