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魔法少女リリカルなのは ~最強のお人好しと黒き羽~

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第四話 平穏に向けて

「はい、どうぞ」

「う、うん……ありがとう」

 ガラスの丸テーブルに乗せられた白一色のティーカップ。

 中にはミルクティーが入っており、紅茶の香りがほんの少しだけ、今の私の心を落ち着かせてくれる。

 ……うん、本当にほんのちょっぴり。

 というのも私/高町 なのはは今、人生で初めて男の子の家にお邪魔しているから。

 今日のお昼に出会って、夜に再会した男の子……小伊坂 黒鐘くん。

 彼の住むマンションの一室で、私と彼は二人っきり。

 その状況を未だに私は、理解しきれずにいた。

 ――――遡ること一時間くらい前。

 私と小伊坂くんは、魔法を使ってフェレットを助けた。

 『ユーノ』って名前のフェレットから色々な事情を聴くために、誰もいない場所っていうことで小伊坂くんのお家にお邪魔することになりました……というのが、今に至る経緯。

「……ん? どうした?」

「え!? ……う、ううん。 何でもないよ」

「ミルクなしの方が良かったか?」

「ううん、ホントに大丈夫! いただきます!」

 彼に声をかけられて私はやっと意識を取り戻した。

 心配そうに声をかけてくれたけど、その内容を知られるのも恥ずかしかったから、無理やり笑顔になってミルクティーを飲んだ。

 少しだけ砂糖が入っているみたいで、ほんのりとした甘さが私を落ち着かせてくれる。

 それに、出す前に少しだけ温度を下げてくれたんだと思うけど、温度を確認せずに飲んだのにやけどするほど熱くない。

 ……なんか、凄く気を使われてるみたいでちょっぴり罪悪感。

「っていうか、散らかってる部屋でごめんね。 昨日引っ越してきたばかりだから荷解きが済んでなくて」

 苦笑しながら彼は私と対面の位置に座り、ミルクティーを口に含んだ。

 私はその姿を見て少しだけ落ち着き、周囲を見渡すことができた。

 白い壁、床はフローリングだけど床暖房があるみたいで寒くない。

 壁際には大小色々な大きさのダンボールが積み重ねて置いてあって、半分くらいしか荷物が出されていないみたい。

 それでも机とかテーブルとか、テレビとかの大きなものは綺麗に出されていた。

 遮るものがないから、台所の方もチラッと除くと、冷蔵庫とかガスコンロとかは置いてあるみたいだし、必要最低限なものは揃えてあるんだと思う。

「……そんなに見られると、案外恥ずかしいものだな」

 気づくと小伊坂くんは照れくさそうに右手で頬を掻いて視線を逸らしていた。

 そうして私は、自分がかなり真剣に周りを見ていたんだと言うことを自覚した。

「ごめんなさい。 話し、始めたほうがよかったね」

「気にしなくていいよ。 ……さて、それじゃ本題に入ろうか」

 素直に謝って、私は視線を彼に、そしてテーブルの中心で話が始まるのを待っているユーノ君へ向ける。

 ユーノ君はコクンと頷くと、小伊坂くんが質問を始めた。

 その表情は、私のお父さんやお兄ちゃん達みたいな……鋭くて、緊張感があった。


*****


「ユーノ……だっけ? 聞きたいことがいくつかあるから、取り敢えず一つずつ。 まずは君自身についてか?」

 俺の問いに、ユーノは念話で俺の質問に答える。

「それじゃ改めて自己紹介を。 僕の名前はユーノ・スクライア。 遺跡発掘のために色んな世界を旅してたスクライア一族の一人です」

 スクライア一族。

 その単語が出た瞬間、俺のデバイス/アマネが単語検索を初めてその意味を調べ出す。

 そして検索結果を集計し、自らの知能として解説を始める。

《スクライア一族で検索した結果、遺跡発掘が目的に放浪する一族と出ました。 恐らくユーノ様も同じ事情で……しかし少々トラブルが発生してこの世界を訪れたというところでしょうか?》

 アマネの問いにユーノは頷き、言葉を紡ぐ。

「僕がこの世界に来たのは、僕が発掘の現場指揮を担当していた遺失物(ロストロギア)/ジュエルシードが輸送中の事故で、この世界に散り散りになってしまったことが原因なんです」

「輸送中の事故?」

《ロストロギアの暴走でしょうか?》

「ううん。 輸送艦が何かの衝撃を受けて、ジュエルシードだけが飛び出してしまったんです」

「う……ん?」

 ユーノは嘘をついていない、と思う。

 少なくともこの場で嘘をつく必要性がないだろうし、かと言っていきなりなんでも信じるのも危険だけど……。

 ただ、輸送艦に与えられた衝撃っていうのがどこか引っかかる。

 ロストロギアを輸送するくらいなんだから、宇宙空間の移動による隕石とか次元震程度じゃビクともしないはずなんだ。

 なのに被害を受けて、しかもジュエルシードだけ。

「小伊坂くん、どうしたの?」

「え……?」

 どうやら俺はぼーっとしていたみたいで、高町は俯いていた俺の顔を覗き込むようにして声をかけてきた。

 俺はすぐさま笑みを見せ、何でもないよと答えた。

 取り敢えず今は情報が少ないし、考えても答えは出ないだろうと思った俺は、ユーノに話す。

「ユーノはそのジュエルシードの回収のためにこの世界にきて、あの黒い存在と戦おうって思ったのか?」

「……うん」

 返事をするユーノの表情は、フェレットだからよく伝わらないけど落ち込んでいるように見えた。

 俯きながら、暗い声で答える。

「僕が発掘指揮をしてたこともあるし、管理外世界であれが暴走したらと思うといてもたってもいられなくて……でも結局、僕一人じゃ何もできなかった」

 結果、部外者を二人も巻き込んだ上に、管理外世界の住人を一人、魔導師にしてしまった。

 それは事故と言えることだし、結果論だ。

 とは言え、避けられた結果であることも事実で、それはユーノ自身が落ち込む原因の一つと言える。

「……てい」

「うっ!?」

 そんなユーノに対し、俺はデコピンを喰らわす。

 高町もえ!? と驚いた様子で見るが、俺は呆れながら言葉を紡ぐ。

「勘違いするな。 一人じゃ何もできない? 一人でなんでもできる人間なんて、この世にはいない」

 それはアマネが俺に教えてくれたことのパクリだ。

 ……うん、二番煎じ感が否めないが、どうにも言わずにはいられなかった。

「他人や仲間に迷惑をかけないように一人で何でもしようっていうのは、優しい考え方だと思うけど中身が伴ってないから失敗する。 現にユーノは今、散々な有様だし」

「うっ……」

 両手で頭を抑えながら図星を突かれたユーノは、呻き声をあげて再び俯く。

「か言っても、一人で何でもやろうと思えばユーノじゃなくても散々な結果が待ってる。 しかも失敗した後は結構長いこと引きずることになるしな」

 俺自身、そう言う経験があった。

 一人で何でもしようとして、失敗して、落ち込んで。

 幸福なことに、俺には仲間がいて、すぐに気づいてくれたからドン底まで落ち込まなくて済んだ。

 そんな過去があって、アマネの言葉を聞いたからこそ思う。

「誰だって、どんな立場だって、どんな状況だって、誰かを頼って良いんだ。 それは決して、間違いじゃないから」

 それが今の俺に出せる答え、なんだと思う。

 胸を張ってそう言うと、正面にいる高町は噛み締めるように頷き、ユーノの表情からは暗いものが消えた。

「……ありがとう、小伊坂」

「いえいえっと、話しが逸れたな。 ユーノ、あのロストロギアがなんなのか分かるか?」

 真正面から感謝されることに恥ずかしさを覚えた俺は、話題を逸らす……というか、本題に戻した。

 そこで空気は再び緊張感のあるものになった。

「ジュエルシードって言う名前自体は文献を解読することで分かったんだけど、解析を初めて間もない頃にこんな事態になったから、どういうものなのかは僕もよく分かってないんだ」

「そうか」

 俺は頷いて、ユーノの隣に置かれたアマネに目線を変える。

「アマネ。 ジュエルシードについての情報、調べられたか?」

《ええ。 詳しいことは現在も調査中ですが、こちらのロストロギアを解析したところ、かなり高密度のエネルギーが凝縮されているようです》

「エネルギーって、どれくらいの規模の?」

《そうですね……1つで次元震を起こすことくらい、わけないでしょうね》

「っ!?」

 アマネの説明に、俺とユーノは目を見開くほど驚いた。

 それこそ、許されるならば大声を上げてしまえるほどに。

 唯一、次元震を知らない高町だけがきょとんとしていたため、俺は彼女に目線を変えて話す。

「次元震。 難しい説明を省くとすれば、大震災レベルの大地震よりも更に大きな地震みたいなもん。 しかも次元震は地下の断層が……ってレベルの話しじゃない。 それこそ空間が揺れるって話しなんだ」

 そして、空間までもが揺れることで発生する被害。

「この世界じゃ飛行機とかヘリコプターとか、とにかく地上から離れれば地震の被害ってないだろうけど、次元震の範囲は空も含まれるから、世界そのものが揺れるようなものなんだ」

「え……ええ!?」

 ようやく事の重大さ、規模の広さを理解した高町は驚きの声を上げる。

 そう、これがどれだけ凄いことで、危険なことなのか。

 そしてそれをたった一個の小さな石ころで発生させることができると言う事実。

 何より、そんな危険極まりないものが、この魔法が存在しない世界にまだどこかに散らばっていると言う現状。

「下手をすれば、ユーノを始めとするスクライア一族がロストロギアの管理責任を問われることだってありえるな」

《ええ。 管理内世界ならまだしも、ここまで魔法文化に縁のない世界に複数のロストロギアが落ちたとなれば、その責任はあまりにも大きいでしょう》

「となると、管理局(しょくば)に相談するのが普通なんだよな」

 ユーノが罪人になる覚悟で管理局へ相談すれば、事態は急速に済ませることができるかもしれない。

 何より俺がこの世界にいるだけに、うちの艦長やクルーが黙ってないだろう。

 ……とは言え、ここでユーノを見捨てるようなマネもしたくない。

 ……とは言え、このまま俺やユーノだけでジュエルシードを探すのも骨が折れる作業になる。

 その間に被害が出てたんじゃ意味がない。

「うーん、難しいな」

 腕を組んで悶々とする俺に、アマネは冷静な態度で伝える。

《やはり、管理局の協力を仰ぎますか?》

「いや、それはちょっと避けよう」

《理由は?》

「いやほら、ここで知られるとユーノが裁判にかけられるかもじゃん?」

「え、そうなの!?」 

 俺とアマネの会話に、高町が声を上げて入る。

 裁判に関しては俺よりも詳しいアマネが説明する。

《管理局側からしますと、ユーノ様はかなり危険な兵器になり得るものを、魔法文化すら発達していない世界に落としてしまった人と見なします。 それは、この世界の文明を脅かすほどの重罪になる可能性があります》

「えっと……?」

 重罪辺は理解できるだろうけど、他の部分がイマイチ理解にかけるようすだった。

 アマネは一瞬だけ考えると、高町に分かりやすい説明を選ぶ。

《そうですね。 では、織田信長が生きていた時代、戦場で用いられた武器はわかりますか?》

「えっと……刀とか、鉄砲とか?」

「織田信長って誰だ?」

《マスターは黙っててください》

「……」

 言われたとおりに黙りました、泣きそうです。

《高町様、正解です。 他にも様々な武器がありましたが、代表的なものはその二つでしょう。 ではその時代にもし、戦車や戦闘機を用いた軍隊が出現したらどうなりますか?》

「え?」

 平然と語るアマネに、高町は混乱した様子で瞬きが速くなる。

 きっとこの世界の住人にとって、アマネの例えは混乱してしまうようなものなんだろう。

 予想通りと言ったようすで、アマネは少し微笑んだ声を漏らしつつ、話しを続ける。

《ジュエルシードが招く事態とは、そう言うことなのです。 今まで続いてきた常識を、破壊してしまうような事態。 ゲームで言えばチートレベルの事態が起こる。 そしてユーノ様はそれを起こした……言え、まだ目立つ事態になってないので問題ないでしょうが》

「まぁ、時間の問題だろな」

「そう……だったんだ」

 アマネと俺の言葉に、高町の表情が暗くなる。

 俯きながら、ユーノを見つめた。

 そしてそのまま無言で落ち込む――――なんてことはなかった。

「ねぇ、小伊坂くん」

「ん?」

「私、ジュエルシードを集めたい」

「うん、いいんじゃない? 俺も手伝うし」

「うん!」

《マスター! 何さらっと許可してんの!? マジなの!? 正気なの!? 流れに身を任せたら子供できちゃうよ!?》

 別にノリじゃな……って、アマネが壊れた。

「あーいや、アマネよ、ちょいと落ち着けって」

《ならマスターも落ち着け、そしてよく考えて! さも当たり前のように方向性を決めないでください!》

「そうは言っても、他に選択肢があるわけじゃないからな」

 管理局を頼るか、俺たちで回収するかの二つしかなかった。

 管理局を避けようと思ったなら、俺たちで回収するしかないわけで、高町がそう言う道を選んだなら、そっちにするしかないんじゃないかと思った。

 俺は結局、どっちつかずで悩んでいた。

 ならば誰か別の人の意見が決定打に必要で、それが高町だった。

《……正気ですか?》

 デバイスから深呼吸とため息が聴こえた気がするが、そんなことお構いなしにアマネは聞いた。

《魔法初心者の高町様と、休暇中のマスター、そして負傷中のフェレットで残り多くのジュエルシード回収が、無事にできると思いますか?》

 状況を冷静に把握したアマネの問いに対し、俺は余裕の笑みで答える。

「それ以外にも、アマネとレイジングハートがいるだろ? 二機がいれば、問題ないだろ?」

 迷いのない自信だった。

 俺は俺以上にデバイスを信じてる。

 俺みたいな子供が、大人に認められているのだってアマネがいたから。

 両親を失い、姉さんが意識不明で落ち込んでいる最中だって、声をかけてくれたのはアマネだったから。

 だから信じてる。

 アマネの可能性を。

 そして高町 なのはの力になる、レイジングハートの可能性を。

《……デバイス冥利に尽きますね、レイジングハート》

《ええ。 そして今更ですが、お久しぶりですね、アマネ》

《元気そうでなにより。 まぁ再会がこんな形なのは運命を感じるけど》

「……え、アマネとレイジングハートってお知り合い?」

「仲いいよね?」

 俺と高町は唐突に、言葉を失う。

 なぜか急に二機のデバイスが会話を始めたから。

 しかも友人のような親しさで。

《マスター、覚えていませんか? マスターの姉上が趣味で作っていたデバイス設計図の数々》

「あー、子供の落書きにしては細かすぎたヤツ?」

《その落書きから生まれた1つが私であり、そしてレイジングハートなのです》

「……つまり、二人は姉妹?」

《そういう事になりますね、アマネ姉さん》

《そんな呼ばれ方をされたのは今が初めてですがね》

「……」

「……」

 俺と高町、そしてユーノを含めた三人は、本来であれば衝撃の真実にも関わらず、言葉を失って表情も失った。

 うん、驚き疲れたんだきっと。

 そういうことにして、俺と高町達の今後の方針は紆余曲折ありながら決まった。 
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