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ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~

作者:???
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胸騒ぎ-センス・オブ・パニック-

サイトたちがアンリエッタと会談を行っている間、城に用意された一室にて、ハルナは彼らの帰りを待ち続けていた。バルコニー付近に設置されている椅子に一人ぽつんと座りながら、窓の外の街の夜景を見つめながら待っている。
きっとテーマパークでしか見受けられない物語の世界が、窓の外に広がっている。でもこれは決して模倣したものではなく、本物。そう思うと、本当に異世界にきたのだと改めて実感する。でも、ここにはサイトもいる。彼が一緒なら…と思っていた。この世界に着てから、サイトは戦いに身を投じ始めていた。
今日もサイトたちは無事に帰ってきてくれた。それについては安心したものの、きっとこの先彼らはまた戦いに身を投じる。地球で腐るほど起きた、怪獣災害という戦いに。
サイトたちが命がけの戦いに身を投じていると考えると、今すぐにでもそこへ行きたくなる。でもそんなことしてもしょうがない。だって自分はサイトたちと違って戦う力を何一つ持っていないのだから。地球にいた頃は優等生としての肩書きがあったのだが、異世界に来た途端それが何の役にも立っていない。無力な自分がもどかしかった。

そういえば、とハルナはあることを思い出す。サイトが言っていた、自分と初めて会ったときのことだ。確かサイトの話によると、自分が不良みたいな他校の生徒に絡まれていたときにサイトがおどおどしながらも助けに来たという。男として女の子にもてたいから、そんな動機で話したホラ話ではない。サイトはわかりやすいから嘘をつくときのリアクションとかはすぐに分かる。
しかし問題はそんなことではない。

「…どうしてだろう。私…平賀君と初めて会った時のこと…思い出せない…」

そう、ハルナは片思いの対象である『サイトとの初めての出会いの記憶』がなかったのだ。ただ、いつの間にか好きになった。いや、この言い方だとたいていの恋愛ではよくある話なのだが、確かに何かのきっかけがあったはずだという核心があった。でも…それがどんなものだったのか、詳細な記憶を持っていなかった。
(思ってみれば、私…意識が時々飛びかけることがあったような…)
他にもハルナは、誰にも話していない悩みがあった。それは、別に眠いわけでもなく、頭に何かしらの症状があったわけでもないのに、意識をなくすことがあるということだ。仮病がばれるまでの間はとくにそんなことはなかったのだが、それが妙に怖くなった。
「私、一体どうしたんだろう…」
ふと天井を見上げながら一人呟くハルナ。…やめよう。とりあえず外に出て夜風でも浴びながらサイトたちを待つことにした。
バルコニーに出たハルナは、魔法学院に来たあの日の夜のように、双月の光に照らされた夜空を見上げた。

そのときだった…。



ドクンッ…



ハルナは、胸の中で何かが…ドクンと脈打つ感覚を覚えた。


ドクンッ…!


ドクンッ…!!


なんだろう、何か…何かが湧水のように湧き上がってくる。それも真っ黒に染まった、何かが…。


しかし、その時ガチャ、と扉の開く音が聞こえてきた。
「ッ!」
「待たせちゃったわねハルナ。一人で退屈じゃなかったかしら?」
我に返ったハルナが振り返ると、ルイズにキュルケ、そしてタバサの三人と、彼女たちを案内したアニエスの姿があった。アニエスはすぐに「さわがないようにな」と一言念を押して扉を閉めて姿を消した。
「お、お帰りなさいみなさん」
「どうしたのハルナ?もしかして今入ってきたらまずかった?」
「い、いえ…そんなことないです…」
さっき自分の体に起きた異様な感覚に対する戸惑いが残っていたが、何もないふりをした。
「そお?」
気にしないでほしいと言っている割に、ハルナはどこか挙動不審だ。だが思い当たるようなこともなく、キュルケは気にしないことにした。
タバサはすぐに部屋の奥の方のベッドに腰掛け、さっそく本を読みだしていたが、ちらっとだけハルナの方を見たが、すぐ日本の方に視線を向け、誰も彼女の視線に気づかなかった。
「まったく、ギーシュったら…人の気も知らないで危ないことに首突っ込むんだから…」
モンモランシーはタバサの傍らに座り、愚痴をこぼしていた。
「あら、モンモランシー。あなた乗り気じゃないのに参加するの?陛下が編成する新しい部隊に」
耳を傾けてきたキュルケが興味を示してきた。
「仕方ないでしょ?あいつを抑えられるの私だけなんだもの。私の目の届かないところで色目を使ったりとかしないか心配だし…」
ジュリオに見惚れてしまったとはいえ、なんだかんだでギーシュのことが放っておけなかったのが伺える。だが、この先怪獣や異星人という危険な存在に自ら立ち向かう姿勢を見せた恋人が余計に心配になってきてしまったに違いない。
タバサはモンモランシーの愚痴に興味はなかったのか、読書に集中するためにサイレントの魔法をかけ、自分の耳には誰の声も届かないようにした。
「ところで平賀君は?」
ハルナは珍しくルイズと一緒じゃない、しかもここにサイトが来ていないことが気になった。
「今日は男子たちを止める部屋に留まらせることにしたわ。この女もいるし」
親指で自分の後ろに立っているキュルケを差しながらルイズが答える。
「なによぉ、ルイズったら。私がいるからってその言い方はないんじゃなくって?」
「当たり前でしょ。ハルナはともかく、あんたみないなのとサイトを一緒にしてたまるもんですか」
「はいはい」
信用されていないが、これもいつものことなのでキュルケは気にしないで置くことにした。
「私、ちょっと見てきてもいいですか?」
サイトの顔を少しでも多く見ておきたかったハルナはルイズに進言する。
「ハルナ、一人でこんな時間に城でうろつかない方がいいわ。明日にしなさい」
「はい…」
ハルナは残念そうに肩を落とした。そんな顔をされると自分が悪いことをしたみたいだからやめてほしい。ルイズは口に出したくなったが、言っても仕方ないことだとわかっていたので黙った。
(…ハルナがここまで会いたがるなら、サイトも…)
緊急の事情があるときは忘れていたが、サイトも本当なら自分とではなく、ハルナと過ごしたがっているのではないだろうか?そして、以前から言っていたように彼もいずれハルナと共に帰ることを目的としている。その意志は、たとえ彼の主という立場にある自分でも縛ることはできない。必ず約束までしたのだから当然だ。
だけど………気が付くとすぐサイトに構いたくなっている自分がいた。約束をそっちのけに、素直に認めるにはあまりに恥ずかしいことだが、彼と一緒に過ごしたがっている自分に気付いていた。
(私は、結局どうしたいんだろう…?)



「怪獣と異星人対策のために新設された防衛組織、その隊員に加わることになるなんてな」
男子用に用意された客室にて、部屋の椅子に腰かけたレイナールが窓の外に見えるトリスタニアの夜景を眺めながら呟いた。
「これから学院の方はどうなるんだろう?」
マリコルヌが言う。本来この時期、自分たちは学院に戻り、2学期の授業に備えているはずだった。それがまさか、突然星人に攫われただけでなく、救出直後に国を守るための戦闘部隊入りを果たすことになろうとは予想もしなかった。
「なってしまったものは仕方ない。それに僕たちは女王陛下から直々に申し込まれたんだ。大した理由もなくこれを断ったら、実家の父上たちに会わせる顔がないだろ」
「その割にはレイナールって陛下に理由とかを聞いてたじゃないか」
マリコルヌからの切り出しにレイナールは言い返した。
「それとこれとは話が別だ。僕たち個人の力なんて、怪獣やあの異星人共と比べてどれだけの力の差があると思ってるんだ。陛下の方でも軍を再編しているか、それを聞いて納得しておきたかったんだよ。僕だって、自分の国があんなデカいだけの獣たちに蹂躙されるのを黙って見過ごせるわけないだろ」
「おぉ、よくぞ言ったレイナール!学友として誇らしいぞ!」
アンリエッタに対して、自分でも図々しいとはわかっていても意見を入れずにはいられなかったレイナールだが、それは故郷を捨ててまで命がけの戦いから逃げるための姿勢では決してなかった。寧ろ彼も、自分の祖国を守りたいという信念を言葉に乗せてきた彼にギーシュは感動した。
「しかし、新設部隊の仲間入りとは!学院に戻ってきたとき、女の子たちの憧れの眼差しが目に浮かぶよ!」
「下心丸出しだな…」
…モンモランシーの予感は的中した。最も、ギーシュ・ド・グラモンという人間を知るものなら誰にでも予想できた光景であったが。こんな彼氏に振り回され、モンモランシーも大変だな…とレイナールはため息を漏らした。
「そういうお前さんだって女の子にモテという願望はあるだろ?」
すると、壁にかけられていたデルフがレイナールを茶化してきた。
「な!僕はそんな不純な動機は…!」
「おいおい、いくらなんでも動揺しすぎなんじゃねぇか?」
「なんて生意気な剣だ…君の持ち主に内緒で売り飛ばされてもいいのか?」
「おっと、そいつは勘弁だな。悪い悪い。戦うとき以外はどうしても暇でよぉ…これくらいは許してくれや」
退屈しのぎのつもりか。なんだこの剣は。あの平民の彼はこんなうっとおしい剣を振るってたのか。レイナールは頭が痛くなった。
「あれ、ところであの…ヒリガル・サイトーン…だっけ?あいつはどこに行ったの?」
ふと、本当ならこの部屋にサイトの姿がないことに気付く。
「ヒラガ・サイトだ。マリコルヌ、一緒に戦う仲間の名前を間違えてはならないぞ」
「ギーシュは彼を何かと高く評価するよな。それも一度決闘したからか?」
二人はまだサイトのことをよく知らない。だから本当ならこの部屋に入れることになった彼の存在はまだ異質に感じていた。それもあってギーシュがサイトを認めている姿勢もまた異質に見えていた。
「それだけじゃないさ。僕と彼はこの舞台に入る前から一緒に戦ってきたことがあるし、その度に彼の雄姿を見届けてきた。彼は平民だが、実力も精神力も油断ならないし、認めざるを得ないほどのものだよ」
「ギーシュが言うとあまり信憑性がないような…」
「失敬な!僕にだって人を見る目はあるぞ!」
(女の子に見境がないくせによく言うよ…)
マリコルヌから軽く馬鹿にされたギーシュは憤慨する。対してレイナールは口には出さなかったがギーシュに対して一言ツッコミを入れる。とはいえ、まだ心身共に未熟さが露骨なギーシュだから仕方ない。
「で、彼はどこに行ったのさ?」
「彼なら銃士隊の副長殿に呼び出されたよ」
銃士隊の副長?確か、ミシェルとかいう女性だろうか。ギーシュは記憶を巡りながら、ミシェルの顔を思い出す。一度見た女性の顔と名前はしっかり覚えているのだ。
この部屋に案内された時、サイトはなぜかミシェルからいきなり「話があるからついてこい」というと、無理やり彼を引っ張って行ってしまった。
(やれやれ、ルイズにキュルケ、シエスタ…それに続いてあの銃士隊の副長殿か)
サイトの身に降りかかるであろうことに、モテる経験を持った男同士、どこか同情したが、相手はどう見ても性格的にきつそうな相手だからサイトにとってはあまり喜ばしくはないのではないだろうか。でも、女性と一緒にいて特に損することはないし、最近自分の女の子からの風当たりが悪くなってきた気がするので、寧ろ羨ましい奴とも思えてきた。



その頃、ミシェルはサイトを連れ出し、客室と同じ階にあるサロンまで連れてきた。
「あの、ミシェルさん…?何か話でもあるんでしょうか?」
サロンに案内されたサイトは戸惑いを覚えていた。どうも任務の時から彼女は自分に対して棘のある態度をとってきている。こんなところまで連れてきてまで、もしかしてまだ自分に対して言いたいことでもあったのだろうかと予感した。
しかし、ミシェルの方から飛んできたのは、意外な言葉だった。
「こ、今回は借りができたな…」
「え?」
「私は正直お前のことを、正義の味方に憧れるだけの子供だと思っていた。だが…今回の任務でお前に命を救われたことは事実だ。まだそのことの礼を言ってなかったと思ってな…」
「わざわざ俺に礼を言うために、ですか?」
ミシェルの予想外の行動にサイトは疑問が沸いてくる。なぜそうまでして?たった一言。ありがとう…というだけじゃないか。
「な、なんだ…人がせっかくお礼を言ったんだぞ。少しはありがたく思え」
(だったらなんで上から目線なんですか…なぁゼロ、何でだ?)
『俺に聞くんじゃんねぇ…』
サイトはますますわからなくなる。しかしサイトは気づいていなかった。ミシェルの顔がひどく真っ赤だったのだ。しかし窓から差し込む月光が彼女の後ろから降りかかっているせいで、顔がよく見えなくなっていた。本来ゼロと一体化しているサイトなら、どんなに暗い闇や強すぎる光の向こうも普通の人間よりも見通すことは可能なのだが、それには意識を集中させる必要もある。別に事件でもないのにわざわざそんなことをする必要がない状況だったこともあり、ミシェルの赤面には全く気付くことはなかった。
「だが…か、勘違いするなよ!陛下から評価されているからとか、一度助けたからって恩着せがましく私に大きな態度を出して来たら、ただじゃおかんからな!?
話は以上だ!さっさと寝て、明日からの任務に備えておくことだな!」
そういってミシェルは自分の赤く、熱くなった顔を隠すかのように、踵を返して去って行った。
『な、なんだったんだ…結局…』
「さぁ…」
結局ミシェルは何をしたかったのだろう。
サイトも、彼の目を通してみていたゼロも、ミシェルの行動の意味が結局読み取れなかった。両人、ともに朴念仁であった。

「ふふ、モテモテじゃないか。うらやましいな、サイト君」

いきなり背後から声をかけられ、ざわっと背筋が凍りついたような感覚を覚えたサイトはとっさに振り向いた。
「そう警戒しないでくれよ。僕だ」
暗闇の中から聞こえるのは、つい最近聞いた声。月の光で、そのオッドアイを持つ端正な顔が現れる。
「…ジュリオ…だったか?」
「そう、ジュリオ・チェザーレだよ。ちゃんと覚えていてくれて嬉しいな」
ジュリオはサイトの前へ歩きながら、飄々とした口調で言う。女に対して甘い言葉とスマイルを向けて簡単に落としてしまいそうなその男は、やはりどこか怪しい雰囲気を出している。
スカした笑みの奥に、いったい何を考えているのか。
でも、一つ予想がついていることがある。
「…そういえば、お前にはまだ聞いてなかったよな」
「なんだい?」

「あの時ゴモラを操ってたのはお前だろ?」

それを聞いて、ジュリオは特に驚くようなそぶりはなかった。寧ろ、あらかじめこうなることを予想していたような、すでにばれてしまうのを覚悟していたかのようなリアクションだった。
「どうしてそう思ったんだい?」
「でなけりゃ、あんな凶暴な怪獣の傍にいたルイズたちが無事で済むはずがねぇ。ルイズやアニエスさんたちは、ゴモラの気まぐれに助けられたって思ってたみたいだけどな」
それは最もな話だった。なにせゴモラは初代ウルトラマンを苦戦させたほどの怪獣。たった一体でも十分ウルトラマン匹敵する力を持つということだ。
「さすがは異世界人、ってところかな?」
すると、ジュリオは特にまずいといった様子も見せず、にこやかに笑って肯定した。
「そう、僕は怪獣を操ることができるのさ。ゴモラは僕の相棒ってわけ」
そういってジュリオは懐から一つの、二本の角をイメージした突起が施されている機器を見せる。
「これは『ネオバトルナイザー』。怪獣を保管するマジックアイテムみたいなものさ。普段はここにゴモラをしまっているんだ。
なぜ怪獣を扱えるか気になるだろ?それはね、この力を授けてくれたのは僕を召喚したお方…教皇様だからなんだよ?」
教皇が、ジュリオに怪獣を使役する力を与えた。そのパターンに、ルイズは何か覚えがあった。
「え?じゃあ、まさか…」
いや、あるもなにも…自分たちのことだ。それに気づいた彼女の中に、確信とも言える予想が立った。
「そう、君たちと同じだよ、サイト君」
ジュリオは右手の白い手袋を脱ぐと、その手の甲に刻まれた、あるものを見せた。

「僕もまた、虚無の使い魔の一人なんだ。その名は…『神の笛・ヴィンダールヴ』」

そこに刻まれていたのは、サイトのガンダールヴのルーン、そしてシュウの胸に刻まれていたルーンと非常によく似たルーンだった。
「ヴィンダールヴは、あらゆる獣たちと心を通わせ使役する力を持つ。それは、怪獣とて例外じゃないのさ」
「ずいぶん、俺たちにぺらぺらと話すんだな」
サイトは思いのほかいろいろしゃべってきたジュリオに細い視線を向けながら言う。
「これから一緒に戦う仲間だからさ。自分たちのことくらいは明かしておかないと信用されないと思ったまでのことだよ」
「…信じていいのか?」
「信じてほしいから、僕のことを話したのさ。怪獣という恐ろしい生物を使役している、僕のことをね。
だけど、僕のことをそうやって一方的に怪しむのはどうかと思うよ。君だって虚無の使い魔『ガンダールヴ』で、元は今回の異星人と同じ異世界の存在じゃないか。


そうだろ…『ウルトラマンゼロ』」


「!!」
こいつ!俺の正体をすでに!?サイトは思わず身構えた。今、デルフはギーシュに頼んで部屋に起きてきているが、生身の戦闘もある程度はやれるし、懐のウルトラゼロアイには折り畳んで銃として扱える『ガンモード』が搭載されているから心配はない。
「そう警戒するなよ。僕は君と敢えて秘密を明かし合いたいだけさ」
「へぇ…」
誰が、と心の中でサイトは突っ込む。分からないことが多くても、同じイケメンで異形の力を持つなら、真っ正直に言いたいこと・伝えるべきことを真面目に言ってくれるシュウの方が信用できる。肩を並べて共に助け合ったことがあるからだろうか。
「ま、いずれ僕が怪獣を操ることができるという話は、伝えるべき時に皆にも教えるよ。けど、君もいずれ自分の秘密を自ら明かすことになるだろう。
そうなったときの皆の反応に対しては…覚悟した方がいいんじゃないかい?」
自分の正体がバラされる覚悟。それを聞いて、サイトは数年前、自分が助けた悪徳記者に裏切られ、自分の正体を暴露されたメビウスのことを思い出した。あのようなことが自分の身にも降りかかるかもしれない、ということか。
「…へっ、ご忠告どうも」
「やれやれ、どうも僕は君にずいぶん嫌われてしまったようだね。君とは仲良くしていきたかったのに。まぁ、最初はこんなものかな。少しずつでも僕のことを信用してもらえると嬉しいな。
そろそろ遅いし、僕はここで部屋に戻らせてもらうよ」
踵を返して、自分の部屋に戻って行った。
口ではああ言っていたが、やはり飄々とした態度を崩さない。ルイズたちに対して色目を使ってきてるし、それに明らかに言っている言葉がいちいち怪しかった。
「あいつもあいつで、俺に…俺たちに何を言いたかったんだ…?」
『さぁな。でも、今はわからないことを考えても仕方ない。それに万が一あいつが俺たちの敵となることがあるとしても、俺たちにはこの星でできた仲間がいるだろ?』




アンリエッタとの会談を行う前…。
「どうしておおとりさんがここに!?」
星人たちにさらわれた人たちの治療にあたっていたメイジたちの中に、サイトがたまたまウルトラマンレオの人間としての姿であるおおとりゲンの姿を見つけた時は驚いたものだ。ゲンもまた、サイトと話をしておきたかったらしく、休憩時間の合間を縫って城内の人目につかない場所にて二人は話をした。
「実は、俺がこの世界に来る直前のことだ。俺はゼロの捜索のほかに、ある少女を探していた。その少女が黒い雲に連れ攫われるのをちょうど目撃したのだが、
黒い髪の地球人の少女だ」
ゲンは自分がこの世界に来た時の状況説明と、その際に一緒にこの世界に流れ通隊可能性がある少女
「黒い雲…あ!それってもしかして、ハルナのことじゃ…!」
「む、知っているのか?」
「はい。実は…」
サイトは、ハルナのことを話した。ちょうどハルナが、自分と再会した時に話した、この世界に来る直前の状況と非常によく似ていたから、ゲンの話している少女が間違いなくハルナのことを指していると考えた。
「なるほど、その少女は無事だったのか…」
ハルナが無事であることを知り、ゲンはほっと一息ついた。
「俺も今回の行方不明事件に、星人がか関わっているとみてな。その事件に、俺が捜していた少女もさらわれていたのではと思っていたが。どうやら杞憂だったようだな」
まさか、俺の方で保護していたなんて思ってもみなかっただろうな、とサイトとゼロは思った。レオと会ったのはハルナと再会する直前の時期だし、偶然のすれ違いというものができてしまったのだ。
「しかし、今の問題は星人たちの方だ。クール星人がこの星を見つけたのが発端となり、多くの宇宙人たちがこの星に目を付け始めている。地球と比べてまだ文明の劣る部分が多すぎるこの世界にとって絶体絶命ともいえるだろう」
それは当然だ、と思った。宇宙にはウルトラマンが数人がかりでかかっても勝てないほどの力を持つ怪獣や星人もどこかで息づいていることだろうし、ましてこの星はようやく怪獣や星人相手の対策に向き合い始めたとはいえ、それを本格的に実行し始めたのはトリステインだけ。しかも武装に関しても全然敵の能力に追いついているレベルじゃない。
「こういうとき、せめて他にも長期間この星に留まれる味方がいてくれるとな。おおとりさん、シュウがどこにいるか知らないか?」
レオは地球防衛時代にウルトラ兄弟の仲間入りを果たしているベテランの戦士だ。故にこの星のためだけにずっと長くとどまり続けられる立場ではない。彼の助けを必要とする星は、それこそ星の数ほど待っているのだから。
ゲンは、地球で自分の救助の手が間に合わなかったハルナを探しに、この星にしばらくとどまっていたという。なら、もう一人のウルトラマン…シュウがどこにいるのかの目星をつけているのではと思い、サイトはシュウの所在について尋ねてみる。
「すまん。彼の居場所は俺もつかめていない」
だが返答は残念なもの、ゲンもシュウがどこにいるのかはわからなかった。
「いや、考えてみればあなたは立場上多忙な身だ。無理言って悪かった」
「構わない。俺は洗脳を施された者たちを元に戻す。しばらく時間がかかるはずだ。それが終わり次第、この星を離れてこの星の現状を伝える…。
ゼロ、戦いはまだ始まったばかりだ。何があっても気を抜くなよ?特に、あの少女に関してはな」
「ハルナを?どうしてです…?」
ハルナのことで気を抜くなといわれ、サイトは困惑した。
「奇妙だと思わないか?なぜ、地球人の少女をわざわざその黒い雲が飲み込んだのか。そして何より…なぜよりによって君の知り合いの少女が狙われたのか」
「それは…やはりたまたまじゃ」
「それはわからん。もしかしたら、お前たちの正体をする何者かの悪意が働いているとしたら、彼女が狙われたのも頷ける…」
「!」
既に何者かが、自分を狙うために彼女を!?サイトたちは息を詰まらせた。既に敵が自分たちの正体と素性を知っている者がいる。だからハルナを狙った?だとしたら…。
(俺のせいで、ハルナがこの世界の事情に巻き込まれたってことなのか…?)
そう考えると、彼女がこの世界に迷い込んだ元凶は自分ということになる。
「ともかく気を抜くなよ、二人とも。既に敵は、俺たちの目の届かない場所で動き始めているのだからな」


「でも、気になるな。あのウルトラマンレオが…おおとりさんが、ハルナのことをああまで気にしてるなんて…」
どうもゲンは、サイトに対してハルナのことに関することを他にも話していたようだ。
『レオには、俺たちにはまだわからない何かに勘付いているのかもしれないな』
ゼロも自分の師がここまで警戒していることが気がかりに思った。
確かに、思い出すとハルナのことに関してまだよく分からない部分がある。なぜ彼女が狙われたのか、なぜタルブ村で彼女が倒れていたのか。なぜ突然表れた黒い雲が、彼女をさらう必要があったのか。
(…嫌な予感がする)
 
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