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水の国の王は転生者

作者:Dellas
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第二十四話 決闘

 ド・フランドール伯の屋敷は、驚くほどの静寂に包まれていた。
 コツコツと足音を響かせながら、廊下を歩くのは風穴のジャコブだった。

「……」

 何故、こういう状況になったかと言うと、マクシミリアンとジャコブが対峙した時、開幕一番にマクシミリアンが何処かへ逃げ出したのだ。
 一対一の決闘かと思った矢先にいきなり逃げ出すものだから、流石のジャコブも虚を付かれた形になった。
 ジャコブは四方を警戒しながらも、マクシミリアンを求めて歩く。

「ふっ!」

 突如、ジャコブが伏せると、頭があった部分に細い線の様な物が走った。
 すかさず杖を振るい細い線が放たれた空き室の隅をエア・ハンマーで破壊した。
 しかし、別の場所から同じ細い線が走り、ジャコブは無茶な回避行動を取らざるを得なかった。

「奇妙な魔法を使う!」

 多少、不恰好ながらも床に着地したジャコブは自分の二つ名、『風穴』の代名詞ともいえる『エア・バレット』を指から放ち、細い線を放った『水玉』を打ち抜いた。

 一息ついたジャコブは、再び四方を警戒しながら廊下を進んだ。

「子供と思ったら中々どうして……手ごわい」

 ジャコブはつぶやいた。

 ……

「反応が消えた……チッ、失敗か」

 一方、とある空き室ではマクシミリアンが舌打ちを打った。

「もう一度、作ろう……イル・ウォータル……」

 ルーンを唱え杖を振るうと、ソフトボール大の水玉が二つ現れた。
 この水玉は『ウォーター・ビット』という魔法で、某ロボットアニメの無線砲台を参考に、マクシミリアンガ編み出した新魔法だ。
 このウォーター・ビット一つ一つをコントロールするのは不可能な為、風の『ユビキタス』を参考にして、ビットに思考を持たせることに成功した。
 言わば、ウォーター・ビット一つ一つが、小マクシミリアンとして思考し活動する魔法だ。

 次にウォーター・ボールが放った細い線は『ウォーター・ショット』という水鉄砲の様に水流を放つ魔法だが、魔力無限というチート能力から生まれる膨大な精神力を加味したため、超圧縮から放たれた水流は簡単に肉を削ぎ骨を絶つ程の威力だ。

 ウォーター・ビットはウォーター・ショットを5発撃つと大抵、精神力切れを起こし消滅する。ただ浮遊し続けるだけでも精神力を消費するが、マクシミリアンの半径10メイル以内では魔力無限の恩恵のおかげか、精神力=魔力が供給され続けて、半径10メイル以内なら何発撃っても消滅しないようになっている。
 現在、ウォーター・ビットは残り精神力が少なくなると10メイル圏内に戻っては、精神力を補給し再び任務に行く、行動を取っていた。
 将来的にはこの10メイルの範囲をさらに伸ばしたいと鋭意研究中だ。

 そして、マクシミリアンはウォーター・ビットに対しウォーター・ショット以外の魔法も使えるようにしたり、1基のウォーター・ビットが探知した情報を全てのウォーター・ビットが共有できるシステム、いわゆるデータリンクなどの組織的な運用法なども研究中だった。

 他のウォーター・ビットの効果として、フライ中に他の魔法が使えないように、通常は同時に二つ以上の魔法は使えないが、風の『ユビキタス』の様に、あらかじめウォーター・ビットを展開しておけば、マクシミリアン自身も魔法の使用が可能だった。

 マクシミリアンはウォーター・ビットを最大8基まで作り出す事ができる。
 現在、マクシミリアンの周りには先ほど作った2基と含めた8基のウォーター・ビットが展開中だ。
 マクシミリアンはウォーター・ビットの8基の内、護衛の2基を残して6基にジャコブ襲撃を命令すると、6基のウォーター・ビットは浮遊しながら部屋から出て行った

 なぜこういった方法と取ったかというと、マクシミリアンとジャコブとでは戦闘技術の差が激しすぎて、まともに戦っても勝ち目が無いからだ。

(まともにやり合ったら、あの不可視の弾丸に打ち抜かれるのがオチだ)

 その為、自身は安全な場所に身を隠して、ウォーター・ビットでゲリラ戦をする戦術を採用した。

 ……

 30分程経ったが、部屋の外では何の音も聞こえない。どうやらウォーター・ビット達はジャコブを探しているようだ。
 マクシミリアンとウォーター・ビットとの間には『消えたか消えてないか』程度の感覚しか通っていない。
 例えれば、敵に攻撃されてウォーター・ビットが消滅しないと、敵と接触した事が分からないという欠点があった。
 それにウォーター・ビットは喋る事が出来ないため、更なるの研究が急務だった。

「……むむ」

 護衛のウォーター・ビットが『何か』に反応した。
 マクシミリアン自身も、首の裏がチリチリして危険を直感した。

(何か来る!)

 この時のマクシミリアンの行動は早かった。
 ウォーター・ビットがウォーター・ショットを放つと同時にエア・ハンマーで部屋の壁に穴を開け、そこに飛び込んだ!
 破砕音がド・フランドール伯の屋敷に響き、もうもうと土煙が廊下にまで舞った。
 パラパラと破片が落ち、土煙が廊下全体を覆う、その土煙の中からマクシミリアンがフライで飛びながら現れた。

「うおおおおっ!」

 マクシミリアンは素早く物陰に隠れると、今まで居た場所の床に無数の風穴が開いた。
 不可視の弾丸、風穴のジャコブの代名詞『エア・バレット』だ。

「殿下~、逃げないで下さいよぉ~」

 ジャコブは、ようやくマクシミリアンを見つけた喜びでハイテンションだ。

 コツコツとジャコブの足音が近づいてくる、ウォーター・ビット1基が物陰から出てウォーター・ショットを放ったが、エア・バレットで撃ち抜かれ、ウォーター・ビットは水に戻って床を濡らした。

(他のウォーター・ビットは、まだ帰ってこないのか……くっ)

 襲撃の為、出て行った6基の『ウォーター・ビット』はまだ帰ってこない。

「ラグーズ・ウォータル・イス……」

 マクシミリアンはルーンを唱える。

『ウィンディ・アイシクル!』

 無数の氷の矢がジャコブに襲い掛かった。

「ははっ……はははっ!」

 しかし、ジャコブは直撃コースの『ウィンディ・アイシクル』を『エア・バレット』で迎撃、傷一つ負わせる事も出来なかった。

「まだまだ! ……エア・カッター!」

『エア・シールドッ!』

 無数のエア・カッターは空気の壁に阻まれた。

「ならばこれで!」

 マクシミリアンはクリエイト・ゴーレムで、上半身は重騎士、下半身は軍馬の3メイル程の人馬ゴーレムを作成した。
 人馬ゴーレムは、左に盾を構え右に大型ランスを脇に抱える様に持ち、ランスの穂先をジャコブへ向けた。

「チャアアアァァァーーーージッ!!」

 マクシミリアンの号令で人馬ゴーレムは瞬時に加速、ランスチャージを敢行した。

『エア・バレット!』

 ジャコブのエア・バレットが人馬ゴーレムに当たったが、表面を数サント程削っただけだった。

「な!?」
 
 ジャコブはランスの穂先と巨弾と化した人馬ゴーレムを避けると、すれ違いざまに両前足の関節部分を打ち抜いた。

 前のめりに倒れた人馬ゴーレムは、調度品を巻き込みながら壁に激突すると、大量の瓦礫に埋まってしまい起き上がることが出来なくなった。

「危ない危ない……水、風、土、次は火の魔法ですか?」

「……」

 マクシミリアンは無言で返した。
 実はマクシミリアンは火の魔法がまったく使えない。
 いくら、特訓してもうんともすんとも反応が無いのだ。
 水はスクウェア、風はトライアングル、土はラインが、現在マクシミリアンが使える魔法だ。

「ふっ!」

 マクシミリアンは『エア・ハンマー』のルーンを唱えたが、ジャコブは難なく退けた。

 その後も、次々と魔法を放つがジャコブは巧みに退ける。
 絶望的な技術の差を補う為に火力と手数で勝負するものの、決定打を与えられない。

「しかし殿下、あれだけ魔法を連発しても精神力切れを起こさないのは、異常ですな」

「伊達に天才なんて言われてないからね! さぁ! コイツは強烈だぞ!」

 と、ウォーター・ショットのルーンを唱えた。
 マクシミリアン本人が唱えるウォーター・ショットは、ウォーター・ビットが放つ細い線の様なものではなく、まるで大砲の様な威力だ。
 圧縮させた水に、更にライフリングを加えるように回転させる。

『ウォーター・ショット!』

 ズガァァーーン!

 爆発音と同時に、錐揉み回転したウォーター・ショットが、ジャコブごと屋敷の一郭が吹き飛ばした。ウォーター・ショットが通った屋敷の壁には、ポッカリと穴が開き、瓦礫の外から深夜特有の冷たい空気が流れ込んできた。

「さしずめ、ウォーター・キャノン……と、言った所かな」

 フフン! ……と、鼻息を荒くした。

 屋敷は半壊、パラパラと破片が落ち、今にも崩れそうなほど危険な状態だ。
 マクシミリアンは、落ちてくる破片を気にしつつジャコブを仕留めたかどうか様子を伺おうとすると、

 ズドン!

 いきなり頭に衝撃を受けた。

「……う?」

 衝撃を受けた部分を手でさするとビショビショに濡れている。
 おもむろに濡れた手を見るとベッタリと血が付いていた。





                      ☆        ☆        ☆




 ゴトリと、マクシミリアンはうつぶせに倒れると、瓦礫の影から息も絶え絶えにジャコブが現れた。
 ジャコブは、遠目からマクシミリアンの頭に小さな穴が一つ付いている事を確認した。
 言うまでも無く、ジャコブの『エア・バレット』の弾痕だ。

「はははっ……殺っちまった」

 手ごたえを感じたジャコブは、殺したと確信した。

「トリステイン王家の報復は怖くないが、四六時中、命を狙われるのは億劫だ、何処か外国辺りでほとぼりが冷めるまで隠れていよう」

 市街地の方向を見ると巨大ゴーレムが暴れている。
 この混乱に乗じて逃げる為にジャコブが踵を返すと、6基のウォーター・ボールが囲むようにジャコブの周りを漂っていた。

「なん……だと!?」

 瞬間、ウォーター・ボールの集中攻撃にさらされたジャコブは、神業的な回避で致命傷こそ避けた物の身体中は裂傷で血まみれだ。

「クソッ!」

 反撃する事もできずに回避し続けていると、死んだはずのマクシミリアンがムクリと起き上がった。
 ウォーター・ボールの攻撃が止み、マクシミリアンの周りを守るように囲んでいる、

「上手い事、お前の注意を逸らす事ができたよ」

「……殺したと思ったんですが、一体、どんな魔法を?」

 身体中の傷を負ったジャコブは、息も絶え絶え質問した。

「水の秘法『水化』だ」

 『水化』とは身体を水のように変幻自在の変化させる魔法だ。
 某ターミ○ーター2の敵役をイメージして作った。

「水化? ……そんなバカな」

 ジャコブがいぶかしむのも無理は無い。
 そんな事が出来るのは、伝説の水の精霊ぐらいで人間が精霊の様に『水化』出来るとは到底思えない。

 『水化』の魔法自体は昔から良く知られていて、一種の戒めとしてハルケギニアに知られる有名な逸話があった。

 かつて大メイジと呼ばれた男が、マクシミリアンと同じように『水化』の魔法を編み出し、実験として『水化』を唱えたことがある、だがその男は水に変化する事には成功したが、精神力切れを起こし気絶、意識が戻る事無く永遠に水のままだった。

 という話だ。

 ジャコブはその逸話を思い出した。

 理論は出来ていても、実践すれば、たちまち精神切れを起こす机上の空論。

 ハルケギニアの全メイジを見渡しても、マクシミリアンにしか出来ない秘術。水化して元に戻る事ができる魔力無限の能力が可能にした、正に『秘法』だった。

 とは言え、問題もあった。

「今の僕じゃまだ未熟でね、身体の一部分しか水化できないから、どの部分が狙われるか迷いに迷ったけど……最後はジャコブ、君のプロ意識に助けられたよ」

 マクシミリアンは、杖で頭の弾痕を突くと波紋が顔中に広がり見る見るうちに弾痕が塞がった。

「プロ意識の高いジャコブなら、確実に仕留める為に頭を狙うと思っていたからね」

「……」

 黙ったジャコブにマクシミリアンは、止めを刺そうとルーンを唱えると、遥か市街地で大爆発が起こった。

「!?」

 マクシミリアンやウォーター・ボール全基が、ほんの一瞬、注意を市街地に取られると、ジャコブはチャンスとばかりに逃げ出した。

「ああっ!? ウォーター・ボール!」

 ウォーター・ボールに指令を出すと、ウォーター・ショットで逃げるジャコブを撃った。
 しかし、怪我を負いながらも巧みに避け続けたジャコブは、屋敷の外へ出ると『エア・ハンマー』で石畳の地面を破壊した。
 ぽっかり開いた地面の下は下水道になっていて、勢いよく汚水が流れていた。
 ジャコブは躊躇する事なく汚水に飛び込んだ。

「あいつ……!」

 ジャコブを追って穴の近くまで来たマクシミリアンは、ぽっかり空いた穴を覗き込むと漂う異臭に顔をしかめた。

「臭いはともかく、流れが早すぎる……このままでは逃げられるぞ」

 数秒ほど考えて、マクシミリアンは杖を振るった。

「ひどい、死に方をしてもらう!」

 ……

 一方、下水の流れに乗って逃亡に成功したジャコブは、逃走した後のプランを練っていた。

「何処かで傷を癒した後、外国でほとぼりが冷めるのを待つ……まぁ、当初の予定通りだな」

 そう言いながら流れに乗っていると、身体中がチリチリと痛い。

「うくっ……早く傷を癒さないと」

 ジャコブは、チリチリする痛みは傷から来る痛みかと思っていたが、時間がたつにつれ、それは勘違いだと思い知らされた。

「痛っ!? 熱い!? 何だこれは!」

 もがくジャコブは、自分の左腕を見るとドロドロに爛れている。
 パニックになったジャコブは、悲鳴を上げながら汚水と供に流れていった。
 
『塩酸』

 そう、マクシミリアンは汚水を塩酸に変えた。風穴のジャコブは生きながら塩酸に溶かされた。


 戦闘後。
 マクシミリアンは下水道に重曹を混ぜた水を流し塩酸を中和させる作業を行っていた。

「殿下! ご無事ですか!?」

 声の方向を見ると、クーぺや密偵団、魔法衛士たちが居た。

「皆、無事だったか」

「殿下、それどころではありません。あれをご覧下さい」

 クーペが指差す方向を見ると、フネが帆を立てて遠ざかるのが見えた。

「あれは? ……援軍が来たのか?」

「いえ、違います。首謀者連中は、あのフネで逃げようとしています」


 
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