| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

ソードアート・オンライン〜Another story〜

作者:じーくw
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

キャリバー編
  第223話 エクスキャリバー

 
前書き
~一言~


この話で 全部いっちゃおう! とか思ったのですが……、ちょっと断念しちゃいました。エクスキャリバー編は後1話程で終わる予定です。やっぱり、オリ分が不足気味なので……気になっちゃってます。

 それにしても、キャリバー編は なんといっても《シノンさん》 シノンさん以外の印象がないんですよね…… 苦笑

 シノンさんが尻尾掴まれて、シノンさんが怒って、シノンさんがたった1人で巨人の王に立ち回って……、そして 最後はあの笑顔!

 このおはなしでは、流石にキリトに例の言葉『この剣を抜くたびに~』のやり取りは やっぱりカットしちゃいました。幾らからかう為とは言え……一応シノンさんの想い人は……ですからw

 この二次小説を読んでくださって、ありがとうございます! これからも、頑張ります!!

              じーくw 

 

 雷神トールの一撃で、完全に粉砕されたスリュム。

 スリュムの最後の言葉を訊いて思う。

――つまり、今回の戦いは終わったけれど……、これが本当の(・・・)、終わりではない、と事だ。

 細かく言った訳ではないが、ある程度では予想出来ると言うものだ。


 以前、夏に行ったイベントクエスト。
 深淵の王と深海の王、クラーケンとリヴァイアサンとの対話を皆は頭に浮かべた。それ程までに、雰囲気が酷似していたから。ただ、唯一違うのは、相対していた片方が粉砕された、と言う所くらいだろう。

 トールは、スリュムを粉砕し 完全に氷片となって爆散したのを確認すると 金色の両眼で睥睨した。

「………やれやれ、礼を言うぞ。妖精の剣士達よ。これで余も、宝を奪われた恥辱をそそぐことが出来た」

 トールは、そう言うと同時に その金色の両眼。瞳の無い金色の眼 その瞳の視線が確かに動いた。向けられた先にいるのは、リュウキだ。勿論リュウキもその視線には気づいていた様だ。

この剣(・・・)にも、用があるか? トール。これは、《フレイ》の剣でもあるんだろう? レーヴァテインは お前達、アース神族の最重要神(・・・・)とされる内の1人の物だしな」

 そう言うと、リュウキは レーヴァテインを肩に担いだ。

 リュウキの言葉に、トールだけでなく、皆の視線が一斉に集まる。
 そのリュウキの言葉は、まるで『レーヴァテインも奪い返すつもりか?』と言っている様に思えたのだ。

 キリトは、リュウキの返答の結果次第では、《妖精族パーティ》 vs 《アース親族雷神トール》の戦いが勃発してしまう可能性が非常に高いと思えてしまう。

 先程の戦い。スリュムとの戦いは トールの助太刀があったからこそ、と言う面が大きい。トールにとっても、自分達の助力があって スリュムを粉砕する事が出来た、と言ってもいいが、それでも その実力はスリュムと何ら遜色はない。

 規格外の巨人相手に連戦するのは、状況を考えても決して望む所ではない。

 それが、キリトの。……いや、この場にいる皆の気持ちだろう。それ程までの消耗戦だったのだから。

「ふふふふ………」

 トールは、リュウキの言葉を訊いてその金褐色の髭を僅かに震わせながら笑った。

「いや、それには用などは無い。余が取り戻そうとしたのは、一族の秘宝《ニョルニル》のみ。その剣は、主の戦果だ。主の力で得た物…… あの狡猾なロキの難題を、な」

 ずしっ、と重量感のある黄金の金槌を掲げるトール。

「だが、余の……、ミョルニルの力は還してもらおう。レーヴァテイン(その剣)と我が力。その2つを身に窶すには、主ら妖精族の手には余る」

 雷鎚ミョルニルを持っていない側の左手をリュウキの方に向ける。すると、リュウキの持つ長剣の刃から、雷光が迸った。それらは トールの左手の方へと還ってゆき、放電を繰り返しながら、右手のミョルニルへと吸収された。

「――む。……雷神剣は終わり、か。短かったな」

 ぼそっ、とリュウキは呟いた。
 確かに、ソードスキルの中には 雷属性の攻撃はある。だが、最初から雷を纏った剣は今の所、実装されていない。

 リュウキ的には雷の力は嫌いではない様だ。それを感じ取ったのか トールは頬を上に上にと釣り上げながら、笑みを浮かべていた。

「だが――、褒美をやらねばならんな」

 そう言いつつ、トールは手を掲げた。

「褒美なら、クラインが妥当じゃないか? ……あんた(・・・)を助けだしたのは、あいつだ」
「へ?」

 目の前の《トール》と助けだした麗しき姫《フレイヤ》を同一に考えたくないクラインだったのだが、そんなのお構いなく続ける。トールは 『判っている』と言わんばかりに、手を翳したまま少し下へ手を下ろした。

 すると、クラインの頭上で雷光が瞬き、次の瞬間には 最初にフレイヤに渡したサイズの金槌が現れ、クラインの元に具現された。

「重ッ……!?」

 その大きさからは想像できない程の重量感がある。
 ずしり、と重い金槌を両手でしっかりと受け取ったクラインを見て トールは言った。

「《雷鎚ミョルニル》。正しき戦のために、使うがよい。――では、さらばだ」

 それ以上は何も言わず、トールが右手を翳した瞬間、ガガァン! と青白い稲妻が広間を貫いた。場の全員が反射的に、眼をつぶり、再びまぶたを開けた時には、そこにはもう何者の姿も存在しなかった。
 メンバー離脱ダイアログが小さく浮かび、つい先程まであった場所のHP・MPゲージが音もなく削除された。

 そして、それが合図であったかの様に、スリュムの消滅した地点に、ドロップアイテム郡が滝の様に転がり落ちては、パーティーの一時的(テンポラリ)ストレージに自動格納されて、消えていった。
 最後のひと欠片まで格納されたと同時に、ボス部屋の光度が増して、闇を遠ざける。壁際に山積みにされていたオブジェクト郡は残念ながら、これも薄れて消えてしまっていた。

「………ふぅ」

 それなりに、緊張をしていたのであろう、リュウキは小さく息を吐いていた。
 丁度、すぐ隣では キリトがクラインの隣に歩み寄っていた。

伝説武器(レジェンダリーウェポン)ゲット、おめでとう」
「ってもよー。オレ、リュウの字に譲ってもらった感満載なんだがよぉ?」

 クラインは、多少なりとも感じる物があったらしい。それなりに研鑽を積んできたと言う自負があるからこそ、譲られる、と言うのはあまり気持ちの良いものじゃない様だ。そんな時、リュウキは僅かに笑っていった。

「――……いや、元々トールは クラインに渡すつもりだった、って思う。トールに さっきも言ったが、結果的には クラインが助けたんだからな? ……トールを」
「うぐぅ……」

 リュウキの言葉を訊いて、クラインは、思い出してしまったのだろう。フレイヤとの思い出を…………、と言っても数分間だけなのだが。

「あーもぅ、情けない顔するんじゃないわよ。クライン」

 話をしている間に、リズが加わる。――……気づいたら、全員が集まっていた。

「まぁ、ちょっぴり悔しい気持ちってのは判るけど」

 キリトも、クラインの気持ちは理解しつつ、続けた。

「結果オーライでいいじゃないか? リュウキだってそう言ってるし」


――渡されたのはリュウキのおかげって訳じゃない。リュウキがそう言う類の嘘を言うヤツじゃないだろ?


 と、言っている様に皆は、感じていた。勿論それくらいクラインも判っている。

「むむむ……、でもよぉ、オレ ハンマー系スキル、びたいち上げてねェし」

 きらびやかなオーラ・エフェクトを纏う片手用戦槌(ハンマー)を握り、何処か泣き笑いを浮かべていた。

「じゃあ、リズに上げれば喜ぶぞきっと。……あぁ、でも 溶かしてインゴットにしかねないからなぁ……」

 丁度リズが加わった事もあったのだろう、キリトは精一杯の微笑みを返しつつ、そう言っていた。

「ちょおっ! いくらアタシでも、そんなもったいないことしないわよ!」

 《武器》より《鍛冶》命! と言うより、伝説級武器(レジェンダリーウェポン)も何れ超える武器を作ろうと切磋琢磨している彼女だからこそ、ありえそうなのだけど、これまた精一杯否定をするリズ。

「ん……、オレもキリトの意見に一票だな」
「んなっ! なんで、リューキまで!」
「ん? あれ? 知らないのか、リズ。リズにとって、あの武器の益は武器の強さ、性能だけじゃないんだぞ」
「へ?」

 リュウキがリズが武器を溶かして、インゴットする、と言う考えに一票をいれた理由を話そうとした時、アスナとレイナが一歩前に出て補足をしてくれた。

「そうだよー、リズさん。大きな特典があるのっ」
「そうそう!」

 笑顔の姉妹は、リズにそっと耳打ちをした。

伝説級(レジェンダリー)溶かすと、《オリハルコン・インゴット》が凄い出来るらしいよ?」
「うんうん。あ、後 《ダマスカス・インゴット》もねっ? あ、これは確定じゃないんだけど、やっぱり、確率が1番高いって話だよっ!」

 2人がそう言うと同時に、リズの目の色があっという間に変わる。

「えっ、ホント??」

 目を輝かせながら、リズはリュウキを見た。苦笑いをしつつ、リュウキは頷く。それを見て、更に目を輝かせるリズ。

「そんなのもあるのね♡」

 両頬に手を当てるリズ。どうやら、クラインの持つ黄金のハンマーに照準を合わせた様だ。

「あ、あのなぁ! まだやるなんて、一言だって言ってねぇぞ!」

 慌てて、その重量感あふれるハンマーを抱き寄せるクライン。
 それを見たリズは、にやっ! と笑うと まるで一昔前の幽霊キャラの様な仕草、両手を前にだし、手の甲をクラインに向けて。『カナヅチ~~ 置いてけぇぇ~~』と狙う。
 レイナはレイナで、今回はリズの味方。『ひゅ~~どろどろどろ~~♪』と効果音、BGMを自身の口で。そして、アスナはただただ、笑っていた。

「あはは………」
「あははっ」
「ふふふ」

 シノン、リーファ、シリカ達は、そんなやり取りを見て、思わず笑っていた。

 周囲には和やかな笑いが起こる。

 リュウキも両目を閉じつつ、表情には仄かな笑みが見えていた。そんなリュウキの傍に寄ったシノンは ボソリと一言。

「《雷神剣》……ね? やっぱり、その名前の方が好きだった?」
「っ……」

 にこっ、と笑いながら そう言われて リュウキは思わず眼を開けた。

「訊いてたのか……?」
「ネコの耳の良さ、舐めない方が良いかもよ?」
「はぁ……気をつけるとするよ」
「ふふ。レイナも猫妖精族(ケットシー)だったら、訊けたかも、だけどね?」
「んんん……、それは、流石に、恥ずかしいから、無しの方向で……」
「はいはい」

 片眼をパチっ と閉じるシノン。僅かにだがシノンの水色の尻尾の先が、僅かにだが左右に振れているのが見えた。これは、『何かを狙っている』アカシだった筈、と一瞬考えていた所で。

「んー? リュウキくん、シノンさん。私の事、呼んだ??」

 まるで 狙ったかの様に、傍にまで来たのは 先程まで リズと一緒に幽霊隊をしていたレイナだった。

「いやぁ、ちょっとね? リュウキのちょっとした可愛らしい顔が見れて、さ?」
「え、えっ? なになに??」

 シノンの尻尾の先が今度は小刻みに震えている。爆笑を必死に抑えているシルシだ

「っ、な、何でもないっ!」

 リュウキが慌てて弁明を図ろうとするのだが、最早手遅れである。
 
 クラインの伝説級武器(レジェンダリー)を奪おうと画策していた筈のリズまでもが、何やら近づいてきた。恥ずかしめを受けてしまうのか? と珍しく、リュウキが内心焦っていたその時だった。



 まるで、体の芯にまで揺さぶるような重低音が大ボリュームで響き、同時に氷の床が激しく震え、波打った。



「きゃああっ!」

 三角耳を伏せて、ピナを抱きかかえながら、シリカが悲鳴を上げる。先程まで、明らかに楽しんでる風だった、シノンも今回のこれは、想定外の事態であるから、震えていた尻尾を、S字に曲げながら叫んだ。

「う、動いてる!? いえ、浮いている………!」

 シノンのその言葉を聞き、全員が現状を理解することが出来た。

 この巨城スリュムヘイムが、生き物の様に身震いをしながら、少しずつ上昇をしている様なのだ。

「っ……! まだ、終わって無かった、か?」

 先の戦いに勝利した事の安堵感、達成感からか、忘れがちになってしまっていたのは、今回のクエストの最終目的の事だ。『スリュムを倒して!』と言う内容ではなかった、と遅くなりながらも思い出した様だ。

「う、うんっ! まだ、まだ クエスト続いてるよ!!」

 メダリオンを首から下げていたリーファが声をあげた。
 まだ、メダリオンの輝きは失ってはいない。だが、光が復活もしていないのだ。ただただ、最後の命の瞬きの様に、小さく光っているだけだった。

「なにぃ! そんなん有りか!?」

 喚くクライン。
 気持ちは誰もが判るだろう。そして、リュウキ自身が安堵した、と言っても誰も責めないし、できない。
 スリュムを倒した時点で、霜巨人族の首領を倒した事で、クエスト完了! となっても、全然おかしくないのだから。

「さ、最後の光が点滅してるよ!!」

 メダリオンに視線を向けていたリーファが悲鳴にも似た声を発したその時。

「パパっ! お兄さんっ! 玉座の後ろに下り階段が生成されています!」
「………!!」
「………ッ」

 生成された階段を見逃していた自分に叱咤したい気分だったリュウキ。
 キリト自身は、ウルズに言われたクエストの内容を思い出していた。エクスキャリバーを要の台座から引き抜かなければならないのだ。
 
 だから、返事をする時間も惜しみ、目で合図を互いに送りながら、猛然と床を蹴って
、玉座の後ろの階段へと駆け出していった。



 仲間達も後ろから続き、走っているのを感じつつ、キリトは、早口でリュウキに訊いた。

「今回のこれ、あのスリュムを倒したのに、地上に侵攻、とかあると思うか? リュウキ」

 スリュムを倒した事で、大円団(エンディング)! と考えていたのだが……、そうではなく、浮かれてしまって 最終的に バッドエンドとなってしまったら……である。

 今受けているウルズのクエストが失敗した場合、つまり地上で多数のプレイヤーが遂行中のスローター・クエストが成功した場合だ。
 その場合は、この氷の巨城スリュムヘイムはこのまま央都アルンまで浮上するのだろうが、しかしアルヴヘイム侵攻の野望を抱いていたスリュムは もう爆散してしまっていていないのだ。あれだけ、盛大に散ったのに、《何事もなかったかのように生き返る》とはあまり考えにくい。

 脚は懸命に前に動かしながらも、頭の中では 色々と考えを張り巡らせていたキリトだったが。

「ある」

 リュウキの即答を訊いて、思わず立ち止まって訊こうとしかけてしまった。

「あのね、お兄ちゃん」

 キリトの後ろで走っていたリーファが、背中を押す様に キリトに答えた。

「あたしも、リュウキくん程 しっかり覚えてる訳じゃないんだけど、確か……北欧神話では、スリュムヘイム城の主は、スリュムじゃないんだ」
「え……ええっ!? そうなにか?? だって、名前が……」
「まぁ、そう思っても仕方ないな。名前のままだから」

 キリトの疑問に納得するリュウキ。
 そこに補足をする様に、説明するのが、格好いいんだけど、生憎リーファもはっきりと覚えている訳ではない。

「う~ん、そうなんだけど、神話では、違うんだよ。え、えとー、確か……す、す……う~~~、りゅーき、くん。パスっ」
「……はいはい」

 多少苦笑いをしつつ、リュウキは答えた。

「《スィアチ》だ。ユイ、ALO内でプレイヤーに問題のスローター・クエストを依頼してるのは、もしかして……」
「はい、お兄さんの言う通りでした」

 頭上のユイに最終補足をしてもらおうと訊いた。ユイはどうやら、検索し終えた様子で、ゆっくりと頷くと直ぐに答えてくれた。

「ALO内のインフォメーションですが、お兄さんが言う様に あのスローター系のクエスト。それを依頼したのは、ヨツンヘイム地上フィールド最大の城に配置された《大公スィアチ》と言うNPCの様です」

 全ての情報を組み合わせた結論。それはただ1つだ。

「つまり、スリュムを倒しても、スリュムヘイムがアルンに到達すれば、その大公スィアチが侵攻――……後釜は最初っから用意されてる二段構えって事だったのか」

 キリトの結論に 皆が頷いた。

 その考えで間違いなさそうだと言う事を感じた様だ。
 
 つまり……、これはいよいよカーディナルの腹積もりとしては、央都崩壊、アルン高原占領まで行くつもりなのだろう。

 だが、ここまできて降参する様な者は誰もいない。……もう仲間となっているトンキーに顔向けができないと言うものだ。

「そうは問屋が卸さねぇってな!」

 クラインが代弁してくれた所で、ユイが指をさした。

「―――5秒後に、出口です!」
『OK!』

 ちょうど視界に入った明るい光。
 それを見て、勢いよく全員が飛び込んだ。

 そこは、氷を正八面体。つまり、ピラミッドを上下に重ねた形にくり抜いた空間だった。言うなれば、《玄室》と言った所だ。

 壁はかなり薄く、下方の氷を透かして、ヨツンヘイム全土が一望できる。周囲の天蓋から剥がれたとおぼしき岩や水晶の欠片が無数に落下していく。螺旋階段は玄室の中央を貫き、そして問題の最下層にまで続いていた。


 その先に――目的の黄金の光、黄金の剣が存在した。


 嘗て、トンキーの背に乗って、リーファ、あの時は《ドラゴ》だったリュウキと3人で見つけた()と全く同じ輝き。

 ほぼ1年の時を経て、ついにここまで来たのだ。

 全員が一列になって駆け下りてきた階段がようやく終わって、半円に並んで取り囲んだ。


 この剣は、確かに見た事がある。……だが、キリトにとっては、それだけではない。実際に使った事もあるのだ。リュウキにとっては、レーヴァテインを初めて使った時と同じタイミング。

 ALOを己の欲望、野望の道具にしていた男。――その男に手を貸し、復讐を遂げようとしていた男。その2人が、GM権限で生成した。……片方はしようとしただけに留まっていた。
 

――……だが、今回は違う。たった一言で最強種の武器を作り出したあの時とは違う。


 その時だった。
 キリトの背に、軽い衝撃が走ったのだ。

『……早く行けよ』

 振り返った先にいたのは、リュウキだった。声に出さずとも、伝わった。

 あの時の記憶を、気持ちを共有しているからこそ、同じ気持ちだったのだろう。
 いずれは必ず正当な手段で、手に入れる。と思う気持ちも。

『ああ!』

 キリトは、頷いた。
  
 ゆっくりと、黄金の剣が刺さっている台座の前へと移動した
 

――待たせたな。


 内心ではそう囁きかける。


――多分、リュウキも《レーヴァテイン》を手に入れる前は、同じ気持ちだったんだろうな……。


 改めて、この黄金の剣を前にした時に、キリトはそうも思えた。
 悔しさも勿論あったが、あの剣がリュウキの元に現れたのは、必然だと今なら強く思えた。


 改めて、キリトは右手で長剣――伝説級武器、《聖剣エクスキャリバー》の柄を握った。

「っ…………!!」

 ありったけの力を込め、台座から引き抜こうとする。
 だが、剣はまるで台座、いや 城全体と一体化したオブジェクトででもあるかの如く、小さく軋みすらもしない。左手も柄に添えて、両足を踏ん張って、全力で振り絞った。

「ぬ、……お、おお………っ!!」

 両手で全力、全身を使って力を振り絞る。
 だが、それでも結果は同じだった。

 ALOというゲームには、SAOやGGOと違って、筋力(STR)敏捷力(AGI)などの数値的ステータスがウインドウに明示されない。

 ある武器や鎧が装備可能かどうか、その境界も曖昧で《楽に扱える》から、《やや手応えがある》《身体が振り回される》《持ち上げるのも困難》へと無段階的に推移する。

 SAO出身者達は、よく敏捷力(AGI)筋力(STR)の単語を使うのだが……、その正確な境界線に至っては、リュウキは勿論、AIのユイでさえ、正確に、完全には判っていない。(そこまで細かく知ろうと思わない、というのが正しいかもしれない)

 システム上では必要であるデータ値であるから、つまり《隠しパラメータ》だと言う事だろう。

 そして、この中では、《重い剣好き》と言う性向もあって、キリトは完全な筋力(STR)より。リュウキは 完全なバランス型、なのだが――ここ一番で出す力に限っては 正直測れないものがあるのは周知の事実。
 そして、そのリュウキの影響は他人にも、――自分自身にも少なからず及ぼす程だ。


「きついなら変わるぞ?」


 そのリュウキの言葉だからこそ、余計に力が入ると言うものだ。
 そして勿論、キリトの返答も変わらない。

「嫌味クセぇ!! それに、今回は、ぜーーったい譲らんっ! ってか約束だろっ」

 意地でも自分で引っこ抜くと決めているキリト。それに、今回はリュウキとの密約も交わしているのだ。『余計な横取りはしない』と。

 リュウキ自身もそれは重々承知。キリトに気合? を入れるだけに留まった。

 そんな珍妙なやり取りがあった後、少なからず笑い声も聞こえてきたのだが、生憎と時間の猶予はあまりないから、さっさと抜いてもらわないと困る。と言う事で。

「がんばれ、キリトくん!」
「ファイトだよっ! キリトくんっ!」
「そこだ、引っこ抜け! キリの字!」
「ほら、もうちょっと!」
「頑張ってくださいっ! キリトさん!」
「おにいちゃん、負けるなぁー!」
「ほら、根性見せて!」
「パパ、がんばって!」
「くるるるるるっ!」

 全員からの声援は勿論のこと、最終的には、ピナからも受けた。

 今回のパーティーを収集した者としてはここまでされて、ヘコたれてはいられないだろう。……それに強く思うのは、仮に、ヘコたれてしまって、途中交代をすぐ後ろで腕を組み 見守っているであろう 白銀の剣士サマとしようものなら、あっという間に抜かれてしまいそうだ。


――そうなってしまえば、ゲーマーとしてのプライドは、向こう数年程は、再起不能になってしまいそうだ。


 と言う事で、この役目だけは決して譲れないヘコたれない、である。

「ぬ、お、おぉぉぉぉぉ!!」

 あらん限りの力を集約させ、視界が周囲からホワイトアウトし始めた所で、ぴきっ……と言う鋭い音と、かすかな振動が手に伝わってきた。

『あっ……!』

 と、叫んだのは誰だっただろうか。いきなり足許の台座から、強烈な光が迸り、視界を真っ白から、金色に塗りつぶしたのだ。
 そして、その直後、これまで訊いたどんなサウンド・エフェクトよりも重厚かつ、爽快な破砕音が聴覚を駆け抜けた。反動で、キリトの身体がいっぱいに伸び――四方に飛び散る氷塊の中で、右手に握られた長剣が鮮やかな黄金の軌跡を描いた。

 そこまでは良かった。

 剣を引き抜くシーンと言うものは、それなりに使われているシーンであり、感動をうむ。それが高難易度であればある程だ。なのに、余韻に浸るまもなく、次のステージが始まった。

 正八角形の空間を猛烈な勢いで貫いてくる太い根、台座から解放された囁かな根が触れて、絡まり、そして融合した。
 その直後、これまでの振動が まるでお遊び…… 震度にして 1にも満たない程の揺れだったかと思える程の衝撃波がスリュムヘイム城を飲み込んだのだ。

「お、おわぁ!!? こ、壊れ……!?」

 クラインの叫び、全員がひしっ! と互をホールドし合ったのと、周囲の壁に無数のひび割れが走ったのは殆ど同時だった。

 耳を劈く様な大音響が連続して轟、分厚い氷の壁が馬車一台分ほどの大きさで、次々に分離し、遥か真下の《グレートボイド》目掛けて崩落していく。

「……!! スリュムヘイム全体が崩落します!! お兄さんっ! パパっ 脱出を!」

 ちょうど、キリトの邪魔をしない様に、ともう1つのユイの定位置であるリュウキ頭上で、ユイが鋭く叫んだ。だが、生憎とそう易々と脱出はさせてくれそうにない。

「確かに……、黄金の武器を手に入れた後の脱出は、それなりに高難易度だったな。昔のRPGでも」

 何やら思い出した様に、呟くリュウキ。そんなリュウキの身体に、ひしっ! としがみつくレイナの声は僅かに震えている。

「りゅーき、くんっ! そんな、悠長なっ これ、すっごく揺れてるっ 揺れてるよぉっ! それに、階段もっ」

 オカルトもの程苦手ではないにしても、奈落の底へと落ちかねない状況で怖がってしまっても、やはり仕方がないだろう。レイナが振り返った場所に、先程まではあった筈の螺旋階段は、上から殺到してきた世界樹本体の根っこが跡形もなく吹き飛ばしてしまったのだから。
 それに、元の場所に戻った所で、空中に開けたテラスに出るだけだ。

「ん……根っこに捕まるのは? ……だめ、か。無理そうね」

 この状況でもなお、冷静なシノン。真上を仰いで対処法を考えていたのだが、ひょい、と肩をすくめた。

 確かに、玄室の半ばにまで伸びる世界樹の根。それが崩落する筈はないだろう。だから、到達して、しがみつきでもすれば、少なくとも落下は阻止出来る。
 だが、このフロアから、一番したの毛細管までは少なく見積もっても10mはあるだろう。……どう頑張っても、太陽の光、月の光の恩恵を得られないヨツンヘイム。飛ぶことのできないこの世界では、無理だ。

「ちょっとぉ! 世界樹ぅっ! そりゃあんまり薄情ってもんじゃないの~~!」
「そーですよーーっ」

 リズとシリカが、右こぶしを振り上げて叫んだが、何せ相手は樹だ。『すまん』の一言すらあろうはずもなく、ぬなしく響くだけだった。

「樹に文句言ってもな……」
「強いて言うなら、運営側に、カーディナルに、だな」

 冷静なツッコミを入れるキリトとリュウキ。
 だけど 事態は好転しない。

「うーん……、ここから飛び降りても……」
「む、無茶だよお姉ちゃんっ。その先は地面か、グレートボイドだよっ??」
「死にますよっ!!」
「……絶対死ぬな」
「まぁ、この高さなら確実に。自明の理と言うものだ」

 色々と温度差はあるものの、全員の意見は一致した。

 慌てて、パニックになれば危険だが、今はそこまででもない。……だが、現状況を考えたら、宜しくはないだろう。

 リュウキも、抜け道は無いか、このエリア周囲を視渡した。

 ウルズの依頼内容は、『エクスキャリバーを要の台座から引き抜け』と言うものだ。なのに、引き抜いたら 城事 グレートボイドに突き落とされる、なんて 理不尽極まりない事この上ないだろう。確かにそう言ったトラップはこの世界には無数に存在するが、その手の類とは思えない。どうも毛色が違うからだ。

 さて、どうしたものか……、と、キリトや皆とも協議して、考え様とした時だった。

「よ、よおォし……! こうなりゃ、クライン様のオリンピック級垂直ハイジャンプを見せるっきゃねェな!!」

 何かを思ったのだろうか、がばっ と立ち上がった刀使いが、直径わずか6m程の円盤の上で、精一杯の助走――……。

 今回に関しては、リュウキは《眼》だけじゃなく、それなりに頭を、観察眼を使って色々と考えようとしていた。キリトもこれまで培ってきた経験を頼りに、活路を見出そうとしていたのに、まさかの対処方法をしようとしたクライン(ばか)を見て。

「あ、こ、こらばか! やめ……」
「はぁ……」

 キリトは、止めようと叫び、リュウキは 最早手遅れ、もう無理だ、と悟った様でため息を吐いていた。
 リュウキが正しく、クラインを最早止める事も出来なかった。猪突猛進を止めるのは無理ってものだ。クラインは 制止を振り切り? 華麗な背面跳びを見せた。――その記録、推定2m弱と言った所だろうか。
 確かに垂直跳びの記録を考えたら、十分すぎる程の大々記録だろうけれど、このALOでは一切関係なし。わずかな助走距離を考えれば、立派なもの、と言うもの一切関係なし。


 根っこに掠りともせず、急な放物線を描いてフロアの中心にずしーーんっ! と墜落した。


 すると――、もう あとほんの少しの荷重がかかれば、崩れるのであろう事は、大体壁の感じから見れば判る。そして 時間と共に、崩落するのも判る。
 だけど、この時は 皆そのショックのせいで――、と後々まで信じ続けた事だろう。

 因みに、実際は 樹が復活を遂げた所で 崩落は確実だったのは別の話だ。耐久度が徐々に減っているのは、柱が軋み、破片を散らせていた所で、大体の想像が付く。眼で視る間でもない事だ。
 そして パーティメンバー上限で攻め入ったから、それなりに掛かる荷重もあるだろう。

 つまりこの円盤が崩れ落ちるのは決定事項であり、遅いか、早いか、その2つだけだった。……が、クラインが圧倒的に早めたのは言うまでもないだろう。

 一気にひび割れが走った時点で、皆がざわついたのは言うまでもなく……、最終的に玄室の最下部、つまりスリュムヘイム城真下の角ッコが、ついに本体から分離した。


「く……クラインさんの、ばかぁぁぁぁっ!!」


 絶叫マシンが、この中では一番苦手を自負しているシリカ。
 いつにない本気の罵倒の尾を引きながら、みんなを乗せた円盤は果てなき自由落下に突入した。

「……オチが判る様なギャグをするなよ。しかも、こんな見事なタイミングで。このメンバーは笑ってくれないぞ?」
「ううう、ううるせぇぇよぉぉーーっ! じ、じしん、あったんだよぉぉぉっ!」

 はぁ、とこんな時でも マイペースなリュウキはクラインにツッコミを入れた。
 当のクラインはと言うと、実の所は 本気でいける! と思っていた様であり、こんな展開になるとは思ってもなかった程の強気だったからか、大慌てだった。


 正直な所、翅が使えない場所での高高度からの落下は誰であっても怖い。


 急激な落下により、身体に掛かるGは、極めてリアルに感じられる、と言う事もあるが、それよりも、大穴に落ちてしまう、と言う恐怖心から殆ど全員が四つん這いになって、全力の悲鳴を上げていた。

「ん……、穴に完全に突入まで、長く持って2分程、か。いや、アルヴヘイムとは 重力がやや違うから、もうちょっと猶予があるかもしれない、か」

 円盤事落下しているから、必然的に中央に皆が寄り添うのだが、悠々と外側に近づいていって、落下先を観察している強者が1名。

 そんな無茶苦茶な事をするヤツは、1人しかいないだろう、っということで、勿論リュウキである。

「……あの下、ってどうなってるの?」

 いや、訂正しよう。
 もう1人、強者が現れた。ヤマネコのシノンだ。

 クエストの最初の方で『高い所は、ネコ科動物が~』とキリトが言っていた。シノンは、シリカと共に盛大に首を振っていたのだが……、この姿を見たら判る。まさに正しかった、と言う事が。

 ……或いはGGO屈指のガンナーの2人だからこそ、並大抵の度胸ではないと言う事だろうか。

「ん――…… 今までは、到達不能地点だったから、落ちたら、問答無用の(ゲームオーバー)。――だが、今はイベント中だ。ウルズの言葉もあるから、或いはマップ更新されて、ニブルヘイムに通じてる可能性も捨てきれないな」
「んー……、寒くないと良いけどなぁ……。見えたりしない? リュウキの《眼》で」
「……無茶言うな。それに、霜巨人達の故郷だぞ? 寒くない訳が無いだろ」

 悠長な会話を続ける2人。ネコ科動物に扮しているからか、シノンは寒さにはあまり強くない様だ。――2人のやり取りは、絶賛落下中だと言うのに、まるで、午後のお茶を楽しんでいる間の様。

「うぅ~~、りゅ、りゅーきくーーんっ……」
「ん? どうした」
「こ、怖くないのー……っ?」
「高い所が苦手、と言う訳じゃないからな。それに まだ、助かる道があるかもしれない」

 ふるふる、と身体を震わせながら、リュウキを呼ぶのは麗しき歌姫のレイナだ。

 こう言う時は、彼氏がしっかりと恋人を抱きとめて、安心させてあげるのがセオリーじゃ……、と 頭の中でレイナは想っているのに、悠長に攻略熱心、『こーりゃくと、わたし、どっちが大事なのーーっ』と言ってしまいそうだ。……更にはシノンと楽しそうに話している姿を見て、ヤキモチを妬いてしまったのも仕方がない。

「……ほーら、レイナを安心させてあげなさい」
「ん? ああ、成る程……そうだな」

 そんな姿を見て、シノンは リュウキの背中を軽く叩いた。

 今日は、沢山色々と貰ったから、ある程度は十分。……と言う事で シノンが助け舟を出した様だ。……勿論、レイナが可愛いから、自分も守ってあげたくなるから、と言う理由も勿論ある。だけど、その役目は自分ではなく、目の前の彼の仕事だ。

 リュウキも シノンに言われて漸く気づいた様で、落下して、身体全体に掛かるGの影響で動きにくくなっているが、それでも早くにレイナの傍へと寄った。

「――大丈夫だ。なんとかなるよ」
「……う、うんっ!」

 レイナは、にこりと笑いかけてくれるリュウキの手をそっと取って、恥ずかしそうにしていたが、嬉しそうに微笑んでいた。

 そんな光景を目の当たりにしていたアスナは、キリトを横目で見ると。

「……キリトくんはー?」
「ぅえっ!?」
「お兄さん達、仲睦まじくて、嬉しいですっ! パパ。お兄さんを見習ってくださいよ?」
「りょ、了解であります……」

 最愛の妻と娘にそう言われ、息子に教えられた。それを無下にする様な事はキリトには出来る筈もなく……、両手で 『絶対離さん!』と言わんばかりに抱いていたエクスキャリバーは……、こればかりは仕方ない、と言う事で、離しさえはしなかったが、右手で引きずる様に持ち、空いた左手で、しっかりとアスナの手を取った。


 こんな状況でイチャコラされて、堪らないのは その他の皆さんだ。

「こらぁ! こんな状況で、イチャコラしてんじゃないわよーーっ」
「ぶーーーっ!」
「ひゃああっっ こここ、こわいですぅぅぅぅ!」

 リズが盛大にブーイング。絶叫系大好物なリーファは、ただただこの光景を見て、唇をとんがらせていて、シリカは怖さのあまり、あまり考えられてない様子だった。
 他人に盛大に指摘されてしまったら、やはり、恥ずかしさと言うものは出てくる。だから、アスナやレイナは勿論、キリトもリュウキも顔を赤く染めるのだった。


 クラインはと言うと……、ここぞとばかりに言ってやろうとしたのだが……、絶賛落下状態を生み出したのは 自分である。と言う事をある程度自覚していたから、今は自重した様だった。






「そ、それより、リーファ。す、スロータークエの方はどうなったんだっ!?」

 話題を変えようとしたキリト。
 アスナやレイナは ある程度は堪能出来たのだろうか、或いは 見られ続けるのが、恥ずかしすぎたのか……、のどちらか、と言うより、両方だろう。ささっ、と手を離していた。正直な所、傍にいるから、それだけでも十分だったから。

 そして、キリトの話題そらしは、ファインプレイだ。今の今まで針の筵だったのだが、それがピタリと止んだのだ。リーファは慌てて胸のメダリオンを確認した。

「あ……、ま、間に合ったよ! おにいちゃんっ! まだ、光が1個だけ残ってるっ! よ、よかったぁ……」

 キリトの傍で トンキーの仲間達が狩られ続ける状況を脱した事への想いで顔を俯かせていたリーファの頭を キリトは撫でた。


――話題、変更完了! 効果てきめん!


 ではなく、どうやら、世界樹が本来の力を取り戻した以上、ウルズの眷属達も力を回復させて、もう人型邪神たちに狩られ続けるようなことはなくなるだろう。

 色んな意味で安心した後に、キリトが早速取った行動が、残ったきがかり。最大の気がかりである《聖剣エクスキャリバー》だ。

 今現在、クエストが進行中であり、終了していない状態で、所有権を得られるかどうかはかなり微妙だろう。ちゃんとウルズに再会して、しっかりきっちり終了フラグを立てる必要がある、と言うのが普通だ。
 
 試しに、エクスキャリバーを格納してみようとしたのだが……。

「まだ無理だ。本当の意味では得られてない。――台座から引き抜いただけだからな」

 と、眼前の心強く、出来すぎた義息子(リュウキ)の痛烈な一言で現実に引き戻される。

――まぁ、それでも一度はこうして手に取れたんだから、良いさっ。りゅーきが無理、って言ってんだから、無理さっ! いいさ、いいさっ! どーせ、こんな金ぴかのレジェンダリィなんて、オレの趣味じゃないのさっ。

 と、本心をリュウキに見破られてしまいそうだから(こう言う所は、人並み以上に鋭い……) 決して口には出さずに、酸っぱい葡萄理論で自分をだまくらかそうとした。

 眼前の彼には、どうやら伝わっていた様で、軽い微笑を還されてしまい……、誤魔化しきれずに、更にいと恋しさが増すと言うものだった。

 その時、だった。

 不意にリュウキが東の空の方へと視線を向けたのだ。

 一体何事か? と思った矢先、傍で俯いていたリーファも顔をあげる。

「………何か、聞こえた」
「…………」

 リーファはそう言い、リュウキは言葉にはしなかったが、空を見上げながら眼を閉じていた。反射的に、キリトも耳を澄ませるが、聞こえるのはびょうびょうと空気が唸る音だけだ。実に、正確なリュウキの落下までの予測時間。もうボイド突入まで60秒程だろう、と予測が出来た所で。

「ほらっ、また!」
「……これは……、啼き声……?」

 リーファは、立ち上がり リュウキの横をすり抜けて円盤の端へと駆け抜けた。
 それなりに、落下によるGには慣れた様子だ。だけど、端に行くのは危ないのは違いないだろう。止めようとしたキリトだったが、その時キリトの耳にも。
 くおおぉぉ――……ん、と言う遠い啼き声が届いた。……そんな気がした。


「……恩返し、だな。リーファの事 見捨てられなかった、と言う事だろう」

 まだ、姿は見えないが、確かに近づいてくる。
 全てを悟って、リュウキがそう呟くと、目の中に涙を溜めていたリーファは、その瞬間 ぱぁっ と散りばめながら頷き。


「………トンキ―――――っ!!」


 両手を口に当てて、叫んだ。すると、もう一度、くおぉ――ん……、と応答。

「わー、こ、こっち、こっちぃ~~!!」

 リズも叫びに加わる。
 助かる可能性がある、即ち この絶叫マシン? から降りる事が出来る事を確信したシリカも。

「たたた、助けてくださぁぁぁ……い……!」

 顔を真っ青にさせながらも、強制ログアウトだけはしない様に、ピナで必死に誤魔化そうとしつつ、なけなしの声を振り絞り、助けを呼んだ。

「おーいっ!」
「ふふっ」

 レイナもトンキーに気づいて、呼ぶ。アスナは微笑みながら手を振っていた。

「なんとか、なったわね……」

 シノンは、レイナが元気になったのを見て やれやれ、としつつも安堵している様で、尻尾を振り動かしていた。

 そして、最後の1人……、自称オリンピック級、ウルトラハイジャンプの着地姿勢のまま、大の字になっていたクラインも漸く顔を上げると、ニヤリと笑った。

「へへっ…… オリャ、最初っから信じていたぜ……、あいつが絶対助けに来てくれる。ってよォ……」

――嘘つけ!

 と、クラインに内心では大絶叫。恐らくは全員が同じ思いだっただろうが、今の今までトンキーの事を忘れていたのは同様だろう。
 いつまでも変わらず健気な邪神は、滑るようなグライドでみるみる近づいてくる。墜落前に、全員が乗り移る余裕は十分ありそうだ。


 まずは、リーファが鼻歌交じりに無造作にふわりとジャンプし見事にトンキーの背中に降り立った。

 続いて、『とりゃあッ!』と威勢良くリズが飛び移り、無事着地。

 優麗なロングジャンプを決めるアスナ、レイナ。シンクロしてる……と思っても無理ない程、フォームが揃っていて、更に綺麗な着地だった。

 続けざまにシノン。これまた 軽業(アクロバティック)スキルをあげてるのだろうか、と思える程見事に 空中でくるくる~と2回転する余裕を見せていた。

 そして、いよいよシリカの出番。

「ぅぅ……」

 今だ落下中な円盤。絶叫マシンからの跳躍と言うものは、元々の恐怖と更に落下してしまうかもしれない、と言う恐怖が合わさって、恐怖が倍増し、相乗効果となってしまうのも無理はない。

「ほら、シリカ」
「りゅ、リュウキさぁん……、ここ、怖いですぅ……」

 リュウキの袖口にきゅっ、としがみついて、少し震えている姿を見たら、誰しもが可愛らしいと思ってしまうだろう。レイナの事を色々と言っていたが、やはり 年齢を考えたら、全くを持って、シリカも人の事言えない。

 向こう側から、リーファやレイナが『シリカちゃん! がんばってー!』と声援を送り、アスナやリズ、シノンもシリカの搭乗を見守っていた。

「じゃあ、シリカをリュウキがエスコートしてくれ。大丈夫だろう?」
「ん? ああ、そうだな」
「ふぇ……??」

 キリトとリュウキの話の意味が判らない、いや 頭の中に入ってこない状態であるシリカだったが、次の瞬間には理解する。

 リュウキが『――失礼』と一言いったと同時に、シリカは身体が浮くのを感じた。『ひゃあっ』と思わず声を上げてしまったが、それが 所謂お姫様だっこ、だと言う事に気づくのには時間がかからなかった様だ。慌てつつ、顔を赤く染めていたのだから。

 そんなシリカを落ち着かせつつ、リュウキは、ピナに『しっかりと捕まっていろ』と言うと、『きゅる♪』と嬉しそうに啼き、抱き抱えられているシリカの頭の上にちょこん、と乗った。
 飛行型ペットであるピナであれば、自力で飛んでついて行く事は出来るのだが、リュウキに乗ってみたい! とでも思ったのだろうか、翅を羽ばたかせる事なく、大人しくしていた。

「じゃあ、お先に。―――よっ、と」

 1人を担いで跳躍をするリュウキ。

 全種族の中でも、屈指の軽量級である猫妖精族(ケットシー)だから、そこまで筋力を要求されなかったのだろう。ピナも上乗せされても余裕で着地。

「シリカ、大丈夫か?」
「あ、あぅ……っ///、は、はいっ! あ、ありがとう、ございます……//」

シリカは、その腕から下ろされて、名残惜しそうに、上目遣いでリュウキを見ていたのだが……。

「むー………」
「……………」

 少々、羨ましい! と思ってしまっているレイナとシノンの視線が痛く身体を突き刺さり、身体を僅かに震わせていた。

 GGO時代、お姫様だっこを経験しているシノン。
 やっぱり、女の子の様な状態ではなく、今のリュウキの方が、間違いなく良いのだろうか、シノンは ポーカーフェイスを装いつつも、物欲しそうにしていたのだった。

 そうこうしている間に、円盤側では、次はクラインがジャンプする事になった。

 普段であれば、約得なリュウキに嫉妬の視線を向けるのだが……、状況が状況だから、今はやや強ばった顔をみせている。

「お、オッシャ、魅せたるぜ、オレ様の華麗な……」

 と、先程のオリンピック~云々の続きでもしようというのか、じりじり、とタイミングを計る。が、『もう、そう言うのはいい』とでも言わんばかりに、キリトが後ろから背中を思い切りどついた。

「お、おわぁぁぁ!」

 ジタバタしていた助走だったからか、やや飛距離が足りないような気がした、と言うより全然足りなかったから、大絶叫するクライン。
 くぉ―んっ! と、トンキーがまるで『任せろ!』とでも言っているかの様に 啼くと、伸ばした鼻でくるり、と空中でキャッチ。

「うぉぉぉぉぉ!!! こ、怖ェええええええ!?」

 喚き声が、トンキーの鼻で身体が揺らせられる事に響いてくるが、それは盛大に無視するキリト。

 そして――、透明な氷の円盤の向こうで もうグレートボイドは完全に視界全体を埋め尽くす勢いだった。トンキーもこれ以上は 下にこれない様で、今随意飛行している位置から更に低空にはならなかった。つまり、飛び移るまでに要する時間は、完全にボイドに突入する時間よりも遥かに短い、と言う事。もう、あと数秒だろう。

 だから、足早に―――と思ったのだが、ここで恐るべき事実に気がついた。

――跳べない。

 正確には、腕の中の巨大な重石――《聖剣エクスキャリバー》を抱えたままでは、このトンキーまでの距離、目測で5m程が跳べないのだ。

 飛び移る為に、必然的にトンキーが下になる。一度、向こう側に言ってしまえば、後戻りはできない。……後戻りは普通する必要が無いのだが……、この中で唯一 伝説級(レジェンダリー)を持つリュウキを一瞬見た。

 プライドはあるのだが……、こうなっては致し方なし、と言う事で、この重石を抱えたまま、跳躍出来るかどうかを検討して貰おう! と対処法が浮かんだのだが、先告通り、リュウキはもうこちら側に戻ってくる事は出来ない。翅を使えないから、あの助走が殆ど出来ないトンキーの背の上から、この円盤に飛び移るのは、クラインでいう《オリンピック級のハイジャンプ!》でも 無理だ。

『キリト!』
『キリトくんっ!』

 切迫した声が届いてきた。
 全員が、どうやら即座に気づいた様だ。

 キリトは、最早打つ手なし。その為、強烈すぎる葛藤に奥歯を噛み締めた。つまり、二者一択。――エクスキャリバーを抱いたまま、墜落死するか、それとも捨てて生き残るか。

『このゲームのデザイナーは性格が悪い』

 と以前称していたが、まさにその通りだ。厳密に言えば、デザイナーと言うよりは、《カーディナル》と言う事になるのだろうが……、と細かい部分は置いておく。

 この5m間。プレイヤーの欲と執着をあまりにも露骨に試す距離。

「……パパ」

 唯一残ってくれているユイは、心配そうに、キリトに呼びかけていた。
 それで、キリトは腹を決めた様だ。

「………まったく、カーディナルってのは……!」

 苦笑いを浮かべつつ、低くそう叫ぶ。
 そして、次の瞬間 右手で掴んでいた剣を真横に放り投げた。もう少し筋力があれば……『剣投げるから、キャッチして!』と頼めただろうが、生憎と横に2mも飛んでいない。
 投げて、待ち構えていた向こう側が 失笑してしまう……、なんて 展開が待っている選択をしなくて良かった、とキリトは思いつつ、嘘のように軽くなった身体で跳躍した。

 その間も、黄金の光はきらきらと、眩しく回転しながら視界の端を流れていく……。

 そして、トンキーの背中にキリトが後ろ向きに着地した途端に、トンキーは八枚の翼を大きく広げた。ホバリングに移行して、落下が止まった。

「元気だして。キリトくん。あそこなら、絶対に誰にも見つからないよ! 次は、絶対だって!」

 レイナが声を駆け、そして アスナとユイも続けた。

「……うん。そうだね。また、いつか取りに行けるわよ。あのエリアが開通されたら、いの一番に行こう」
「わたしが、バッチリ座標を固定します!」

 3人の励ましを訊いて、キリトは俯きかけていた顔を持ち上げる事が出来た。

「……ああ、そうだな。ニブルヘイムのどこかで、きっと待っててくれるさ」

 呟いて、一時は確かに握った伝説の武器に心の中で別れを告げ――としたのだが、『ちょっと失礼――』と言わんばかりに、キリトの身体をズラす者がいた。
『も、もうちょっと……お別れのお時間をくれたって……』と、闖入者が誰なのかに気づいて、言おうとしたが。

「――ん」
「200、って感じかな?」
「ああ。――正確には、200、と5、って所だ。落下速度を考慮して、狙い目は今の角度、45度、と言った所か。視界範囲よりも5度、下方だな。……その辺りは シノン自身の感覚を信じた方が早いか。オレの意見は半分に訊いてくれ」
「……優秀な観測手(スポッター)の意見を訊かない訳ないでしょ」


 もう1人入ってきて 何やら、小難しい話をしていた。
 ある程度終えた所で、話している内の1人……シノンが、左手で肩から長大なロングボウをおろし、右手で銀色の細い矢を番えた。

 続けて、素早く詠唱を始めると、矢を白い光が包み込んだ。

 何をしようというのか……、と唖然と見守るキリトを始め、シノンの行動が目に入った他のメンバーも同様だった。

 もう 45度程、下方……彼方を落下する黄金の剣のさらに下方に向けて構える。

 シノンが放とうとしている矢は、不思議な銀色のラインを引きながら飛翔する。弓使い専用の種族共通(コモン)スペル《リトリーブ・アロー》だ。

 矢に強い伸縮性・粘着性を持つ糸を付与して発射すると言う物。

 通常使い捨てになってしまう矢を回収したり、手の届かないオブジェクトを引っ張り寄せられる便利な魔法だが、矢の軌道を歪める上に、ホーミング性は皆無。普通は近距離でしか当たらない。高性能な補正が付いている訳でも、スコープがある訳でもないから……幾ら観測手(スポッター)? がいても関係ないとしか思えない。

「幾ら何でも……」

 だからこそ、キリトは思わず呟いた。
 リズも、自らが作った武器、弓の有効射程を考えたら どうしても考えられない。だけど、何か感じたらしく思わず息を飲んでいた。


「いち……に……いち……に……」

 落下しながら回転する黄金の剣。その回転数をカウントするリュウキ。それに呼応するように僅かに頷くシノン。無数に落下してくるスリュムヘイムの残骸に不安定な足場。規則正しく回転しているとは言え、かなり離れている剣。射程圏内であったとしても、狙える様な条件ではないのは一目瞭然なのだが、リュウキが眼を見開き、合図の様に指を向けた瞬間。殆ど同時に、シノンは射る。

 落ちゆくスリュムヘイムの残骸……、輝きを放つ氷の欠片が阻む黄金の剣までの道筋。まるで、剣に導かれる様に、無数の氷の間を縫うように……、

 たぁんっ!

 と軽やかな音を発して、衝突した。

「……ナイス」
「ん。……よっ!」

 リュウキの言葉を訊いて 軽く微笑むシノン。

 そして 右手から伸びる魔法の糸を思い切り引っ張り 落下し続ける剣はついに落下を止め、上昇を開始した。

 先程まではただの光点だったものが、みるみる細長くなり、剣の姿へと変わる。
 その約二秒後には 完全に剣が戻ってきた。

「うわっ、重っ……」
「よく落とさなかったな?」
「落としたら、トンキーに刺さるかもしれないでしょ」
「ああ、確かに。乗せてもらっておいて、その背中に突き刺す様な真似は出来ない、か」
「当然。助けてくれたんだしね」
 
 悠長に話をしているのだが……、このとんでも映像を見せつけられた他のメンバー達は 開いた口が閉じられない。

 ケットシー様が射抜いた神業もそうだが、その神業を、当てる事を全く疑わずに見届けた白銀様もそうだ。

「「「「し……し……し……」」」」

 だけど……、ケットシー様のパフォーマンスがあまりにも凄すぎて、あっという間に白銀様を陰らせた。2人の息のあったプレイを再び見せられた為、嫉妬深い歌姫様が、また頬を膨らませるだろう、と 思えるのだが、今回はそれは無かった様だ。ただただ、目の前の光景が凄すぎた。

「「「「シノンさん、マジかっけーーーーーっ!!!」」」」

 全員の賞賛は、万丈一致でシノンに向けられた。
 勿論、観測手(スポッター)の役割をしていたリュウキも同感だった様で。

「ナイスショットだ。流石だな」

 少し遅れて 再びシノンに賞賛の言葉を向けた。

 三角耳を、ぴこぴこ と動かして、賞賛に応えたシノン。
 内心では、ちゃんと証明出来た事がシノンにとっては何よりも嬉しかった。

――隣にいてくれるだけで、力が湧いてくる。どんな悪条件であっても、外す気など全くしなかったから。

 そして、仕上げはキリト。

「あげるわよ。そんな顔しなくても、ね」
「っ……」

 キリトはシノンにそう言われた時、今の自分の顔に『それ、ちょうだい!』と黒マジックで大書してあった事に気づいた様だ。

「ん」

 シノンが両手で剣を差し出す。そして 隣にはリュウキがいる。

 軽い既視感(デジャビュ)を感じてしまうキリト。

 このシチュエーションはどこか覚えがあったからだ。
 
 それは、以前あったGGOの大会。最強者決定イベント《バレット・オブ・バレッツ3》本大会バトルロイヤルの最後に……、シノンは同じような仕草で キリトの手の上とあるモノをくれた。反射的に受け取ったソレ(・・)は、一発でHPゲージを丸ごと吹き飛ばす代物……プラズマ・グレネード。

 背筋が凍った。まさしく比喩抜きで危険物だ。

 だから 遅れながら、受け取りを改めて拒否しようとしたのだが……、同じように隣で立っているリュウキが、それを阻んでしまった。逃げられない恐怖? がまたまた 自分を襲うのか……?? とキリトの頭の中で連想させていたのだが……、まさか剣が爆発する様な事は無いだろう、と考えを改める。

「あ、ありがとう……」
「ん。その前に、選ぶ?」
「へ?」

 シノンは、にやっ と笑いながら 差し出していた剣を引っ込めた。
 今日一番の笑顔だ。プラズマグレネードなど、目じゃない程の内容がキリトに告げられる。


「ヨツンヘイムに降りる時にいったけど、この剣の代価に 火矢で射られるのと、隕石ぶつけられるの、どっちがいい??」
「………へっ!?!?」


 記憶を懸命に巻き戻すキリト。
 
 そう……、このヨツンヘイムに降りる時に、長い階段を走っていた時……、確かにイタズラ心が刺激されて、ちょうど目の前に 左右にふりふり~と揺れている尻尾があって……、ぎゅっ! と握ったのだ。おまけに リュウキを巻き込んで倒してしまった。

「ちょちょちょ、ちょーーっとまったぁ! た、たしか、つぎ、つぎやったらっ! って言ってたじゃんっ!!」

 懸命に巻き戻しをする事が出来たキリトは奇跡的、とも思える早さで 当時の会話の内容を思い出す事が出来た様だ。

「ん~~……そーだったっけっ?」

 シノンは、リュウキの方を見て、人差し指を 顎下に当てて、まるでアイドルの様に首を傾げる。笑顔が眩しい……とはこう言う時に使うのだろう、とどこかで理解出来た。

――リュウキならダイジョーブだっ!

 と強く信じた? キリト。長らく共に戦い、過ごしてきたからこそ、よくわかる彼の規格外の1つ。瞬間記憶能力!
 ……なんだけど、その言葉を訊いたリュウキ……《瞬間》は、少々盛っているのだが、明らかに記憶力に関しては、メンバーの中では、間違いなく随一だと言うのにも関わらず。

「さて、――……どうだったかな。シノンに 隕石を頼まれた所は覚えているけど」
「ふぁっ!?」

 まさかの一言だった。
 四方を囲まれてしまった気分に苛まれたのは言うまでもない。


――道は、百発百中、必中必倒の火矢か、天から降り注ぐ厄災か……。


 まさにプラズマ・グレネードが可愛い、だ。
 それらのやり取りを見ていた皆は次第に笑い声に変わっていく。

「男にも女にも、モテんだなぁ? キリの字はよぉー」

 右後ろで、空気読むつもりなどナッシング。明らかに不幸真っ最中である キリトを見てニヤニヤと笑う刀使い(クライン)。他人の不幸は蜜の味……ともいったものだ。
 と言う訳で、そんなクラインには足蹴り(実力行使)で黙らせるキリト。

「ほら。キリト」
「え? どわぁっ!?」

 収集がつきそうに無かった所で、シノンから託された、エクスキャリバーをキリトにパス! 当然、いきなりなんの覚悟もない状態だった所に、重石が来て 剣に潰されてしまったのは言うまでもない。

「はは……、隕石じゃないが、気が晴れたんじゃないか?」
「合わせてくれて ありがとっ。まぁね」

 ぱちっ っとこれまた見事な威力があるであろうウインクをくれるシノン。

 ちらっと シノンは レイナの姿を片眼で追いかけるが……、生憎と キリトとクラインのやり取り。剣に潰されたキリトを見て 蹴られた仕返しなのだろうか、手を貸さずに笑っていたクラインを見て、口に手を当てて笑っていた為、見てなかった様だ。
 
 シノンは レイナの反応を楽しんでいる節がちょっとあるから、ちょっぴり自分が《S》なんだろうなぁ……と シノンはどこかで思いつつ、『ちょっと失礼』と言わんばかりに、ハッカ草の茎を取り出して すぱぁーーっと一服。

「絵になるな」
「それはどーも」

 クール過ぎる2人組を背景(バック)に……、トンキーは ホバリングを続けるのだった。
 


 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧